少しあらすじに訂正を入れさせてもらいました。
足が重かった。
生徒会室のある四階まで上がって来たからではない。
これからこの扉を開けると行われるであろうことを考えると自然と気が重くなるのだ。
何度目かの深いため息をつくと、心配そうな深雪の顔と、
「どうしたんだ、そんな億劫そうな顔をして」
いつもの調子の蓮の声。
それに、ますます気を重くしながら扉を開く。
いつもの癖で深雪を庇うようにドアを開ける。(無論、何も起こらなかったが)
そこには、
「いらっしゃい」
そこには笑顔の生徒会長、七草真由美が三人を出迎えていた。
部屋に先に入った兄に続いて深雪も入室する。まるでそのまま舞踏会の一幕を切り取ったような優雅な振る舞い。
それを自然な趣でする彼女の姿に生徒会の面々は思わず呆気に取られるが、真由美は相変わらずの調子で微笑みを湛えている。
昨日、あのような騒動があったばかりなのに大した切り替えだと、達哉は感心する。
最も、あの程度のことにいちいち拘っていては十氏族などやっていられないかもしれないが。
「さて、改めて紹介するけど、私は七草 真由美。当校の生徒会長を務めております。
そして、こちらは市原 鈴音。通称、リンちゃん。生徒会では会計をしてもらっているわ」
「そう呼ぶのは会長だけですが」
「こちらはあーちゃん、中条あずささん。書記をしてもらっているわ」
「会長!下級生の前ではそう呼ばないと!?」
女子、というよりは女性といった雰囲気の美女と、対照的に女子というよりまだまだ小さな女の子、といった方が適切なほどのあどけなさと背の高さの二人の抗議を軽くながしながら説明を続ける。
「もう一人、副会長のはんぞーくんを加えたメンバーで生徒会を運営しています」
「私は違うがな」
「そうね、摩利は富貴委員だから、っと。
準備できたみたいね」
真由美がいうと、チン、という古典的なブザーと共に温かい香りが漂ってくる。
「じゃあ、続きはご飯を食べながらにでもしましょうか」
会長の声に、はい、と答えた鈴音が席を立ち、サーバーから出てきたトレーを取り出しに行く。
続いてあずさも続くが、摩利だけは席を立たずに袋を取り出し、中から弁当を取り出す。
それを意外そうな目で見る達哉だったが、摩利もそれに気づいたらしく、
「意外か?」
と聞いてくる。
「いえ、少しも」
そっけなく無表情な返答に、摩利もそれ以上返さず、「そうか」とだけ返した。
昨日の今日なので、あまり愛想のよくない摩利。まあ、それでもこの程度に抑えた分、彼女も大人ということかもしれないが。
そのことをあまり気にせず、表情を変えたように見えなかった達哉であるが、深雪はその瞳の奥にあるものを逃さずこう囁いた。
「ねえ、お弁当にしたいのなら、私たちもそうする?」
思わぬ妹のからの申し出に思わず苦笑し、
「いや、深雪の弁当は大変魅力的だけど、食べる場所がね・・・」
「そうかな?別に食べる場所はどこでも構わないと思うんだけど」
二人のやり取りに思わず、
「・・・恋人同士のやりとりだな、まるで」
蓮が囃子ともやっかみともとれる、というか少し拗ねた感じで爆弾発言。
「そうか?」
と、いつもの調子で問い返す達哉に、
「・・・気づいてないのか?」
と苦虫を噛み潰したような摩利の声。
それを聞いた真由美たちもいささか味のある珍妙な面持ちをしているので、取りあえず、
「まあ、血のつながりがなければ恋人にしたいと思いますが」
と言って、お茶を濁しておく。
すると、ますます困惑気味の女子一同。
「・・・一応、冗談ですが」
「・・・一応、なのか?」
「ええ、一応です」
摩利との寄妙なやりとりに、達哉も辟易とするが、
「・・・なるほど、君はずいぶん面白い男のようだな」
「そうですか?」
とオウム返しの達哉に、
「・・・そうだと思うよ、私は」
苦笑交じりに話を切り上げる摩利だった。
「さて、本題なんだけど」
食事も一通り終わったところで、真由美が本題に入る。
「今日来てもらったのはね、深雪さん、あなたに生徒会にはいってもらいたいからなの」
やはりそう来たか、と達哉。
「例年の決まりでは主席入学の生徒には生徒会に入ってもらうことになっています。
そこで、是非とも深雪さんにも生徒会に入って貰いたいと思っているの」
確かに、彼の知るところでは第一高校ではそのようになっていると知らされている。
そして、その生徒が次期生徒会長に選出されるということもここ何年か続いていることだった。
それは達哉にとっては望むことであり、深雪にも断る理由は特にないだろう。
「引き受けていただけますか?」
そう言われたとき、深雪も柔らかく微笑み、
「ありがとうございます。喜んで、入らせていただきます」
彼女の返事に一同がほっと胸をなで下ろし、達哉も幾分顔を緩ませた。
「あの、よろしければ、なのですが・・・」
と控えめな深雪の声。
「なぁに、深雪さん?」
懸案事項が首尾よく進んだのか、真由美も少し和らいだ声と顔で返事を返す。
「兄の司波 達哉、それに友人の瀬呂 蓮、二人も生徒会に加えていただくことは出来ないでしょうか?」
思わぬ言葉に、生徒会どころか隣の達哉が一番目を見開いた。
どういうつもりだ、と声を上げる前に、彼女はつらつらと言葉を繋げる。
「兄と彼の成績と実力は私と比べても、いやそれ以上だと思っています。
ですので、二人を共に加えていただけないでしょうか」
確信と自信に満ちた彼女の言葉に思わず首を縦に振りそうになるが、
「しかし、二科生が役員になることは・・・」
と口を挟む会計の市原。
その言葉に彼女は思わず反応し、
「そんなことありませんっ。
二人の実力はトップクラスだと思っていますっ。
だからっ」
思わず声をあげてしまった自分に役員たちの視線が集まる。それに気づいて居住まいを直し、
「も、申し訳ありません。
つい・・・」
と恐縮して肩をすぼめる。
その態度に思わず市原は苦笑し、
「貴女はお兄さん思いなのですね」
と、優し気な言葉で慰める。
それを見て、ますます縮こまるが、
「まあ、いいじゃないか」
と助け船を出すには意外なところでの摩利。
「確かに、補欠であっても一科生は一科生。校則に抵触することは何らないよ。
なぁ、中条?」
「ふぇ!?」
この状況に置いて行かれ、なんとなく眺めていただけのあずさが突然の指名。
彼女はあたふたしながら頭の中の校則を引き、そのことと照らし合わせるが、
「な、なんら問題ないと思いますっ」
目に見えて動揺が見えるが、それでも何とか答えを導き出した彼女にそれ以上突っ込まず、摩利は視線を真由美へと向ける。
「で、どうする生徒会長?」
話を振られた真由美はしばし思案し、
「そうねぇ、二人の成績ならむしろ歓迎したいけど・・・」
彼女が悩むのは理由がある。
そう、二人に与える役職がないのだ。
そのことで彼女が頭を働かせていると、
「まあ、そのことは後でもいいじゃないか。
今は、二人が生徒会に入るか入らないかが問題なんだし」
確かにそうだ、と真由美が思ったところ、
「やれやれ、俺たちに選択権はないのかよ?」
「・・・まあ、それはねぇ」
長髪の少年が抗議するように頬を膨らませる仕草。それに思わず苦笑で返す真由美。
確かに二人は深雪とは違い、入るか入らないかは選択する権利がある。
それを聞いた達哉が口を開こうとしたとき、先に機先を制したのは深雪だった。
「達哉は私と一緒じゃ、いや?」
達哉に視線を送る深雪。
こう言われてはどうしようもない。
仕方ないと思いながら、その申し出をとりあえず受諾する達哉であった。