会場に入ると、既に席は半分以上埋まっていた。
「何処にするかなーっ、と」
そう言いながら席を探す蓮。
この講堂は演壇を見上げる形の座席配置となっており、この権威主義も国策学校ならではだろうと思う。
少し辺りを見回してみると、ふと奇妙な事に気づく。
前半分がブルーム。
後ろ半分がウィード。
現段階でクラス分けは発表されていない。それなのに、これほどはっきりと分かれるとは。
「なるほど、最も差別意識が強いのは、差別を受けているものである、か」
それも一種の生きていくための手段だろう。
達哉もそれに逆らうつもりはない。その境目あたりに席を見つけると二人して席に座る。
すると、ひそひそと周りから声が聞こえてくる。
どうせ、先ほどと同じような自分たちを揶揄する声だろう。
同じウィードだろうに、と思いながらも隣の少年と他愛ない話をしながら残りの時間を過ごそうかと思っていたとき、
「あ、あのっ」
声を掛けられた。今度は正真正銘、新入生の女子だった。
「えっと、お隣よろしいでしょうか!?」
「でしょうか?」
一人は標準以上のプロポーションと首の辺りで髪を二つに分けて括っている。もう一人は髪型をマッシュレイヤーにした少女。隣の少女、というか普通と比べたら表情が少なめに見える。
しかし、彼らと違うのは、彼女たちの胸の印章。彼女たちには花弁の印章がついていたのだ。
一科生か、と思ったが、ここで波風を立てる必要もない
どうぞ、と答えると、先に声を掛けてきた女子生徒が何故か小さくガッツポーズをしている。
それを見ていた蓮が意味ありげな笑みを浮かべているが、取りあえず詮索を止めて二人に座るようにと薦める。
「じゃ、じゃあ、あの、失礼します!!」
妙に勢い込んで席に着く、何故かハイテンションな二人だが、彼にその理由は分からない。
そして、最初の女子生徒が、達哉にずいっと迫ると、
「あ、あの、初めまして!!あ、あたし光井 ほのかと言います!!」
上がりがちなのか、ところどころ噛みながら自己紹介するほのか、続いてもう一人の娘も自己紹介してくる。
「あたしは北山 雫。よろしく」
やや感情が薄い彼女ながらも、しっかりとした口調だ。
「こちらこそよろしく、司波 達哉です」
とりあえず愛想笑いを浮かべながら返事を返すと、雫はよろしく、と返すものの、ほのかは顔を赤くして畏まり、返事もまともに返せないありさまだ。
それを見て、流石に心配する達哉だが、蓮は相変わらず意味ありげな笑みのままである。
「と、ところで達哉さん!」
突然、声を大きくして達哉に迫るほのか。
「あ、あの、出会ったばかりで不躾ですが!!」
何かを聞きたいのか、という事か。まあ、どうせ妹との対比か、ウィードである事への揶揄だろう。適当に相手にして流しておこう、と思ったところ。
「隣の人は彼女なんですか!?」
いくらなんでも不躾すぎるだろう、その質問は。
というか、彼女って何?
隣の奴とはついさっき知り合ったばかりだし。そもそも、こいつは男だ。
「・・・あのなぁ」
流石に、この質問は突拍子過ぎて返事を用意していなかった。
適当に躱すこともわすれて呆れかえってしまうと、
「そうねぇ、もう付き合って一年になるかしら?」
しなっ、とした仕草を作りつつ、しょうもない嘘を吐く蓮。
すこしばかり意地の悪い笑みで、ほのかの様子や達哉の動揺した顔を楽しんでいるようだ。
あわわ、と涙を浮かべながら声も出せないほのかに、露骨に落ち込んだ顔の雫。
「あまり適当な事を言うな。お前とはさっき出会ったばかりだろうに」
「いーじゃねーか、ちょっとくらい。なぁ?」
何かとっても分からないものに同意を得ようとする蓮。
「じゃ、じゃあ、二人は・・・」
「お付き合いしているわけじゃ・・・」
唖然とした二人の様子に満足したのか、蓮も取りあえず自己紹介をする。
「俺は瀬呂 蓮。まあ、こいつと同じ立場だな」
そう言って胸を指す。
二人の一科生、選ばれしブルーム達ではない事を指し示す。
「そうなんですか。ところで、達哉さん!!」
蓮の台詞をほとんど無視し、ほのかは再び勢い込んで達哉に迫る。
「そ、袖触れ合う中も多少の縁と申します!!
だ、だから!あの、その――――」
やや口ごもった彼女は決心を固め、
「わ、私とお----------------、
お友達になっていただけませんか!!!?」
「・・・はぁ。
こちらこそ、よろしく」
妙な迫力ほのかに気圧されて、つい返事してしまう達哉。
それを見ていた連はいよいよもって笑いを抑えきれない。
「随分もてるな、達哉?」
そう言われても、何のことだが分からない。
突然、蓮が達哉の腕に、えいっと可愛らしい声と共に抱き着くと、ほのかも負けじと反対側の腕に抱き着く。
身動きの取れなくなった達哉を羨ましそうに見つめる雫。彼女も抱き着きたいのだろうが、抱き着く場所がない。
そんな彼女の様子を意地悪く見ている連である。
が、当の達哉はどうしようも出来ない。入学式の迫りつつある中、二人に抱き着かれながら深雪の答辞の様子を思い浮かべるのであった。