バカとテストと右脳娘   作:シュレ猫

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どうも、前回のお話で夏樹と明久を大喧嘩させたシュレ猫です。反響が無いのでここでの評価が不安ですね。……まさか、ここで明久と対立するのは受けが悪かったか。夏樹はしっかりしているようでまだ高校生。自分を抑えきれないことがあるって言うのが前話の原因ですね。さて、高校生故の未熟さで喧嘩したならどうすれば良いのか? 昨今のラノベでは排除されがちなモノが鍵となります。

それでは本編をどうぞ!




第二十八話:よい便りを待っています

 吉井君と別れた私は家に帰る前に一旦マンションの屋上に上って時間を潰していた。

 

「ん。そろそろ大丈夫かな」

 

 コンパクトで顔を確認すると目はまだ少し赤い気がするが近くで覗き込みでもしない限り簡単にはバレないだろう。袖で乱暴に拭いたいのを我慢してハンカチで丁寧に涙を拭いたのでこの程度の赤みで済んだのかもしれない。さて、もうねえさんも帰ってるだろうしあんまり遅いと心配かけちゃうよね。それに、ねえさんがお腹を空かせてるかもしれないし。

 

「ただいまー」

「あら、夏樹。遅かったわね。心配したのよ?」

「ごめん。試召戦争のことでゴタゴタしちゃって」

「もう、お腹空いちゃったわよ」

「あー、そっちもごめん。豆腐ハンバーグ作るときは豆腐の水切りしなくちゃいけないからちょっと少し時間かかっちゃうんだ」

「えー。……まあ、しょうがないわね」

「あはは、大急ぎで作るから待っててね」

 

 拗ねた子供のような態度でしぶしぶ納得したねえさんを見ると自然と笑みが浮かぶ。台所に向かった私は冷蔵庫から豆腐を出して、水気が切れるのをリビングで待つことにしました。待っている間どうしようかな。いつもなら小説でも読んで待ってるんだけど、流石に今日はそんな気分にはなれないし。そんな風に思っているといきなり背中に衝撃を受けた。な、何事!

 

「はっはっは、未成年がこんなに遅くまで外出するとは。とうとう不良になってしまったのか。兄さんは悲しいぞ~」

「ふ、ざ、け、る、な! 8時にもなってないのに不良にされてたまるかぁ~」

「おお、謝るどころか言い訳か。家族として辛いが。おい、あやめ。不良少女を逮捕だ」

「酒臭ぁっ! あんたこそ何こんな時間からベロンベロンに酔ってんのさ」

「おいおい、私は全然酔ってなんかいないぞ」

「酔っ払いは皆そう言うんだよ。さっさと離れて、台所で水でも飲んで来い」

「そんな冷たいこと言わなくてもいいだろう」

「はぁーなぁーせぇー」

 

 必死に春華の拘束から逃れようとしたけど、流石に男女の力の差もあって振り払うことは出来なかった。だが、そんな私にとっての救世主が現れた。鋭い掌底(しょうてい)春華(よっぱらい)の側頭部を打ち抜いた。

 

「あら、こんなところにうら若き乙女に絡む酔っ払いが。しっかりとお仕置きをしないと。ね、夏樹?」

「ね、ねえさん?」

 

 ねえさんはそう言うと私の肩を抱き、私の部屋へ向かおうとしている。な、なんで?

 

「罰として今日の夕食はあんたが作りなさい。で、夕飯を遅らせた夏樹は私の愚痴に付き合うこと」

「えー、私は昨日しっかりと作ったじゃないか」

「なら、あんたが愚痴に付き合う? ストレス発散込みで」

「さぁ、下ごしらえはしっかりとやらないとな」

 

 不満の声をあげた春華だったが、ねえさんがいい笑顔で指の関節を鳴らすと、素直に立ち上がり台所に向かっていった。

 

「ちょっと待って、ねえさん!」

「大丈夫よ。愚痴って言ったけど、本当はガールズトークしたいだけだから」

「そっちじゃない! 別にねえさんと話すのには何の問題もないよ。だけど、あの酔っ払いに料理を任せるのだけは認められない」

「平気平気。あいつは基本的に料理は得意なんだからそれなりのものは作るわよ」

「いやー! お願い。作るの自分だけど、夕食の豆腐ハンバーグは少しだけ楽しみだったんだから美味しいものが食べたいよ」

「ほら、我がまま言わないの」

「どっちが!」

 

 その後、私の抵抗も空しく自室へと連行された。畜生。もし不味かったら春華だけ今日のデザートはなしだ。自室に連行された私と連行したねえさんはベッドに隣り合って座った。

 

「えっと、どうしたの、ねえさん? 嫌な上司にでも嫌がらせされた?」

「はぁー、本題は私じゃなくてあんたよ」

「え、どういうこと?」

 

 すると、ねえさんは私の顔を下から覗き込み、真剣な表情を作った。

 

「あんた、なんか隠してるでしょ。学校で何があったの」

「べ、別に隠してなんか――」

 

ピシィッ! 「あうっ!」

 

 突然の衝撃に軽く仰け反り、額を押さえました。少し涙目になって視線を戻すとデコピンをした体勢のまま、こちらを見つめているねえさん。

 

「嘘おっしゃい。こんなに赤い目をして」

「いや、それは今ねえさんが――」

「夏樹。お願いだから話してくれない? それとも私になんか教えられない?」

「そ、それは……」

「大事な家族なんだから力になりたいのよ。それとも夏樹にとって私は――」

「そんなことない! でも、……これはもう解決した問題だから」

「問題が解決した人間はこんな顔なんてしないわよ。まあ、いいわ。解決したならなおさら話しても問題ないでしょ」

「……分かった」

「まったく。明るいようで塞ぎ込みやすい子なんだから」

 

 ため息混じりに苦笑したねえさんに今日学園であった出来事をポツリポツリと話した。ねえさんは途中で口を挟むことなく静かに聴いてくれた。そして、最後に額を軽く押さえ、あいつを「吉井君」と呼んだことについて言及した。

 

「あんたが、明久くんを知り合いレベルにするとはよっぽど頭にきたのね」

「だ、だって、あんな危ないことするなんて。……私に相談してくれればもっと安全な方法があったかもしれないのにさ」

「でも、明久くんのことが嫌いって訳じゃないのよね?」

「そりゃあね。あいつは私にとっていつまでも大切な奴だし」

「……あんた。私達とか明久くん以外の前でそんなこと言うのは止めなさい。絶対誤解されるわよ」

 

 誇らしげな顔で言った私に対してねえさんが複雑な表情でよく分からない忠告をしてきた。一体、どういうことだろう。

 

「まあ、それは今は関係ないわね。でも、そんな明久くんがいきなり知り合いになっちゃうくらい怒ったの?」

「う、そ、それは……」

 

 気まずくて目をそらした私の頬を両手で挟んで正面に持ってきた。そして、私の目を真剣に覗き込む。

 

「さては、あんた。しっかりと自分の意見をぶちまけたから今はそれほど怒ってないでしょ」

「そんなことは」

「警官がそう簡単に騙されると思わないことね」

「……あいつだって人より数倍時間はかかるけど、それなりの理解力もあるしさ。怒って不満を出してるうちに少しずつ冷静になって、今回のことは特にこたえただろうからいつもよりは反省するだろうなって考えている冷静な自分がどっかにいたんだ」

「それでも今回の名前の呼び分けは反省を促すためじゃなくて、決別の言葉なんでしょ?」

「だから、結構自己嫌悪してるの。今考えると多分、私は自分のためにあんなこと言ったんだと思うから」

「自分のため?」

「うん。私は臆病だからさ、きっとあいつを嫌いになるのが怖かったんだと思う。今は注意するだけで何とか許せているあいつの自己犠牲も何度もやられるといつか許せなくなっちゃう。それが怖かったからまだ好きなうちに別れたんじゃないかなって」

「夏樹……」

「最低だよね」

「……夏樹」

 

 

 ねえさんはそう言うと頬に当てていた手を離し、形をパーからグーに変えた。そして、その手をこめかみに持って行き、

 

「この大バカがぁー!」

「うなぁー!」

 

 某永遠の5歳児よろしくグリグリされた。私はあまりの痛みに叫び声を上げる。

 

「本気の喧嘩してるときにそんなややこしいこと考えられるわけ無いでしょ! 後付けで変に考え込んで自分が悪かったって思って解決しようとするのは止めなさい!」

「で、でも……」

「あの子のことを悪く思い続けたくないのかもしれないけど、私からすれば今回のことはどっちもが原因よ。あんたの言ったことは確かに正論だから明久くんが原因の根源だし、今回のことで決別しようとしたのは流石にあんたが狭量すぎる」

「……自分でもそれは分かってるけどさ」

「まあ、自分で分かっているならいいわ」

「えぇ!? そこはそういうところは早めに直せって注意するところじゃないの?」

「ふふ、完璧な人間なんていないんだからそんな欠点も全部ひっくるめてこその神谷夏樹でしょ。それにあんたなら自分で直したいって自覚している欠点を直すくらい訳ないし、明久くんのことが好きなら直せるでしょ」

「……ねえさんは凄いね。私は良いとこと悪いとこまとめて受け入れてこその友達だって理解はしているけど、実践できる自信はないし」

「なーに言ってんのよ。あんただって明久くんのいいところに惚れ込んだからどんなバカやっても友達でいたし、大変なことから助けてきたんでしょ。だったら、大丈夫。そもそもあんたは真剣に悩みすぎているだけだからもう少し力を抜けば人の欠点だって受け入れられるでしょ。まあ、私からすれば今でも十分受け入れていると思うけどね」

「そ、そうかな?」

 

 ねえさんはそう言って励ましてくれるけど、自分としては実感が湧かないな。

 

「とにかく、さしあたっての課題は明久くんとの仲直りね」

「ぜ、善処します」

「まったく、あんたは。気楽にいきなさいって。すぐに仲直りしなきゃいけないわけでもないし、しろとも言ってないんだから。というか、案外あの子の方から仲直りのきっかけ作ってくれるかもよ」

「で、でも、あっきー任せってのも……」

「(ふふ、呼び方が無意識に戻ってる。これは仲直りにそんなに時間はかからないわね)いいじゃない。いつも手助けしてあげてたんだから、こんなときくらいは助けてもらいなさいな」

「こんなときって……。それじゃあ、あいつに助けられっぱなしだよ」

「いいのよ。喧嘩したときに男から謝らせるのはいい女の特権よ。というかダメよ。女の方から簡単に謝ったりしたら。そんなのは男を付け上がらせるだけなんだから」

「それって恋愛のいろはなんじゃ」

「いいのよ。応用できることは何にでも応用しないと」

「……ねえさんが言っても説得力がないんだけど」

「なにおう!」

 

 私の言葉を聞き、ねえさんはむくれたような表情を作る。だけど、こっちにだって言い分がある。

 

「だって、ねえさんが喧嘩した時って大抵ねえさんから謝るじゃん」

「うっ! それは……できればベストってだけで」

「ぷっ、あはははは。ありがと、ねえさん」

「ん?」

「おかげで元気出た。すぐには無理かもしれないけど、あいつとは絶対仲直りするよ。だって、あいつとはこれから先もずっと笑いあっていたいもん」

「どういたしまして。その気持ちがあれば大丈夫よ」

「行こ! もう流石に春華の料理も出来てるでしょ」

「そうね。私ももうお腹ペコペコよ」

 

 私達は笑いあいながらリビングへと向かった。

 

 

 

「で? これは一体何?」

 

 私はこめかみをひくつかせながら春華を問い詰めた。なのに、この男は飄々とした態度を崩さずにふざけたことをのたまいやがった。

 

「なんだ、高校生にもなって湯豆腐も知らんのか。常識のない子だな」

「そんなのは見れば分かるに決まってんでしょ! なんで豆腐ハンバーグの用意をしておいたのに湯豆腐に変わっているのさ」

「決まっているだろう。面倒くさかったからだ」

「ふざけんな! 楽しみにしてたのにぃ!」

「おいおい、たかが食べ物でそんなにむきになるんじゃない。そんなんだから食いしん坊キャラになるんだ」

「なってない! 適当なことを言うな!」

「気づかぬのは自分だけか」

「そんなんだから、私はあんたのことが嫌いなんだよ!」

 

 私の文句に謝るどころか私をバカにしてくる春華。くっ、この男に口喧嘩で勝負するのは分が悪すぎる。

 

「ねぇ、春華? 私も豆腐ハンバーグは楽しみだったんだけど、私も食いしん坊キャラなのかしら?」

「あ、あやめさん?」

「私は罰で夕食作りを命じたはずだけど、なんで手を抜いたのかしらね?」

「ははは、あ、兄として妹に負ける料理を出すわけには行かなくてだね」

「そんな、くだらない理由かぁー!」

 

 そして、春華のお仕置きを開始するねえさん。その後は、春華に文句を言いながらも穏やかに食事は進んだ。今日の夕食は良くも悪くもいつもの神谷家だった。

 

 

 

 

 

 

 私、神谷あやめは他の二人が眠った後に、リビングで一人でビールを飲んでいた。どうしても、一人で飲みたい気分になったのだ。

 

「……流石は兄妹って感じね。本当にしっかり見ているわ」

 

 春華はそんなに酒に弱い方ではない。そんな春華が夏樹が帰ってからの短時間であそこまで酔うはずが無い。ただ、夏樹に酔っ払っていると思わせるために口の中に酒の匂いを付けたんだろう。そこまでされてようやく夏樹の様子がおかしいことに気づけた。あいつは自分に夏樹を励まさせるためにあんな演技をしたのだ。

 

「まったく、気づいてんなら私に任せないで自分が話しなさいよ」

 

 あいつの行動の前に気づけなかった事実に少しへこむ。でも、本当に兄妹そろって色々なことを器用にこなすくせに生き方の不器用な二人だ。二人とももっと気楽に生きればいいのに。

 

「まあ、あいつなりに動いたから許してやるか」

 

 そう言って、手の中の携帯を開く。当然ロックがかかっているが、夏樹の生年月日を入れると簡単に開いた。飄々として自分を見せないようで、意外に分かりやすい男よね。そして、発信履歴を見ると私と夏樹の話が終わるちょっと前に発信記録がある。でも、

 

「あんたが兄さんに何の用があるのよ」

 

 おそらく本当に電話した相手を隠したくて履歴を消した後に適当な番号に発信したんだろうけど、人選が悪すぎる。普段は完璧なのにこんな凡ミスをするなんてよっぽど妹が心配だったのだろう。

 

「今回のことであの子たちはもっといい関係になれるだろうから、あとはウチのバカの方ね。まあ、こっちはじっくりと改善していくか」

 

 言い終わると同時に缶を傾けたが、口の中に液体が流れてくることは無かった。

 

「ありゃ、もう空? 仕方ない、もう一本取ってくるか」

 

 そして、いつの間にか深酒をしてしまった私は、翌朝夏樹に大目玉を食らうこととなった。

 




はい、今回は昨今のラノベやマンガで排除されがちな年齢が上の家族に頑張ってもらいました。自分は家族の絆的なお話は結構好きです。ウィザーズ・ブ○インの3巻とか6巻とか。ちなみに今回のタイトルはあやめの花の花言葉の一つです。そして、あやめさん自身が二人の仲が良い方に進んだと聞くのを楽しみにしていることを示しています。……分かった人はいないでしょうが。ちなみに、今後描写しますが、あやめさんは茶髪でショートヘアのかっこいいけど、プライベートが少し抜けているお姉さんです。

やっぱり、明久を大切に思っている夏樹。でも、今回喧嘩してことで彼女も大きく成長できるはずなので、今回の喧嘩はきっと無駄にはならないでしょう。以前の投稿時代から知っている人に予告しますが、以前この次にあった話は一端飛ばして次はAクラス戦前のミーティングとなっています。

……申し訳ないお知らせなのですが、次の更新はGW明けにさせていただきます。連休は実家に帰省するので使えるのが共有PCで家族が集まるリビングでしか使えないので。……家族には投稿しているのは(恥ずかしいため)秘密なので。軽く目を盗んで執筆は勧めるつもりですが、なるべく家族とのコミュニケーションも大切にしたいので。

では、GW明けの投稿でもよろしくお願いします。
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