それでは本編始まります。
あの後、ギリギリFクラスに着く前に追いついたもっちーに戦争に出ない理由を体調不良で通すようにして欲しいと懇願された。今までクラスの核として戦争に参加してきた私が離反するとなると士気が大きく下がるからだろう。その点、体調不良ということにしておけば、それほど士気が下がることはない。それに、もっちーが言うには私に無理をさせないようにがんばることでいい格好をしようとむしろ士気が上がる可能性があるらしい。まあ、自分の我がままで戦争に大きな不利益を与えるんだから、その程度のことには従おうと思う。
そのため、私はクラスの皆の前に顔を出すわけにはいかず、隣の空き教室で一人待機していました。一応壊れかけとはいえ卓袱台が何台かあったのでそのうちの一台の前に座り、頬杖を着いて外の景色を眺めています。数日前までは満開だった桜の木もちらりほらりとその花を散らしています。たくさんの木から雪のように舞い散る桜吹雪はとても綺麗でしたけど、何かを暗示しているようでそれ以上見ていることができずに、最近買った小説を開きます。
読書にもあまり身が入らず、40分近くたっているのに30ページも進みません。戦争が始まって少し経ちましたけど、戦況は一体どうなっているんでしょうか。本当に、なんでこうなっちゃったんでしょう。私は本をたたんで表紙を眺め、ため息をつきます。小説の内容はジャンヌ・ダルクのような女将軍が弱小軍隊を率いて強国に立ち向かう中世チックなファンタジー。……私はただこんな風に皆で力を合わせて頑張りたかったのになぁ。
私がそんなことを考えていると誰かが教室に入ってくる気配がします。それに気づいて視線を向けると、そこにはもっちーの姿が。そして、もっちーは適当な卓袱台を私の近くに置き、それに腰掛けます(行儀が悪いな)。ですが、正直顔を合わせにくい私は顔を彼とは逆の方向に向け、小説を床に置いて卓袱台に突っ伏します。
「はぁ、子供っぽいからそんな風に拗ねるなよ」
もっちーがため息をつき、呆れたように話しかけてきます。
「別に拗ねてないですぅー。ただ眠いだけですぅー」
「……まじで子供じゃねぇか」
不機嫌丸出しの私の返答にもっちーは更に呆れたようです。
「確かに卑怯な作戦だし、お前に黙っていたことは本当に悪かったとは思う。だが、俺たちが勝つにはこの方法しかないんだ。そこだけは分かってくれ」
「ねぇ、そんなにこの戦争で勝つのが大事?」
「はぁ?」
さっきの取引を聞いてからずっと考えていたことを彼に投げかけます。
「何を当たり前なことを――」
「そもそも、あんたは何のためにこの戦争をしてるの?」
「それは始業式の時に話しただろう」
確かにあの時に彼の言葉は聞いた。でも、私は納得できない。いや、今日のことでできなくなった。
「明久はさ、まだ分かるんだよ。あいつって良くも悪くもバカだからその瞬間の目の前しか見えないんだよね」
「まあ、あいつがバカなのは否定せんが」
「バカだから目の前の困っている人を自分の全力で助けようとできるし、バカだから誰かを助けようと思ったらそれだけに集中してそれしか見えない。でもさ、自分がその人を助ける過程で傷ついていく人がいるのが、自分と同じ理由で戦っている人の姿が見えてないんだよ」
「夏樹、それは……」
「分かってる。そんなバカなところが長所でもあるから親友でいるんだし、悲しいけど誰かの利益は誰かの不利益っていう摂理も理解してるからあいつのことを否定するつもりはないよ」
「あのバカと違って意外に現実主義だな」
「でもさ、あんたは別。あんたってこの戦争で一体何をしたいのかが見えてこないんだよね」
私の言葉にもっちーが訝しげな表情を浮かべる。顔を背けているので実際に見たわけではないが、雰囲気でなんとなく分かる。
「だから言っただろ? この世の中が学力だけがすべてじゃないって証明したいって」
「うん。だからあの時はあんたの気持ちが分かったと勘違いしてたし、そのせいで戦争内容も勘違いしてこんなことになっちゃった」
「勘違いだと?」
「そう、勘違い。私はてっきり……なんて言うかな、とっさのひらめきとか作戦を考える軍師的な思考とか、団結力を発揮すれば学力が劣ってても勝てるっていうことを証明して、勉強だけやって頭でっかちになることがすべてじゃない、もっといろんな能力が社会には必要なんだって示したいんだと思ってた」
「別にそれで間違いじゃないが」
「でもさ、蓋を開けてみたらDクラス戦の決着は結局ひめひめの学力頼み。そして、今やってるBクラス戦では卑怯な戦法で戦って勝つつもりでしょ? そんなんじゃ、周りの人にはひめひめの学力の高さとFクラスの卑怯さしか伝わらないじゃない。その後は、結局学力のない奴は学力の高い人に頼るしかないし、学力がないから卑怯な手に頼らざるを得ないって思われるだけ。これでどうやって学力が全てじゃないって証明するの?」
「だが、それでも俺は」
もっちーは私の言葉になおも食い下がってくる。だったら、もう直球で行く。
「ねぇ、坂本。あんたはさ、本当は誰を倒したいの?」
「何をおかしなことを言っているんだ。そんなのはAクラスの連中に決まっているだろう」
「わたしはそれはただの代替行為だと思ってる。あんたは本当はさ、自分自身を殴りたいんじゃないの? ……ううん。ちょっと、違うかな。より正確に言うなら過去のあんたをぶん殴りたいんでしょ?」
「っ!? ……言っている意味が分からん。そんな的外れな予想はお前らしくないな」
私の言葉に一瞬動揺するが、すぐに取り繕うような答えを返してくる。やっぱりそうか。
「元神童。その後は悪鬼羅刹。一体神童時代に何があったんだろうね」
「……やめろ」
もっちーは顔を俯かせて、静かな、しかし力強い声でつぶやいた。
「ウチの兄貴もさ、ガキの頃は神童って呼ばれてたんだ。いや、今だってその能力は健在だよ。だから、私も神童ってもてはやされている人間がどんなものなのかは理解してる」
「……やめろって言ってんだろ」
もっちーのつぶやきが大きくなる。だけど、やめてなんかやるもんか。
「兄貴はさ、今でこそ道化みたいにバカやって人当たりのいい性格してるけど、昔は自分は何でもできるって神様気取りで、実際にほとんどのことはちょっとやったらできるようになってたんだ。でも、本当は誰よりも孤独で誰よりも弱かった」
「いい加減にしろっ!!」
もっちーは私の胸倉をつかみ上げ、無理やり立ち上がらせる。私は女子としては長身の方だけど、もっちーは男子としてかなり背の高い男なので、胸倉をつかまれたことで私は強制的に上を向かされてしまう。
「勝手にてめぇの兄貴と俺を一緒にしてんじゃねぇよ!」
「そして、私もそうだけど、本人が一番そのときの自分を嫌ってる。あんたも神童って呼ばれてたときの自分が大嫌いなんじゃないの? だから本当はその時の自分を殴りたいけど、そんなことはできないから学力によって優遇されているAクラスを倒すことで神童だったときの自分を超えたいと思ってる」
だけど、私はそんな虚勢に怯む事なく淡々と言い返す。
「的外れな推測をあたかも事実みたいに言ってんじゃねぇ!」
「じゃあ、間違っててもいいよ。間違っているのを承知でアドバイスしてあげる。今のあんたがAクラスに勝っても虚しくなるだけだよ」
「てんで役にたたねぇ話だが、一応言っておく。無駄な忠告ありがとうよ」
もっちーは凄みをきかせて睨み付けてくるが、そんな顔をされても全然怖くない。
「だってAクラスの皆は努力してあの位置に立っているだけで、何でもできる神童じゃない。そんなのは神童って呼ばれてたあんただったらとっくに分かっているんでしょ。ちがう、神童じゃなくてもあんたが一番知ってるはずだよ。それとも、Aクラス代表の霧島さんは学力が全てって考えている人なの!」
「な、なんでそこで翔子が出てくんだよ!」
「良く知ってるんでしょ? 二人の関係性は幼馴染ってとこかな?」
「一体どんな根拠がある」
「最初にアレって思ったのは昨日だよ」
「あぁ? 昨日だと?」
そうして、私は自分なりの推理を語る。
「昨日、私が霧島さんを見かけたって言ったときに今みたいに『翔子』って呼んだじゃない。あんたが名前を呼び捨てにして、しかもそれが女子だとするとかなり近い間柄ってことでしょ? 実際去年のクラスメイトでも女子を名前で呼んだのは私だけじゃない。それも私とは明久みたいな付き合い方をしてたからそうなったわけでしょ。でも、霧島さんはそんなタイプだとは思えない。っていうことは昔からの知り合いってことだと思ったんだよ」
「確かにそうだよ。こんなのは別に隠すわけじゃねぇから言うが、俺と翔子は幼馴染だ」
「それで? あんたが見てきた霧島さんは学力が高いことを鼻にかけるような小さい人なの!」
「ふざけんな! あいつはそんな女じゃねぇよ!」
「だったら!!」
激昂して怒鳴ってきたもっちーに負けないように、今日一番の大声を出して黙らせる。
「だったら、あんたはそんなバカにされて激昂するような大事な幼馴染をそんな卑怯な方法で倒して満足なの!? 本当に後悔しないの!?」
「……するわけねぇだろ。俺はなんとしても学力が全てじゃねぇって証明するんだよ」
そう言うと、胸倉をつかんでいた手を乱暴に離し、背を向けて歩き出す。
「まだ、話は終わってないよ」
「知るか。そんな的外れなアドバイス」
「今度のはアドバイスじゃなくて忠告。人はなにかをなそうと思ったらそれに見合う努力をしないといけないんだよ。私は別に努力が全て報われるなんて甘いことは考えてないけど、努力もなしに何かを手に入れるなんてできないし、仮にできたとしたらそれは何か間違っているんだと思う」
「……それで」
もっちーは振り向くことなく続きを促す。
「だから、私は精一杯努力をして立派に咲けた人を大した努力もなしに潰すなんて許せない。そんなことになったら、私はあんたを一生軽蔑すると思う」
「……一騎打ちに臨むに当たってしっかりと復習しておく。これでいいだろう」
「……あんたがそれでいいならいいよ。でも、あんたが戦争が終わった後に後悔しないことを祈ってる。それと、できればこの戦争が終わった後も友達でいられたらとも」
もっちーも私と同じでかなりの頑固者だ。だから、自分の意見をなかなか変えることができないんだろう。でも、もしもこの戦争でAクラスに勝ったりしたら彼は絶対後悔する。願わくば、彼が戦争が終わる前に自分と向き合えますように。私は去っていく彼の背中を見ながら友達として本心から願った。
今回は雄二の戦争の理由について自分なりに解釈してみました。この問題はバカテスの物語の根幹を担うものなので賛否両論……反論がたくさんあると思いますが、そう言った方の意見もぜひ聴きたいですね。(意訳:ここからかなり独自の物語になるから感想や評価が欲しいなぁ)
ここで夏樹が雄二とトラブりましたが、夏樹も雄二も意思が強く、我が強いキャラなので一度揉めると簡単には修復できません。まだ今回はお互い熱くなっての売り言葉に買い言葉なので修復の可能性はありますが。あと、夏樹は戦争に姫路を使ったことに言及していますが、これは卑怯な戦法と合わせたからの文句で、それがなければ妥当な手段だと考えていますよ。
上の意訳は冗談ですが、感想が頂けると作者は感動して意欲が向上するかもしれないのは事実です。まあ、何にせよ、次のお話でもよろしくお願いします。