バカとテストと右脳娘   作:シュレ猫

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さて、今回は明久主観の描写で夏樹主観の描写をサンドしています。一応、スペースは多めに空けているのでside表記がなくても分かるはず。今回で夏樹の人間性についてよく分かるのではないかと思っています。

それでは、本編開始します。


第十一話:ごめんなさい

 Dクラスとの試召戦争が終わり、僕は雄二と一緒に家に帰ろうとしていたんだけど、その帰り道で教科書を卓袱台の下に置いたままだったのに気付いて学校に戻ってきたんだ。そしたら、誰もいないと思った教室には姫路さんが残っていて、僕にとっての不幸の手紙(ラブレター)を書いているところを見つけたんだよね。

 

 戦後交渉の後も雄二と熱心に話しこんでいたし、多分手紙の相手は雄二だと思う。なんであんなゴリラなんかを姫路さんが好きになったのか全く理解できなかったけど、好きな人のことを語る姫路さんはとても魅力的で邪魔をすることなんて考えられなかった。

 

 あのゴリラが姫路さんに相応しいとは思えないし、雄二のことが心の底から羨ましく、且つ妬ましいと思ったけど、姫路さんの想いは叶って欲しくて僕は、

 

「その手紙、いい返事が貰えるといいね」

 

 と、自然に応援して、姫路さんを見送っていた。

 

 さてと、誰も居ない教室に居てもしょうがないし、さっさと教科書を鞄にしまって帰ろうかな。そういえば、夏樹は用があるって言って校舎に入っていったけど、一体何の用だったんだろ?

 

 でも、雄二も言ってたけど夏樹に用事があって本当に良かったな。夏樹はあれで結構、……いや、かなり真面目だからDクラスに交換条件としてエアコンの室外機を壊させるなんて提案には物凄く反対しただろうし。実際、雄二にもDクラスに壊すタイミングの指示をするまでは絶対に夏樹には話すなって釘を刺されているしね。しかも、そのことについては夏樹以外の全クラスメイトに念入りに説明してるし。

 

……でも、クラスの勝利のためとは言え、夏樹だけ仲間外れみたいでなんか嫌だな。

 

よしっ! Aクラスとの試召戦争が終わったら今までのお礼と仲間外れのお詫びを兼ねて僕のおごりで夏樹と一緒にどっかに遊びに行こう。

 

うっ、でも今月はもう仕送りが残り少ないんだよね。……うん、夏樹に前借して遊びに行って、来月分の仕送りから夏樹に二人分払おう。御礼する相手に前借なんて普通やらないけど、夏樹なら許してくれるよね。

 

ピンポンパンポーン《連絡いたします》

 

 丁度教科書を鞄に閉まったところで放送が鳴った。一体なんだろう? もう部活をやってる生徒くらいしか残ってないし、新学期初日のこんな時間に部活向けの放送なんてあるのかな?

 

《船越先生、船越先生》

 

 ゲッ! 放送部の新野先輩が挙げた名前はあの船越女史のものだった。今もまだ体育館裏で待ってるんだろうな。見つからないうちにさっさと帰らないと。

 

《2年F組の須川亮くんから伝言を預かっています》

 

 あれ? なんでここで須川君の名前が出てくるんだろう。気になった僕は教室を出ようとした足を止め、放送に耳をすます。

 

《先ほどは勇気が出ず、吉井明久の名前を騙って呼び出しなどして済みませんでした。しかも、それでも勇気が出ず、先生を待たせてしまいました》

 

 そう言えば夏樹って新野先輩と仲がいいって言ってたし、もしかして僕を助けるために放送を頼んでくれたの? やっぱり夏樹を表現する言葉は女神以外思い付かないよ。

 

《でも、もう逃げたりしません! 10分後2年F組の教室に来てください。そこで今度こそ僕の想いを伝えます》

 

 ってぇ!? 何Fクラスに呼んでるのさ! まあ、夏樹は僕が教科書を取りにきたことは知らないから僕が鉢合わせになりそうだったのは完全に偶然だから仕方ないけど、須川君はもう帰っちゃったから船越先生は結局また待ちぼうけだよ!? 夏樹ってそんな悪戯をする性格じゃないでしょ?

 

 僕は夏樹の真意が分からないので、隣の空き教室で待機することにした。すると、5分後くらいに10分が待ちきれなかった船越先生がFクラスに入っていくのが見えた。そして、その3分後夏樹がFクラスに入っていくのを見た僕は廊下に出て、扉の隙間からFクラスの中を覗いた。

 

「あら? あなたは確か神谷さん? 私は須川君に呼ばれてきたんだけど、彼がどこに居るか知らないかしら?」

 

 入ってきたのが目的の人物でなかったことに落胆した船越先生が夏樹に須川君の所在を確認する。

 

「本当に申し訳ありませんでした!」

 

 その言葉を聴いた夏樹は額が膝に付きそうなくらい深く頭を下げた。いきなり謝罪された船越先生はわけが分からず、戸惑った表情を浮かべている。

 

「さっきの放送は船越先生にここにいらして欲しくて私がお願いしたものなんです」

 

 

 

 

 

 

「……一体どういうつもりであんな放送をしたの?」

 

 私の言葉を受けた船越先生は少し不機嫌そうにしています。確実に私の行動に怒っているのでしょう。でも、その怒りは当然のことで、我々Fクラスが甘んじて受けなければならないものです。

 

「昼間の呼び出しは私たちの代表が船越先生を戦場に行かせないために指示した偽情報なんです」

「そ、そんな! じゃ、じゃあ、吉井君が男女の大事な話があるっていうのは!?」

「代表が考えた嘘です。こんな乙女心を弄ぶような最低な行為が謝ったくらいで許されるとは思いません。ですが、どうしても謝罪しておかなければならないと思っていたんです。本当にごめんなさい!」

 

 私は一瞬上げた頭を元の位置まで下げて、再び謝りました。船越先生の怒りへの恐怖と自分のクラスがこんな最低なことをしてしまったという恥ずかしさで先生の顔を見ることができません。

 

「あ、あなた達!」

「こんなことで完全に謝罪になるとは思えませんが、せめてものお詫びに私のおじを紹介させてください」

「お、おじ?」

「あっ、正確には父の従兄弟でまだ30代半ばなんです。す、すみません! やっぱり、ダメですよね? こんなあっちがダメだからこっちだなんて考えは」

 

 先生の疑問の声に答えるために顔を上げると先生は物凄く真剣な顔をしていて、その迫力に私は三度頭を下げます。

 

カッ、カッ、カッ

 

 音に気付いて視線を上げると、船越先生が足早に近づいてきます。その視線は私の体を射抜くほどに鋭く、足がすくんでしまいました。

 

 私の前まで来た先生は真剣な表情のまま、素早く手を上げます。続く衝撃に怯えて私は思わず目を瞑ってしまいます。

 

 ガシィッ!

 

 しかし、私が恐れたような衝撃が頬や頭にくることも無く、右手が何かに包まれたような感触を伝えてきます。恐る恐る目を開けると私の右手を両手で握った船越先生の姿が。

 

「本当なの?」

「は?」

 

 主語のない質問に思わず間抜けな答えを返してしまいます。

 

「だから、あなたのお父様の従兄弟を紹介してくれるって話は本当なの?」

「え、ええ。ただ、恋愛は当人同士の相性ですから。私にできるのはおじに先生を紹介して、二人が対面する席をセッティングするくらいなので、あまりお力にはなれないかも知れませんが」

 

 船越先生のあまりの気迫に怯え、少し仰け反ってしまいましたが、しっかりと質問には答えることができました。

 

「それでいいわ。会いさえすれば大丈夫。絶対その人好みの女になってみせるわ。で、どういった方なの?」

「りゅ、龍ちゃんですか? えっと、本名は金城龍一で、37歳で背は結構高めですね。身内目線ですが、顔もそんなに悪くないと思います。ただ、就職運が悪いのか40手前なのにフリーター生活なんですが、それでは流石にダメですかね?」

「大丈夫よ! 私の給料があれば彼がアルバイトでもどうとでもなるわ! だけど、いいの? 自分で言うのもなんだけど、私は結構なオバサンよ。なのに、こんなオバサンに身内を紹介したりして?」

「えっと、さっきも言った通り就職運が悪くて不況の煽りをモロに食らってはいますけど、結構仕事のえり好みで逃した仕事もいくつかあるんですよ。そのせいで、姉さん女房がお尻を引っぱたいてでも就職させなきゃダメかなって叔母さんなんかも言ってましたから。それに私にできるのはあくまで紹介だけで確実に結婚するって決まったわけじゃないですし」

 

 船越先生が顔をうつむかせてフルフルと震えています。一体どうしたんでしょうか?

 

「ありがとう、神谷さん! いえ、夏樹ちゃん。私、生徒にここまで思ってもらったことなんて一度も無いわ。絶対あなたの親戚になってみせるからね!」

「そ、その。がんばってください。私も龍ちゃんの好みを教えたりとか少しは協力できますので、上手くいくように応援しています」

「夏樹ちゃんはなんていい子なの! こんないい子がウチの学校にいたのになんで今まで気付かなかったのかしら。……でも、本当に惜しいわ。なんで夏樹ちゃんは女の子だったのかしら。この子が男の子だったら絶対に逃がさなかったのに(ぼそっ)」

 

 ブルゥッ!

 

 な、なんか、今、聞き捨てならない言葉が聞こえた気がするんですが。なんか春なのに寒気も止まりませんし。一体なんなのでしょう。…………どうでもいいけど(良くない気もしますが)なんとなく私を女に産んでくれた両親に感謝したくなりました。

 

「まあ、良いわ。学校生活で困ったことがあったら何でも言いなさい。私にできるだけのことは何だってしてあげるから」

「ありがとうございます。あ、でしたら明日の放課後に頼みたいことがあるんですがよろしいでしょうか。……すみません。言われてすぐにお願いでは、流石に図々しいですよね」

「気にしなくて良いのよ。私が何だって言えって言ったんだから。で、どういった内容なの?」

 

 私は船越先生の耳元に口を寄せて小声でお願いの内容を説明します。

 

「そ、そんなことがお願いなの? 随分変わってるわね?」

「だって、船越先生の乙女心を傷つけてそのままなんて酷いじゃないですか」

「え、もしかして、私のため。こ、こんな素敵ないとこ姪を持てるなんて私はなんて幸せなのかしら! 夏樹ちゃん。安心してその後のフォローも叔母さんがしっかりとやってあげるから」

「そ、そんな、申し訳ないです」

「いいのよ。可愛いいとこ姪のためなんだから。あと、夏樹ちゃんももっと砕けた口調で話していいのよ。なんたって親戚なんだから」

 

 ……先生。それはあくまでも可能性の一つで、まだ確定していませんよ。ということは絶対に龍ちゃんを逃がさないつもりですね。

 

「で、では、龍ちゃんとの出会いの席は後日連絡いたしますので、私はこれで失礼します」

「ええ、楽しみにしてるわ。夏樹ちゃん、また明日ね」

「あっ、忘れるところでした。先生、ささやかな復讐としてこんなのはどうですか――」

 

 

 

 

 

 

 夏樹と船越先生のやり取りを見ていた僕は流石に心が痛んだ。そうだよね。生徒に単位を盾にしてまで交際を迫るのは問題だけど、裏を返せばそれだけ結婚に真剣ってことだもん。そんな人に偽のラブレターで呼び出してからかうイジメみたいなことをするなんて許されないことだよね。

 

 うん! 今月のお小遣いはもう少ないけど、きちんと今月分から夏樹と遊びに行くときの代金を払おう。クラス全員のために謝ってくれたんだからそのくらいしないとね。いざとなれば代表の責任ってことで雄二から搾り取ればいいし。

 

「……ぶっ、そ、それにしても夏樹は凄い仕返しを考えるね。くっ、くくく」

 

僕はさっきまで居たFクラスの隣の教室に入ってから声を殺して笑うけど、声を完全に抑えることはできなかった。多分、夏樹の台詞に嘘はなくて、本人はそれほど酷い仕返しだとは思ってないんだろうな。夏樹は無自覚でなんて残酷なことするんだろう。

 

 明日、事が起こるまで笑いをこらえていられるかな。

 




さて、夏樹が怒っていたのが明久を餌にしたのではなく、船越先生をだましたことだと理解していた方はいましたでしょうか? 一応、前話で明久が雄二に復讐する理由がピンとこないところを書いて、読者の方が疑問を抱くようにしたつもりですが。

それでは、今後もよろしくお願いします。
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