バカとテストと右脳娘   作:シュレ猫

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どうも。今回のお話はDクラス戦が終わった朝のお話ですが、切りが良いところで切ったので少々短いです。その分夜に投稿予約をした次話はそれなりに長くしてあります。

それでは、本編始まります。


第十二話:自覚なき悪魔

 翌朝、家でちょっとしたトラブルはありましたが、いつもの通り学校に行き、私は古典の教科書を開きます。古典は私の最大のウィークポイントですからね。テストの前に少しでも悪あがきをしておきます。

 

 しばらくして遅刻ギリギリの時間にあっきーが登校してきました。その顔はとてもほがらかで今日がテスト漬けであるという大変さなど微塵も感じさせない表情です。

 

「おう明久。時間ギリギリだな」

「ん、おはよう雄二」

 

 もっちーに話しかける際も今まで一度ももっちーに向けたことのない笑顔です。空腹でとうとうおかしくなっちゃったのかな?

 

「明久、何か変なもの……食う余裕がある筈ないな。とうとうバカをこじらせて脳がおかしくなったか」

「やだなぁー。雄二ぃー。そんなことあるわけないじゃないかぁー」

「マジできもいぞ、明久。だが、そんなことより昨日の後始末はいいのか」

「雄二。夏樹にあれだけ注意されたのにまた同じ過ちを繰り返すはずないじゃないか。それに、昨日の僕はどうかしていたんだよ。あの程度のことで大切な友達を殺そうとするなんて。ああ、今日の僕はいつもより周りの人たちに優しくできそうだよ」

「もういい。それ以上しゃべるな。マジで鳥肌が立ってきた」

 

 もっちーが顔をしかめ、腕をさすりながら言い放ちます。傍で聞いている私も正直気持ち悪いと思った。そりゃあ、友達同士仲良くするのがベストだけど、あの二人はそんな関係になりえないことは理解しているし、あっきーがもっちーを大切な友達だなんて本心で思っていないようなことを打算のない笑顔で言っているのがありえない。

 

「それに、俺の始末じゃなくてだな」

「一体何が言いたい――」

「吉井っ!」

「ごぶぁっ!」

 

 あっきーの言葉がしまっちの拳で遮られました。私はため息とともに立ち上がり、しまっちを羽交い絞めにします。

 

「は、放しなさいよ、夏樹!」

 

 しまっちは随分といきり立っているね。昨日の続きかな?

 

「ほら、落ち着いてよ、しまっち。昨日、一体何があったのさ」

「聞いてよ! 吉井ったら私を見捨てただけじゃ飽き足らず、消火器のいたずらと窓を割った件の犯人に仕立て上げたのよ」

 

 酷い頭痛がします。両手を使ってしまっちを羽交い絞めにしていなければ右手で頭を押さえているところです。

 

「あっきー、そんなことしたの? 見捨てたことについては戦争をやる以上補習を受ける危険性は考慮すべきだからそんなに問題じゃないけど。ダメだよ? いたずらの責任を人に擦り付けちゃ。それに、しまっちも。時間的に考えて後の二つは私が戦場に入ってからのことだよね? じゃあ、補習室行きにされそうなのを見捨てただけであんなに暴走したの? ダメじゃん。そのくらいで戦争を放り出しちゃ」

「違うわ! 補習室なんかよりもっと危険なところに連れて行かれそうなところだったのよ!」

 

 ? にしむーがそんな変なところに連れて行くとは思えませんし、一体何があったのでしょうか? まあ、だとしても私がすることは一つですね。

 

「あっきー。ちゃんと反省して、しまっちに謝らないとダメだよ!」

「うぅ、島田さん、ごめんなさい」

「謝って済む問題じゃないわよ! あんたのせいで彼女にしたくない女子ランキングがあがっちゃったじゃない!」

 

 ……ウチの学校にそんなのあったんだ。初めて知りました。でも、しまっち。多分私の予想だけど、今回のことがなくても相当上位にランクインしてたんじゃない? だって、あっきーに関節技かけてるしまっち、物凄く怖いもん。

 

「まあ、本当は夏樹を振り払ってでも掴みかかっているんだけど」

 

 ねぇ、しまっち。普通の人はさっき鼻血が出るほど強く殴った時点で終わらせていると思うよ。

 

「アンタにはもう充分罰が与えられているようだし、許してあげる」

「うん。さっきから鼻血が止まらないんだ」

「いや。そうじゃなくてね」

「ん? それじゃ何」

「一時間目の数学のテストだけど」

 

 しまっちがとても楽しそうに、心から楽しそうに告げます。

 

「監督の先生、船越先生だって」

 

 あぁ、良かったですね。船越先生。今度授業があったときにでもと言っておきましたが、早速仕返しの機会が来ましたよ。まあ、乙女心をもてあそんだんですからこのくらいの罰は受けませんとね。

 

「う、嘘! は、早くどうにかして対策を練らないと」

 

 あっきーが酷く慌てた態度をとりますが、はっきり言ってバレバレです。注意深く観察するまでもありません。しまっちもあっきーの反応が予想と違ったためにいぶかしげな目であっきーを見ています。実際、あっきーの性格なら脱兎のごとく逃げると思うんですがねぇ?

 

「吉井、アンタ一体どうしたの? 船越先生が怖くないの」

「そんなことないよ。怖いに決まってるじゃないか!」

 

 いや、あっきー。物凄く白々しいよ。もしかして、あっきー。噂を聞いたのかな? でも、時間ギリギリに来たあっきーが聞いてるとは思えないんだけど。そう考えていると、廊下から一人の生徒が飛び込んできます。

 

『おい、須川! Eクラスで噂が流れていたんだが、お前、船越先生に告白したんだって!?』

『は? いや、俺は――』

『マジか! 須川、お前どんだけ女に飢えてんだよ』

『あの船越女史まで守備範囲とは恐れ入ったぜ』

 

 ああ、やっぱり。部活熱心なEクラスを中心に噂が流れていましたね。流石に噂にしてしまったのは申し訳ないですけど、体育館裏では誰が聞いているか分からないのでああいった話をするわけにはいきませんし、確実に先生を呼び出すにはあの放送しかありませんでしたし、仕方のないことだったのです。悪戯のダメージは少し大きくなるかも知れませんが、せめて少しでも広がらないように帰宅部の人が完全に帰るまで待ってからの放送にしたんだから、多めに見てくださいね。

 

「は? どういうことなの? なんでいつの間にか船越先生の相手が吉井じゃなくて須川になっているのよ?」

「さ、さぁ? 僕も何でかさっぱり分からないよ」

 

 ……やっぱり、あっきーは事情を知ってますね。笑顔が隠しきれてませんよ。まぁ、別に知られて困る情報ではないのでいいですけど、もしかして私と船越先生の話をどこかで聞いていたのでしょうか?

 

 教室中が須川君が船越先生に告白したという噂の真偽で騒いでいると、一時間目の予鈴が鳴り、船越先生が入ってきました。あっきーは必死に笑いを押し殺そうとしています。事情を知っているならそうでしょうね。

 

「テストを始める前に、須川君」

 

 船越先生が須川君に声をかけます。声をかけられた須川君は少し怯えた表情をしています。

 

「あなたの気持ちは嬉しいんだけど、先生、どうしても須川君をそういう対象としてみることができないの。だから、あなたの気持ちは受けられません。ごめんなさい」

『す、須川の失恋記録が更新された』

『しかも、その相手は船越先生だとぉー!?』

『誰が振っても当たる。いや、それどころか避けたバットに当たりに来るようなボールだぞ』

『一体誰なら付き合ってくれるんだよ』

『流石非モテ王の名は伊達じゃねぇな』

『う、嘘だぁぁーーーーー!』

 

 叫び声とともに須川君は教室を飛び出していきました。その顔はとても悲しく、痛ましげで、大粒の涙が溢れていました。

 

 ちょっとした悪戯のつもりだったのに、あんなに悲しむなんて。……少し、…………ううん、かなり失敗しちゃったかな。軽はずみなことして本当にごめんね、須川君。

 

 ちなみに、隣の席のあっきーはお腹を抱えて大笑いしていました。まあ、昨日のことを考えれば気持ちは分かるけど、あれだけ悲しんでいたんだから、笑わないでいてあげようよ。

 

「な、夏樹。な、ナイスアイディアだったよ」

 

 あっきーが笑いながら私に声をかけてきます。すると、その声を聞いたもっちーが私に問いかけてきます。

 

「なんだ。今のは夏樹の入れ知恵だったのか?」

「う、うん。ちょっとした悪戯のつもりだったんだけど、あんなにショックを受けるなんて。酷いことしちゃった」

「大丈夫だよ、夏樹。須川君はフラれ慣れてるから、このくらいの傷はすぐに治るよ」

「今回の傷は致命傷だったと思うけどな」

 

 致命傷と言いつつもこのクラスの精神的打たれ強さをすでに昨日1日で把握したのか、もっちーも苦笑します。そんなわけで、気持ち悪いことや個人的に考えさせられることもありましたが、私達の朝の一幕はほのぼのとしていました。

 

 しかし、このときの私は想像もしていなかったのです。この日のお昼にはあっきーやもっちーが生死に関わる危機に直面するなんて。

 

 




夏樹の考えた悪戯は船越女史に須川君を振らせるというものでした。今作での彼は非モテ王として原作以上に名を馳せることでしょう、哀れなり。本編にも書いたとおり夏樹は発案時点でそれほどショックを受けるとは思っていませんでした。夏樹にはこうしたちょっと鈍いというか、抜けているというかそんな感じの欠点があります。

作者としては今回のギャグはそれなりに自信があったんですが、いかがでしたかね? ……「筆者は寒い奴だ」と思われないか激しく心配ですが。

それでは次の話でもよろしくお願いします。
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