その画像を見て教室は静かになった。
黒板に映し出された巨人の画像を作りものだと思う者が大半だった。
しかし、そんな中でとても驚愕した人物が一人いた。
「そ、んな……バカな」
織斑千冬 その人だった。
「れ、零君。これは?」
山田先生がずれた眼鏡を直しながらゼロに問いかける。
そして山田先生の方を見たゼロの顔はとても真剣な、そしてその人物を尊敬していることが分かるような顔をしていた。
「……この写真の人物はウルトラマン」
「ウルトラ、マン?」
「あぁ、それについての説明だけど……」
また手元の機械を操作して別の画像を出す。
ゼロはそれを見ながら解説を始める
「身長は約40メートル、体重は3万5千トン、年齢は約2万歳」
「「「「「はぁ!?」」」」」
「ん? どうしたんだ?」
「いやいやいやいや!!」
「なんでそんな事まで知ってんの!?」
「何でって……知っていないと教えられないだろ?」
「いや、そうだけどそうじゃない!!」
「……あぁ~みんな。確かに気にはなるけど、今はまだ説明を続けているんだし取りあえずは聞こうよ」
騒然となった教室の中で唯一落ち着いていたマグマによって取りあえずは全員が落ち着きを取り戻して話を聞くことに。
マグマは視線で「続きを」とゼロに促し、ゼロも頷いて続きを話し続ける。
「それじゃあ続けるぞ。飛行速度はマッハ5で全力を出したISよりは早いくらいかな?」
「あ、ISよりも早いだなんて……」
「で、走行速度は時速400キロメートルで水中速度は200ノット、ジャンプ力は800メートル」
「は、走るだけで時速400キロメートルって……」
「本当に化け物じゃない」
「いや、ジャンプ力も凄いと思うけど」
次々に分かるウルトラマンの情報にざわつぎが収まらない。
そんな中でも関心を持っていたのは一夏と千冬だった。
「腕力は10万トンタンカーを持ち上げる程で職業は宇宙大学教授、宇宙警備隊銀河系局長だな」
「え!? 宇宙にも大学なんてあるの!?」
「有るんじゃないかな?」
「「「「「「「そんなアバウトな!?」」」」」」」
ゼロの適当な返答に全員が叫んだ。
しかし、そんなゼロに不満を持ったのか再び女尊男卑の生徒達が騒ぎ始める。
「ふん! そんな妄想じみた内容が本当なわけないじゃない!!」
「そうよ! 出鱈目言うにしてももう少しまともな事言えなかったの?」
「これだから男は……」
女尊男卑の生徒からの批判を受けてもゼロは少し苦笑いするだけだった。
「まぁ、これを君達が妄想と言いたくなる気持ちも……分かりたくはないが分かった。でも、これから話す内容だけは俺の、いや、俺達が真実だと保証する」
ゼロのその目には嘘の色が存在せず、それどころか光り輝いていた。
そこからゼロは語り出した。
「今から何千年も昔、ウルトラマンは地球に降り立った」
「彼は『宇宙の平和を乱す悪魔のような怪獣』と呼ばれる宇宙怪獣ベムラーを追いかけていたんだ」
「レイレイ~そのベムラーって何?」
「ベムラーとはこいつの事だ」
手を挙げて質問する本音の疑問にゼロはまたも画像を出して答えた。
そこに映し出されたベムラーの姿を見て女生徒は悲鳴を上げた。
「こ、これがベムラー?」
「そうだ、これが『怪獣』だ」
「こ、こんなのを追いかけていたなんて……」
「そしてここからウルトラマンの戦いが始まったんだ」
ざわつきが収まるのを見計らってゼロは偉大な男の戦いの歴史を語り始めた。
そのゼロの真剣な話し方に最初は馬鹿にしていた生徒も次第に真剣に聞き入っていた。
「……と、言う事だ。何か質問は有るか?」
「えっと……」
「何て言うか、その」
「うん? どうした?」
「その、ウルトラマン?が何千年も昔に降り立ったって……私達聞いたことも無いんだけど?」
「そ、そうだよ! そんな存在がいたらもっと昔から教えられているはずでしょ!?」
一人の発言から爆発的に広がったその疑問に飛びついてゼロを批判し始める女子生徒達。
しかし、そんな様子を見てもゼロは嫌そうな顔をしないで口を開く。
「それはそうだ。なぜならこのウルトラマンは……別の宇宙で活躍した宇宙人だからだ」
その発言で再び教室が静寂に包まれた。
一番最初に言った宇宙人は存在する発言と同じかそれ以上の爆弾発言にその場の全員の目が点になっていた。
「そうだな、……例えばみんなはパラレルワールドって知っているか?」
「それって、あれですか? ある世界や時空から分岐して、それに並行して存在する別の世界ってやつ」
「そうだ、それの事をマルチバースとも言うんだがな」
そこからはアストラも解説に参加し始める
「まぁ、簡単なたとえ話をするとすると僕が自動販売機で水かお茶を買うかで悩んでいるとするね。そして僕が水を買った世界、それとは別にお茶を買った世界。はたまた両方を買った世界、それか何も買わなかった世界なんてものも他のパラレルワールドには存在するかもしれないんだ」
「結構分かり易い説明、ありがとうなアストラ」
「これでも一応、君の補佐代わりだからね」
「あ、あの!」
「ん? 質問か?」
「えっと、……何で、ウルトラマンはベムラーと倒した後もその、地球を守ってくれたんですか?」
「う~ん、そうだな。彼はこう言っていた「私は、人間が好きなんだ」って」
「人間が、好き?」
「あぁ、彼はそう言ってそれからもずっと地球を守っていたらしいんだ」
「そう、ですか」
ゼロの答えに納得したのか未だに納得しきれていないのかそんな表情をして質問をした生徒は席に着いた。
そしてその生徒に続くように手を上げ始める生徒達。
「それじゃあ、相川だっけ? 質問、良いぞ」
「やった! えっと、さっきのウルトラマンの能力とか色々聞いたけどあんな神様みたいな存在なのに出来ないことなんてあるの?」
「……あぁ、有るぞ」
「へぇ~意外」
「それとな、相川」
納得したのか席に座ろうとした相川をゼロは呼び止める。
そしてゼロは相川の目をしっかりと見て口を開く。
「確かに、ウルトラマンは人間から見たら神様みたいに思えるかもしれない。けどな、彼にも、いや彼らにも出来ないことは有るんだ。」
「でも、彼らはどんな絶望的な状況下でもある事をしていたんだ。なんだと思う?」
「……分からないよ」
「彼らは……諦めなかったんだ」
「諦めなかった?」
「あぁ、かつて一人の戦士がウルトラマンに悩みを告げた事が有ったんだ。その時にウルトラマンはこう答えたんだ」
『我々ウルトラマンは決して神ではない。どんなに頑張ろうと救えない命もあれば、届かない思いもある。大切なのは最後まで諦めないことだ。』
ウルトラマンの残した言葉、これを聞いてその場の全員は心に何かが灯ったのを感じ取った。
そしてゼロは再び口を開く。
「だから、人間からしたら神様に見えるかもしれないけどウルトラマンだって生物だ。出来ないこともある、でも絶対に諦めないから神様みたいな奇跡をずっと起こし続けてこれたんだ」
「……うん、良く分かったよ」
「そうか、それは良かった」
相川に笑いかけてゼロは他の人の質問を再び聞き出す。
授業が終わりに差し掛かった時、最後の一人が手を挙げた。
「その、御二人は何でそんなにウルトラマンについて詳しいんですか?」
その質問にゼロとアストラは顔を見合わせた。
正直に自分の正体を言うか? いや、それは不味いでしょう。
こんな感じのアイコンタクトを取っていたがそこで唐突にレオが口を開いた。
「それは、俺達が直に有った事が有るからだ」
「え?」
キーンコーンカーンコーン
「む、時間か。それでは、今日はここまでだな」
レオの衝撃発言の直後にチャイムが鳴りレオとアストラはそそくさと教室から出て行ってしまった。
その後に続いてゼロも教室を出ようとしたがクラスメイト達に捕まって出ることは叶わなかった。
「ちょちょちょちょ!? 零君、さっきの発言はどういう事かな!?」
「あのウルトラマンと直に会ったって本当!?」
「どうだった!? 凄かった!?」
「ま、待て待て待て!! 質問には答えるから取りあえずは落ち着いてくれぇ!!」
ゼロは後に「地球人って凄くパワフルで怖い」と語ったそうな。
「さて、それでは授業を始める……おい、零は何で燃え尽きているんだ?」
「千冬姉、それはツッコまないでやってくれ。零は死ぬほど疲れているんだ」
「そ、そうか……それと学校では織斑先生だ」
「いってぇぇ!!」
「おい、布仏。棒で諸星を突いてやるな」
「は~い」
真っ白に燃え尽きた零を本音は何処から持ってきたのか木の棒でツンツンと突いてみるが反応が無かった。
その様子を見て流石に心配になったのか本音は零を揺さぶっていた。
「ああ、その前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな。クラス代表者とはそのままの意味だ。対抗戦だけではなく、生徒会の開く会議や委員会への出席……まあ、クラス長だな。ちなみにクラス対抗戦は、入学時点での各クラスの実力推移を測るものだ。今の時点では別に大した差は無いが、競争は向上心を生む。一度決まると一年間変更は無いからそのつもりで。誰か立候補はあるか?推薦でも構わんぞ?」
「はいっ! 俺は織斑くんを推薦します!」
「私もそれがいいと思います!」
「では候補者は織斑一夏……他にはいないか?」
「え……お、俺!?」
「織斑。席に着け、邪魔だ。さて、他にはいないのか?いないなら織斑に決まるが」
「ちょっ、ちょっと待った! 俺はやらな……」
「推薦された者に拒否権は無い」
「そ。それだったら俺は零を推薦する!!」
「………」
屍のような状態のゼロは何の反応も示さない。
そして一夏の推薦の流れに便乗してか他の生徒が次々とゼロを推薦し始める。
「あ、それじゃあ私も!!」
「私もレイレイを推薦する~」
「ふむ、それでは候補生は織斑と諸星の二人で良いな?」
「待ってください! 納得が出来ませんわ!!」
候補者を絞り込めたと思った矢先に、教室の後方から異議の声が上がった。
その声でようやく再起動をしたゼロは状況が掴めずに本音に聞くことにした。
「なぁ、本音。今はどんな状況だ?」
「えっとね~このクラスの代表を決める事になってレイレイとオリム~の一騎打ちになるはずだったんだけど~」
「そうか……って、待て! なんで俺まで選ばれているんだ!?」
「私が推薦したから~」
「なにしてくれてんだ!?」
「そのような選出は認められません!大体、男がクラス代表だなんていい恥晒しですわ!わたくしに、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」
「……で? さっきの金髪の子がなんか言っているけどあれは?」
「レイレイ達がクラス代表になるのに反対してるんだって~」
「そうなのか……」
「実力から行けばわたくしがクラス代表になるのは必然。それを、物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります!わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスをする気は毛頭ございませんわ!」
「……結構問題発言してないか?」
「してるね~日本人の子達の顔を見て見なよ」
本音に言われるがままにゼロは辺りを見渡してみると日本人の生徒達はとても不快そうに顔をしかめていた。
この光景を見て流石に不味いと感じたのかゼロが声をかけようとする。
「な、なぁセシリ「いいですか!?クラス代表は実力トップがなるべき、そしてそれはわたくしですわ!大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で――」
「イギリスだって大してお国自慢ないだろ。世界一まずい料理で何年覇者だよ」
ゼロを無視して話していたセシリアに文句を言ったのは一夏だった。
しかし、その言い方がまずかった。
「なっ……!?」
一夏の発言にセシリアが真っ赤な顔して怒っている。その様子を見てゼロは思った。
(あぁ~グレンに焼き鳥焼き鳥言われまくって本気でキレた時のジャンボットみたいだ)と。
「あっ、あっ、あなたは!わたくしの祖国を侮辱しますの!?」
「先にバカにしたのはそっちだろう!?」
「決闘ですわ!」
バンッと机を叩いて叫ぶセシリア。そしてその様子を見てかつての自分を思い出すゼロ。
(懐かしいなぁ、俺もグレンと初めて会った時は思いっきり戦ったっけ?)
「いいぜ。やってやるよ」
「ふっ、私に歯向かった事を公開させてあげますわ。それと……そこの貴方!? あなたもやるんですのよ!」
「は!?」
懐かしい事を思い出していたゼロになぜか飛び火する。
その時のゼロの顔は「鳩が豆鉄砲を食ったような」と言って良い感じの顔だった。
「何自分は関係ないって顔してますの!?あなたも推薦されているんですから決闘に参加するのは当たり前でしょう!」
「ええ~」
「なんだよ零! お前、日本をあんな風に言われて悔しくないのかよ!?」
「いや、そう言われてもな……」
「ふん! どうやら貴方は戦う事も出来ない腰抜けの様ですね」
「……はぁ。あんまりこういう事は言いたくないんだけどさぁ」
「あら? 何ですの?」
「いやなに……少しは相手の実力も分からないで喧嘩を売るのはやめておけって忠告さ」
セシリアの発言を受けてゼロの纏う空気が変わった。
そのことに気が付いたのは千冬と箒、そして山田先生だけだったが。
「俺は君の戦う姿を見た事が有るわけでは無いけど……君くらいの相手に負けるとはとても思えないよ」
「なっ!? この国家代表候補生の私が貴方みたいな人に負けるですって!?」
「まぁ、そういう事になるんじゃねぇかな?」
「ふ、ふざけないでください!! 私はこの学園の入試で唯一教員を倒したのですわよ!!」
「へぇ~そうなのか。千冬、それってアンタと戦ったって事か?」
ゼロはセシリアの発言を聞き、千冬に聞いてみる。
その馴れ馴れしい感じに全員が驚いたが千冬はそこにはなぜか触れず、ゼロの質問に答える。
「いや、私はオルコットとは戦っていない。戦ったのは他の教員だ」
「そっか……」
「ふん! これで分かったでしょう? 私の方があなたより優れ「あぁ言い忘れていたよ、オルコット」……なんでしょう?」
セシリアの高々とした勝利宣言の前に千冬が口を開いてそれを止めた。
自分の方が優れているという発言を途中で止められたせいか少し不機嫌そうなセシリア。
「いや、なに……そこの諸星だが間違いなくお前より、いや、……この学園の誰よりも強いぞ?」
「…………え?」
千冬の発言を受けてそんな疑問の声は一体誰の口から洩れた物だったのか。
しかし、その場の全員が千冬の言った言葉の意味を理解できていなかった。
ゼロがこの学園の誰よりも強い? まだISについて全然知らない筈の男が?
「こいつはな…………入試で私と戦って見事に勝利して見せたのだ」
「「「「「「「「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!??」」」」」」」」」」」
千冬のその発言で1年1組の全生徒は驚きの声を上げるのだった。