私がこの文月学園に入学して二度目の春が訪れました。
道の両脇には満開の桜が咲き誇っています。いつもならそんな桜をゆっくりと眺めながら登校するんですが、今の私は桜の花には目もくれません。なぜかって? それは登校時間を余裕で過ぎているから。そう、明らかな遅刻です。昨日はベロンベロンに酔っぱらったねえさんの介抱をして、ねえさんの酒盛りの片づけをしてと忙しかったせいで、ベッドに入れたのがかなり遅かったのです。
「遅刻だぞ、神谷」
やっと学園についた私は、校門の前で呼び止められます。声のした方には浅黒い肌をし、黒々とした短髪のスポーツマン然とした男性が立っています。
「はぁ、はぁ、おっ、おはようございます、にしむー。そして、遅刻してごめんなさい」
息を整えてから頭を下げて挨拶と遅刻の謝罪を済ませます。この人は生活指導の西村教諭、趣味のトライアスロンが理由で陰で『鉄人』という渾名で呼ばれている先生です。友達は生活指導の鬼と言っていますが、私はそんなに怖いとは思いませんけどねぇ?
「神谷、いつも言っていることだがにしむーは止めろ。きちんと西村先生と呼べ」
「えぇー! 私なりの親愛のしるしです。それに、これをやめると私のキャラが立ちません」
「キャラがどうのよりも、礼儀の方が大切だ」
むー、私は西村先生は嫌いではないのですが、この話題だけはいつも平行線です。個性的なキャラが多い文月学園でアイデンティティーを確立するのは大変なのに。キャラが濃いにしむーには分からない苦労でしょうけど。
「ほら、これがお前のクラスだ」
先生が箱から封筒を取り出し、私に手渡しました。宛名を確認すると『
「ありがとうごさいます」
私はドキドキしながらその封筒の封を切ります。無事に目的のクラスになれていれば良いんですけど。封筒を開けるべくがんばっているとにしむーがため息交じりに話しかけてきました。
「いつも言っていることだが、お前はもう少し均等に勉強したらどうだ? そうすれば今回だって2科目名前を書き忘れた位でそこまで落ちることはなかっただろうに」
おっ、ということは名前を書かなかったあの教科は順当に0点になったんですね。途中退室すら0点扱いのこの学園なら当然ですけど、少し不安だったんですよね。解けないと思われるのが嫌で普段どおりに問題を解きましたから。封筒の中身を取り出すとやはり予想通り、「F」という文字が大きく書かれていました。
「むっ、まさかわざと名前を書かなかったのか? 一番の得点源の英語を捨てるなんて何を考えている」
にしむーがいぶかしげに問いかけてきます。Fクラスという結果を見ても笑顔のままの私を見て真相に気付いたのでしょう。
「いえ、私みたいなタイプは中途半端に上のクラスに行くと試召戦争でみんなに迷惑をかけてしまいますからね。Fクラスの方が気兼ねしないでいいので楽なんです」
「英語で400点以上とっておいて何を言っているか。英語のテストだけでも名前を書いてあれば少なくともDクラスには入れたんだぞ。お前は主戦力の2科目の点数がないにも関わらずFクラスの上位なんだからな」
やはりそれくらいの点数にはなっていましたか。私、普通にテストを受けたらCクラスの下位からBクラスの下位くらいの総合点はとれるんですよ? 総合点ならね。だから今回は英語の名前をどちらも書いていたらCクラス入りにはなっていたでしょう。英語WだけでもEクラスの上位には入っていたでしょうし、我ながらナイス判断です。
「でも私、バラつきが大きすぎてFクラス並の点数の教科も多いですよ? そういった教科はしっかり基礎から教えてもらわないとついていけませんし、ちょうどいいんです♪」
それにFクラスには友達が多そうですしね。
「まぁ、お前が後悔しないならいいがな。それと、基礎からやらないといけないという自覚があるならしっかりと行動で示せ」
心配してくれるのは嬉しいんですけど、こればっかりはしょうがないんですよ。苦手な教科はどうしても内容が覚えられなくて。好きな小説の内容や、好きな歌の歌詞なら純文学・ライトノベル、邦楽・洋楽問わず結構覚えられるのに。
「西村先生。遅刻を注意したのにその本人が足止めしていていいんですか?」
注意が長くなりそうなので、ここで話を切ります。そして、呼び方も今回はしっかりと西村先生と呼びました。呼び方のお説教で更にお話が長くなることは分かりきっていますからね。
「むっ? 確かにそうだな。この話は今度ゆっくりとするとして今は早く教室に向かえ」
あっ、やっぱり完全には逃げられませんか。私としてはこのお話はもううんざりなんですけど、しょうがないですよね。
にしむーと分かれた私はこれからの学園生活への期待を胸に抱きながらFクラスへと向かいました。