多少の不安はあるものの、ビーロボカブタックやテツワン探偵ロボタックが好きな私にとってはなんだか近いものを感じて楽しみに待っています。
避難警報が街全体に鳴り響く。その時まであった平穏さは崩れて騒然としたものに変貌をとげる。街中で友人と何気ない話しを交わしていた学生、買い物を楽しんでいた家族や恋人、車で走行していた会社人それら皆が手荷物を投げ捨て、車を置去りにして、我先にと地下シェルターへ避難する。シェルターに繋がる入口は各所に設けられているが、その大きさは特別大きい物ではない。列を作らない大勢の人間が一斉に中に入ることなんて出来る筈がない。入口を目前にしてトラブルが起きて、更にパニックが起きる。
至る場所で起きた騒動は、街から離れた公園にいたチェイスのところにまで届いていた。
「なぜ立て続けにノイズが発生している」
ノイズは特異災害として認識されており、その遭遇率は、東京都民が一生涯に通り魔事件に巻き込まれる確率よりも下を回る。だがどうだろうか、二年前に1度、更に昨日と今日とであわせると既に三度もノイズが発生しているではないか。
もはやそんな確率など当てにならない。
「行かなくては」
今回も捜査に当てていたバイラルコアからノイズの発生している場所の座標が送られてくる。送られた座標を確認すると信じがたいことに、それは都市部の中心で起こっていた。
こんな場所にいつまでもいてはいけない。早く人間を救いに行かなければ。
「お前もシェルターへ避難しろ。どうやらここには入口は無いようだが、探せばあるだろう」
少女へ向けて言葉をかけるが反応が返ってこない。そちらを見てみれば、彼女はその場に立ち尽くして呆気に取られた顔でチェイスを見ていた。
何故反応がないのかと思うチェイスだが、そんなことに構っている場合ではない。警告はした。それにたとえ少女がこの場を動かなくても向こうでノイズを殲滅すればここは安全な筈。
「ここにいても死にはしないだろう。だが、万が一のこともある。早くここから立ち去ることだな」
「!? お、おい待てよ──」
チェイスもここから離れようとするが、少女が突然慌てたように彼の手を掴んだ。
「離せ、何をする」
「何をするじゃねーだろ! 警報聞こえてただろ、死にたいのか!?」
少女のその反応は当たり前のことだろう。ノイズに触れれば一瞬にして灰になる。そんな場所にこれから向かおうとする輩がいればそんな反応もする。
だが、チェイスにはその言葉の意味が分からず、気づけなかった。
「俺は死なない」
「じゃあ何しに行くってんだッ!」
「人間を救いに行く」
「んなもんオマエがやんなくても自衛隊とかがやるだろ! 行く意味なんかあるか!」
彼女の意見も最もだ。現に昨日、ノイズが発生した時いち早くその場に駆けつけノイズを食い止めようとしたのは自衛隊だ。しかし、今回は都市部だ。しかも中はパニックに陥った人々で溢れている。簡単には駆けつけることができない。
「それは間違っている。意味の有無は必要ない」
「んじゃ、何だって言うのさ!!」
「人間を守る。それが、俺に架せられた使命だからだ」
こんなところで口論を述べている場合じゃない。こうしている今もノイズは進行し人を襲っているに違いない。早く急がねばならない。だが、それを目の前の少女が邪魔をする。
もうなりふり構っていられなかった。チェイスは腕を振って強引に彼女の手を振り払うとブレイクガンナーを取り出して手の内に押し当てた。
[break・up──]
チェイスの身体に紫電がまとい、彼は魔進チェイサーへと姿を変える。
それを見せられた少女は驚愕して、言葉を失った。こんな物を突然見せられればそうなってしまうのは当たり前だ。
「これ以上は付き合いきれん」
ブレイクガンナーにバットバイラルコアをセットする。
[Tune・chaser──bat]
チェイスの背中から金属の羽根が生える。
「なんだよ、その姿……応えろよ!」
チェイスは何も話さない。彼はもう少女のことなんて見ていなかった。背中の翼を大きくはためかせて上空へ飛翔して、ノイズのいる都市部へ飛んでいってしまう。
残された少女はその場に立ち尽くして、歯を食いしばり拳を強く握りしめた。
「なんなんだよ……」
底から湧き上がる感情に任せて一人叫ぶ。片手に感じた硬い感触に気づいて手のひらを開く。あったのはチェイスが届けたビーズのリング。
「何なんだよ……」
それを見て、この公園に来るまでの経緯を思い出してしまい、よく分からない感情が湧き上がってくるのを感じた。
「何なんだよ……」
これは落としたんじゃない。捨てた物だった。そんな物を届けるためにあの男はここまで追いかけてきた。
いつまでもどこまでも追いかけて来るのをてっきり彼女は──
「何なんだよアイツはァ!!!」
少女の中で何かが弾けて、何も考えられず、ただただ衝動に駆られるように次の行動に出た。
「クソッ! 」
腕を大きく振り上げて、手にあったリングを地面に投げつけた。
◆
ノイズ発生により大パニックが起こっている都市部内。道路に乗り捨てられた自動車が道を塞ぎ、自衛隊等も含む救助隊の支援を送らせている。こうしている今も避難の出来ていない人々がノイズに襲われて灰に変えられていた。
「死にたくない助けてぇ!!!」
「置いていかないでえええ!!!」
「いやあああああ!!!」
男性、女性、大人、子供がノイズに襲われて何も抵抗できずにただ悲鳴を上げて灰になり崩れ落ちる。
何人、何度それを繰り返してもノイズの進行は止まらない。そこに人間がいる限り、ノイズは留まるところを知らない。
「パパぁ……ママぁ……どこにいっちゃったの……」
生物的思考が無く、ただ機械的に与えられたプログラムを実行するように行動するノイズ等に例外は無い。故に、親とはぐれて怯える幼い子供にも奴らは平等に迫り来る。子供の周りを大量のノイズが囲い込んで、まるで何かの漁のように四方八方から詰め寄せる。
「やだよぉ……こないで……」
言語を持たないノイズはその言葉を聞こうとも理解しようともしない。ただやることをやる。それだけ。
幼い子供には自分が死ぬなんて想像は出来ない。しかし、恐怖は芽生える。自分がこれからどうなるかも分からない状態で訪れる正体不明の恐怖。そんな状況の中でも誰もができる行為。助けを求めることはできた。
「助けてぇ!」
救いを求める声は恐怖で怯えて震えていた。
「助けてぇ!!」
けど、救いを求める。それしか出来ないから。辛くて怖いものから逃げ出したかったから。
「助けてぇ!!!」
救いを求める子供の脳裏に浮かび上がるのは幼稚園の先生でもない。友達でもない。優しい祖父でも祖母でもなく、母親でも父親でもない。
子供の求めた救いの正体は、テレビの中で見たかっこよくて憧れたヒーローだった。
『俺が守って見せよう』
雨のように上空から紫色の光弾が降り注ぎ子供の周りにいたノイズを全て撃ち抜いた。突然上空からの攻撃を受けて穴を開けられたノイズは、まるで電池が切れた玩具のように動きが止まって灰になる。
「ぁ……れぇ……?」
それは子供も同じで、突然起きたことに何がなんだか分からなくなっていた。今まで囲っていたノイズが全部いなくなったことで突然消えた恐怖。上から雨が降ったらノイズがいなくなった。それが今の子供の感想だった。
何も状況が飲み込めない子供は一瞬だけ雨の降った空を見上げる。
日の暮れ始めていた空には他のものとは違う黒い点が一つあった。それがだんだん大きくなって、目の前に落ちた。
『俺がお前を──人間を守る』
上から落ちてきたもの。魔進チェイサーが着地して、ノイズだった灰が舞い上がる。
舞い上がって散って行く灰の中にいるチェイサーの姿が子供の目に映る。オレンジ色の大きな目と紫色と銀色の身体をした人型。そして背中にある銀色の大きな翼。
その姿は初めて見た。知らない筈の言葉が頭の中に浮かび上がる。
「かめん──」
『走れ』
「……え?」
人型の言葉を聞いた。
とても冷たい言葉だった。
でも、怖くなかった。
『絶対に後ろを見るな。行け。走れ』
「うん──!」
強くうなづいた後、子供は走り出してチェイサーの横を通り過ぎて行った。
チェイサーがその姿を確認することはなく、前に足を進めた。1歩、また1歩と足を進めていく度にブレイクガンナーを強く握りしめた。
建物の壁、道路からノイズが次々と現れる。
「貴様らがいるだけで、人間が怯え、恐怖に陥る──」
ビルが立ち並ぶため周りの状況は把握しにくいが、恐らく数は昨日と同じかそれ以上。
今はいないが昨日のように葵い髪の少女が来るかもしれない。また剣を向けられるかも知れないが、ノイズがいる間は仕掛けてはこないだろう。
「交わす言葉も無く、理性も無い。やはり貴様らは害悪、人間の敵だ」
その時はその時だ。後のことはその時考えればいい。
今はノイズの相手だ。一秒でも早くこの害悪を始末しなければならない。
「人間に害をなす存在はどんな相手だろうと、俺は容赦しない」
ノイズへ向けてブレイクガンナーを向ける。
「これから俺は死神として、貴様ら害悪を始末する。人間を手にかけたことを後悔しろ。貴様らに感情があるのなら──」
トリガーを引き、ブレイクガンナーが光弾を打ち出す。これから始まるのはチェイサーによる一方的な攻撃の猛攻。脳の無いノイズはこれに圧倒されて殲滅されるだろう。
ノイズに勝ち目は微塵も無い。
「俺に恐怖しろ」
死神による死刑宣告が放たれた。
次回でまた戦闘を行わせます。
中々話の進まないグダグダしものになりますが、また生暖かい目で見て頂ければ嬉しいです。