断罪の姫と正義の剣   作:Vaan

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PROLOGUE

────ああ、なんたる未知。なんたる既知。

幾千幾万、那由多の数まで幾度となく繰り返し、遂に私の望む女神の物語が紡ぎ出されようとしている。

 

しかし、手書きでこの脚本を書き記しているのだ。

稀には有らぬ方向に本筋が逸れてしまう場合もある。

どちらにしても、この脚本は私の愛しい女神を彩る脚本にすら満たず、無駄であることに違いはない。

 

故に、私の愛しい女神は出せまい。

別の相応しい小汚い女神が必要だろう。

まあ、こんな女を女神と呼ぶのも、本来なら烏滸がましいが……。

このまま捨て置くにも惜しいというものだ。

少々観てみたくなってしまったのでな。

 

つまりこの脚本を物語として成立させるかどうか、貴様に託すということだ。

 

安心したまえ。

配役は既に私が用意している。

貴様には勿体ない程の男がこの物語の主役。

その主役の相手役を任せるというのだ。

此ほどの優遇はないと思わないか。

無論、配役は味方だけとは限らないがね。

 

はてさて、残りは貴様自身の手でその男を見つけなければ、舞台にすら立てぬよ。

 

さあ、早く私を存分に愉悦に浸らせておくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───で、何で俺までこんな所に?」

 

「別に良いだろ?

行きも帰りも移動代は俺が払うんだし、ちょっとしたプチ旅行気分でも味わったらどうだ」

 

「いや、だから……俺は剣とか刀とか全く興味ないし、寧ろ苦手なんだけど………」

 

俺たちは普段は熊本県の北部に住んでいる。

今はこうして隣の県に遊びに来ているわけであるが、その内容というのが期間限定で開催されている刀剣の美術展を見に行くこと。

 

と言うのも、世界各地から美術館に集められた珍しい剣や刀、日本独自の武器である日本刀、その他武器までいろんな凶器が展示されているという。

 

確かに俺自身は割と好奇心旺盛で、珍しい物には目がない。

新商品もすぐ手に取ってしまう質だ。

 

しかしだ。

悲しいことに俺はそんな武器やらなんやらに興味はない。

他人の趣味にとやかく言うつもりはないが、俺はどちらかというとそんな危ない物が嫌いだ。

 

要するにこの友達に無理矢理連れて来らてしまっていた。

 

「やっぱり帰っていいか……?

こんな物騒な物見てると気分悪い……」

 

「まあまあ、もうちょっとだけ見て回ろうぜ。

大丈夫大丈夫。こういうのは見てる内に好きになっていくもんだ」

 

なんだかんだで悲しいことに博物館内を何周も回っている。

辛いのには変わりはないが、悔しいことに何となく慣れてはきていた。

 

そんな何回も見て回る中、ある通路が目に入る。

 

「あれ……こんな通路あったっけ?」

 

「あ?通路?通路って……あ、ホントだ。

こっちにも何か展示してあるかもしれないし、行ってみるか」

 

もう友達に付き合わされて何周もしているのに、何故気付かなかったのだろうか。

一瞬気味が悪いと感じたものの、結局その友達の判断で、通路を通ることにした。

 

通路は今までの観覧していた所よりも薄暗く、冷気が吹いているわけでもないのに寒気すら感じていた。

 

それでも先へと進む。

それはまるで何かに導かれるように、ひたすら無言で歩く。

 

そして、一本道は終わりを迎えた。

 

「なんだ…これ」

 

一言で言えば、不気味。恐怖すら感じる。

そんな雰囲気を醸し出す一本の剣が、通路の突き当たりにある台座に鎮座していた。

 

「『Épée de Justice』────つまり、『正義の剣』って意味だったかな?

何でこんなところに……」

 

友達は剣をじっと眺めながら言う。

 

「正義の剣?正義の味方が使ってたとかか?」

 

「強ち間違っちゃいないが、そんな大層なもんじゃない。これは『処刑人の剣』って物騒なもんだ。

正義の味方じゃなく、死刑執行人が悪人を断頭するために使ったやつ」

 

やはり気味が悪いとしか言いようがないだろう。

それに先程から変な冷や汗が止まらない。

何となくではあるが、一刻も早くこの場から去らなければならない気がした。

 

そうして謎の嫌悪感から逃れるため、この剣から一歩後退りしたその刹那。

 

 

 

 

 

────アナタ…なの……?

 

 

 

 

 

 

か細く小さいながらも、鈴の音のように程良く高い声だった。

 

「─────」

 

ふと聞こえた声に、思考は停止する。

 

何が何だか分からない。

幻聴かと考えた。

だが違う。

 

 

 

 

 

─────ワタシの…愛しい人…。

 

 

 

 

そこ弱々しい声は聞こえ続けていた。

しっかりと耳へと、脳へと聞こえ続けている。

 

それに、何故か幻聴じゃないと確信してしまうのだ。

理由は分からないけど、そう思ってしまう自分がいた。

 

「お、おい…どうした…?」

 

戸惑う様子を見て友達が心配するが、それに脇見も振らずに俺は声の主を探す。

恐らく、この声は女の子の声だろう。

その声主がどこかに隠れているんじゃないかと、そう思った。

が、その姿は周りを見渡しても、見つかることはない。

 

 

 

 

 

 

 

──────ワタシは………。

 

 

 

 

 

 

声はそれでも響き続ける。

まるで誘うかのように、彼女は俺に語りかける。

 

さらにこの時、聞こええる声と同時に身体に偏重を来していた。

頭がズキズキと痛み、動悸が激しい。

冷や汗と吐き気が止まらない。

 

分からない。何故だ。

何故この少女の声が聞こえているのだろう。

友達は様子からして明らかにこの声が聞こえていない。

自分だけに響き渡る不思議な声音。

 

一体どこから……。

 

 

 

 

 

 

──────ワタシは…ここ……。

 

 

 

 

 

「あ……」

 

そして、途端に自覚する。

 

探しても無駄だった。

見つかるはずがなかった。

声の正体。どこから聞こえているのかはっきりと分かった。

今正に目の前にある「処刑人の剣」から発せられていたことに。

 

「キミは…一体……」

 

俺は言葉をこの先から紡ぐことは出来なかった。

身体を襲う偏重に耐えきれず、思わず嘔吐しその場に倒れ込んでしまった。

 

そして辺りが暗くなる中、友達が心配する声と共に、剣があった台座に座って微笑んでいる「銀髪の少女」に気付いたが、そのまま意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これこそが序章。

 

小汚い断罪の姫と、復讐に生きることになる男の喜劇。

果たして既知として駄作らしく終幕するのか、或いは未知として傑作らしく生まれ変わるのか。

それは彼女と彼次第ということだが……。

 

期待せず、鑑賞するとしよう。

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