異なる武器
それでも私は戦う宿命にあるのだろうか。
ヘリから降りてきた四人の若者は皆、小夜が持っているものと同系統と思われる武器を持っていた。どれも人が使うには巨大なものだ。
「フェンリル極東支部第一部隊隊長 神薙ユウです。アラガミ討伐へのご協力感謝します。貴官の所属を訪ねてもよろしいですか」
「…」
ーー彼らは小夜を自分たちと同じであると考えているのだろうね。倒したこの"虎"は…"アラガミ"と呼ばれている。それが分類名か個体名かは分からないけれど。そして彼らは、「フェンリル極東支部」に所属する「第一部隊」の隊員、というところだね…ーー
小夜は未だに口をつぐんでいる。表情は相手を警戒するように視線鋭く、どう返答するか考えていた。
「…オイ、聞こえてんのか」
「ソーマ、落ち着いて」
ソーマと呼ばれた、フードを被り白く巨大な剣をもった青年がいら立ったように言う。
赤い服を着た女子と、黄色い服の男子は、若干緊張した面持ちでこちらを見ている。
(あまり、こういうのは得意ではないが…)
「チッ…答える気がねぇならいい。とっとと帰投…」
「小夜だ。所属は…特にない。フリーで活動している」
ソーマの言葉を遮るように、小夜が話す。
「所属の無いフリーの神機使い?そんなの、聞いたこともないですよ」
赤い服の女子が言う。どうやらこの武器は「神機」というもの、そしてその使用者は「神機使い」、ということを小夜は新たに理解した。
「…知らされていないだけだろう。とにかく、そちらの……フェンリル極東支部に行かせてはくれないだろうか」
四人の警戒は目に見えて強まった。得体の知れない人間に家に上がらせろと言われているようなものだ。無理もない。
「一部隊の隊長が決められることではない、上に判断を仰ぎます。ソーマ、コウタ、アリサ、連絡するからその間周囲の警戒をよろしく」
隊長の神薙ユウがそう言って、少し離れて連絡をとり始める。
ーーよくでっち上げたね…と言っても無いに等しい内容だけれどーー
「黙っていろ…」
文人の声を一蹴する。人と話したのはいつぶりだろうか。そう小夜はふと思った。
少し離れた場所から、神薙ユウの声が聞こえる。
「…はい、所属もないと…ええ。それから、"腕輪"も……アラガミ化の兆候は、外面からは一切……了解しました」
ユウが通信を切る。
「小夜さん。あなたの極東支部入場を許可します。ただし行動はこちらに従って頂きます、よろしいですね?」
「…問題ない」
「じゃあ全員帰投準備。ヘリに搭乗して。帰投後は全員支部長室へ行くよ」
他の者がヘリに向かうなか、小夜はヘリとは別方向に歩いていく。
「お、おいアンタ、どこ行くんだ?」
黄色い服の男子(おそらく"コウタ")が小夜を呼び止める。
「…忘れ物を取りに行くだけだ、心配するな」
脱ぎ捨てた茶色のコートを拾い、ホコリを払って身にまとった。
(これも、大分やつれたな…)
"極東支部"、と呼ばれる場所に着いた。ヘリの上から見た限りでは、大きな建物を中心にして壁が作られており、その中で人々が暮らしているようだった。
(あの壁は、"アラガミ"から人々を守るものなのだろうか…)
第一部隊の面々に混じって歩く。ヘリの中も、支部の建物内の廊下でも、会話はなく重々しい空気だった。
"神機"が大量に置かれている所にやって来た。部屋の両側に機械群があり、神機をそこに据え付け保管するようだ。さらに壁を大量のケーブルが伝っており、まるで植物のようにも見える。
ーーここに皆、神機を預けるみたいだねーー
すると技術者らしい少女に声をかけられた。
「お客さんの神機も、一旦預かるよ」
「…」
ーー小夜、僕のことなら心配しなくて大丈夫だよーー
「…誰が貴様を心配などするか」
「ん?何か言った?」
「何でもない。…神機を宜しく頼む」
支部内を歩く。床はカーペットで覆われた、少し古びた感じのある廊下だ。布を踏む五人分の柔らかい足音だけが聞こえる。
「神薙ユウです。入ります」
"支部長室"に入室する。入ると真正面に机があり、そこに白髪の男性が座っている。
「やあ、第一部隊の諸君、任務ご苦労様。そして…きみが『小夜』君だね?私がこの極東支部支部長代理を務める、ペイラー・サカキだ。討伐協力感謝するよ」
「…」
小夜は返答せず。サカキ支部長代理は気にせずに続ける。
「さて、ソーマ、アリサ君、コウタ君は室外で待機していて貰えるかい?私とユウ君、小夜君の三人で話をしたい」
部隊員の三人を外に出す。
「さて…小夜君。君は、"所属無し、フリーの神機使い"だそうだが…聞きたいことは実に多い。何故あそこに居合わせたのか、フリーとは言うが本当の所属は?それに、そもそもなぜ『腕輪』が無いのか…聞かせて貰えるかい?」
(…話すしか、ないな…)
小夜は、話せるだけのことを語った。
気がついたらあの場所にいたこと。神機は、瓦礫の山に埋もれていたものを拾い、それであの"虎のアラガミ"を倒したこと。
神機の内にいる文人の存在、また"古きもの"や出自については語らなかった。
「腕輪なしに神機を扱う方法はないことはない。いや、"あれ"は神機ではないか…」
サカキは、小夜の話したことが真であるか偽であるか、未だに測りかねているようだ。
サカキは連絡を受けてから、事前にフェンリルのデータベースを探し小夜に関連する記述がないか調べた。だが該当するデータは無かった。
(しかし、表にでてこない人員などいくらでもいる…)
サカキが最も危惧するのは、小夜がフェンリル本部の諜報員の類ではないか、ということだった。極東支部は世界有数の激戦区、さらに「月の緑化」の原因の生まれた地だ。本部が極東支部に対して介入してくる糸口を掴むためのスパイかもしれない、と勘繰っていた。
「そもそも、今は何年だ?それにここは東京でもないのか?辛うじて日本ではあるようだが」
小夜のこの質問に、サカキは反応した。単なるスパイなら、記憶喪失者を演じるのが早いだろう。「東京」という地名を出してきたことが気がかりだった。
「君は"東京"にいたのかい?」
「ああ」
「その前は?」
「…長野だ」
サカキは次の手に出る事にした。
「我々が君のことをまだよく知らないように、君もこの世界のことをよく知らない。とも言えるかな?」
「ああ…そうだ」
「成程…では説明をするとしよう。ユウ君、ご苦労だったね。外のメンバーも含めて解散してくれ」
「いいんですか?」
ユウは、小夜を見張る必要は無いのかと言うニュアンスで尋ねる。
「心配いらないよ。彼女もまただ不安も多いだろう、お互いに信頼を築くには一対一で話すことだ。…あ、さっき聞いたことは、くれぐれも内密にね?」
「了解しました。失礼します」
そして支部長室にはサカキと小夜の二人が残った。その後小夜は、この世界の現状についてサカキから説明を受けた。
サカキは、世界の現状についての説明を細かくすることでその反応を見ようとした。途中途中、カマをかけるような話し方や、あえて間違ったことを言い、訂正するという方法で、小夜が諜報員かどうかを見極めようとした。
結果はシロ。どんなカマにも罠にも小夜はかからなかった。サカキは、ひとまずこの女性を信用してみる、と考えた。
一方、サカキの説明を聞いた小夜。
「…つまり、私のいた時代よりももっと先、アラガミが繁栄し、人類は衰退、その数を大きく減らしているといことか」
小夜はそこである一つの考えに至る。アラガミは小夜の糧になる。"古きもの"と違ってアラガミは繁栄している。つまり小夜にとっては無くなる心配のない食料だ。これで生き長らえることができる。
勝者への褒美とは、このことだったのだろうか…。
小夜は瞬時にそれを否定した。あんなものは文人が言った戯言で、このこととは関係がない、と。
ならば、自分がアラガミを糧とすることができるのは何故だろうか。もしや、アラガミは"古きもの"と同じなのだろうか。
しかし…
「では小夜君。君のこれからの生活についてだが」
考えがめぐっていたところを、サカキの声がそれを遮る。
「君はアラガミを倒すことができるが、この世界において居場所がまだない。そして我々は、アラガミへの対抗手段ならなんでも欲しい。どうだろう。極東支部所属の、神機使いとしてここで生活しないかい?」
居場所が無い。
その言葉が、小夜の心に刺さった。
文人を殺したあと、小夜は居場所を失った。サーラットのメンバーには会えない、会う資格が無いと思っていた。結局、一人なのだと。そして当てもなく都市に隠れ、生きていた。
必要とされること。居場所があること。
小夜は、意識の下で、それを欲しがっていたのかもしれない。
「配属は追って通達するけれど、おそらく君には第一部隊に所属してもらうことになると思うよ」
過去の経験がフラッシュバックする。自分が集団に入ると、そこに不幸が起きた。自分の周りで人が死んだ。自分の周りにいたかつての人間のことを考えずにはいられなかった。
「……分かった」
こうして、小夜はフェンリル極東支部所属の神機使いになった。
世界が変わって、持つ刀が変わっても、やることは変わらず、化物を殺し人を守ることだった。
(あの時…守れなかった分まで…)
時系列についての補足説明。
BLOOD-Cは劇場版の後、GOD EATERはリザレクションの後です。なのでそれまでの既存ストーリーに加わるといったことはしません。