ユウの独白を聞いた日から数日。小夜は、神機の月末メンテナンスということで預けていた神機をその終了と出撃準備に伴い、神機保管庫に受け取りに向かっていた。
神機が並ぶ庫内で、自分の神機を見つけ、それを取ろうとする。その時、声を変えられた。
「ちょっと良いかな?えっと、小夜さんだっけ」
声をかけてきたのは若い女性、いや、まだ女子と言える、整備士とおぼしき人だった。
「私は整備士の楠リッカ。オーバーホールの結果から少し伝えたいことがあったんだ」
「何だ?」
「あなたの神機…第一世代のその神機なんだけど、どうも損耗の程度が著しく低いんだ」
リッカは、小夜の戦闘能力がかなり高いとしても、最低限発生する損耗、神機でアラガミを切りつけた時に発生してしまう分は存在するはずだが、それが少ないと言った。
「どういう原理でそうなっているのかはわからないけど、ひょっとすると神機自身が自己修復をしているのかもしれない。そうなればとてもすごいことだよ」
「なるほどな…」
「何か、思い当たる節があるの?」
小夜は、神機内に幽閉されている(あるいは神機自身?)文人が何かしらの作用をもたらしているのだろうと思った。もちろん、リッカの問いかけについては「いや、ないな」と返した。
「自己修復の推論が本当なら、是非ともそれのメカニズムを解明したいからね、榊博士もきっとそう思ってるだろうし。…しっかり、生きて戻ってきてね」
そういうと、リッカは去っていった。
(生きて戻ってきてね、か)
単独出撃の任務の最中、神機(文人)に話しかける。
(自己修復、まぁそうなるかな)
「ということは、お前自身が神機なのか」
(いやいや、前にも言った通り「幽閉」だ。これは「罰」だからね。ただ、神機の中から神機自身に働きかけることはできる)
「…余計なことはするな」
(小夜へのささやかな気遣い、優しさだと受け取ってほしいなぁ、なにせこの異世界で二人だけの同士でだろう?)
「死ね馬鹿者」
任務は中型種の複数討伐。単独任務には少々ハードな任務だ。極東支部は慢性的な人材不足で、こう言ったことはよくあるそうだ。
「あの支部長だという研究者の男も人使いが荒いな」
(小夜、後方6時からコンゴウ堕天急接近)
文人の声に反応し、小夜が後ろを見ずに空中に飛び上がる。直後、足元をコンゴウ堕天が通過する。完全に背後をとって、アラガミを一刀両断する。
「まだいるのか…」
ブリーフィングで聞いた以上のアラガミの量だ。
小夜は神機についたアラガミの血を手で集め、一飲みする。
「次だ!」
赤い目の小夜が、神速の勢いで駆け出して行った。
任務終了。小夜の周りには、おびただしい数のアラガミの死体が転がっていた。
小夜は息を切らしながら、多量の返り血に染まっていた。
(ーーー興奮した?小夜)
「!…ふざけるな…」
文人の言葉に一瞬核心を突かれた小夜は、そう返すことしかできなかった。
(もしかすると、これが”褒美”なのかもね。小夜の望んだ、闘争と生きるための糧が無尽蔵にある世界。ここなら君は全ての欲求を満たして、たとえ彼ら…人類が皆滅んだ後でも生き続けることができる)
「黙れ…」
(人を殺せない暗示さえ解ければ、彼らを殺して君がこの世界でただ一人君臨することができる、そうすれば永遠の命だ。それに、どっちみちこの世界はアラガミの生態系に飲まれるしか道がない。君が守りたいと願っても…)
「黙れ!!」
小夜は身の火照りがおさまらないのを感じていた。
考えたくなかった。自分の血が戦いで沸騰したように熱くなり、アラガミの血を吸って満足感を得ていたなど。
小夜は、その場から逃げるように帰投した。
再び、神機保管庫にやってきた。神機を一刻でも早く格納し、自室に戻りたかった。
「あ!お帰りなさい小夜さん、無事だったんだね、よかった…」
「あ、ああ…ただいま」
「ヒバリ…オペレーターの人たちから聞いたけど、大変だったって聞いたよ?想定外のアラガミが次々乱入したって、しかもその後レーダーにジャミングが入って通信もろくにできなかったって…心配したよ」
「そんなことになっていたのか?」
「気づいてなかったの?なかなか太い神経してるね…」
周りの見えないほど自分は戦いに歓喜していたのだろうか。
「とにかく生きて戻ってきてくれてよかったよ、ゆっくり休んでね!」
そこで小夜は数日前、死亡した神機使い達を思い出す。彼女、リッカは、今までこの神機保管庫から神機を持って戦いの場に行き、そして戻ってこなかった神機使いを何人も知っているのだろう。今日の状況を聞いた時、また不安に駆られたのかもしれない。
「…リッカ」
「何?」
「心配をかけた。すまない」
「…うん。ゆっくり休んでね」
小夜はそう言って僅かに微笑み、保管庫を後にした。