バカとテストと右脳娘   作:シュレ猫

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さて、今回は約束通り夏樹は保健室に行っていますのでほとんど出番はなく、主観も明久のものとなっています。今回も少し短いかも知れませんが、お楽しみいただけたら幸いです。

それでは、本編が始まります。


第二十二話:欺け! Cクラス

 

「じゃあ、私たちはちょっとだけ抜けるね。もっちーの分は教卓のところに置いておくから時間がある時にでも食べてよ」

 

 昨日雄二に伝えたとおり夏樹は何人かの男子を引き連れて保健室へと向かっていった。なんでもコスプレを逃れるのは大変だけど、写真撮影の取り締まりを手伝ってもらうにはこれ以上ない人がいるらしい。それにしても夏樹のお菓子か、なんて羨ましいんだ。僕なんて砂糖以外の甘味なんて滅多に食べられないのに。

 

「よし、昨日言っていた作戦を実行する」

 

 夏樹が教室を出たのを見計らって雄二がそう告げた。

 

「作戦? でも、開戦時刻はまだだよ?」

 

 開戦時刻は九時なのに対して今はまだ八時半前だ。そもそも、開戦に時間があるから夏樹が抜けても平気って言ってたのに。

 

「Bクラス相手じゃない。Cクラスの方だ」

「あ、なるほど。でも、夏樹はいなくていいの?」

「ああ、夏樹は性格上反対しかねないからな」

「まあ、夏樹は真面目だもんね。それで何をすんの?」

「秀吉にこれを着てもらう」

 

 そう言って雄二が取り出したのはうちの学校の女子の制服。……どうやってそんなものを手に入れたんだろう。雄二、君に一体何があったんだい?

 

「それは別に構わんが、ワシが女装してどうするんじゃ?」

 

 いや、秀吉。そこは男として構おうよ。普段は散々自分は男だって行っているんだから。まあ、秀吉が女子の制服が似合うのは否定しないけどね。もし、そんな服を着たらますます女の子らしくなって、Aクラスにいる双子の姉と見分けがつかなく――

 

「秀吉には木下優子として、Aクラスの使者を装ってもらう」

 

 なるほど、それが狙いか。

 

 夏樹が言うには違いは一目両全らしいけど、それは夏樹の観察眼がおかしいのであって、一般人の目から見れば秀吉とその姉である木下優子さんは一卵性双生児かと思うほどに良く似ている。だから、彼女に化けてAクラスとして圧力をかけるということか。

 

「と、いうわけで秀吉。用意してくれ」

「う、うむ……」

 

 雄二から制服を受け取り、その場で生着替えを始める秀吉。

 

 なんなんだろうこの胸のときめきは。相手は男なのに目が離せない!

 

「…………(パシャパシャパシャパシャ!)」

 

 ムッツリーニは指が擦り切れるんじゃないかというくらいに凄い速さでカメラのシャッターを切っている。

 

 良かった。ときめいているのは僕だけじゃないみたいだ。

 

「よし、着替え終わったぞい。ん? 皆どうした?」

 

 きっと僕らは皆とても複雑な表情をしていることだろう。

 

「さぁな? 俺にもよくわからん」

「おかしいな連中じゃのう」

 

 いや、絶対におかしいのは秀吉の外見だって! どうしてそんなに色っぽいんだよ! まあ、こんな光景を見れたなら夏樹のお菓子を食べ損ねた埋め合わせにはなったかもしれないね。

 

「んじゃ、Cクラスに行くぞ」

「うむ」

 

 雄二が秀吉を連れて教室を出て行く。

 

「あ、僕も行くよ」

 

 その後を慌てて追いかける。

 

 Cクラスの前で僕と雄二は物陰に隠れて、秀吉の様子を伺うことにした。Aクラスの木下優子さんと僕たちが一緒にいるはずがないからね。それにしても、秀吉はあんまり乗り気じゃなかったけど、大丈夫だろうか? 今も気の重そうな表情をしていて不安になる。

 

「心配だなぁ」

「シッ。秀吉が教室に入るぞ」

 

 雄二が口に指を当てる。ここからは声は聞こえたりしないだろうけど、念の為指示に従うことにした。

 

 秀吉がCクラスの扉を開ける音が聞こえてくる。

 

『静かになさい、この薄汚い豚ども!』

 

 ……うわぁ。

 

「流石だな、秀吉」

「これ以上ない挑発だね……」

 

 もう何も言わなくてもCクラスの敵意はAクラスに向かっているんじゃないだろうか?

 

『な、何よアンタ!』

『話しかけないで! 豚臭いわ!』

 

 今の高い声は昨日会った代表の小山さんだろう。怒っているのが顔を見ないでも分かる。でも、それに対する秀吉の返答。……自分から来たのに、ツッコミどころが多すぎだよ。

 

『アンタ、Aクラスの木下ね? ちょっと点数良いからっていい気になってるんじゃないわよ! 何の用よ!』

『私はね、こんな臭くて醜い教室が同じ校内にあるなんて我慢ならないの! 貴女達なんて豚小屋で十分だわ!』

『なっ! 言うに事欠いて私達にはFクラスがお似合いですって!?』

 

 ちょっと待つんだ、小山さん! 別にFクラスとは言ってないぞ!?

 

『手が穢れてしまうから本当は嫌だけど、特別に今回は貴女達を相応しい教室に送ってあげようかと思うの』

 

 演劇部ってここまでできないとダメなのかな。それともうちの学校が異常なのかな。

 

『ちょうど試召戦争の準備もしているようだし、覚悟しておきなさい。近いうちに私たちが薄汚い貴女達を始末してあげるから』

 

 そう言い残し、靴音をたてながら秀吉は教室を出てきた。

 

「これで良かったかのう?」

 

 スッキリした顔で秀吉が近寄ってくる。

 

「ああ、素晴らしい仕事だった」

「Fクラスなんて相手にしてられないわ! Aクラス戦の準備を始めるわよ!」

 

 Cクラスから小山さんのヒステリックな叫び声が聞こえてくる。どうやらうまくいったようだ。……でも、なんだろうこの罪悪感は。

 

「作戦もうまくいったことだし、俺達もBクラス戦の準備を始めるぞ」

「うむ、ワシは着替えがあるから先に戻っておるぞい」

 

 そう言って、秀吉は足早に教室に戻っていった。僕達ものんびりしている暇はない。あと十分で今日の試召戦争が始まる。あっ、そういえば。

 

「ねぇ、雄二。夏樹も今日の作戦の要なんだよね?」

「あぁ、今回こそは数学でしっかり点を取ってもらって、夏樹と姫路の二枚看板で突破したいからな」

「じゃあさ、Dクラスを使った作戦のこと話さなくていいの?」

「下手すると、あいつ激怒しかねんからな。話さないでやっちまったほうが戦争としてのダメージは少ないかも知れん」

「そうだよね。夏樹が室外機を壊すなんて作戦に賛成するはずないし」

 

 後になって思えば、このときの僕たちは秀吉の作戦がうまくいったせいで浮かれすぎていたんだろう。小声とはいえ、そして渡り廊下を半分以上過ぎたとはいえ、こんなに大事な内容を廊下なんていう誰でも聞けるところで話すなんて。そして、その軽率な会話はある意味教師以上に聞かれてはならない人物に聞かれてしまった。

 

「……ねぇ、それって一体どういうことなの」

 

 静かな、それでいて不思議な力強さのある声が僕たちの後ろから投げかけられる。僕たちはその正体を理解しながらも、外れて欲しいと願いながら振り向いた。

 

「まさか、Dクラスとの設備入れ替えの代わりにそんな条件を押し付けたの?」

 

 そこには最もそこにいて欲しくなかった人物――神谷夏樹がいた。

 

 突然の事態に困惑して何も返せない僕たちに構うことなく夏樹は追及を続ける。

 

「Bクラスを教室に押し込めろとかって作戦はそのための作戦なの!? 何とか言ってよ、明久!」

「そ、それは……」

 

 あだ名を使わない夏樹の本気の訴えに思わずたじろいでしまう。夏樹は昨日みたいな演技で呼び捨てにすることはあっても通常状態であだ名を使わないことは滅多にない。あだ名をやめるのは何かしらで本気になっているときだけだ。つまり、予想できたことだが今回は相当怒っているんだろう。僕が何も言えないでいると、代わりに雄二が口を開いた。

 

「そうだ。Dクラスには俺の指示したタイミングでエアコンの室外機を壊すことを条件に設備交換を行わないことにした」

「何で!? 何でそんなことが必要なのさ!!」

「Fクラスの勝利のためだ。この作戦以外にBクラスに勝つ方法はない」

「ふざけんな!! そんな方法で勝って。それじゃあ、教室の設備を壊したBクラスとどこが違うのさ! そんなんでFクラスの勝利だって胸を張って言えるの!?」

「なんと言われようと、これがベストな作戦だ」

 

 激昂してほとんど叫ぶように食って掛かる夏樹に対して、雄二は淡々と自分の考えを述べている。

 

「ねえ。明久、ううん。他の皆もこの作戦に賛成なの!?」

「えっ!? あ、ま、まあ、反対している人はいないかな」

 

 突然向けられた矛先に対して、慌てながらもしっかりと回答した。

 

「……もういい」

 

 僕の答えを聞くやいなや、夏樹はうつむき、本当に小さな声を零した。

 

「な、夏樹?」

「もういいよ。皆の意見は分かった。私以外の全員が賛成しているならこれはFクラスの総意だし、私には何も言えない。でも、私はこんな作戦をするのに協力なんてできない」

「おい、夏樹!」

「……我がまま言ってごめん。でも、もう無理だよ。私はもうこの試召戦争で戦わない。ううん、戦えない。私は抜けちゃうけど、がんばってね。二人とも」

 

 夏樹はそう言うと、顔をうつむけたまま歩き出し、僕たちの顔を見ることなくFクラスの方へと向かっていった。

 

 ど、どうしよう。雄二はどうやって夏樹を説得するか考えているみたいだけど、夏樹は意外に頑固な性格をしているから、本気で怒った以上少なくともBクラス戦で夏樹が戦うことは天地がひっくり返っても起こらない。

 

 今までずっとうまくいっていたのに、こんなところで夏樹が降りちゃうなんて。この戦争はこの先、一体どうなっちゃうんだろう。……いや、弱気になっちゃダメだ。ここは夏樹が抜けても気にしないってくらいの気持ちで戦わなくちゃ。

 

 僕はいまだに夏樹の説得法を考えて無駄な時間を過ごしている雄二を現実に引き戻し、新しい布陣を考えさせた。なんとしても、夏樹抜きで勝利しなくちゃ!

 




さて、今回は急展開が起こりました。それは夏樹の戦争放棄。原作で十分に勝てたので夏樹の力がなくても勝てるでしょうが、始めから戦争に参加しないオリ主はいますが、戦争の途中で降りるオリ主はおそらく夏樹が初めてなのではないでしょうか? 

次回は完全オリジナル。しかも、前話のように戦争に関わらない日常話ではなく、戦争や今後の展開に大きく関わるお話となっています。更に、タグにもある独自解釈が入るのでまさにシュレ猫の腕の見せ所の回となっています。

そんな次話は朝に更新したいと思います。どうぞ、この作品に末長くお付き合いいただけますと嬉しいです。
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