敗者には 罰を…
ーー居場所はもうどこにもない
ーー己の糧すら 失った
私は このまま…
消えるのだろうか…
珍しく眠りに就いたある夜。どこかのビルの上、コートにうずくまり体を休めている。
これからのことを、夢うつつに考えていた。
居場所はどこにもない。自らの糧となる"古きもの"も滅びの道をたどっている。
世界の中から消えていく。私はこの世界に異質の存在…
「…」
目が覚めた。とても静かな朝だ。
「…?」
違和感。静か過ぎる。
見ればそこは、昨日いたはずのビルの上ではない。それどころか、摩天楼そびえ立つ大都市でもない。
舗装もされていない地面、僅かにある建物や大地の一部が、まるで喰われたように削られていた。
「…ここは…?」
自分が夢の中にいるのではと錯覚する。しかし感覚は鮮明に、荒涼とした大地と地平線から登る朝日を感じ取る。
風が顔の横を吹き抜ける。空気は混じりけのない程に澄み渡っている。
その静寂が掻き消された。
聞こえたのは獣のような声。
そして地面を揺らす足音。
「"古きもの"か…!?」
現れたのは、虎を思わせる体に橙のマントのついたような、巨大な化物。
(見つかっている!)
虎に似た"古きもの"ーーと小夜は思っているーーの接近を感じ、コートを脱ぎ捨て戦闘態勢に入る。
(刀…持っている)
"虎"の咆哮。小夜は駆け出し、虎の顔を横一閃切り裂いた。
だが傷はおろか体毛の一本すら切れない。あまりの硬さに驚き、一瞬動きが止まる。
"虎"の右足が小夜に迫り、それを寸前で回避する。今度はその右足に刀を振り下ろすも刃は通らず、刀が折れてしまった。
(ち…!)
一度"虎"から距離を取る。
(手強い…)
武器を失った以上、まともに戦うことはできない。そもそも、一撃も攻撃が通らない相手と戦うという選択肢は無い。
だが"虎"は小夜を逃さない。肩を出し力を溜めると、凄まじい勢いで突進してきた。
「ぐっ…あ!」
小夜のとった間合いを大きくこえ"虎"は迫ってきた。回避さえ追いつかず、近くの廃ビルの瓦礫の山に打ち付けられた。
「くっ…う…」
体を起こす。すると右手に、何か柄のようなものがあたった。反射的に瓦礫の山から引き抜くと、見たこともない巨大な剣だった。
ーー前足を狙って、切り伏せるんだーー
「…え?」
剣を握った瞬間、何かが聞こえた。
聞き覚えのあるような、
懐かしいような…、
『ガアアアアアアアアッ!』
"虎"の咆哮で我に帰る。剣の正体も声の主も謎だが、今は"虎"を倒さねばならない。
瓦礫の山から飛び降り、駆け出す。"虎"の正面から軸を向かって右にズラし"虎"の左足を切りつける。
『ガァァォォ…!』
目に見えて"虎"が怯む。二撃、三撃…切りつけ続け、とうとう"虎"が地面に倒れ込む。
「死ね…!!」
剣を両手で持ち、地面に臥せった"虎"の頭に思い切り突き刺す。
勢いで"虎"の頭が四散し、"虎"はそれ以上動くことはなかった。
「は…は…」
剣を抜き取る。
ーーこれが君の糧になる。この"虎"の血を啜るんだーー
また声が聞こえた。聞こえた、と言うより、頭に響く感覚…。
ーー時間がない。急がないとこの"虎"は霧散してしまう。さあ早くーー
小夜は倒れた"虎"の胴体に剣を刺し、抜く。剣から滴る"虎"の血を左の手のひらに集め、それを飲んだ。
「…」
ちゃんと飲める。だが"古きもの"の血とは違う感覚だ。
しかし小夜の体はちゃんと飲み込んだ血を受け取り、先ほどの戦いで負傷した部分は既に治り始めていた。
剣を見る。自分の背丈程もあるものだ。なにかが取り付けられていたような箇所があるが、もぎ取られたようになっている。
そして、あの声は…
「文人…」
ーーそうだ。僕だよ、小夜ーー
「何故、お前が…」
ーー僕にも全ては分からない。ただ、この世界は君にとって「褒美」で、僕にとって「罰」ということは分かる。僕はこの中に幽閉されているんだーー
遠くの空から、ヘリの音が聞こえた。
ーーこの世界の人、この世界の支配者であり守護者だーー
小夜は空を見上げる。軍用の趣をもったヘリコプターがこちらに向かってくる。
ーーどうする、小夜?ーー
「おそらくここに向かっているのだろう…。待ってみる。この世界のことを知らないといけない」
小夜は警戒したままそれを待った。やがて、ヘリが着陸する。
「なぁ、誰だよあれ?」
「知るか、とっとと降りろ」
年若い声が聞こえる。そして降りてきたのは、小夜の持っているものに似た大きな武器をもった、四人の若者だった。
つづく