スキル:
・軍事知識 ・召喚能力(ロック)
・身体能力向上(ロック)
…温かい
これは…人の体温…?
そして何かケモノ臭い…?
でもそれは不快に感じるどころかむしろ心地よい…
『ごめんなさい、ルーク…。』
優しい響きの声だ。
でもルークって誰だ?
誰に謝っている?
『私を許して…。』
グラっと体が傾き、少しの浮遊感を感じた。
ーードサッ
重たい瞼をゆっくり開けてみると、傾いた視界に女性の顔が映った。
赤子を見るような優しい目で俺を見つめる女性の耳には犬のような耳があった。
「あぁ、ルーク…本当に…ごめん…なさい…」
少しずつ失われていく温もりを感じながら俺は理解した。
この俺はこの女性に抱かれていること。そしてこの女性は…死にかけている。
誰か…!誰でも良い!この人を…!!
しかしどれだけ声を出そうとしても、俺の口は人の言葉を発しなかった。
耳をつんざくような赤子の鳴き声を聞きながら、俺はいつのまにか疲れ果てて意識を失った。
『こいつは?』
また女性の声だ。でもさっきの人とは違う。
いや、真逆だ。この声は冷たい。
『今朝、教会の前で亡くなっていた女性に抱きかかえられていました。』
さっきまで俺を抱きしめていた女性の事だろうか?
結局助からなかったのか…
『で、なぜ私のところに?』
『えっと…。あなたと同じ犬族だから…?』
犬族…?確か俺を抱きしめていた女性には言われてみれば犬っぽい耳があったが…
『なぜ疑問形で返す…。
はぁ…メアリー、まず第一に私は黒狼族だ。
第二に私は孤児院を始めた覚えは無い。
孤児を育てるのはお前たちの“カミサマ”が教会に与えた神聖な仕事だろう。
そのために私も領主と教会の両方に税を納めている。』
こくろーぞく…?教会?
あの神は俺に一体何をしたんだ…??
『でも…』
『待て。聞きたく無い。子音がDで始まる言葉はくだらん言い訳だけだ。』
『教会はこの前のギリスで起きた戦災で流れてきた孤児でいっぱいなんです。』
戦争があるのか…。
俺の脳裏に死ぬ前の記憶がよぎる。あれはテロであって戦争では無い。
でも、同じようなことが起きているなら、この世界も平和では無いのだろう。
『それがなぜ私のところに来る理由になる?』
この女性はなんとしても孤児の引き取りを拒みたいようだ。
事情もあるのだろうが、この女の冷たい声はあまり良い印象を受けない。
孤児も里親がこんな大人だなんて願い下げだろう。
『…ラジオで聞きました。
ギリスに向かったのは帝国軍だけじゃ有りません。あなたも見たでしょう?今朝のギルドで食料を買い占めて行ったのはあなたの古巣…』
『やめろ…!…言うな。私はもうアイツらとは関係無いんだ。ヤツらとは二度と関わらない。それに、私の手に子どもを抱える資格は無い。』
『あなたの罪は今この子と関係有りません。
でも護国旅団に居た過去から逃れられるわけでも無いのですよ。
私はこの1年、あなたを見ていました。
教会には来ず、村人と交流もしない。
月に何度か家を空けて働き、税金だけ納めて村に居座る。』
『それが何だ。あんなことをしたんだ。今さら人並みの暮らしなんて私は求めて無い。ほっといてくれないか。』
『ダメです。あなたはまだ若いんです。
やり直すチャンスはいくらでもあります。
私たちは教会に来て跪けなんて言いません。隣人に媚びへつらえとも言いません。』
『じゃあなんだ。』
『自分を愛し、隣人を愛し、病める人々を癒し、弱き者たちを慈しむ。
私があなたに求めるのはそれだけです。』
『………。』
『わかってます。今のあなたにはそれすら難しい事でしょう。
ですが、この子があなたを救うはずです。』
しばし沈黙が流れる。
『あー…わかったわかった!そんな顔をするなメアリー。』
どうやらこの冷徹な女にも人の心があるようだ。
『ありがとうございます!』
『ただし、条件が1つある。』
『なんでしょう?』
『こいつが成人するまでの間、教会への税を免除しろ。』
…は?
『うっ…それは…』
『お前なら子どもの養育費がこの程度じゃ済まないことくらいわかるだろ。ダメならこいつは引き取れない。そっちが奴隷商にでも売り飛ばすんだな。』
前言を撤回する必要がある。
こいつ…、子どもをネタに教会を脅しやがった…。
『…わかりました。神父に掛け合ってみます。』