会頭初登場
「――――以上が剣道部乱入事件の顛末です」
達哉の前には三人の男女。向かって右から生徒会長の真由美、中央に風紀委員長の摩利、そして左の男子生徒がおそらく部活連会頭の十文字克人だろう。
―――巌のような男だ。
達哉は彼の姿を見て素直に感じた。
身長は185㎝ほど、けして見上げるようなものではないが、制服の上からでもわかる隆起した筋肉、それだけではない、人間の存在を凝縮するだけ凝縮したような存在だ。
「当初の経緯は見ていないのだな?」
「はい、桐原先輩が挑発したという言い分も、剣道部が先に手を出したという言い分も確認しておりません」
彼は閉門時間間際の部活連本部で今日遭遇した騒動についての報告を行っているところだった。
「最初、介入しなかったのはそのせいかしら?」
この質問は真由美。
「危険と判断すれば介入するつもりでした。打ち身程度であれば本人同士の問題かと」
「・・・まあいい、いがいみあい程度で風紀委員がすべて介入するのは不可能だからな」
勧誘時のトラブルは部活連内部で収拾するのが鉄則、それに達哉は正規の委員ではない。その責任は最終的に真由美が負うところとなる。
「それで、桐原はどうした?」
「はい、取り押さえたところ、本人も非を認めていましたので拘束の必要はないと判断しました」
「・・・そうか、君がそういうのならいいだろう。訴追の権限は取り押さえた者にあるのだから。
今回の件については、最終的な処分はこちらに任せてもらえるとありがたいのだが」
そう摩利に聞かれた真由美は頭を振って、
「いいえ、今回の件は、判断は生徒会に任せてもらいたいと思うの」
その言葉に摩利は一瞬考えるが、達哉に関しては最終的な責任は真由美が負う。となれば、生徒会に任せざるを得ない。
「・・・分かった、よろしく頼む」
「うん、それでいいかしら十文字君」
「・・・仕方あるまい」
そうなると、後は真由美の判断待ちということでこの件は収拾する。
報告が終わり、部屋を後にした時には日がずいぶんと傾いていた。
「司波君」
風紀委員としての役割も終わり、生徒会の一員として深雪と共に生徒会室に向かっていた達哉に不意に声がかけられた。
この一週間の活躍で、彼に対し学校の生徒の評価、というよりは評判はずいぶん様変わりしていた。
彼が風紀委員として見せる力の片鱗。それは到底ウィードが持っていてはいけないものだと、変に魔法選民主義に染まった者どもにはそう感じられた。
その都度に起こる彼への襲撃。
達哉はそれを特に問題視していなかったし、実際に問題にならなかった。(もしこれが深雪に対する攻撃であれば容赦しなかっただろうが)
それらの襲撃をものともせず淡々と任務を遂行する達哉の姿に、何時しか生徒たちは畏れ、ではなく恐れを抱くようになっていた。
畏れ、ではなく、恐れ。
敬意ではなく、未知に対する恐怖。
それは彼の活躍に溜飲を下げていいはずの「二科生」たちにとっても同じものだった。
そのため、彼に対し声をかけてくる者はめっきりとなくなり、今週に入っては初めての事だった。
「こんにちは、はじめましての方がいいかな?」
振り返った達哉の目に映ったのは中々の美少女だった。
長い髪を一束に結いあげたポニーテールの少女。
彼女の顔には見覚えがあった。
「そうですね、はじめまして。
確か、壬生先輩でしたよね?」
そう言われると、彼女は屈託のない笑顔を見せ、躊躇いのない足取りで近づいてくる。
単に考えがないのか、それとも別の腹があるのか、今の彼には判断できなかった。まあ、どうせつまらない謀略にしかならないだろうが。
「壬生紗耶香です。
よろしくね、達哉君」
簡単に自己紹介する彼女の胸(意外に豊かであり張りも形も良いが、だからと言って彼が動揺する様子はない)をみると、そこにはあるマークがない。
なるほど、自分と同じウィードか。
「えっと、この前はありがとう。
助けてもらったのになかなかお礼も言えなくて・・・」
何処か照れくさそうにも気まずそうにもみえる彼女の仕草。
「あの時のお礼もかねて今から付き合ってもらえるかな?」
自分の笑顔が男子高校生に与える影響力を考慮しているのかはわからないが、よく弁えているのだろう。
最も、美しすぎる妹が常に傍らにいる達哉に対しては勝手が違うようだが。
「今は無理です」
と、あっけなく断られる。
「そっか、じゃあ、何時ならいいかな?」
「十五分後なら」
「うん、分かった。それじゃカフェで待ってるからね」
そう言ってあっさりと引き下がる紗耶香。その姿に、彼は何処かに違和感を感じるのだった。