バカとテストと右脳娘   作:シュレ猫

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どうも、今回は予告通り本編の主人公夏樹の視点では絶対に知ることができない物語です。正直に言うと前回の投稿の後、この話はもっと後に引き伸ばしても良いんじゃないか? その方が緊張感や臨場感が出るんじゃないか? と考えてもっと後にしようとも思ったんですが、これより後の話はひき逃げチックに話を作っているんでこれより後では物語のテンポが悪くなってしまうと最終決断を下し、予定通りこれを先に投稿しました。

今回は全編を通して夏樹以外のあるキャラの視点となっており、今までの裏と違って夏樹が一切出てきません。そして、今回のお話の人物は少し原作よりもかっこよくし過ぎたかもしれません。……これも一種のキャラ崩壊ですかね。

今回の主役の予想は突いていると思いますが、どうぞ楽しんでくださると幸いです。


裏二十八話:冬の終わりを示すもの

 夏樹と別れた後、僕の頭の中には夏樹の「吉井君」という声がグルグルと回っていて、気づいたらいつの間にか制服のまま家のソファに座っていた。いつもならこの時間は大好きなゲームをやったり、漫画を読んでいるんだけど、流石の僕もこんなときにまで暢気にそんなことを出来るほど能天気じゃない。

 

「『吉井君』かぁ……。かなり怒ってたんだね。なんたって、いきなり知り合いに降格だもんなぁ。……もう昨日までみたいに笑いあったり、仲良く話したりできないのかな」

 

 膝を抱えて呟いていたけど、自分で言葉にすればするほどそのことが事実だと否応なく突きつけられて気持ちがドンドン沈んでくる。そして、とうとう耐え切れなくなった僕は抱えた膝に顔をうずめた。

 

ブーブーブー!

 

 部屋の中に広がる静寂を切り裂くように鞄に入れた携帯のバイブが鳴り、着信を伝える。……こんな時に一体誰だろう? 相手の人には悪いけど今は出れるような気分じゃないや。居留守を使っちゃおう。

 

 ブーブー、プツッ

 

 誰からの電話だったのかな。後で確認して用件の確認と謝罪をしないとね。

 

 ブーブーブー!

 

そんなことを考えていると再び携帯が鳴り出した。えっと、こういう時ってマナーモードなんだから留守電に入れるとか、後でかけなおすとか考えるものなんじゃないの? 時間を空けずにかけてくるなんて常識ないなぁ。

 

 その後も僕の携帯の着信は何度も切れては鳴りを繰り返した。もう十回は過ぎただろうか。流石の僕もイライラしてきた。なんだよ。人が落ち込んでるっていうのにしつこいなぁ。こうなったら適当に話してさっさと済ましてやる。僕は鞄から携帯を取り出すとちょうどバイブが鳴り出し、液晶に発信者の名前が映りだした。

 

『神谷春華』

 

僕は発信者表示を見て驚愕した。春華さんがこのタイミングで電話してくるっていうことは用件はあの件だよね。僕は緊張しながら着信ボタンを押した。

 

「……はい、明久です」

『おぉー、明久! 出るまでに随分時間がかかったじゃないか。ゲームに集中していたのか?』

「……なんの用なんですか」

 

 相手の用件は分かっているが、相手もとぼけているので一応こちらから聞いてみる。

 

『いや、お前とは随分会っていないから久しぶりに話したくてね。それに、新学期が始まってそうそう面白いことをしているそうだから、具合を聞きたくてね』

「…………春華さんって意外に性格が悪かったんですね」

『ははは、夏樹やあやめにはよく言われるよ。というか、今頃気づくとはやっぱり鈍いな、お前は』

「道理で夏樹が愚痴るわけです」

 

 夏樹が散々「春華は性格が悪い」ってこぼしていた気持ちがようやく理解できた。もう謝れないだろうから心の中で謝っておくよ。夏樹、疑ってゴメン。

 

『まあ、あまりいじめてもかわいそうだから本題に入るか。まったく、新学期という門出のときに喧嘩するとは忙しいなお前達は』

「夏樹から聞いたんですか」

『あの()が私にそんなことを言うはずがないだろう。口を開けば憎まれ口だ』

「……ですよね」

『あいつなりに気丈に振舞っていたようだが、落ち込んだ雰囲気は簡単に分かる。そして、あいつがあれほど落ち込むような状況はお前と喧嘩するくらいしか思いつかないからな』

「よくそこまで分かりますよね。まるで実際に見て知っているみたいです」

『おっ、よく分かったな。実は私に知らないことはないんだよ』

「うわぁー、凄いんですねぇ」

 

 バカな僕でさえ悩んでいるようなこんな状況で茶化してくる神経が信じられなかった。だから、そんな気持ちを込めて冷淡な声で棒読みの返答をしてやった。

 

『おや? さては信じてないな。よし、じゃあその証拠に今回の事件の概要を当ててみようか』

「……どうぞ」

『そうだなぁ。お前が友達のために校則違反なんて霞むようなとんでもない無茶を夏樹に相談なしでやったことがこの喧嘩の原因で、この喧嘩を悪化させたのは激昂した夏樹だろうな』

「なっ! なんで分かったんですか!? まさか本当に!」

『くっくっくっ』

 

 あまりに見事に言い当てられたことで驚愕したけど、その後に聞こえてきたくぐもった笑い声で見事に騙されたことが分かった。

 

『相変わらず騙されやすいな。そんなんじゃ詐欺にあいそうで、お兄さんは心配だぞ』

「酷すぎますよ、春華さん。でも、それならなんで?」

『なに、簡単なことだ。夏樹は真面目だが、あれでなかなか融通のきく方だから多少の校則違反には注意はしても、それで喧嘩をすることはない。あの子が本気で怒るのは相手を本気で心配するときだ。まあ、相手がお前だからそれで済まずに絶縁宣告でもされたか?』

「ぐはぁっ!」

 

 分かっていることでも自分で考えるのと他人に言われるのとではダメージが全然違う。春華さんの言葉のあまりの破壊力に僕は悶絶した。

 

『その反応は図星だな。さらに、いくらお前がバカでも何の意味もなく自分を危険に晒したりはしない。どちらかと言うと普段のお前は辛いことから逃げるタイプだからな。だから、誰か身近な人間のための行動だったんだろうと考えたんだよ』

「夏樹の表情だけでそこまで推理したんですか」

『後はお前と夏樹の性格だな。その人間の人となりを知っていれば大体のことは推測できるさ』

「あんた、一体どんな思考回路してるんですか。前々から思ってましたけど、本当に同じ人類か疑わしくなりますね」

『ふっ、少しは気分も治ったんじゃないか』

 

 そういえば、春華さんに弄られているうちに上手く誘導されて普通に話せるようになっている。最初は適当にあしらうことさえ考えていたのに。

 

「あの、春華さん。まさか、このために?」

『さて? 何のことか検討がつかんな。私はただお前を弄っていただけなのに、それを深読みされても迷惑だ』

「はは、そういうことにしておきます」

 

 性格が良いのか悪いのか判断に困る人だな。こんな人の手綱を握れるなんてやっぱりあやめさんは凄い人だな。

 

『まあ、折角気分が晴れたんだ。お前の口から今回のことを話してくれ。私の言ったことはどんなに正解に近くても所詮は推測にすぎないからな』

 

 春華さんの言葉に促され、姫路さんの手紙のことも含めて今回のことを説明した。学園と関係のない春華さんだったらそんなに問題はないと思うし、なによりあの人は夏樹以上の洞察力と押しの強さがあるんだから隠せるはずがない。以前の評価のままならそれでも隠したかもしれないけど、春華さんの性格の悪さを知った今は確信を持って言える。もしそれを黙っていようものなら、考えるだけでも恐ろしい。

 

話を聞き終わった春華さんはしばらく無言だった。一体どうしたんだろう。

 

『……明久』

「な、なんですか?」

『お前、相当バカだな』

「……どうせ春華さんも夏樹に相談するべきだったって言いたいんでしょ」

『いや、まあ、それもあるが……お前一人でももっと方法はあっただろうに。指導を受ける覚悟があったなら……そうだな、多分視線でお前が手紙に気づいたことはその子にバレているんだから「僕がなんとかする。僕を信じて」とでも言って、作戦通りにやった後でその卑怯者を殴れば、教師がお前と卑怯者の二人だけを別室に連れて行って話を聞くだろうからそれでも十分だっただろうが』

「そ、それは……」

『どのみち気をそらすために隊を引いたならそのときできた隙間をアメフトよろしく一か八かで通るのも手だったろう』

「前の作戦じゃあ先生にまで手紙のことが分かっちゃうし、後者は勝率が下がるじゃないですか」

『それで退学になったらどうしようもないだろう』

「でも――」

『まあ、そういった自己保身を考えないのがお前の魅力だが、周りで見ている分にはなぁ。しかも、夏樹は少しでもお前の立ち位置がよくなればと思って動くことが多かったのに、そんなに簡単に自分を危険にするとなるとな』

「うっ、それは自覚して――」

『本当に自覚しているのか? お前の行動はその子に対しては今回の夏樹がお前の代わりに怒られたのと同じようなことだし、夏樹に至ってはお前が取り戻したラブレターをその子自身がお前の目の前で破り捨てるようなものだぞ?』

「……夏樹に愛想つかされても当然ですね」

 

 春華さんから自分がやったことがどれだけ夏樹に心配をかけたのか、どんなにひどいことをしたのかを分かりやすく言い換えて教えられると、本当に夏樹に申し訳なく感じる。

 

『それで? お前はどうする気なんだ?』

「どうするもなにも、夏樹が知り合い認定した以上、どうしようも――」

『ふざけるなよ?』

 

 春華さんはいつも飄々として一度も怒ったところを見たことがないが、今の言葉には明らかな怒りの色が感じ取れた。

 

『バカが一丁前に賢くまとまったもんだ。見損なったぞ』

「……賢くなったなら成長じゃないですか。それとも、バカはバカのままいろとでも」

『親友と少し仲たがいしたからなんだというんだ。だったら、また仲良くなるところからやり直せばいい。糸が切れたなら結びなおす。お前くらいのバカでもこの程度は分かるだろうが』

「でも、夏樹が許してくれなかったら」

『本当のお前はそんなことを怖がる人間か? バカが失敗することを恐れるんじゃない!いや、一度失敗したからって何なんだ。失敗したとしても現状維持のゼロのままでマイナスになる訳じゃない。だったら何度でも仲直りできるまで繰り返せばいい。バカはバカらしくただまっすぐに突っ走れ!! それが夏樹をしてお前を親友として認めさせた長所だろうが!』

「……」

『それとも私の見込み違い、夏樹の勘違いで、本当にくだらない男だったのか?』

 

 その言葉を聞いて僕は拳を握り締めた。余りにも力を込めたために拳が白くなるほどだった。そして、僕はその拳を――思いっきり額に打ち付けた。

 

『明久?』

「春華さん、ありがとうございました。ようやく目が覚めました」

『ほう?』

「春華さんの言うとおり、僕は失敗が当たり前なんだからダメで元々、今度こそ夏樹に本気で謝って仲直りしてみます」

『許してもらえるといいな』

「許してもらえるまで何度だって謝りますよ」

『ふっ、ストーカーも大概にしろよ』

「はい!」

 

 春華さんの冗談に思わず笑ってしまう。春華さんは本当に口が上手いよね。多分雄二よりも上手いんだろうな。その上、頭も顔も良くて同じ男として羨ましい。あれで就職さえしてれば完璧なのに。ホント子供が出来たらどうするんだろ? デイトレって不安定だって聞くけど、大丈夫なのかな?

 

『まあ、夏樹も頭を冷やす時間が必要だろうから、今やっている……試召戦争だったか? それが終わってからにしたほうがいいだろうな』

「分かりました。戦争が終わった後に謝って、出来れば遊びにでも誘います」

『……仲直りの後にすぐさまデートか』

「ぶふぅっー! ゲホゲホ、ち、違いますよ。あ、あくまで友達として今までのお礼がしたいだけで」

『分かっているよ。ただの冗談だ』

 

 春華さんの思わぬ言葉でむせてしまう。最後の最後まで性格の悪い人だ。さて、しっかりと謝る言葉を考えておかないとな。

 

 

 

――おまけ――

 

『そうそう、明久』

「なんですか?」

『私は直情的なバカは嫌いでないが、学習能力が皆無という意味のバカは好きではない』

「はあ?」

『また同じような理由で喧嘩するようなバカなまねはするなよ。もしそんなことがあったら――』

 

 な、なんだろう。ここは妹想いの兄としてはぶん殴るとかって言うかな?

 

『爪と指の間に刺しこんだ釘にろうそくを垂らしてやる』

「怖ぁっ!? それ拷問じゃないですか!? 冗談じゃない!」

『ああ、よく分かっているな。冗談じゃ……ない』

 

 ヤバイ! トーンが真剣(マジ)だ。薄々シスコンじゃないかと感じていたけど、かなりのシスコンだ。今回のことはしっかり反省しなきゃ本気で命がヤバイ。

 




どうも、前々回は夏樹とあやめの女同士のお話でしたが、今回はその裏で起こっていた明久と春華のお話でした。今回のタイトルも少し無理やり臭いですが、春に咲く花という彼の名前を示して、花によって喧嘩という冬が終わることを示しています。そして、前書きで書いたとおり、明久が熱血と言うかなんと言うか、少し美化しすぎてしまったかも知れませんね?

ちなみに前回の話で「明久なら夏樹を避けないで謝るだろ!」と思った方。原因は春華のミスです。夏樹は試召戦争をやっているとは言いましたが、日程は一切話してないので春華は次の日にAクラス戦するものだと考えていました。つまり、戦争が終わった放課後には謝れよと言ったのです。妹とのコミュニケーション不足が招いた悲しい事故でしたね。

さて、前回書きました通り今回で以前のサイトで投稿した分は全部出し切りました。以前のサイトからお付き合い頂いている方、勿論ハーメルンから読んでくださっている方もこれからの生まれたての投稿文達を楽しみにしていてください。それでは、これからもよろしくお願いします。
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