ついに壬生先輩登場
かませさんですが・・・
体育館の中は思ったより騒々しかった。
見回りも一段落したが、達哉はふと手持ち無沙汰であることに気づく。
生徒会室で暇を潰すのもと考えたが、深雪は作業中であり、「折角だから、もう少し学校を見て回った方がいいんじゃない?」と言われ、ついここに足を運んでしまったのだ。
なんだか体よく追い出された気がしない達哉であるが、とりあえずそのことは忘れ、目の前のイベントに興じてみることにする。
「あっ、始まりましたよ達哉さんっ」
いつの間にか合流したほのかと雫も加えた四人でこれから始まる剣道部の演目に、つまらなそうだと分かりながらもとりあえず目をやるが、突然、これまでと違うざわめきが先頭の観衆から伝播してくる。
「へぇー、何かなんか面白そうになってきたな」
蓮が艶やかな形の良い唇に手を当てながら、風紀の任を預かる者のとしては些か不謹慎な発言をしながらそれを眺める。
彼の興味、その騒々は次第に喧噪になり、その原因が観衆の最前列、剣道部の演目にあることに気づく。
「何するのよ!!」
「何って、剣道部の演目を盛り上げてやろうと思っただけだぜ?」
「馬鹿なこと言わないでよ!!」
酷い剣幕で男子生徒を怒鳴りつける剣道部の少女。しかし、もう一方の剣道着姿の少年、おそらくこの学校の魔法系課外活動部、剣術部の部員であろうが、彼は薄ら笑いを浮かべながら軽くあしらっていた。
「・・・勝負よ。尋常に立ち合いなさい!!」
激昂のあまり、物騒なことを言い出す剣道部女子部員。
「おやおや、いいのかよ壬生。そんなこと言っちゃってさ」
その言葉を足蹴にするような態度の男子生徒であるが、それは壬生と呼ばれた女子生徒を煽るだけのもの。二人はほどなく競技場で向き合い蹲踞の礼をとる。
その様子を見ていたほのかはおろおろとするが、達哉は冷静に貸し与えられた証拠保全用の小型カメラの録音録画ボタンに手をやる。
仮とはいえ、風紀委員の見る面前で、違法ともいえる野仕合が始まった。
激しく刃を交える二人。とはいえ、所詮、刃のない竹刀なのだ。お子様の児戯にも等しいやり取りに呆れながらも、とりあえず成り行きを観察することにする。
「あの、達哉さん」
おずおずとほのかが声を掛けてくる。
「達哉さんはお二人をご存知なのですか?」
達哉のあまりに落ち着き払った態度にほのかが思わず聞いてくる。
その声に達哉は少し目を細め、
「女子の方は知らないが、男子の方は知っている」
最も、一方的に知っているだけだと付け加える。
「男子生徒は桐原武明、中学時代の関東剣術大会優勝者だよ」
「そうなんですか?」
「ああ。かなりの腕前だと聞いている」
彼は素直に感想を彼女に伝えると、再び試合に目をやる。
その試合を興味深そうに見ていた雫が達哉に聞いてくる。
「達哉さんはどっちが勝つと思う?」
その簡単な質問に、
「多分、壬生という生徒の方だな」
と、意外な答えを返す。
「そうなの?」
と、率直な疑問の雫だが、
「ああ、壬生さんはあれで中々の腕前のようだ。それに、桐原さんは大きなハンデを背負っている」
「ハンデ?」
「ああ。彼はこれまで一度も面に打ち込んでいない」
そういわれて、二人はあっと、声を上げる。
そう、壬生は胴と小手をつけていても面をつけていない。それに、桐原は何の防具もつけずに戦っている。これ以上ないハンデを負いながらの試合なのだ。
それでもここまで互角ということは、二人の間にはかなりの実力差があるということだろう。
そして、激しい打ち合いのなか、ついに決着を迎える。
勝ったのは、桐原だった。
最後に交差した一撃。
彼の一撃は彼女の小手をとらえ、彼女の一撃は小手をとらえず二の腕を叩いたばかりだ。
その幕切れにあるいは歓声を、あるいは落胆の色を滲ませる観衆。
最後にとりあえず一礼だけはして離れる両者。
二人が舞台の中央ですれ違う。
そして、彼女の口が微かに動く。
それを聞いた桐原の動きが、止まる。
怒りに変わる、彼の表情。
そして、事件は起こった。
「・・・そうかい、そんなに真剣勝負がお望みか」
怒気を含んだつぶやきと共に彼の手が光る。
魔法を発動するための起動式。
導かれたサイオンが輝き、魔法が発動する。
発動した魔法に包まれた竹刀。魔法を帯びたその剣を、後姿の彼女に向けて振り下ろす。
「なっ!?」
一瞬、誰もが驚き声も出ない。
咄嗟の勘で一撃を交わした壬生だったが、彼女のつけていた防具が布でも切り裂いたかのように容易く切れる。
それに驚き、声も出ずにへたり込む彼女。
その彼女にさらに魔法の剣が襲い掛かる。
次の瞬間、体育館は悲鳴に覆われた。