勇者代理は現代兵器とともに   作:Bishop1911

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おそらくストーリーに大きく関わることの無いであろう加筆。


1-2.5

「はあっ…はあっ…はあっ…!」

 

燃え盛る炎で真っ赤に照らされた夜空を背に、1人の女性が赤子を抱えて海を目指して走っている。

彼女の衣服は血と煤で汚れ、周囲の家々には火が放たれ、道には死体が山のように折り重なっている。

壁に並んだ弾痕はその下に折り重なる死体が銃殺刑で処刑された事を物語っていた。

壁際に並んで折り重なる獣人の死体、横一列に並んで壁に穿たれた弾痕、火を放たれた家屋。

どの通りを通っても、どの街角を曲がってもその景色は変わらなかった。

 

「お願い…!間に合って…!」

 

港を目前に不安と恐怖に包まれていた彼女の目に希望の色が宿った。

小さな漁船の甲板には大勢の人が身を寄せ、船員の1人が手を振っている様子が見える。

 

「こっちだー!」

 

ようやく船に辿り着いた女性は息が上がり、背中からは汗が湯気になって立ち昇る。

 

「あんた、犬族か。他はどうなった?」

 

他の難民の行方を尋ねる漁師に女性はフードをとって首を横に振ってみせた。

 

「ダメだったか…。

ヤツら完全に狂ってる…!何が護国旅団だ…!

アイツら…同族まで殺して回ってるんだ…」

 

漁師は怒りのあまり手すりに拳を叩きつける。

 

「あの…この船はどこまで行くんですか?」

 

不安げに尋ねる女性に漁師は言葉を詰まらせる。

 

「アテなんて無い…。ギリスはどこもこんな感じらしい。

とにかく船はもう出るからあんたも準備してくれ。」

 

女性は無言で頷くと再びフードを被り、胸に抱いた赤子の無事を確かめた。

 

「大丈夫…大丈夫だからね…」

 

赤子の寝顔を見て安堵した女性は緊張の糸が切れ、波に揺られる船の甲板で気絶するように眠った。

 

 

 

『こちらはツヴェルグ帝国海軍だ。直ちに停船せよ。

停戦しない場合は反乱分子と見做す。』

 

「…!?」

 

鼓膜に響く大音量で拡声器から投げかけられた警告に女性は飛び上がった。船はまだ陸地に着いておらず、投光器から浴びせられる光で漁船全体が昼間のように照らされた。

 

「そんな…」

 

女性は赤子を抱いて立ち上がる。

周囲の難民も次々と立ち上がり、両手を軍艦の方に見せた。

 

「くっそ…!」

 

背後で誰かが呟いた。

女性が振り返るよりも先に難民たちの間から1人の獣人が飛び出した。

 

「帝国に死を!ギリス共和国万歳!獣人に栄光あれ!」

 

銃声が数発鳴り、続いて漁船の中央で閃光が走った。

何が起きたか理解する間もなく衝撃波が女性を襲い、女性は海に叩きつけられた。

水を吸ってどんどん重くなる服を次々と脱ぎ捨て、赤子を背負ったまま、背後の銃声には目もくれずにひたすら泳いだ。

陸がどちらかなんて彼女にはもうどうでも良かった。

どれだけ世界に絶望しても、こんな狂気の中で我が子を死なせることだけは絶対に許せなかった彼女はただひたすらに泳ぎ続けた。

もはや人間らしさや理性的な思考などどこにもなく、ただ生存本能だけが彼女を動かし続けた。

 

 

 

次に意識を取り戻した時、彼女と赤子は浜辺に打ち上げられていた。

空腹で鳴き声を上げる我が子に女性は母乳を与え、生きるための道を探した。

半日、アテもなく歩続けた彼女の視界に1本の線路が映った。

焼け落ち、文明のカケラも感じない狂気の街から逃れた彼女が初めて見た希望だった。

 

 

遠くから迫る汽笛、立ち昇る水蒸気。

彼女は希望に飛び乗った。

一刻も早く、一歩でも遠く、この狂気から我が子を遠ざけねばならない。

 

 

数時間揺られるうちに列車は北へ向かっていることがわかった。

行き先はツヴェルグ帝国。そう、彼女の故郷を焼いた国だ。

どうして世界は…運命はこんなにも無情なのか、彼女がそう絶望する暇もなく次の試練が訪れた。

無人だった客車のドアが開き、隣の車両から誰かが入って来た。

息を潜め、少しでも小さくなろうとうずくまる。

 

「お前…誰だ!?」

 

声の主は警察官らしき制服を着たドワーフだ。

 

「わ…私は…」

 

言葉に詰まる女性は咄嗟に抱き抱えていた赤子を見せた。

 

「お願いです!見逃してください!」

 

「……!」

 

赤子の顔とフードから覗く女性の耳を見た警官はゆっくりと腰に手を伸ばす。

 

「お前、獣人か!」

 

警棒に手をかけた警官に全力の体当たりを見舞い、彼女は全力で出口を目指した。

背後で鳴る銃声はもはや彼女を怯ませるほどのものでは無い。

 

「待てぇッ!!」

 

さらに数発の銃声。

何かが身体に当たる感覚さえ無視して列車を飛び降りた彼女は最後の力を振り絞って走り出し、野を越え山を越え、そして力尽きた。

 

彼女が倒れた場所は山脈の麓に広大な麦畑を抱える村の教会だった。

よろめきながら今にも気を失いそうな足取りで立つ彼女は教会の戸を叩き、その場に崩れ落ちた。

頬は痩せこけ、肋骨は浮き、銃弾に貫かれた脇腹から流れ出た血はすでに固まり、目に生気は無い。

本来ならとうの昔に死んでいてもおかしく無い状態だった。

 

ドアを開けて駆けつけたシスターの腕の中で乾ききった唇がゆっくりと開き、最後の言葉を残した。

 

 

「ごめんなさい、ルーク…私を許して…」

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