それでは、件の春華も出てくる本編が始まります。
CクラスでBクラスの罠を回避した後は特にやることも無いので皆すぐに帰宅しました。そして、私は我が家(世帯主=春華)でくつろいでいます。さて、夕食後に忘れずにお菓子を作らないといけませんよね。何を作りましょうか? そういえば、折角お菓子を作るんだからFクラスの皆だけっていう手もないよね。それならば、
「あっ、ねえさん。明日のお弁当のデザート代わりにお菓子を作ろうと思うんだけど、何かリクエストある? 明日の夕飯の買い出しのときに一緒に材料を買ってきたいからさ」
明日のねえさんのお弁当にもお菓子を入れてあげようと思って、春華がキッチンで料理をしている間に材料を買ってくるために携帯でねえさんに連絡をとりました。
『あら、珍しいわね。いつもはフルーツとかなのに』
「うん、明日学校に作って行かなくちゃいけなくなってね。だったら、ついでにねえさんのお弁当にも入れようかなって」
『夏樹のお菓子はおいしいから嬉しいわ。そうねぇー、何がいいかしら』
「あぁー、もうちょっと考えてていいよ。春華にも聞くことあるから」
私は姉さんにそういうと台所にいる春華に声をかけた。
「ねぇー、春華ぁー。今日の晩御飯って何? あと、できれば明後日のおかずも知りたいんだけど」
「はっはっは、夏樹は食い意地がはっているなぁ。もう二日後の晩御飯の心配をするとは」
「んな訳ないでしょ。明日のおかずを考えるからなるべくあんたのとかぶらないようにしたいだけ」
まったく。この男は妹のことをどんな風に認識しているんでしょうか。
「今日はタコのカルパッチョで、明後日はぁー、そうだな。冷しゃぶにでもするか」
「ずいぶん手抜きだね。ウチじゃあ料理の上手さだけしか存在意義がないのに」
「あぁ、妹の愛が痛い」
「いや、そうではなくてだね。最近あやめが体重のことを気にしているようだからヘルシーメニューで行こうと」
「へぇー、そうだったんだぁ。じゃあ、私もそれに倣って明日は豆腐ハンバーグで、その次は煮魚でも作ろうかな」
「あぁ、分かってるとは思うが、私とお前の分は多くよそうようにしておけよ。無論、私もそうするつもりだからな」
『あんたたち、言っとくけどさっきからの会話全部聞こえているからね? 人の気にしていることを散々弄って。二人とも覚悟しときなさいよ』
春華と二人でこれからの献立について話していると地獄の底から響いてくるような声が電話口から聞こえてきた。やばい! 春華はともかく私までからかっていると勘違いされてる。
「ね、ねえさん、ごめんなさい。別にそんなつもりじゃなくて純粋にねえさんの役に立ちたくて」
『それは分かっているつもりなんだけど、体重管理とか全然気にしないあんたら兄妹に心配されると、上から見られているみたいでなんか癪に障るのよ』
「そ、そんなこと言われても」
『いいわよ、いいわよ。家の中では私だけが気を抜くと太る仲間外れですもんねぇー。やっぱり明日はいつも通りフルーツでいいわ。前に流行ったフルーツ酵素ダイエットよ』
「こ、酵素ダイエットって。それ中年層向けのダイエットでしょ? ねえさん普通に若いんだからそんなの効かないって」
『うぅ、でもお菓子なんか食べたら太るじゃない』
「そういえば夏樹。確かあやめの帰り道にあるスーパーで小豆とイチゴが安売りしているぞ」
「じゃあ、ねえさん。明日のお菓子はイチゴ大福にするから帰り道で小豆とイチゴと、あとは白玉粉買ってきてよ。砂糖控えめでイチゴで甘さを出すようにするから結構カロリー低くできるし」
『ま、まあ、和菓子ならカロリーが低いし? 夏樹のは特に美味しいからいいけど』
「じゃあ、ついでに豆腐とひじきとレタスと「豚肉も頼む」豚肉と里芋もお願い。言っとくけど豆腐は絹ごしじゃなくて木綿だからね。それと、豚肉は細切れとか切り落としとかの安い奴でいいよ。……こう言っとかないとねえさん適当に買ってくるんだから」
『そ、そのくらいは言われなくても大丈夫だったわよ……たぶん』
「薄口醤油の方が濃口醤油より薄味だと勘違いした人が言っても説得力はありません」
『うっ、でも、今回はちゃんと確認を取ったから大丈夫!』
「はいはい、期待して待ってます」
『見てなさいよ! ちゃんと間違えずに買ってきてやるんだから!』
「……ねえさん。そんなの言うのは初めてのお使いのレベルだよ」
そう言って電話を切ったけど、凄く不安だな。こんな不安を感じたくなくていつもは私か春華が買い物に行ってるんだけど、安売りしているスーパーはかなり遠くにある。それでもただ行くだけならそれほど苦にならないのだが、買い物袋を持って帰ってくるのはきついし、ウチにある唯一の車にはねえさんが乗っている。
ねえさんとの電話が終わるとそれを見計らったかのように布巾で手を拭きながら台所から春華がリビングに入ってきました。
「夏樹。折角小豆と白玉粉があるんだから善哉でも作らないか? 明日の晩飯のときのデザートにできるだろ」
「別に作るのはそんなに手間じゃないから構わないけどさ。でも、本音は?」
「多めに作っておけば昼間私が食べられるじゃないか」
「甘いものが食べたいんならお椀に片栗粉と砂糖入れといてあげるから、勝手にお湯入れて葛湯でも飲んでなよ」
「あぁ、愛が感じられないぞ、妹よ」
「安心してよ。ここ数年あんたに愛情を向けたことはないから」
調子に乗って注文してきた春華に冷たく言い放つと春華は棚の上の写真立てを手に取り、それに話しかけた。
「父さん、母さん、すまない。どうやら私はあの子の育て方を間違えてしまったようだ」
「分かってると思うけど、私を育てたのはばあちゃんだからね。何をあたかも自分が育てたかのように言ってるのさ。それと、仮に私の性格が歪んだんだとしたらあんたが変にかまってたからだよ」
「あぁ、昔は素直な可愛い子だったのに。そう、尊敬する人の作文で尊敬する人にお兄ちゃんを選ぶくらいに」
「そこ、勝手に記憶を捏造しない。私が尊敬する人の作文で選んだのは小学校のときがばあちゃんで、中学校のときはねえさんだよ」
「はぁ、ずいぶんと私とあやめとで扱いに差があるじゃないか。お兄ちゃんは悲しいぞ」
「対偶良くしてほしいなら、ねえさんみたいに外出て働いてきなよ。27の男が一日中家の中だなんて情けない」
まったく、いい歳した大人がほとんど一日中家の中にいるなんて恥ずかしくてしょうがない。
「待つんだ、夏樹! 人をニートみたいに言うんじゃない。私はしっかりと家に生活費を入れてるじゃないか」
「デイトレででしょ?」
「デイトレだって立派な仕事じゃないか」
「……別にデイトレになるのが悪いとまでは言わないけど、私は好きじゃないんだよ。なんか真面目にやっている人をバカにしているみたいで」
正直デイトレで稼いでいる人には失礼だとは思うけど、私はどうしてもデイトレというスタイルが好きになれない。だから、身内である春華がそれで稼いでいるのを見ているとモヤモヤする。まあ、これは私のわがままだから春華に無理強いするつもりはないけどね? それに、どうせ春華の性格は元から悪いからデイトレ以外の職業でもねえさんよりはぞんざいな扱いになってるだろうし。そんなことを考えていたが少し違和感を感じる。普段の春樹ならもっといろいろとからかいを入れてくるはずなのに。そう思って春華のほうを見ていると、なにやら真剣な顔をしている。……ちょっと、言い過ぎたかな。
「あぁ、ごめん、ちょっと言い過ぎた。仕事は個人の自由なんだし流石にデイトレのことまでどうこう言うべきじゃなかった」
「学校でなにかあったのか?」
はぁ、コイツは何でこういうことには鋭いんだろう。
「ん、ちょっとね。皆の尻拭いとかでやることが少し多くてイライラしてただけ。イライラをぶつけてごめん」
「なんだ、そんなことだったのか。てっきりコスプレ好きの友達や性に奔放な友達、BL好きの友達とかができて可愛くあたふたしていると思ったんだが、実に残念だ」
「……一瞬でもあんたのことを見直した私がバカだったよ」
はぁ、最近家でも学校でも疲れるな。……明日は少しでも穏やかな一日になるといいんだけど。
だけど、そんな私のささやかな願いは無慈悲にも打ち崩されるのでした。
ども、日常話はお楽しみいただけたでしょうか? 盛り上がりに欠けてつまらなくはなかったか心配です。ちなみに今回出たように夏樹と春華は10歳差という年の離れた兄妹です。夏樹は小学校卒業と同時に大学生やってた春華のところに転がりこみました、というか春華が引っ張ってきました。家族に振り回されるのは他のバカテスキャラと変わりませんが、年下の夏樹が基本的に同等か上の立場でいるのはバカテスキャラでは異端かも知れませんね。
次からはBクラス戦の後半になります。次回もどうぞよろしくお願いします。