バカとテストと右脳娘   作:シュレ猫

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どうも、予告通り執筆中のものがそこそこ進んだので(1話あたり4000字以上目標の内、2000字超え)予約投稿へと踏み切りました。今回こそ今まで焦らしてきた山場の一つです。ちなみに今回は明久主観の物語となっています。あまり語ってネタばれになっては仕方ないのでさっさと本文にしましょう。

それでは、お楽しみください!


第二十七話:大切な物≒くだらない物?

 教室で夏樹の指導が終わるのを待っていた僕は5時50分になったのを確認したところで夏樹と自分の鞄を持って補習室の前に行くことにした。うぅ、どうしよう。鉄人と別れてからずっと何を話そうか考えていたんだけど、何も思い浮かばないよ。そうやって補習室の前で思い悩んでいると短針と一直線の形を作っていた時計の長針は右へとわずかに角度をずらした。

 

ガラッ

 

「……本当にすみませんでした」

 

 それと同時に補習室から出てきた夏樹は補習室に向き直り、深々と頭を下げた。

 

「夏樹!」

「……ン」

 

 僕は夏樹に呼びかけるが、夏樹はそんな声が聞こえていないかのように緩慢に振り返ると顔を俯けたままボソリと呟く。

 

「えっ?」

「……私のカバン」

「あ、あぁ。……いや。途中まで僕が持つよ」

「ん」

 

 鞄を渡すように促す夏樹だったが、お詫び代わりの一つとして途中まで持つつもりでいたからそのことを告げる。しかし、夏樹はそれに対してお礼を言うでもなく、本当に理解の意でしかない言葉を放つと黙々と歩き出した。呆気にとられた僕だったが、すぐに現実に帰ってくると、僕のことを意に介さず歩き続けている夏樹を慌てて追いかけた。

 

 その後も僕たちは一言も発することなく帰路を歩き続けた。二人の間の空気はとてつもなく重い。その空気のあまりの重さに、僕はすぐに謝るつもりだったのにも関わらず、謝罪の言葉を口にすることすら(はばか)られた。ここまで怒った夏樹は初めて見る。今の夏樹に比べれば昼間のなんてちょっと機嫌が悪かったってレベルだよ。うぅ、そんなに怒るなら肩代わりなんてしなければよかったじゃないか。……別に僕が頼んだんじゃないのに。

 

 そんな気まずい時間も終わりが近づいてきた。この公園を横切れば僕と夏樹の帰り道が分かれる。未だに夏樹とどんなことを話せばいいかは思いつかないけど、とりあえず謝罪だけはしっかりとしよう。夏樹が罰せられたのは悲しいが、頼んでいないとはいえ夏樹が僕を助けてくれようとした気持ちが嬉しかったのは本当のことだし。そう決心すると僕は足を速めて夏樹の前に躍り出る。そして、出来るだけ朗らかな笑顔を作って鞄を手渡した。

 

「はい、鞄!」

「……ありがと」

 

 夏樹は睨み付けるように僕を見ながら、鞄を受け取った。

 

さあ、言うぞ! 僕はこんなときに何を言っていいのか分からないバカだけど、バカはバカらしくこの言葉に全部の気持ちを込めるんだ。

 

「それと、ほんっとーにゴメン!」

「……」

 

 腰を90度近くまで曲げて頭を下げたけど、夏樹は依然として冷たい目つきのままだ。こ、これはかなり気まずい。

 

「えっと、な、夏樹?」

「……それだけ?」

「えっ?」

「言いたいことはそれだけなのかって聞いてるの」

「あー、何か話すべきなんだろうけど、夏樹も知ってのとおり僕はバカだから何を言っていいのか分からないんだよね」

「だったら、バカでも分かりやすいように質問を変える。そのゴメンは何に対してのゴメンなの?」

「えーっと、今回庇ってくれたことに対する謝罪と、その……いつも助けられている申し訳のなさかな」

「それ以外には何も感じていないんだ」

「あー、そうだよね、ゴメン。お礼を言うのを忘れてた。今回は助けてくれてありがと」

「……それ以外」

 

 僕の返答が意に沿わないものだったようで夏樹は何度も質問してきたが、僕は戸惑いながらも一つずつ答えていく。

 

「え、今回庇ってくれた謝罪と感謝以外のこと? う、うん。特には思い当たらないけど」

 

パァーン!

 

 そんな音と共に僕は強制的に右を向かされた。少し遅れて左頬がジンジンとした痛みを訴え、熱を持ってくる。

 

「ったいな! 何すんだ――」

「ふざけないで! そこはもうこんなバカは二度としないとかいうところでしょ! 私がどれだけ心配したと思ってんの!」

 

頬を張られたことに気づき、文句を言おうと正面に視線を戻して怒鳴りつけようとすると、そこには大粒の涙を流しながら右手を振りぬいた夏樹がいた。

 

「……本当に、本当に心配したんだよ」

 

 そして、再びうつむくと涙を拭うこともなく、搾り出すような声を出した。

 

「え、あ、そ、その……」

「……あんな風に壁を壊すなんて、一発で停学とか退学になってもおかしくないんだよ」

「だ、大丈夫だよ。夏樹が庇ってくれる前も指導で終わりだったんだから」

「そんなのは結果論でしょ! あんたはちょっとは自分の危険も考えろ! なんであんな無茶したの!」

 

 夏樹は能天気な答えを返した僕の胸倉をつかみ上げ、怒鳴りつけてきた。あまりの剣幕に咄嗟に全て話してしまいそうになった。だけど言えない。姫路さんのことは夏樹にだって知られるわけにはいけない。

 

「えっと、ほら。ずっとバカバカって言われてからかわれてたから、ここで活躍して――」

「嘘。いくらあんたがバカでもそんな理由であんなことをするはずがないよ。本当は姫路さんのためなんでしょ」

「ち、違うよ。何を根拠にそんなこと言ってるのさ」

「じゃあ、姫路さんが戦争に参加してなかった理由を教えてよ」

「み、見てたの」

「トイレに行った帰りに偶々姫路さんが戦場から離れているのをね」

「えーっと、その、ほら、ね?」

「ちなみに体調不良は却下。前例として私が空き教室にいたんだから姫路さんもそこに来るはずでしょ」

 

 まずい。こんなときでも夏樹の頭の回転のよさは健在だ。僕の返答を先回りして封じてくる。しょうがない、当たり障りがない範囲で話そう。

 

「じ、実は、Bクラスが教室を壊したときに姫路さんの大切なものを盗んだみたいで、姫路さんはそれが原因で脅されてたんだ」

「……なんで」

「え?」

「だったら、何で相談してくれなかったの!? 私が姫路さんの代わり戦争に出て道を作っても良かったし、他の方法だっていくらでも考えたのに!」

「だ、だって、夏樹は今回の戦争に反対して――」

「私が友達のピンチにそんなくだらないこと言って助けを突っぱねるとでも思ってんの!」

「……そうだよね。本当にごめん。でも、姫路さんは今回のことを知られたくなかったと思うし、僕が覚悟を決めれば解決する問題だったから」

「それで!? もし今回のことで退学になってたらどうするつもりだったのさ!」

「えっと、その……頭に血が上ってて後のことは何も考えてなかった」

「今回は運良く退学にならなかったけど、本当に退学になってたらどうするの! 私はもの凄く悲しいし、なにより姫路さんは自分のせいであんたが退学になったって後悔を一生背負っていくことになってたんだよ!?」

 

 夏樹の言葉を聞いた瞬間、頭を鈍器のようなもので思いっきり叩かれたような衝撃を覚えた。確かにそうだ。姫路さんは僕がラブレターのために行動したことを知っていた。そして、優しい姫路さんのことだ。もし僕が退学にでもなったら、そのことを酷く後悔しただろうし、その責任をとろうとして自分も一緒に辞めかねない。

 

「で、でも、それでも僕は姫路さんがあんな眼にあっているのを見過ごせなかったんだ。だから、僕が怒られるだけで解決するならって」

「何かに集中したときにそれ以外のことを考えないのはあんたの長所だよ。だけど、今回は酷すぎる。あんたは周りの人たちのことを本当に考えてるの? あんたが他人を思いやるように、他の人だって違う誰かを思いやってるんだよ!? 勝手に自分のこと過小評価して、自分のことを心配している奴がいることを忘れんな!」

「……」

「世界中の人間があんたのことを必要ない、大嫌いだって言ったって私はずっとあんたのことが必要だし、大好きだって思ってる。あんたが困ってるなら最大限の力になってあげたいと思う。毎日楽しく笑いあって、時々バカやって、そんな毎日は私にとって宝物なんだよ? だから、そんな毎日を守りたくてあんたが退学にならないように頑張ったりもした。なのに、あんた自身が自分のことをぞんざいに扱って、退学と紙一重のことを何度もしてさ。まるで、私が大事に思っていることなんてあんたにとっては簡単に捨てられるくだらないものみたい」

「夏樹!」

 

 「そんなことはない! 僕だって皆といる毎日が大切だと思っている」そう言いたかったけど、夏樹の顔を見るとどうしてもその言葉が音にならない。ふいに夏樹が胸倉をつかんでいた手を離した。そして、夏樹の言葉で力が抜けていた僕は突然支えを失い、少し後ろに下がった後、しりもちをついた。

 

「……それじゃあ、そんなくだらないものを必死になって守ってる私がバカみたいじゃない」

 

 再びうつむいた夏樹の表情は、下から見上げている状態であるにも関わらず伺うことが出来なかった。

 

「……なんでそうやっていつも大事なときに限って私に何も言ってくれないのさ」

「夏樹には迷惑をかけたくなかったから……」

「迷惑くらい! ……迷惑くらいいくらでもかけてよ。友達じゃない」

「でも、夏樹にはいつも助けられてるしこんなときくらい――」

「そんな時に頼ってこその、お互いに助け合ってこその親友でしょ!」

 

 立ち上がりながら夏樹(しんゆう)に迷惑をかけたくない旨を伝えようとすると、夏樹はその言葉を遮って叫び声を上げる。

 

「……寂しいじゃんか。大事なときに限って信用してくれないなんてさ。本当は親友だと思ってたのは私だけってこと?」

「ち、ちが――」

「そんなに一人で背負うのが好きならずっとそうしてればいいじゃない!」

 

 そう叫ぶとこれで最後だと言わんばかりに僕に背を向けた。だが、僕の方はこれで話が終わりだなんて納得できない。

 

「夏樹!」

 

 だから僕は夏樹に追いすがった。だけど、夏樹は一瞬だけ体の向きを変えると僕の胸を軽く、本当に軽く突き飛ばした。この程度の衝撃では小学生だって止められないだろう。でも、そんな軽い衝撃でも虚を突かれた僕を止めるには十分だった。

 

「……さよなら、吉井君」

 

 夏樹は振り返りざまにそう言って駆け出した。その言葉で楔を打たれたように僕の足は固まったまま動かず、そんな夏樹をただ見ていることしか出来なかった。

 

 壁を壊したフィードバックを受けた右手は未だにズキズキするし、夏樹に張られた頬はジンジンとまだ熱を訴え続けている。でも、そんな痛みよりも本当に軽く押されただけの胸が張り裂けそうに痛かった。

 

「……『さよなら、吉井君(・・・)』かぁ」

 

 ポツリと呟いた言葉はまだ寒い春の夕闇に溶けて消えた。

 




いかがでしたか? 今回のはアレです4巻の美波のとか、7巻の雄二と翔子の話だとかと同じレベルなので、十分1つの巻のメインを張れる山場だと思っています。多分バカテス二次でこんな展開を書いたのは自分くらいだと思うのですが。旧にじファンでもハーメルンでも明久アンチキャラが文句を言うなら兎も角、夏樹みたいな親友ポジのキャラが明久とガチ喧嘩するっていうのは少なくとも自分は見たことがないですね。

実は今回のお話はプロット段階では存在しなかったりします。元々は夏樹が明久をかばうのは同じですが、「あんたが怪我して肉体的に負担を負ったんだから、怒られる精神的な苦痛は私が請け負うよ。だって、ニコイチコンビだからね」ってな感じになる予定でした。でも、1話から書いているうちに「これ、夏樹のキャラじゃないよな?」となり、今の話に変わりました。個人的には変えて良かった展開だと思います。

さて、二人の関係はどうなるのか。……まあ、バカテス原作を読んでれば大体予想はつきそうでも、予想されていても流れで引き込ませるような展開を考えていますのでお楽しみに。

それでは、これからもよろしくお願いします。
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