それでは、本編をどうぞ。
教室で待機していた私は壁に掛けられた時計で時間を確認します。さて、そろそろ他のクラスは休み時間に入るはずですね。今こそ作戦を遂行するときです。……始める前に心の中で謝っておくね。もっちー、ごめん!
「もっちー! ちょっと私に付き合って!」
「ちょっと待て、夏樹。一体どうしたって……」
私はそう言い放つともっちーの返答を待たずに彼の左手を握り、廊下に引っ張り出します。おっと、私たちだけじゃ意味が無いんだよね。
「4,5人私たちについて来て!」
私がそう言い放つとなぜかもっちーに嫉妬の目を向けていた生徒が我に返り、回復試験のために戻ってきていた須川君を筆頭に、拳で語り合って決まった5人が私たちの後をついてきます。
さて、教室に押し込み損ねたBクラスの小部隊を探したいんですが、どこにいますかねぇ? そんなことを考えながら廊下を歩いているともっちーが私の手を逆に引いて教室に戻ろうとします。
「おい、夏樹。一体どういうつもりなんだ! むざむざ代表が出て行ったらまずいだろうが!」
「あー、大丈夫。私なりの作戦のために必要なことだから。一応そのための仕込みは済ませておいたし」
反省文覚悟……というより既に書いてから仕込みをしておいた作戦ですから上手くいくといいんですけどね。……ちょっと、卑怯な気もするから迷いがあったんですけど、Bクラスがなりふり構わずに戦うならこっちだってこの位はします。
「それで、神谷さん。俺たちは一体何をすれば?」
「そうそう、事情も分からずについてきたけどさ」
確かに、急いで飛び出してきたせいで全然説明していませんでしたね。そのことに気づいた私はいったんその場で立ち止まりついてきたメンバーに説明をします。
「えーと、もっちーっていうエ……げふんげふん。囮を私が連れて歩くことでBクラスの外にいる小隊をおびき出して、それを私たちで倒そうって言う作戦なんだけど」
「おい、夏樹。貴様今エサって言いかけただろう!?」
「まあ、五月蝿いもっちーは放っておいて、君たちには相手を倒す役を頼みたいんだ。多分、相手は同数かそれ以上だし、私の演奏下で戦ってもらうから戦死の可能性も高いんだけど」
「そんな! いくら神谷さんの頼みでもそれは聞けないよ!」
「そうだ! いくらなんでも戦死の可能性があるなんて!」
「うぅ、やっぱりダメ? 一応、今回戦ってくれる君たちには明日お菓子を作ってこようと思ってたんだけど、それじゃあ対価としては安すぎるか」
私がそういうと5人は少し考え込みました。
「その際は、シチュエーションを選んでもいいですか? 例えば、セーラー服でツンデレ風に『か、勘違いしないでよね。アンタのために作ったんじゃないんだから。余り物が勿体ないだけよ!』とか」
「妹っぽく甘えて『お、お兄ちゃんに食べて欲しくて作ったんだ』とかでもいいですか」
5人がめいめいに個人の要望を出してきてちょっとだけ顔が引きつりました。しかし、その光景を考えてみますと、希望の服はセーラー服やスーツなど。セーラー服なら中学の頃は普通に着ていましたし、スーツだって将来着る可能性は高いのであまりコスプレって感じはしません。シチュエーションにしても、演劇みたいなものと割り切ればそれほど苦痛ではありませんね。……どうしましょう。さくのせいで私の感性がだんだんおかしくなっているような気がします。でも、戦死の可能性のある作戦に付き合わせるんですから、そのくらいは許容しましょう。
「まあ、小学生っぽいっていう犯罪チックな服装も、レースクイーンみたいな変に露出の高い格好もないですし、そのくらいはいいですよ。写真撮影はNGですけど」
「渡し方についてはどうですか!」
「うーん、やってもいいんだけど着替えのことも考えると全員の要望を叶えると時間が無いでしょ? だから、今回の作戦で一番手ごわい相手を倒したとか、一番相手の点数を減らしたとか、一番活躍した人にその要望どおりに全員分渡すって言うのはどうかな?」
そういうと全員が黙り込んでしまいました。やっぱり、一人に全員分を渡して終わらせるっていうのは手を抜きすぎましたかね。
「えーっと、やっぱりダメかな?」
そう私が確認すると全員がザッという音がするほど勢いよく片膝をつき、右手を胸の前で水平にしました。その行動に私ももっちーも軽く引いてしまいました。
「ど、どうしたの。えーっと、そういう格好するってことは作戦については大丈夫なのかなぁ?」
「お任せください、神谷様!」
「イエスユアハイネス!」
「委細承知です、姐さん!」
「この命に代えてもやり遂げます!」
「
提案した私が言うのもなんですし、かなり失礼な言い方ですけど、こんな条件で地獄の補習と隣り合わせの作戦を了承するとはずいぶん安上がりな人たちですね。
「いたぞ! Fクラス代表だ!」
っと、後方からBクラスの小隊が近づいてきました。7人くらいですか。これなら5人が倒し逃してももっちーに倒してもらえる範囲内ですね。このまま、時間を稼いで迎撃しやすいところを目指しましょう。
「おい、夏樹! 流石にあの人数は「いいから黙ってついてきなさい!」お、おう」
私たちはしばらく走り続けて、旧校舎4階の空き教室に入りました。
「へっ、ようやく追い詰めたぜ」
「まさか、代表が大した盾も連れずにむざむざ出てくるとはな。まあ、これで面倒な戦争も終わりだが」
「じゃあ、長谷川先生。召喚フィールドを「ちょっち、待ってみ?」あぁ?」
私が相手の言葉を遮って人差し指を上に向けながら不敵な笑みを浮かべると、相手は全員いぶかしげな表情をします。そして、それと同時に流れ出す放送。
ピンポンパンポーン《連絡致します》
そして、突然流れ出した私の声に皆戸惑っていますが、当然放送はそんなことを気にせず作戦の鍵となるキーワードを言い放ちます。
《西村先生、西村先生。坂本雄二君が教師と生徒の垣根と性別の壁を越えた大事な話があるようです。至急彼に会ってあげてください》
私以外に嫌な沈黙が流れます。そして、もっちーが機能停止から回復して怒鳴ってきます。
「夏樹、一体どういうことだ!!」
「一昨日のうちにテープに録音していました♪」
サムズアップとともにいい
「手段を聞いてんじゃねぇよ! 何のつもりでこんなことしたんだって聞いてんだよ!」
「えーっと、一つは船越先生への悪戯の仕返し?」
「ふざけてんのか、てめぇ!」
「まさか、坂本にそんな趣味があったのか!?」
「Fクラス代表は変態だったのか!?」
「ほら見ろ、お前のせいで最悪の噂が流れたじゃねぇか!」
「大丈夫。こんな嘘信じる人なんかほとんどいないよ。それに、もっちーがOK出したんだよ? 戦略的に意味があればこういうことしていいって」
「あぁ? そりゃ一体どういう「さぁーかぁーもぉーとぉー!!」」
「こういうこと」
もっちーの言葉の途中で野太い声が聞こえてきます。そして、それから少しもたたないうちににしむーがこの教室に入ってきました。
「坂本。貴様、今の放送はどういうつもりだ!?」
「いや、あれは俺じゃなく――」
「ごめんなさい、西村先生! あれは一昨日の船越先生のことの仕返しをもっちーにしたくて私がやった悪戯なんです! お叱りは今日の戦争が中断したらしっかりと聞かせていただきます」
「はぁ、さっきは何のことかと思ったが、船越先生が罰は既に受けているので多めに見てやれと言っていたのはこのことか」
「一応、昨日のうちに船越先生監修で反省文は書いておきました」
「……やる前に書いたものが”反省”文と言えるのかは疑問だが、そうした文章を書く覚悟があったということは考慮する余地がある。それに船越先生も何度も頭を下げて下さったことだし、さきほどの誠意のこもった謝罪で勘弁しよう。以後、こういったことは控えるように」
「おい、待て鉄人! 随分と俺らに対するものとは態度が違うじゃねぇか! 教師が贔屓していいのか!?」
「コイツはお前らと違ってほとんど問題を起こさんし、たまに起こしたときも真剣に反省するからな。大抵の問題もお前らの起こしたことの尻拭いだ。そのあたりは船越先生にお前らが謝罪しないで、神谷が謝罪したことからも分かるだろう。よって、これは当然の区別だ」
うーん。私のことをそういう風に評価してくれるのは嬉しいですけど、流石に教師なんだから生徒の区別や贔屓は良くないと思いますよ? あぁ、それより皆が呆けているうちに作戦を完了させないと。
「にしむー、にしむー」
「貴様、さっきはしっかりと西村先生と呼んだのになぜ戻す?」
「え? さっきは謝るからしっかりとした呼び方をしただけだよ? その位は常識として理解してるし」
「まあいい。で、どうしたんだ?」
「あぁ、うん。英語Wで召喚フィールドの展開をお願いします」
「ちょっ!? 待てや「分かった。許可しよう」」
「ありがとうございます。
Fクラス 神谷夏樹 英語W 206点
そして、展開する英語Wの召喚フィールドと現れる私の召喚獣。これでこの戦闘の決着がつくまで相手が用意した長谷川先生はフィールドを展開することができません。そして、召喚しなければ相手は敵前逃亡で失格です。
「落ち着け! あいつが召喚したってことは他の奴らは召喚してこねぇ!」
「そうか! 全員で連携してさっさと潰すぞ」
『
そして、見事な連携で私に迫ってくるBクラスの生徒たち。でも、こっちは戦死覚悟であなたたちを潰しにかかってるんですよ!
『神谷さんの援護だ』
『
そして、Fクラスの皆が私に迫っていた敵を対処してくれます。
「なっ! こいつら戦死が怖くないのか!?」
「おらぁ、死ねぇ! さっさと死ねぇ!」
「俺の妹プレイのために死にやがれぇ!」
「いーや! 勝つのは俺だぁ! ツンデレ幼馴染ぃー!」
私の演奏下で召喚してきたという事実と謎の気迫、色をつけるなら桃色の気迫とでも言いましょうか? それによって怯んだBクラスは終始押され続け、あっという間に決着がついてしまいました。こういうときのウチのクラスって本当に強いですね。
「おっしゃぁー! 二人倒した俺のシチュエーションだぁ!」
「待てやぁ! 俺がギリギリまで減らしたのを横から掠め取ったんじゃねぇか! 一番点数の高い奴を相手してたんだから神谷さんはスーツ姿だぁ!」
「ふざけんな! 俺が神谷さんの演奏を邪魔しそうな奴を積極的に倒し続けたんだから、ツンデレ風な渡し方だぁ!」
うーん。こんな集団に倒されただなんて思うのは嫌でしょうねぇ。少しだけ相手の生徒に同情します。ただ、こう口論していても決着がつきそうにありませんね。仕方ない。
「皆、私の予想よりずっとよく戦ってくれたよ。実際、戦死者も出なかったし。そんなんじゃ、優劣なんてつけられないから、公平にジャンケンで決めてよ」
『おらぁ! ぜってぇ負けねぇぞ。ジャンケンポォン!』
『てめぇ! 今の絶対後出しだろ!』
まあ、彼らのことは決まるまで放っておきましょうか。すると、もっちーが話しかけてきます。
「見事にあいつらの手綱を握ってるな。この魔性の女め」
「ちょっ!? 何それ! すっごく人聞きが悪い。私はそんな悪女じゃないよ!」
「自覚がない分余計にたちがわりぃ。そういえば、今回の作戦であんな放送をする必要があったのか? ウチの主力選手だし、お前単体でも結構効果があったと思うが」
「だって、代表っていう餌なら絶対に釣れるし、代表は居場所を明確にするルールがあるからにしむーも場所が分かりやすいでしょう?」
「奴なら何の情報もなしにたどり着きそうだがな。それより、自然にしすぎていて気づかなかったが、お前はいつまで俺の手を握っているんだ?」
「ん? あぁ、ごめん。作戦に集中しすぎていて気づかなかった。今手を放すよっ!?」
もっちーと話している途中に視線を感じて廊下のほうに急いで視線を向けます。すると扉から身を翻している黒髪に日本人形のように整った顔立ちの人物が一瞬目に止まります。
「どうした、夏樹?」
「あれって、霧島さん?」
「んぁ? 翔子がどうかしたんだ?」
「なんか視線を感じてね。でも、まさかね。あんな目で霧島さんに見られる覚えが無いし。っと、ごめんごめん。手だったよね」
本当にありえないですよね。霧島さんが私のことをあんなライバルを見るような目で見るなんて。
その後、私たちは明日の開戦時にもっちーが本陣から始められるように教室に戻りました。そうそう、結局私の服装決定戦は須川君が勝利して、明日のお菓子を渡すときはセーラー服で髪はポニーテールで、渡す口調はツンデレ風っていう私にとっては楽なものになりました。
さて、今回の雄二へのお仕置きはいかがだったでしょうか? みんなの前で振られていないという点では須川君よりましですが、噂の相手は須川君以上にひどいですね。そのため、正しい題名は「代表(を)捨て身(とした)策」であり、括弧の中を意図的に抜きました。ちなみに夏樹は自分が3Cの廊下の前に顔を出したら次の休み時間にテープを流してくれるように新野先輩に頼んでいたのですよ。
それと、今作においては西村先生はアニメ版と同様に全ての教科でフィールドを張ることができます。ちなみに今回の策も「雄二が西村先生に告白するという放送を流させたい」という書きたいシーンを書くために頑張ってつじつまを合わせることで生まれました。
以前の投稿では夏樹の服装決定権を勝ち取った生徒の名前は出していなかったのですが、ここでの感想で須川君のあまりの惨状に嘆いてくださった方がいたので、彼の望む服装で彼にお菓子が手渡されることとなりました。
とりあえず、これでBクラス戦の前半は終り、次からはCクラスでの対決となります。今後もどうぞよろしくお願いします。