それでは、本編始まります。
あの大喧嘩(私からの一方的な文句)から2日が経ちました。あろうことか仲直りをしないまま1日を過ごしてしまいました。いえ、私だってがんばろうとしたんですよ? 昨日は総合教科の回復試験でしたけど、時間を見つけて吉井君に話しかけようとしたんです。でも、なかなか勇気が出なくて尻込みしたり、いざ話そうとすると私を避けるように教室を出て行ったりして一言も話さず一日が終わってしまいました。……本気で嫌われちゃったのかな。
あっ! そういえば、昨日はあっきー……吉井君と仲直りすることに集中してて、テストが上の空だったような気が。もっちーが怒ったりしなかったことから鑑みるとそんなに悪い点じゃないってことですよね。多分、無意識ながらもそれなりには解いていて、それなりの点数を取っているようです。私本人が自分の点数状況を把握していないのが唯一にして最大の問題ですが……。
そして、今はそのもっちーが教壇にあがって皆に最後の作戦の説明をしています。
「まずは皆に礼を言いたい。周りの連中には不可能だと言われていたにも関わらずここまで来れたのは、他でもない皆の協力があってのことだ。感謝している」
「ゆ、雄二、どうしたのさ。らしくないよ?」
「ああ、自分でもそう思う。だが、これは偽らざる俺の気持ちだ」
あっ……吉井君が普段と態度の違うもっちーに質問をしています。まあ、私も違和感を感じましたが、卑怯な手を使ったとは言えこれだけの偉業を成し遂げたんですから、友人のもっちーとしては違和感があっても、Fクラスの指揮官としては当然だと思って流したんですけどね。
「ここまで来た以上、絶対にAクラスに勝ちたい。勝って、生き残るには勉強すればいいってもんじゃないという現実を、教師どもに突きつけるんだ!」
『おおーっ!』
『そうだーっ!』
『勉強だけじゃねえんだーっ!』
教室の皆の気持ちは熱くまとまっているようですが、逆に私は自分の心がどんどん冷めていくのが分かりました。確かに「勉強だけじゃ世の中は生きていけない」それは真理でしょう。でも、それは勉強以外のことに力を入れていて、それを誇れる人だけが言えることだと思います。間違っても何の努力もしていない人間が自分の怠惰に目を背けて、現実から逃げるために使っていい言葉じゃないはずです。これが部活や趣味で培った特技を使って勝利しようっていうんなら何の文句もなかったのに。
「やるのは当然、俺と翔子だ」
考え事をしている間にクラスの皆にも一騎打ちで戦うことと、3日前のお昼の時には言っていなかった一騎打ちの組み合わせを説明していました。
「馬鹿の雄二が勝てるわけなぁぁっ!?」
吉井君が素直な感想を口にした瞬間彼の頬をカッターが掠めます。あの野郎。
「次は耳だぁぁっ!?」
渾身の右ストレートをもっちーの目の前数センチのところで寸止めします。
「な、夏樹!?」
「次は当てるよ?」
「一体何のつもりだ!」
「悪口に暴力で返すんじゃないの。口で言われたら口で言い返しなさい。みっともない」
「まったく、過保護な奴だ」
「例え知り合いに向けられたものだとしても今みたいな危険な行為は止めるに決まってるでしょ」
「知り合い? 一体何があった?」
「……別になんでもないよ」
って、私のバカぁー! クラスメイト全員の前で知り合い宣言してどうすんの!? 本当にどうすんのさ!? あっきーも普通に聞いてんだよ? これじゃあ、ますます仲直りしにくくなるじゃない。
私の発言でクラスが少しざわめきます。そして、視線が二箇所に集中しています。その一つは当然私。もう一つは多分あっきーでしょう。顔を見るのが不安でそっちを向けないから定かではありませんが。すると、もっちーがクラスのざわめきを収めるために大きめな声で切り出しました。
「ま、まあいい。本題だが、確かに明久の言うとおり翔子は強い。まともにやりあえば勝ち目はないかもしれない」
……ちょっと待て。それなら、なんでカッターなんて投げたのさ。あれさえなければ私だってあんな失言しなくてすんだのに。そんな私の怒りに気づくこともなくもっちーは話を続けます。
「だが、それはDクラス戦もBクラス戦も同じだっただろう? まともにやりあえば俺達に勝ち目はなかった。今回だって同じだ。俺は翔子に勝ち、FクラスはAクラスを手に入れる。俺達の勝ちは揺るがない」
無謀とも思えた2つの戦いを勝利に導いたもっちーの言葉に反対する人間はおらず、皆納得したような表情をしています。
「俺を信じて任せてくれ。過去に神童とまで言われた力を、今皆に見せてやる」
『おおぉーーーっ!!』
全員が声を合わせて雄叫びを上げます。
「さて、具体的なやり方だが……一騎打ちではフィールドを限定するつもりだ」
「フィールド? 何の教科でやるつもりじゃ?」
「日本史だ」
日本史ねぇ。霧島さんが苦手だって聞いたわけでもないし、もっちーも特に得意だってわけじゃないはずだけど。
「ただし、内容は限定する。レベルは小学生程度、方式は百点満点の上限あり、召喚獣勝負ではなく純粋な点数勝負とする」
? 小学生レベルで満点あり? そんな注意力の勝負で勝てるとは……いえ、あいつがそんな賭けみたいなことをするはずがありませんよね。とてつもなく嫌な予感がします。でも、単純なあっ……吉井君はもっちーが賭けに出たと考えたようで、もっちーにブランクゆえの分の悪さを指摘し、きのっちも同意しています。
「おいおい、あまり俺を舐めるなよ? いくらなんでも、そこまで運に頼り切ったやり方を作戦などと言うものか」
「?? それなら、霧島さんの集中を乱す方法を知っているとか?」
「いいや。アイツなら集中なんてしていなくとも、小学生レベルのテスト程度なら何の問題もないだろう」
まあ、そうですよね。テスト中に出来る妨害なんてたかが知れていますし、下手なことをするとこちらがカンニング扱いで途中退席=失格になりかねませんしね。でも、あいつはどんな作戦を練っているんでしょうか?
「雄二。あまりもったいぶるでない。そろそろタネを明かしても良いじゃろう?」
クラスの皆もきのっちの言葉にうなづいています。
「ああ、すまない。つい前置きが長くなった」
かぶりを振って、もっちーは改めて口を開きました。
「俺がこのやり方を採った理由は一つ。ある問題が出れば、アイツは確実に間違えると知っているからだ」
……どうしましょう。嫌な予感がどんどん強くなっていくんですけど。
「その問題は――『大化の改新』」
「大化の改新? 誰が何をしたか説明しろ、とか? そんなの小学生レベルの問題で出てくるかな?」
「いや、そんな掘り下げた問題じゃない。もっと単純な問いだ」
「単純というと――何年に起きた、とかかのう?」
「おっ。ビンゴだ秀吉。お前の言う通り、その年号を問う問題が出たら、俺達の勝ちだ。大化の改新は645年。こんな簡単な問題は明久でさえ間違えない」
もっちー、吉井君の学力のなさを甘く見ない方がいいよ。その子は平城京と平安京の年号さえあやふやだからね。案の定、ちらりと視線を向けると非常に気まずそうな表情をしていた。
「だが、翔子は間違える。これは確実だ。そうしたら俺達の勝ち。晴れてこの教室とおさらばって寸法だ」
「あの、坂本君」
「ん? なんだ姫路」
「霧島さんとは、その……仲が良いんですか?」
ああ、そうか。私は前にもっちーが霧島さんのことを「翔子」と呼んだことから詰問して確認したけど、皆は知らないんでしたね。
「ああ、アイツとは幼馴染だ」
「総員、狙えぇっ!」
「なっ!? なぜ明久の号令で皆が上履きを構える!?」
「黙れ、男の敵! Aクラスの前にキサマを殺す!」
「俺が一体何をしたと!?」
男子生徒は団結してもっちーを狙っている。……美人と幼馴染だったくらいでこれですか。ここまで器が小さいか、このクラス。まあ、呆れてても仕方ない。私はため息とともに動き出しました。まったく、しょうがないなぁ。
「遺言はそれだけか? ……待つんだ須川君。靴下はまだ早い。それは押さえつけた後で口に押し込むものだ」
「了解です隊ちょ、ちょっと、神谷さん! そこは危ないですよ!?」
もっちーの前に立ち、両手を広げた私に対して男子が慌てて退く様に注意してくる。だけど、そんなのお断りだ。こんなくだらないことで友達が傷つくのを見ていられるわけがない。
「あの、吉井君」
「ん? なに、姫路さん」
ひめひめが狼狽している吉井君に話しかけています。これでこの件が解決すればいいんだけど。
「吉井君は霧島さんが好みなんですか?」
「そりゃ、まぁ。美人だし」
「…………」
「え? なんで姫路さんは僕に向かって攻撃態勢を取るの!? それと美波、どうして君は僕に向かって教卓なんて危険なものを投げようとしているの!?」
……次はこっちですかい。私は出来る限り気配を薄くして我がクラスの女子二人の後ろに回りこみ、二人の耳をつまんで引っ張ります。
「いたた、痛いですよ、夏樹ちゃん」
「夏樹、痛いじゃない! さっさと放しなさいよ!」
「だったら、ひめひめは攻撃態勢をといて、しまっちは教卓を下ろしなさい。まったく、こんなことで過剰に反応してんじゃないわよ」
例え今は知り合いレベルでもしっかり止めますよ。目の前で理不尽な暴力を受けようとしている人間を見捨てるほど冷たい人間になったつもりはないですから。
「まぁまぁ。落ち着くんじゃ皆の衆」
パンパンと手を叩いて場を取り持つきのっち。よかった。私以外にもこのクラスで冷静な人間がいたんだ。
「む。秀吉は雄二が憎くないのぉ!?」
このバカはまだ言うか。そんな思いを込めて騒ぎを蒸し返そうとするバカを睨み付けると、いつも以上に驚愕した表情を浮かべています。というか、驚愕というより恐怖? あれっ? そんなに私の顔、怖いですかね? 違いますよね。一昨日の喧嘩の影響で過剰反応しているだけですよね?
「冷静になって考えてみるが良い。相手はあの霧島翔子じゃぞ? 男である雄二に興味があるとは思えんじゃろうが」
質問から驚愕にシフトした吉井君の台詞ですが、きのっちは律儀に場を納めるための言葉を続けます。でも、あれ? 一体何を言っているんですか?
「むしろ、興味があるとすれば……」
「……そうだね」
「な、なんですか? もしかして私と夏樹ちゃんが何かしたんですか」
二人の視線が私とひめひめに集中します。まさかきのっちまで霧島さんが同性愛者であると思っていたんですか? あの目は明らかに誰かを一途に思い続け……あー、なんとなくほとんどのピースがはまった気がします。だからこそのあの目ですか。
「とにかく、俺と翔子は幼馴染で小さい頃に間違えて嘘を教えていたんだ。アイツは一度覚えたことは忘れない。だから今、学年トップの座にいる」
へぇー、一度覚えたことは忘れないなんて、本当にすごいですね。…………あれっ? 今、何かが引っかかったような……。
「俺はそれを利用してアイツに勝つ。そうしたら俺達の机は――」
『システムデスクだ!』
皆で声を合わせて一致団結していましたが、かすかな引っかかりの正体を掴もうとしている私にはどこか遠いところで響く音のように聞こえていました。
今回はちょっと独自解釈で明久は平城京と平安京の年号があやふやであるとしました。大化の改新を間違えるなら妥当だと思ったのですが、ここまでバカじゃないだろうとお考えの方。申し訳ありませんでした。
今回のお話で明久らしくないと思った方。きちんとした理由はあるのでその辺が出るまでお待ちください。この作品では極力展開のためのキャラ改変・改悪はしないように心がけていますので。キャラが変わっているように感じたらそれは夏樹や春華、あやめの影響であり、それらはなるべく作品内で表現していきたいと思います。
さて、次は裏話。すなわち、以前のサイトではこの話の前に投稿していたお話です。それでは、にじファン時代の投稿分最後のお話をお楽しみに。