それでは、皆さんが少しでも楽しまれますことを願って、本編を開始します。
いろいろと雑談をしながら歩いていると、先頭のもっちーが屋上に通じる扉を開けて太陽の下に出ました。
「明久、宣戦布告はしてきたな?」
もっちーがフェンスの前の段差に腰を下ろしたので、私たちもそれに倣います。
「一応今日の午後に開戦予定と告げてきたけど」
「それじゃ、先にお昼ご飯ってことね?」
「そうなるな。明久、今日の昼ぐらいはまともな物を食べろよ?」
「そう思うならパンでもおごってくれると嬉しんだけど」
「えっ? 吉井君ってお昼食べない人なんですか?」
あっきーの言葉にひめひめが驚きの声をあげる。
「いや。一応食べてるよ」
「……あれは食べていると言えるのか?」
もっちーのツッコミが入る。私もそれには同感です。
「何が言いたいのさ」
「いや、お前の主食って――水と塩だろう?」
……個人的に飲み物の時点で水は主"食”ではないと思う。
「きちんと砂糖だって食べているさ!」
「あっきー、そういう問題じゃないよ」
「あの、吉井君。水と塩と砂糖って、食べるとは言いませんよ……」
「舐める、が表現としては正解じゃろうな」
私はため息をつきつつ、あっきーに話しかける。
「しょうがないから、今日は私のお弁当を分けてあげるよ」
「あっ、ありがとう、夏樹! 今、僕は君が女神に見える」
「お弁当くらいで大袈裟な」
……あっきーの食生活なら大袈裟じゃないのかな? 体験したことがないから分からないけど。まぁ、とりあえず、
「1段分で大丈夫?」
「大丈夫! 滅多にないカロリー摂取の機会だからね、ありがたく頂くよ!」
あっきーは本当に嬉しそうな笑顔で答えます。……本気で親友の食生活の改善に乗り出した方がいいかもしれない。
「夏樹、親友だからって甘やかさなくていいぞ。そいつが飯代まで遊びに使い込む馬鹿なのが悪いんだからな」
「それは去年も同じクラスだったから知ってるけど……、かといって空腹で満足に実力出せないと困るし」
「それにしても、ただでさえ小食な女子のお弁当を1段分も食べるなぞ、傍から見たら最低な男じゃのう」
「…………ヒモ人生まっしぐら」
「明久はダメ夫確定だが、逆に夏樹は良妻になりそうだよな」
男友達の指摘にあっきーがうなだれています。
「あはは、私はそんなに小食って訳じゃないから大丈夫だよ? 1段分って言うのも3段のうちの1段だし」
一応少しでもあっきーをフォローしておきます。……できたかは分からないけど。
「……あの、良かったら私がお弁当作ってきましょうか?」
「ゑ?」
もっちーの良妻発言を聞いて考え込んでいたひめひめが口を開きます。
「本当にいいの? 僕、塩と砂糖以外のものを食べるなんて久しぶりだよ! しかも、二日連続で食べられるなんて夢みたいだ」
随分安い夢だね。
「はい。明日のお昼で良ければ」
「よかったじゃないか、明久」
「うん!」
あっきー、とてもいい笑顔していますね。
「……ふーん。瑞希って随分優しいんだね。
なんだか面白くなさそうなしまっちの言葉。だったら自分でも作ってくればいいじゃない。恋は積極的に攻めないとどんな結果になっても文句を言っちゃダメなんだよ?
「あ、いえ! その、皆さんにも……」
「俺達にも? いいのか?」
「はい。嫌じゃなかったら」
「それは楽しみじゃのう」
「…………(コクコク)」
「……お手並み拝見ね」
ひめひめの分も考えると七人分か、流石に大変だよね。
「私の分は大丈夫だよ? ひめひめ、私の食べる量とか知らないでしょ?」
「大丈夫です! 育ち盛りの男の子がいるんですからいっぱい作ってきます(そんなこと言って吉井君に食べてもらうつもりですね。これ以上夏樹ちゃんにアプローチはさせません!)」
……何かとんでもない誤解をされている気がする。
「分かった、じゃあひめひめの分を考えて量を減らして持ってくるよ」
「……それなら、まぁ。では、明日は皆に作ってきますね」
しまっちの妨害のせいとはいえ、七人分も作ることになっても嫌そうな顔をしないなんてひめひめは優しいね。
「姫路さんって優しいね」
あっきーも私と同じことを思ったらしい。
「そ、そんな……」
「今だから言うけど、僕、初めて会う前から君のこと好き――」
「おい明久。今振られると弁当の話はなくなるぞ」
「――にしたいと思ってました」
……衝撃の事実。私の一番の親友は変態でした。
「明久。それでは欲望をカミングアウトした、ただの変態じゃぞ」
「明久。お前はたまに俺の想像を超えた人間になるときがあるな」
「だって……お弁当が……」
「私は分かってるから大丈夫だよ」
あっきーの肩に手を置き、私にできる最高の優しさを込めた瞳で見つめます。
「夏樹、君なら分かってくれると「よっしー?」はちっとも思ってなかったよ! ごく自然に友人ランクを下げないでよ!?」
「さて、話がかなり逸れたな。試召戦争に戻ろう」
そうだね。あっきーをからかうのはこの辺にしておこうか。
「雄二。一つ気になったんじゃが、どうしてDクラスなんじゃ? 段階を踏んでいくならEクラスじゃろうし、勝負に出るならAクラスじゃろう?」
「そういえば、確かにそうですね」
「まぁな。当然考えがあってのことだ」
もっちーが鷹揚にうなずく。
「どんな考えなの、もっちー?」
「色々と理由はあるんだが、とりあえずEクラスを攻めない理由は簡単だ。戦うまでもない相手だからな」
「え? でも、僕らよりはクラスが上だよ?」
「ま、振り分け試験の時点では確かに向こうが強かったかもしれないな。けど、実際のところは違う。オマエの周りにいる面子をよく見てみろ」
「美少女二人と女神が一人、馬鹿が二人とムッツリが一人いるね」
「誰が美少女だと!?」
「ええっ!? 雄二が美少女に反応するの!?」
「…………(ポッ)」
「ムッツリーニまで!? どうしよう、僕だけじゃツッコミ切れない!」
「女神って、それまだ続いてたの!? 恥ずかしいからやめてよ!」
まったく、皆なんで「数学の女帝」といい、「女神」といい、そんな恥ずかしい単語を平気な顔して言えるのかな。私だったら恥ずかしくて絶対言えないよ。
「えぇ! でも、今の僕の立場じゃそれ以外に夏樹を形容する言葉はないし」
「まぁまぁ、四人とも落ち着くのじゃ」
いけない、いけない。私のせいであっきーまで混乱させてしまった。
「そ、そうだな」
「いや、その前に美少女で取り乱すことに対してツッコミ入れたいんだけど」
私も女神発言で取り乱してたから無視したけど、普通におかしいよね。もっちーって脳に障害でもあるのかな?
「ま、要するにだ」
コホン、と咳払いをして再開するもっちー。……あっきーのツッコミは無視なんだ。
「姫路に問題がない今、正面からやり合ってもEクラスには勝てる。Aクラスが目標である以上はEクラスなんかと戦っても意味が無いってことだ」
「? それならDクラスとは正面からぶつかると難しいの?」
「ああ。確実に勝てるとは言えないな」
「だったら、最初から目標のAクラスに挑もうよ」
「初陣だからな。派手にやって今後の景気づけにしたいだろ? それに、さっき言いかけた打倒Aクラスの作戦に必要なプロセスだからな」
「それにね、あっきー。私たちの相性がいいとは言っても実際に戦闘するのは初めてなんだよ? 私たちのコンビがFクラスの主戦力の一つになるんだからここで連携の練習をしておかないと」
っ!? 何か今猛烈な寒気が。それにひめひめとしまっちがなんか怖い。……私、変なこと言った?
「確かにな。夏樹の召喚獣は癖が強すぎるから敵味方共にいきなりの対応は難しいだろう」
「あ、あの!」
ひめひめにしては大きな声だね。どしたの?
「ん? どうした姫路」
「えっと、その。さっき言いかけた、って……吉井君と坂本君は、前から試召戦争について話し合ってたんですか?」
「ああ、それか。それはついさっき、姫路の為にって明久に相談されて――」
「それはそうと!」
もっちーの言葉を遮るように大声を出すあっきー。良かったね。ひめひめにはギリギリ聞こえてないみたいだよ。聞こえていた方が良かったかもしれないけどね。恥ずかしがるあっきーを見てクスリと笑う。
「さっきの話、Dクラスに勝てなかったら意味がないよ」
「負けるわけがないさ」
あっきーの心配を笑い飛ばすもっちー。
「お前らが俺に協力してくれるなら勝てる。いいか、お前ら。ウチのクラスは――最強だ」
やっぱりもっちーは口が上手いね。根拠もないのに自信が溢れてくるよ。
「いいわね。面白そうじゃない!」
「そうじゃな。Aクラスの連中を引きずり落としてやるかの」
「…………(グッ)」
「が、がんばります」
「私も全力を尽くすよ」
「そうか。それじゃ、作戦を説明しよう」
そして、私たちはもっちーの語る勝利のための作戦に耳を傾けました。
今回は明久の食生活について夏樹以外の女子二人が知るところですね。今回のことで原作より昼食の量は増えるので食べる人の負担は大きくなりますね。描写的にはあまり変わりませんが。
ちなみにどうでもいいことかもしれませんが、明久と夏樹以外は売店か食堂なのでお昼は別々です。どうでもいいけど、微妙にどうでもよくない描写のためにここで説明をば。
次回の更新も早めに行いたいと思います。