ソードアート・オンライン 約束のその先で    作:ココシマ

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急展開ですみません…。
オリジナルの設定が若干、多く含まれます。ご了承ください。

《観察スキル》:戦闘系スキルの一種で敵の情報やアイテムの情報など様々なものの情報を読み取れるスキル。


episode10 白熱の大将戦

 1000人に及ぶ観客から浴びせられる無数の視線には胸が痛くなるほど緊張させられた。

 見上げて、首を巡らせれば、多くの目が自分を見ている。この状況が自分にとっては苦痛でしかなかった。

 目の前には高揚した様子で剣を構える青年が1人。今から彼と《デュエル》をすることになる。事実、彼らの間にしか見えないカウントダウンはもう既に30秒を切っていた。

 渋々と《イフリート》と《フェンリル》を構えた。

 

「はぁ、やるんじゃなかった」

 

 この場に巻き込まれた原因は2日前に遡る出来事のせいであった。

 

 

 

 

 

 

 ヴェルフの店で他愛もない話をしている時だった。アスナが突然、扉を勢いよく開け、必死の形相で叫んだことから事は始まった。

 アスナ曰く、第二十二層で助けた《革命騎士団》の団員たちの吹挙により、《英雄颯爽》と《革命騎士団》によるギルド1の座と絶対的な決定権を争う3体3の試合の選手として候補されたらしい。

 後は流れのままに団長のルドルフに呼び出され、丁寧な説明付きで懇願された。

 無論、第一声目は断った。人目に出る事を嫌うネイトにとっては最悪のイベントでしかないからだ。しかし、ネイトは《革命騎士団》側の意見に大賛成というのもまた事実。

 《餓えた狩人(ハンガー・ハント)》を黙視するのは心が痛いが、二次災害が否めない。ここで、多くの攻略組プレイヤーが失われれば、ゲームクリアから足が遠退く可能性がある。

 そして、一番大きな理由がネイトには密かにあった。候補として名が挙がったのはネイトだけではなく、《革命騎士団》の団長、副団長、そして、アスナだった。もしも、ネイトが断れば、当然選ばれるのはアスナ。これは絶対に避けなければならない、と強く思っていた。

 単に彼女にこのような経験をして欲しくないという理由もあるが、男としての意地というか何というか言葉に表せない合理的でない感情があった。

 結局、団長の発破と執念もあって、これを受諾した。

 

「やるからには勝ちます」

「期待してるよ、ネイト君」

 

 

 

 

 

 

 思い出すだけでも不快だ。あそこで押し負けた自分に一喝を入れてやりたいくらいだ。

 自分に視線を掻き集める観客を見るたびにそう思う。

 しかし、観客の中から眉をひそめて心配するアスナの視線と視線が合った時、その後悔は吹き飛んだ。彼女がこの場に立つ未来に比べれば、よっぽど良い。こちらの感情が後悔を上回った。

 さて、敵は間違いなく、強敵だ。経験上で分かるが、事実上でもそうである。

 団長の計らいで唯一、戦わなくて済むかもしれない大将にネイトを抜擢してもらったが、裏目に出たようだ。一番大事な立場になってしまい、しかも、敵は《英雄颯爽》の大黒柱ときた。

 見るからに武器は片手用直剣だ。双剣使いのネイトとしては有利なのは確か。だが、本来、片手用直剣を握る者はもう片方の手に武器や盾を握られるという利点がある。それを放棄するほどの理由があるとなると怪しい。

 手数はネイトの方が多い。利点を活かしつつ、丁寧な試合運びをすれば勝てないことは無い。

 残りカウントは20秒。手に汗握る瞬間は直ぐ目の前にある。

 だというのにも関わらず、敵は堂々と話しかけてきた。

 

「ねぇ、キミは強いの?」

「……」

「だんまりしないでよ。僕はベル。名前くらいは教えてよ」

「……ネイト」

「ネイトさんだね。よし、覚えたよ」

 

 残りカウントは10秒。

 彼の口が開く。まだ喋るつもりか。

 

「僕、ずっとこの時が楽しみだったんだ。だから最初から――」

 

 刹那、背筋が凍るほどの狂喜染みた殺気が全身を包み込んだ。

 

「――本気で行くよ」

 

 ――瞬刻。

 ベルの顔から悦楽の色が消え、冷血な殺戮者が滲み出たような狂気的な表情へと一変した。

 初めて殺気と表情だけで見の危険を感じた。瞬く間に肉薄したベルの顔に動揺を見せる間もなく、咄嗟に剣を構えて、防御の姿勢を取る。

 

「っ!?」

 

 激しい衝撃に吹き飛ばされ、地面に足を擦り付けながら、体を静止させる。

 顔を顰めながら、ゆっくりと見上げる。

 驚きと喜びが混じり合った不可解な表情を滲ませたベルの顔に顔が引き攣るほどの不快感を覚える。

 

「へぇ、あれを防ぐんだ……楽しみだなぁ」

「っ、楽しくねぇよ」

 

 苦笑いを浮かべながら、剣を構える。

 本気で、殺すつもりで挑まなければ、確実に負けることを悟ったネイトの表情が一転。

 眦を鋭くし、駆け出す。恐ろしい速度で迫る狂気の顔を真っ直ぐに睨み、臆さない。 狂った眼と対等に睨み合えるだけの精神力と実力がネイトにはあった。

 ネイトの斬撃の圏内にベルが入ったとほぼ同時に《ダブルサーキュラー》の刺突と斬撃の2連撃が叩き込まれる。これを容易く、防いだベルは不敵な笑みを浮かべながら、一閃する。だが、これを軽いステップで躱したネイトが猛攻を仕掛ける。

 

「っあああ!」

 

 唸り、ネイトの剣が十字を描く。次々と目に止まらぬ速さで2本の剣が乱雑に踊るが、これを掠り傷1つなく、躱すか、防ぐかであしらってみせるベル。

 2本の剣による数々の一閃を全て1本の剣だけで対処し、尚且つその顔からは不敵な笑みを絶やさない。流石のネイトもこれには焦燥を感じざるを得なかった。

 ネイトは鮮やかな火花が舞い散る中、飽きっぽい表情を浮かべたベルの目と目が合った。

 

「速いだけで読み易い、よッ!」

「ぐっ」

 

 下段からの振り上げを、剣を十字に交差させてその交点で防ぐ。しかし、ネイトの体は真上に吹き飛び、奇妙な浮遊感に襲われた。直後、体が一瞬静止し、ものすごい勢いで落下していく。

 垂直落下していくネイトの真下では剣を振り翳し、待ち構えるベルがいた。その握られた剣の刀身は赤いライトエフェクトを帯びて、ソードスキルの発動を示す。

 全身に悪寒が走る。前転で姿勢を正し、剣を構える。そして、来るべき衝撃に備えた。

 

「《ウィンガル》」

 

 詠唱の後、振り下ろされた剣は暴風を巻き込むようにして纏い、ネイトの双剣と衝突する。

 内臓まで響くような衝撃。垂直落下していた体は急激に進路を変えて地面を凄まじい勢いで転がった。

 喘ぎながら、顔を上げる。剣は2本とも手にある。HPバーは運よく1割削られただけですんだ。

 さて、思考するべき件を脳裏に浮かべる。

 彼が放った《ウィンガル》。見たことの無いソードスキルだった。風を巻き込み、剣に纏わせ、威力を高めてそれを振り下ろす。

 そして、驚くべきことは正にこの後だった。

 

「風を操っている……?」

 

 ソードスキルとは本来、システムアシストに合わせて自発的に体を動かすことで威力と攻撃速度を大幅に上昇できるもの。硬直時間や使用間隔という欠点もあり、決してアシストを妨げるような動きはあってはならない。

 しかし、彼は今も尚、剣に風を纏わせながら、自身の自由な意思が伴った動きをしている。魔法が存在しないSAOⅡにおいて、剣に何らかの属性や効果を持たせ、可視化するほどの現象を付加させることなど聞いたことがない。

 

「驚いているようだね。これが僕のユニークスキルさ」

 

 ユニークスキル。その言葉を聞いて合点がいった。名の通り1人のプレイヤーに与えられる特有のスキル。ゲームバランスを大きく歪ませるほどの強力な性能を有しており、その習得には相当な時間が必要な筈。

 この段階で習得しているのは早すぎる。

 

「名前は《魔法剣士》。様々な属性を片手剣のみに付加でき、その属性に応じて様々な効果を発揮する。使用時間は限られているし使用間隔はけっこう長いのが残念だけど、硬直時間はなし。凄いでしょお」

 

 子ども紛いの自慢に苛立つが、その力は本物である。

 ネイトは口角を釣り上げた。道理で強い筈だと納得できた。先程まで自分が有利だと勘違いしていた時が恥ずかしい。

 

「じゃあ、時間も惜しいし……始めようか」

 

 単に試合を再開しようと言っているだけなのだが、妙に恐ろしい。早く殺してしまいたい、そんな風に聞こえてくる。

 観客から降り掛かる盛大な歓声は最早、ベルの味方に付いている。観客までもを味方につけ、最強のユニークスキルを暴露し、常に笑みでいられる余裕を持つ。

 どこに付け入る隙があろうか。否、作るのだ。

 勝ちはほぼ絶望的ではなかろうか。否、滾ってきた。

 

「やってやる」

 

 嬉々とした声を出し、猛進する。

 振り上げた単調な斬撃は空を切り、薙ぎ払いは剣で軽くあしらわれた。

 諦めず、果敢に剣を振るう。敵の剣との衝突で起きる軽い衝撃は恐らく、奴のいう属性の効果というものだろう。風から連想されるのは言うまでもないが、ノックバックだろう。それは敵の斬撃でなければ、発動しないらしいが、衝突するだけで軽く発動するのは厄介だ。

 猛威と言うに相応しい剣戟をベルは見事に対応して見せる。捌きつつ、時折、見せるベルの反撃は全て空を切っていた。

 少し距離を取ったネイトが再びシステムアシストに合わせた動きで《ダブルサーキュラー》を放つ。しかし、1撃目の刺突を受け流され、2撃目は速断で中断。そのまますれ違うと見せかけ、足首を強くひねって、ベルの腹に向けて突き込んだ。

 

「甘いよ」

 

 腰を捻って躱され、更に攻撃の機を与えてしまう。横一線に振るう薙ぎ払い、ネイトはこれを予期した。

 ネイトは驚異的な動きで身体をのけ反り、薙ぎ払いを躱す。更に思い切り蹴り上げて体を回転させ、剣を振るって反撃に持ち込んだ。

 すっとベルの横腹に傷が入る。しかし、ネイトの剣先が掠っただけでその動きに見合っただけでのダメージは与えられない。

 ネイトは曲芸人紛いの動きでステップ。しかし、これを見切ったベルは逃すまいと風を纏った剣を振るう。

 ひゅおん、という風を引き裂くような音が鳴り、次の瞬間に剣と剣がぶつかる。

 強烈な一閃を防御したネイトが放物線を描いて後ろに跳ぶ。それはノックバックを出来る限り押さえるためのネイトの策だった。だが、ノックバックを完全に消す事は出来ず、やや体が仰け反るが、大事には至らない。

 

「知ってるとは思うけど、風の効果はノックバック。そんなに攻めてきて良いの?」

「避ければ良い……そうだろ?」

「ふふ、君はやっぱり、面白いね」

「褒められた気はしないな」

 

 2人の会話には最早、愉快さすら感じられる。だが、その奥に秘めた、突き刺すような攻撃的な心意の数々はまるで、対話するだけでも争っているに見える。

 その真意を知ってか知らずか、お互いの好ましい洗練された会話に会場が歓喜の声を上げる。場の盛り上がりは十分だ。2人は場を盛り上げる演者のようであるが、その真相はただ純粋にお互いを斬り合う闘士。場の雰囲気など気にもしていなかった。

 数秒ほどの睨み合いをした直後、ほぼ同時に全速力で地を蹴った両者が激しい剣戟を繰り広げる。

 ネイトは怒濤の猛攻を仕掛け、隙あらば、襲いかかってくる必殺の剣を死に物狂いで避ける。

 ベルは鬼の様を思わせる気迫を纏ったネイトの猛撃を全て防ぎつつ隙を見つけ出して、猛威を振るう。

 

「はぁあああ!」

「っせあああッ!」

 

 激しく剣がぶつかる。ネイトが吹き飛ばされ、地面を擦過する。

 腕に伝わる痺れ。つい、躍起になって、剣に触れてしまった。押し負けることは確実だ、と改めて言い聞かせ、剣を構える。

 ネイトが歩み出ると、ベルが先に仕掛けた。薙ぎ払うように剣を振るう。

 直後、コロシアムの砂煙が舞い上がり、ネイトを飲み込んだ。思わず、目を塞ぎ、腕を被せる。

 接近する足音。追い立ててくる気配。鮮明になる殺意。それらを頼りに敵の位置を判断し、がむしゃらに剣を振るう。ひゅっと砂煙に1本の筋が入る。

 微かに見えた屈み込む影。振り上げられるのは真っ赤に染まった剣。

 それが炎だと気付いた直後、身体を熱が飲み込んだ。

 砂煙の中央で赤い閃耀が煌めく。突如、観客たちを襲った風と砂と熱は圏内システムの保護により、何らかの影響を与えることなく、消えた。

 激痛に顔を顰めながら、たたらを踏む。背中に何かが当たった。コロシアムの端まで来てしまったようだ。

 

「っ……」

 

 HPバーを一瞥する。もう4割なくなった。残りあと1割で負けが確定する。あの時の咄嗟のガードが無ければ、きっと今頃、敗北の報せを見ていたに違いない。

 砂煙が晴れる。堂々と立っていたベルの剣は既に真っ赤な炎を包んではいなかった。あの強大な1撃は1発が限界らしい。

 戦闘狂ではないが、追い詰められ、新しく追加されたモード、《強制復帰》のためシステム上、この《デュエル》で死ぬことはあり得ないのだが、緊迫した空気と明確な殺意でHPバーが可視化された命のように見える。

 だからこそ、敵を殺すという明確な意志で、冷酷無情になれた。もしかしたら、命の危険を錯覚し、本能的に勝ちを求めた結果かもしれない。

 

「そろそろ……終わりにしようか」

「ああ」

 

 途端に短く話を切り、研ぎ澄まされた両者の眼がお互いを噛み殺す獣のように光る。

 

「「……」」

 

 その緊迫された様子に騒ぎ切っていた観客たちが固唾を飲んで見守る。皆が唇を食い締めて黙り込み、会場が静謐に統一された。

 石のように堅くなり、全身が緊張する。思えば、嫌々で臨んだこの《デュエル》。今となっては、高鳴る心臓の音がはっきりと聞き取れるほどに昂然としている。

 どういった動きで攻めるかはもう心に決めている。あとはその時を待つだけだった。

 今や、2人の間に観客という存在はいない。この試合本来の最終目的も眼中にない。あるのは勝利か敗北か。

 刹那、お互いの体が深く沈んだ。

 熾烈を極めた熱戦が後半戦へと突入する。

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