それでは本編をどうぞ!
うーん、化学フィールドの味方を助けられたのはいいのですが、少し困りましたね。化学フィールドは私がしっかりと最初の位置に保っていたのに対して、総合科目フィールドは徐々にFクラス側に下がりながら戦闘していたので、総合科目フィールドにいた人たちはFクラスの援軍と合流できたのですが、私達化学フィールド組は援軍と切り離されてしまいました。
このままでは私達はさっきまでFクラスを追っていた人たちとDクラスの援軍とで挟み撃ちにされてしまいます。どうするべきか考え込んでいるともっちーが余裕を持った顔でDクラスの援軍の方を指差します。
その指の先を目で追ってみるとそこには数学の木内先生が。なるほど、痺れを切らしたDクラスが採点要因の木内先生を立会いに連れてくるのを予想して、船越先生を他の場所に移したんですね。私が1人で殿をつとめられる状況し、且つ補給に戻っていた敵もおびき出すためにタイミングを計算していたんですか。流石は代表♪ ご褒美としてお仕置きするかどうかはあなたの運に任せてあげますね。
「みんなは布施先生を連れて援軍と合流! 援軍との間に何人かDクラスの人がいるけど、援軍と協力して駆逐するくらいの勢いで行っちゃいなさい!」
『分かりました! 姐さん』
『でも、姉御は1人で大丈夫なんですか?』
姐さんとか姉御とかの呼び方は勘弁して欲しいけど、みんなの心配はとても嬉しいです。でも、今回のテスト、立会人が数学の木内先生、相手は所詮Dクラス、これだけの条件が揃っていては負ける可能性は全くありません。
「私の心配は良いからさっさと行って」
私はそう言うと同時にDクラスの援軍に向かって走り出します。
「木内先生、Fクラス神谷夏樹がここにいるDクラス全員に勝負を挑みます」
「許可します」
「行っくよぉー。
サモンの掛け声で私の足元に燕尾服を着た召喚獣が現れます。でも、さっきと違い――
『あれ、夏樹さんの召喚獣の楽器がさっきと違くないか?』
『ああ、さっきは竹笛だったよな』
そう、先ほどとは違い私の召喚獣はヴァイオリンを手にしています。これは私の召喚獣に起きたバグに関係する現象です。私の召喚獣の武器、というか楽器は点数に応じて変化し、基本的に高得点になるほど服装に相応しくはなりますね。……まあ、竹笛からヴァイオリンに変わってもメリットはそれほどないんですけどね。
『はあ? バカのFクラスがこの人数相手に1人で勝てるとでも思ってるのかよ』
『身の程ってモンを教えてやろうか?
ふぅっ、Fクラス相手だからって酷い罵倒だよね。こんなか弱い乙女にそんなことを言えるなんて性格が悪いです。でも、そういう罵倒は私の点数を見てからの方が良いですよ?
Fクラス 神谷夏樹 数学 352点
VS
Dクラス 7人 数学 平均103点
『げぇ! 何だありゃ。Aクラス上位並の点数じゃねえか!』
『なんでそんな奴がFクラスにいんだよ!?』
『はっ! 見たか、てめぇら! しかもなぁ、姉御はFクラスに入るために手を抜いたから本当の実力はこんなもんじゃねぇんだよ!!』
『数学の女帝を舐めんな!』
『何! 数学の女帝だと! まさか、あの女がそうなのか!?』
やめてぇー! ここでまで『数学の女帝』なんて恥ずかしい名前を叫ばないでぇー! しかも、中堅部隊だったみんなは知らないだろうけど、私は数学を受けなおしてこの点数なんだよ? そんなこと言われたら「数学の試験を受けなおした」なんて知られるわけにはいかなくなっちゃうじゃない!
「ほら、そんなところで野次ってないでさっさと撤収!」
取り合えず文句を言うのは後回しにして、指示を出します。今は戦争中。戦争に集中しないとね。……私は戦争中に他のことに気をとられるおバカさんに非ず。
そして、私の召喚獣がヴァイオリンを構える。さあ、悪魔の演奏の第二幕が始まりますよ。そして、召喚獣が右手に持った弓がヴァイオリンの弦を震わせます。さっきよりテンポを上げますから、のんびり構えていると置いていきますからね?
『安心しろ! どうせ1秒に1点しか減らないんだ。落ち着いて7人で取り囲めば問題ない』
総合科目フィールドからチラ見していたのか。外野が指示を飛ばします。そんな言葉で安心するおバカさんにはこれから混乱してもらいますかね? 演奏を始めて10秒が経ちました。それにより、私の点数は342点になってしまいましたけど、Dクラスの召喚獣たちは全員16点のダメージを受けています。
『おい、どこが1点なんだよ!』
『てめぇ! 卑怯な攻撃してんじゃねぇよ』
『いくぞ!』
混乱して全員で取り囲むことも忘れ、2人ほど飛び掛ってきます。でも、そのタイミングもバラバラ。何がしたいのでしょうね?
「お客様方」
私はおどけた口調でからかい、演奏を続けさせながら召喚獣を飛び上がらせます。
「演奏中の奏者への乱暴は――」
先に飛び込んできた召喚獣の横腹に右足で蹴りを入れ、その足を支点にして半時計周りに体を回転。続けて飛び掛ってきた召喚獣の腹部に後ろ回し蹴りを叩き込みます。
「――マナー違反ですよん♪」
2体の召喚獣はフィールドの端まで吹き飛びます。
『おい、大丈夫かよ! 300越えの召喚獣の攻撃なんか食らったら!』
『やべぇー、補習室は嫌だぁー』
『あれっ? お前の召喚獣の点数の減り、俺の召喚獣と一緒じゃねぇか?』
『マジだ! まともに蹴りを食らったのに全然減ってねぇぞ!』
……これが私の召喚獣のもう一つの性質。いえ、欠陥です。私の召喚獣は他の召喚獣に触れること自体はできますし、攻撃を加えることで体勢を崩すことはできます。しかし、どんなに点数差が大きくても、殴る蹴るなど通常の召喚獣ならダメージを与えられる行動によって相手の点数を減らすことができないのです。
よって、確かに多人数を相手に全体攻撃を行えると言うのは私の召喚獣の強みですけど、たった1人しかいない状況でも点数を犠牲にして放つ全体攻撃でしか点数を削れないという欠陥でもあるんです。
まあ、その辺は代表であるもっちーの采配に任せましょう。頼りにしてるからね、もっちー♪
その後、50秒という時間はあっという間に過ぎていきました。そもそも、時間とともに速度を減じていく召喚獣が連携も取らずがむしゃらに突っ込んできたところで300点台後半の召喚獣を捕らえることはできませんよ。そして、数学フィールドにいたDクラスの人たちはにしむーに補習室に連行され、両軍ともに撤退が完了していたために廊下には私1と木内先生だけが取り残されました。……少しここで指示が来るのを待ってましょうか。
ふむ、あれから10分ほど待ちましたけど、とてつもなく暇ですね。どうしましょうか。英語の遠藤先生辺りを呼んでDクラスに向かって思いっきり蹂躙しますかね? それとも、やっぱり指示が来るのを待った方がいいのでしょうか?
そんなことを考えているともっちーが部隊を引き連れてやってきました。
「もっちー、随分早く戻ってきたね。補充はいいの?」
「ああ、お前が思いのほか倒してくれたおかげだな。総合科目で点数を消費した奴は教室に残してきたが、1,2教科しかダメージがない奴が結構いたから、そいつらを連れて今頃のんびりと補給試験を受けているであろうDクラスを一気に叩く! お前の活躍で士気も大分高まったからな。その勢いを無駄にする手はない」
「分かった。教科の采配は任せたよ、代表!」
「とりあえず、Dクラス代表の平賀は文系だからな。近くに現国と古典の教師がいるはずだ。今回の現国なら問題ないだろう。……だが、間違っても古典の教師に近づくなよ?」
「勿論! そんなことになったら即終了だもん」
その後、私たちはDクラス近くまで進軍し、数人をDクラスに飛び込ませる。これで平賀くんを反対の扉から廊下に出す作戦だったんだけど、相手にも補給試験を受けなくても戦える人がそれなりにいたみたいで、平賀くんは近衛部隊と数人の生徒とともに廊下に出てきた。うーん、意外に残っていたね。
教室に飛び込ませた人員は挟み撃ちされないようにDクラスを見張っていてもらわなければならないので、廊下に残っていた私達だけで何とかしないと。廊下には戦争をしている私たち以外はいないので平賀くんたちはどんどん遠ざかっていきます。早く追わなくては!
みんなが近衛部隊の何人かとそれ以外を引き付けてくれているうちに、後ろの様子を確認しながら私は平賀くんに近づきます。丁度現国の竹内先生の方が平賀くんに近いですし。チャンスは今です。
「竹内先生! Fクラス神谷が――」
「Dクラス玉野美紀、
『その他、近衛部隊も受けます。
くぅ、やっぱり近衛部隊しか召喚してくれませんか。しかも、120点近くの近くの相手が4人もいるのは私1人では荷が重いですね。ですが、泣き言は言いませんよ。
「試獣召喚《サモン》!」
そして、こんどはフルートを手にした私の召喚獣が現れます。
Fクラス 神谷夏樹 現代国語 181点
やっぱり、試験時間の三分の二位しか使えなかったのが痛いですね。
『みんな、アイツ攻撃を食らったってダメージはないんだから強気で行けば大丈夫だ!』
やっぱり、私の召喚獣の通常攻撃力が0なのがバレていますね。今までの相手と違い比較的落ち着いています。そして、フィールドの端で演奏を始めた私の召喚獣に向かって4人がほとんど同じタイミングで飛び掛ってきます。しかも、上手く隙間をなくしていますね。これでは演奏を続けながらよけるなんて至難の業です。だから、私は微笑み、こう口にするのです。
「助けてぇー、ダーリン♪」
私の声と同時にフィールドに飛び込む生徒が一人、改造制服を着たその生徒の召喚獣は思わぬ援軍に対応できなかった正面の召喚獣に木刀で突きを入れ、その隣の召喚獣の足を払って転ばせます。そうして私の召喚獣は大きく開けた道を悠々と進み、残る召喚獣はさっきまで私がいたところで味方同士で衝突してしまいました。
「夏樹、そんな呼ばれ方するとさっきの野太い声の大合唱を思い出すから止めてよ」
「あらあら、あっきーは可愛い女の子に『ダーリン』って呼ばれて嬉しくないの?」
「夏樹にそんな気がないのは知ってるからね。そもそも、親友に言われても違和感しか感じないよ」
この戦争でようやく同じフィールドに立った私達は軽口を叩きあいます。でも、その間も召喚獣に指示を出すことは忘れずに私は先ほどあっきーが突き飛ばした召喚獣が起き上がるのを見計らってあっきーの方に蹴り飛ばします。足払いで無様に転んでいた召喚獣に止めを刺していたあっきーは私が蹴り飛ばした召喚獣の胸に思い切り突きを叩き込み戦闘不能にします。これで後2人。ちなみに演奏を始めて26秒、あっきーが飛び込んだのは今から15秒前。それで、今残っている召喚獣の点数があっきーが飛び込んだ後からどうなっているかというと、
Fクラス 神谷夏樹 現代国語 159点→129点
Fクラス 吉井明久 現代国語 65点
VS
Dクラス 玉野美紀 現代国語 111点→96点
Dクラス 遠藤幸作 現代国語 114点→99点
そう、これこそが私の召喚獣とあっきーが相性抜群だという理由です。実は私の召喚獣は演奏によって召喚獣にダメージを与えているのではなく、正確には召喚獣と試召システムのリンクを利用してシステムにジャミングのようなことを行い、それがダメージとなっているのです。
そして、観察処分者の試召システムは通常の試召システムとは別領域で動いています。よって、通常の召喚獣のためのジャミングデータは観察処分者の召喚獣にとっては何の苦にもならず、あっきーだけが私の演奏下でも点数の消費を気にすることなく落ち着いて行動することができるのです。私の召喚獣が相手に確実にダメージを与え、私の演奏を止めようとする不届き者は魔法使いを守る騎士のようにあっきーが対処してくれます。
どんな防御も無視してダメージを与える私と、その悪魔の演奏の中をむしろその演奏に守られるかのように動き回るあっきー。まさにお互いが最初から組み合わさることが決まっていたかのようなニコイチコンビですよね。私達コンビなら十分にAクラスに対抗できるカードになる自信があります。現に今だって操作技術で上回るあっきーが時間と共に点数が減っていく残り2人の近衛部隊も補習室送りにしてしまいました。
さて、平賀くんは……うっ! これ以上の追撃は無理です。なぜなら、平賀くんは今古典の向井先生の近くにいますからね。まあ、こちらの弱点を晒す必要はないのでここは余裕の演技でもしますか。
「さて、あっきー。折角の試召戦争なんだからクラス全員の力で勝ちたいよね」
「えっ? どうせなら僕達だけで――」
私はあっきーの胸元をつかみ引き寄せます。
「やっぱりぃー。クラスで一丸となってなにかを目指すっていうときに仲間はずれはいけないと思うのぉー。そういう信頼関係が弱点の補い合いに繋がるんだよ」
「そ、その通りですね。夏樹様(そ、そうか夏樹の古典は)」
全く、こいつは私の古典の成績を覚えていないのかしら。まあ、一般論に偽装することで私の考えも伝えたし、打ち合わせも穏便に終わったので私達は声をそろえて彼女を呼びます。
『それじゃあ、ひめひめ(姫路さん)。後はよろしく』
平賀くんは『何を言っているんだこの馬鹿共は?』というような表情をしています。
「あ、あの……」
そんな彼の後ろから、申し訳なさそうにひめひめが肩を叩きました。
「え? あ、姫路さん。どうしたの? 他のクラスはまだ授業中だったよね?」
平賀くんは未だに現状を理解していないようです。まあ、当たり前ですね。ひめひめがFクラスだなんて普通は誰も思いませんし。しかし、そんな彼にひめひめはもじもじと体を小さくしながらもしっかりと言い放ちます。
「Fクラスの姫路瑞希です。えっと、よろしくお願いします」
「その……Dクラス平賀君に古典勝負を申し込みます」
「……はあ。どうも」
「あの、えっと……さ、
Fクラス 姫路瑞希 古典 326点
VS
Dクラス 平賀源二 古典 114点
そして、勝負は一瞬でつきました。
一応、夏樹の撃破数が多いので原作のように周りに紛れず、堂々と攻めても問題がなかったので原作より少し決着が早いです。
今回のお話で出たように夏樹の召喚獣は武器が点数によって変化します。まあ、武器と違って演奏が攻撃難で武器が違ったからなんだって話なんですけどね。
そして、デメリットは夏樹の召喚獣は他の召喚獣に対する物理攻撃ができません。例え、1000点を超える点数を採ろうが演奏という方法でしか攻撃できません。なんと哀れな。とりあえず腕輪以外は戦争にかかわる召喚獣の特性は書いたと思います。腕輪についてはBクラス戦をお楽しみに。