よろしくお願いします。
────あれから一週間が経った。
学校に登校し、授業を受け、昼御飯を食べて、友達と喋って、また授業を受けて、終わって下校して……─────その毎日毎日の繰り返し。
当たり前の日常だ。
まあ、不満があるでもなく、楽しくないわけでもない。
勉強や運動は好きではないし、授業も居眠りすることが多いが、それなりに生活は充実している。
今日も朝早くに、この町にある学校にちゃんと登校する。
俺が住む、この町の名は「
熊本県にある町で、人口は約6万人。戦後に完成された田舎町で、都会の建物と比べれば、住宅街や田圃ばかりである。
その割に遊園地や展望台、大きなゲームセンターなど娯楽も万全であり、そこそこ住みやすい町の部類だろう。
しかし、この町はともかくとして、周りの町では何故か連続殺人が起きてたりと、少々厄介事があったりする。
オカルト的な噂もあり、割と物騒ではあるので、精々住まずに遊びに出入りする程度が丁度良いかもしれない。
「───よう。今日も眠そうだな」
ふと、声を掛けてきたのは小湊龍雅。俺の親友。
二人とも別ではあるが、学校近くのアパートを一人暮らしで借りていて、登校時間が被ると偶に鉢合わせすることがある。
「おう、早いな今日。
いつもぎりぎりまで寝てるのに」
「薊より不真面目だからな、俺は」
「よく言うよ…」
俺達は互いに両親はいなく、既に他界している。
俺は元々諏訪原というところに住んでいたのだが、10年前にそこで両親は交通事故で死んでしまった。
それからというもの、親戚の家から家へと転々と盥回し。
いろいろあって今に至るわけだ。
龍雅のことに関しては正直よく知らない。
彼の両親が既に亡くなっていることは知っているが、詳しくは聞いていない。
元々聞く気はないし、俺自身のことも話していない。
龍雅が言いたい時に言い、聞きたい時に聞けばいいだろうと思う。
「それじゃあ、俺こっちだから」
いつもの通学路を二人で歩き、俺達の通う「
「ああ、またな」
靴箱にて靴を履き替え、各々の教室へと向かった。
残念ながら龍雅とは別のクラス。
学校内で合うのは、稀に移動教室なんかで鉢合わせぐらいとなる。
それ以外だったら、昼御飯の時に屋上で一緒に食べてるぐらいだろうか。
「……そういや薊。疲れた顔してっけど、お前ちゃんと寝てる?」
「あ…ああ、ちょっと寝付けなくて……」
実は最近、疲れが溜まる一方で全く取れていない。
いつも通りの生活を送っているはずだが、体の調子が一日中悪く、ストレスが溜まっているのか、ちょっとしたことでイライラしてしまう。
「ふーん…。ま、なんかあった時は俺に言えよ」
顔に出ている程に疲れていたとなると、今後どうにかする必要がある。
心配されるというのはどうも苦手だし、特に龍雅に心配は掛けたくない。
「ありがとう。でも大丈夫だから、心配しないでいい」
手を軽く振った俺は、足早に自分の教室へと向かった。
何故こんなことになっているのか。
理由はいくら考えても分からなかった。
特別何かをやっている訳でもなく、何かにストレスを感じている訳でもない。
病院に行って相談とかもしてみたものの原因は分からず。
精神安定剤みたいな薬を処方されたり、カウンセリングに適当なことを言われたり、散々だった。
身体の異変の元凶を知ることが出来れば対処もできるはずだが………。
思い当たることと言えば、やはりあの時の──────
◇
────朝のHRにて。
「ほら席に着けー。始めるぞー」
先生の声により、クラスの皆が一斉に自分の席へと着き始める。
椅子と床が擦れる音が、暫く辺り一面に鳴り響く。
その音がある程度静まった所で、先生がよく通る声で皆にあることを伝えた。
「実は今日皆に紹介しなきゃならなくてな。うちに転入生だ」
先生の言葉に教室中が再びざわつく。
確かに皆のリアクションも理解できた。
この中途半端な時期に転入生というのはまず珍しい。
そもそも、この学校に転校してくる生徒自体余りないことではある。
まあ、珍しいだけではなく、半分くらいはどんな人なんだろうという期待の騒がしさだろうが…。
「それじゃあ、入ってきてくれ」
先生の合図から教室の前の扉がスライドし、学校指定の制服を着た少女が姿を現した。
「初めまして」
少女は前に立つと、そう言ってニコッと笑いお辞儀をする。
まあ、なんて言えばいいのだろうか。
とても綺麗で可愛い女の子だ。
第一印象はそんな感じ。
「
髪は黒髪でストレートに背の辺りまで伸び艶やかで、顔も小顔で肌も白い。
身長は女性の平均身長ぐらいだろうか。
スカートから見える足はとても長く細く、程良く締まっている。
体つきも日本人とは思えないようなプロポーションで、彼女を見たクラス中がさらにざわついた。
実際、俺自身も好みこそあるだろうが、この地域でここまで美しい女性を見たことがない。
「それじゃあ一色は窓側の一番後ろに着いてくれ……藤真の隣だな」
実は何となくは分かっていた。
俺の隣には過去にはなかった、一つ空席の机と椅子があった。
その時点で転校生が来るのかもという予想と、俺の隣へと指定されるだろうとは思っていたのだ。
先生から言われ一色葵という少女は俺の隣の席へとやってくる。
「えっと…藤真君って先生が言ってたよね」
椅子に座った彼女は隣の俺へと声を掛けてきた。
「これから席が隣同士、よろしくね」
「あ、ああ…よろしく」
クラス中に見せたような笑顔を俺へと向けた。
この美しい微笑みを見せつけられ、実際悪い気はしないものだ。
どこかこそばゆく感じるものがある。
が、何故だろう。
彼女はを見ていると、必要以上に既視感を覚える気がした。
────時は経ち、昼休み。
俺はいつものように、屋上で待っている龍雅の元へと向かおうと思っていた。
しかし、今日はそれを引き留める者が現れることとなった。
「藤真君。ちょっとお願いがあるんだけど……」
今日転校してきたばかりの女子生徒、一色葵。
その彼女だった。
「昼休みと放課後を通して、学校中を見回ろうと思ってて……。
だから良かったら、藤真君に学内を案内してほしいんだけど……駄目かな?」
転校生からのお誘い。
正直、何故俺なんだろうと思わざるをえなかった。
彼女は休み時間ごとにいろんな人間に囲まれ、質問攻めにされていた。
その中で気の合う同級生もいたかもしれない。
なのにだ。
彼女は昼休みに入ったと同時に、彼女の周りに集まってきた人混みを掻き分け、俺の元へとやって来てこの台詞。
クラス中から浴びせられるいろんな念を含んだ視線が、俺へと突き刺さる。
「べ、別にいいけど……」
断る選択肢もあったわけだが、俺の性格上の問題もありどうも断り辛い。
それに一刻も早く、皆の注目の的から離れたかった。
先程からひそひそと、俺達のことを勘繰るような言葉が聞こえてきていた。
「ありがとう。それじゃあ早速行こ」
まあ、少し遅れることにはなるが、この転校生も誘って後で龍雅の所へ行くことにしよう。
あいつも可愛い女の子が見たいだろうし、恐らく彼女も断らないはずだ。
そうして、俺は一色葵を連れて学校を案内することとなった。
◇
「───あー?転校生の案内?
お前そんなことしてたのか」
ある程度ではあるが学校中を案内した俺は、残った時間で彼女を誘い昼食を摂ることにした。
少し空気が肌寒い、殺風景な屋上へと辿り着くと、そこには設置されているベンチで一人、購買で買ったパンとジュースを貪る龍雅の姿があった。
待たされたと少々怒っている龍雅を宥め、転校生を彼に紹介することにした。
「まあ悪かったよ。
とりあえず一緒に連れてきたから、いいか?」
「ここまで来ておいて、駄目だとか言う訳にはいかないだろ。
いいから呼べよ。昼休み終っちまうぞ」
「ありがとう。おーい、一色さん」
俺の声に反応し、階段から屋上に出ることができる扉の陰から一色が姿を現した。
「お、美人」
こいつは可愛い子を見ると、大体こんな反応をする。
俺も可愛い子は好きではあるし無理もないが……。
ぶっちゃけ、この一色さんは割と好みである。
「初めまして、一色です。
あなたが藤真君の友達の……」
「小湊だ。よろしく…………ん?」
挨拶を交わす二人であったが、不意に龍雅が妙な反応を見せた。
「…?私の顔に何か付いてますか?」
「……いや、何でもない」
何でもない、とパンを頬張るのを再開し、龍雅はそっぽを向き態度で示す。
だが、彼の行動は、俺にとっては違和感極まりない。
普段の彼ならば、可愛い女の子が目の前にいると、質問攻めを開始するのだ。
毎回それをひっぺがすのが大変であるが、今回はそれがない。
彼の趣味に合わなかったのだろうか。
喜んでもらえると思ったが……。
「…あ、ごめん。お昼食べる前に、ちょっとトイレに行ってくるね」
「ああ、いってらっしゃい」
彼の態度はとりあえず気にせず、御飯を食べようとした時、ふと彼女は思い出したかのようにそう言うと、場を去っていった。
そして、彼女が見えなくなって暫く。
「…おい、薊。
あの女とは、あんまり関わらない方が良いかもしれねえ」
彼はそう言った。
理由は解らないが、龍雅の顔から察するに本気で言っていることは分かった。
「は…?どうしたんだよ急に……。
可愛い子を目の前にしてらしくないと思ったら……」
「あの女、ただの腹黒じゃねえ。
やたらと上から人間観察してやがった。
それに…そもそもあいつ、人間か?」
「おいおい……。冗談よせよ…。
間違いなく良い女の子だと俺は思うけど……」
急に何を言い出すかと思えば、厨二病を発症し過ぎて手遅れなのかと思ったが、彼の顔は至って真剣。
とても冗談を言っているようには見受けられない。
「薊が言うなら確かに良い奴なんだろう。
そのお前の目利きを疑うわけじゃない。
でも何か裏の顔があって、変なこと考えてやがるのは覚えとけ」
まあ多分だがなと、再び龍雅はパンを食べ始めた。
龍雅がこんなことを言うこと自体珍しくはあるが、ただ何か企んでるかもしれないという理由で、彼が忠告するのもまた珍しい。
殺されるとかそんな大事になるわけでもないだろうし、腹黒いぐらいで騒ぎ立てることでもない。
俺は龍雅の言葉を頭の片隅に置き、この場は聞き流すことにしてしまったのだった。
「…………勘のいい人」
そんな彼らを一色葵は階段の踊り場。丁度死角になるところで見ていた。
彼女は壁にもたれかかると天を仰ぐ。
「藤真君、か……」
その表情はどことなく悲愴漂う表情だった。