勇者代理は現代兵器とともに   作:Bishop1911

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エリスが学校へ行った数日後から、俺の生活も変わった。

アマンダとローズさんに見守られながら遊んでいた時間はアマンダと読み書きや算術を勉強する時間になった。

英語どころか日本語以外の文字にそこまで堪能ではない俺にとってこの世界の文字はゼロから始まる外国語だったが、日本で英語が無くても生活ができるのに対してこの世界で読み書きができないのは致命的だ。

アマンダも読み書きが出来ずに騙されて奴隷になった冒険者を見たことがあるらしい。

それくらいこの世界で読み書きができないのは致命的だ。

 

日中は書いて読んで、夜はアマンダのベッドで本の読み聞かせ。

本はアマンダが持っている昔の英雄譚や伝説の話、この世界の種族や仕組みについての話など様々だったが、歴史の本はアマンダがあまり好きではないのか、ところどころ飛ばし読みで読んだ。

 

 

数ヶ月後、読み書きと算術ができるようになった俺は、時間に余裕ができたため、アマンダが仕事で家を空けた日にふと思い立って教会まで走ってエリスに会いに行く事にした。

教会と言っても実際に行くのは教会の隣にある学校と寮なのだが、柵に囲まれた宿舎にうまく忍び込むことが出来なかったため、結局教会の裏庭から教会の屋根に登った。

渡り廊下の屋根から学校を経由し、ようやく寮に飛び移る。

エリスが所属するはずの低学年は午前中で授業が終了したのか、ちょうど昼に寮に帰りはじめていたため、俺は先回りしようと手近なところにあった窓から忍び込む事にした。

窓に鍵はかかっておらず、難なく忍び込めそうだ。

 

「エリスちゃん?帰ってきたの?」

 

窓を開けて部屋に忍び込んだ俺は、運悪く部屋の住人と鉢合わせてしまった。

 

「あ、いや…どうも…」

 

しまった…。あんまり深く考えていなかったが、よく考えたらやってる事はただの空き巣だ。

 

「はぁ…!わんちゃん…」

 

「はい…?」

 

「い、いえ…こほん、どなたか存じ上げませんが、ここは女子寮ですわよ?」

 

なるほど、どうやら同じ学校の学生だと勘違いされたようだ。

俺はホッと胸を撫で下ろし、事情を話した。

 

「実は俺…エリスという子の幼馴染で、彼女に会うために来ました。」

 

「まあ!あなたがルークくんね!話には聞いていたわ!

獣人の幼馴染と聞いてぜひお会いしてみたかったの!

それがまさか窓から来るなんて、まるでおとぎ話の王子様ね!」

 

とんでもない早口で喋られ、彼女の気迫に気圧される。

 

「いや…驚かせてしまって申し訳ないです。」

(しかしすごい勢いで喋る人だなぁ…)

 

まるで前世で好きなものを熱っぽく語るオタクのような雰囲気を感じて少し懐かしく思っていると、住人の背後のドアが開き、白い髪の女の子が顔を覗かせ、エメラルドグリーンの美しい瞳が住人の女の子を探す。

 

「サーシャお姉さま?誰かお客様ですか?」

 

部屋を見渡した彼女は俺と目が合うと持っていたカバンを落として立ち尽くし、声に出せない問いの答えを求めて俺とサーシャを交互に見た。

 

「エリスちゃん、ルークくんですよ?幼馴染なんでしょう?」

 

サーシャのその言葉にエリスは決壊したダムから押し寄せる濁流のように俺へ抱きついた。

 

「ルーク…!会いたかったああああぁぁぁああ!」

 

ひとしきりわんわん泣いた後、サーシャが淹れてくれたお茶で一息ついたエリスと俺はお互いの近況を語り合った。

俺とアマンダは変わりなかったが、エリスは定期的に送られてくる母親からの手紙を読ませてくれた。

エリスの学校への入学はローズさんの夫、つまりエリスの父親が行商人として行った旅先で亡くなって収入が絶たれたことや、自分が治癒魔法の研究でそれまでの稼ぎの多くを使い果たしてしまっていたことが原因だと書かれており、あとはただひたすらに謝罪の言葉が並んでいた。

今は冒険者に復帰して故郷のシース地方を回りながら医者としてお金を稼いでいることや、稼いだお金は教会に預かってもらい、エリスの卒業と同時に手渡されるよう手配しているとの事だった。

 

「ローズさん、元気そうだね。」

 

「うん…。でもお父さん死んじゃった。」

 

「俺もエリスのお父さんに会ってみたかったな…。」

 

「私…お父さんのこと何も知らないのに…」

 

あんなに優しくてしっかり者だったローズさんにこんな事があったとは知らず、俺は胸のぽっかりと穴が空いたような気分だった。

家族のように接していたのにそんな彼女のことを何も知らなかった。

エリスの父親についても同様だ。

俺はアマンダに引き取られた時からほとんどの記憶が残っているが、言われてみればエリスの父親を見たことがない。エリスはきっと父親のことを何も知らないどころか会ったことすら無いのかもしれない。

 

「ルークくん、今日はもう帰ったら?」

 

しんみりとした空気に耐えかねたのか、エリスの頭を撫でながらサーシャが帰りを促してくれた。

たしかに今日のところは帰った方が良いだろう。

 

「エリス、また近いうちに会いに来るよ。必ず。」

 

「うん…またね。」

 

だが、考えてみれば俺はセルブリッド家どころか、アマンダの事すらよく知らない。傭兵を辞めて狩人になった黒狼族ということ以上の事は何も知らなかった。

ローズさんやエリスの父親の事はもうどうしようもないが、せめてアマンダとエリスのことだけは知っておかなければならない。

俺はその覚悟を胸に教会を出た。

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