そんな毎日を送ること数年。
12歳を目前にした俺は立派な主夫になっていた。
…とか口に出すとアマンダに怒られそうなので言わないが、彼女のお陰で俺は心身ともにかなり成長した。そして勉学も怠りはしない。
「よし、ルーク。何でもいい。本を持って来い。」
「この前読んだ本で最後だよ。もう読んでない本は無い。」
「あ…、そうだったな。」
見かけによらずかなりの読書家であるアマンダの書斎には厚さは様々だが、ざっと数えて800冊近い本があった。
それですら全て読破してしまうくらいには俺も勉強した。
前世の俺が見たら何と言うか。
しかし、印刷技術があるとは言え、この世界でも本はまあまあな値段だ。
それを800冊も持っているとなると、ハンターの仕事はそんなに儲かるのか疑問に思う。
「なら今日はもう寝ていいぞ。」
「ああ。」
本を読む時間が省かれた分、いつもより2時間ほど早くベッドに入った俺は、なかなか寝付けず、リビングで食器がぶつかるような音を奏でながらたまに漏れるアマンダのため息を聞きながら考え事をしていた。
神はアキの代わりに俺を転生させると言ったが、何をすれば良いかまでは言わなかった。
今のところアマンダは俺がどんな将来を描いてもそれなりに生きていけるように育ててくれているが、俺が見当違いな方へ進んでしまっては意味が無い。
時計を見ると、結局いつも通りの寝る時間だ。
「はぁ…。」
ーーガチャ…
俺のため息と間をおかずに俺の部屋のドアが開いた。
「眠れないか…?」
ドアから部屋を覗いたのはアマンダだ。
「あ、ああ…。何かわかんないけど…。」
「ふん…。私もだ。」
アマンダは足音も立てずに俺のベッドに近づく。
月明かりに照らされたアマンダのシルエットに俺は思わず息を呑む。
これまで意識したこともなかったのだが、アマンダは身内であることを鑑みても美人だ。
東洋人を思わせる真っ黒で艶のある髪や、モデルのようなくびれに適度に筋肉のついた太もも…
俺は思わず視線を逸らした。
「かわいいヤツめ…。添い寝してやろうか?」
「え…、アマンダ…?自分のベッドが…」
「うるさい」
やたらグイグイと押してくるアマンダは俺に有無を言わさずベッドに潜り込んだ。
俺の背後に温かい感触が密着し、スルリと俺の肩にアマンダの腕が絡みついた。
「…なあ、ルーク。何か教えて欲しいことはあるか?」
温かい感触とアマンダの温もりで心拍数が跳ね上がる…。
「…特に、何も。」
というか…、今はそれどころじゃない。
とりあえず離れて欲しいんだが、どうにかはぐらかせばベッドから出て行ってくれるか…?
「…ったく…。こっち見ろ。」
半ば力任せに引き寄せたアマンダの吐息はアルコールの臭いが大半を占めていた。
「あ…、アマンダ…!酔ってるな…?!」
アマンダが酒を飲むことは知っていたが、ここまで酔っているのは初めてだ。
「ん〜?良いじゃねーか、付き合えよ〜!」
「や、やめろ!放せ…!」
物理的にではなく倫理的に身の危険を感じた俺は必死でアマンダの腕を解こうとするが、時すでに遅し。
アマンダがベッドに入ってきた時点で異変に気付くべきだった。
「放すかよ。絶対に放すか…!」
しかし、酔っているだけと言い切るのは…
「お前は私が育てたんだ…。…だから…、」
ちょっと違う気がする。
普段は絶対に弱音を吐かないアマンダがここまで甘えてくるのだから何かあったことだけは断定できる。
「……考えとく。」
「ん…?」
アマンダの腕がわずかに緩む。
「明日までに、教えて欲しいことを考えとく。」
「…あぁ」
少し緩んだアマンダに反撃するように今度は俺がアマンダを抱き寄せた。
泣き上戸にでもなったのか、嗚咽を漏らしながら声をあげて泣くアマンダが寝付いたのはそれから数時間が過ぎた後だった。