ソードアート・オンライン 約束のその先で    作:ココシマ

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オリジナルの追加点が少し多いのでこれから、この前書きにて補足説明させてもらいます。では早速。

・スキルは武器を持った時点で自動変更
・二刀流は通常スキル扱い

となって、おります。ご了承ください。



episode2 斥候は程々に

 レベル7。自分のステータスを確認しながら、ほぼ無味のパンをかじっていた。

 もうすぐレベル8に到達するというところで、防具の耐久値に危険を感じ、昼食を取りに『はじまりの街』に帰って来たところだった。

 第二のデスゲーム開始を告げられ、早一週間が過ぎ、二週間が過ぎようとしている。

 周りを見回せば、この世界に慣れつつあるプレイヤー達が愉快に生活している。その光景を微笑ましいと見るべきか、危機感がなさすぎるとお灸をすえるべきか。ネイトは前者に属していた。

 理由は簡単だ。言うまでもないが、心の底では攻略の手助けをして欲しいと思っている。だが、一方で三年前のたった一か月で2000人の死者が出たという驚愕の真実を目にしているからこそ、この光景が安らぎにすら思えたのだ。出来れば、このまま、平穏に何事も無く暮らしていてほしい。

 辛い思いをするのは自分だけで十分だ。

 そう自分を悲観するのは悪い癖だが、今回ばかりはそう言ってはいられない。

 

(俺達の問題……だからな)

 

 パンを食べ終わると、一度、路地に通り抜け、大通りに出る。ここもまた平穏な人達で大盛況かと思ったが、案外そうでもないようだ。

 武装した幾つかの人の集まりが点在しており、何やら苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。原因は分かっていた。

 第一層のボス部屋を早くも発見したとの情報が流れているのだ。早すぎる展開か、と思われるが、この世界は旧SAOを題材にした世界だ。迷宮区の実体や攻略の道筋はほとんど変わらず、ゲームクリアへの近道を知る者も多い。体験者もいるのだ。

 しかし、第一層のボス部屋の目撃情報があったからと言って、各パーティーの面々の表情が一変するとは思えない。恐らく、彼らが眼にしているのはフロアボス攻略に向けての招集があるのだ。もちろん、強制ではないだろうが、行くか否かで迷っているのだろう。

 ボス部屋を発見したからといって、ボスの力の領域が分かる訳ではない。つまり、未知との遭遇になる。嫌な予感が的中し、圧倒的な力の差を見せ付けられるかもしれないし、楽観的な身構えだけで勝てる弱小かもしれない。

 皆、恐れているのだ。自分の命が危険に晒されることを。当然といえば、当然な話だ。

 ここで、巡る思考を止める。足も止め、『生命の碑』の前に立った。

 見回せば、人の気配は無く、黒鉄に全方位を囲まれた宮殿の中は外の騒めきを取り込みつつも森閑としていた。

 見上げるほどに大きく、横長の黒い碑。

 

「百十二名……か」

 

 クリアした時、二度と拝むことはないだろうと思った、『生命の碑』。その外見は差し込む日光を反射して美しく綺麗であるが故に、死んだ者の名に死の印を付けるという悲惨で冷酷な碑だという事実を薄れさせる。

 一万五千に及ぶ名がアルファベット順にそこに刻まれ、「Neito」の文字も表記されている。その隣に表記された名には非情にも横線が引かれていた。

 

「……」

 

 知らぬ名だ。しかし、人が死んだことに嘘偽りはなく、それが誰かにとっては尊い何ものにも変えられない命だったという事は明白だ。

 ――ああ、今度は一番右から三番目の列にいた名に横線が引かれた。――ああ、今度は上で、下もか。

 一斉に死んだのだからパーティーを組んでいたのだろうか。こんな早くに組んでいたからには親しい関係だったのだろうか。モンスターに殺され、死んだのだろう。事務的に死因が表記された。顔も、本名も、分からぬ三人組は唐突にその命を絶たれた。

 ――そうか、今さっき、三人死んだのか。

 

「……っ」

 

 悲愴な表情を浮かべ、吐き捨てるように言いながら、ネイトは黒鉄宮を後にした。

 一度、拝んでおきたい。理由もなく、気紛れで訪れたが、来て良かった。

今も尊い命が無くなっている。それを身に染みて感じられた。戦場に赴く理由としては十分過ぎる。

 

 

 

 あれから、迷宮区を訪れ、『ルインコボルド・センチネル』や『フレンジーボア』を何匹か分からなくなるほど倒し、レベル9に達した。

 そして、奥に進むに連れて、マッピングで表示されるマップも広がり、まだ先のある道も何本か見えるが、目の前にはボス部屋に繋がる巨大な扉があった。

 レベリングとマッピングに夢中になってダンジョンを駆け回っていると、偶然見つけただけで攻略する気など無かった――筈なのに、出来心が足を一歩ずつ前に進める。

 

「……少しだけ、見るか」

 

 フロアボスはボス部屋の区画外に出る事は出来ない。一方でプレイヤーはいざとなれば、『転移結晶』で離脱が可能だ。ボス部屋には転移結晶使用不可なものもあるが、第一層のフロアボスでそんな鬼畜なことはしないであろう。

 『転移結晶』は非常に高価で今も一つしか手元にないが、悠長なことは言っていられない。最悪の事態は考えるべきだ。

 興味と衝動で大きな扉に手をそえる。押せば、この扉が開き、ボス戦が始まる。

 勝率は低い。だが、簡単に負けようとも思わない。

 ここで奴を倒せば、先程の死んでいった三人組は報われるだろうか。そんな整合性のない思いを抱きながらゆっくりと扉を押し開ける。

 薄暗い教会のようだ。部屋の第一印象はこうだった。

 だが、次の瞬間、天井と壁に統一性のない配置で張り巡らされた幻想的な色彩が部屋を照らし、部屋の全体を露わにする。両側に並び立つ支柱は一定の間隔を開けながら、部屋を挟む長方の形をしており、その奥に赤い巨体は佇んでいた。

 全長は人間の身丈を優に超え、肥えた腹と太い脚に驚くべき筋力があるのが分かる。左手に円状の盾を、右手に質素な金属製の斧を握っている。肘と膝に黒い金属の防具を付け、頭も兜で守っている。唯一剥き出しの腹も肉厚で簡単に刃が通りそうにない様に見える。強靭な尻尾にも注意が必要だ。

 聞いた情報に間違いはないようだ。旧SAOと全く同じ様相をしている。その頭上に表示された名、『イルファング・ザ・コボルドロード』が明らかな証拠だ。その付近には四つの体力ゲージが浮いている。

 『コボルドロード』によるけたたましい咆哮と共に『ルインコボルド・センチネル』が三体召喚される。こちらには一本だけの体力ゲージが浮かび上がった。

 幻想的な色彩の光に照らされた醜い巨大な『コボルドロード』と全身を防具で包んだ取り巻きの『コボルド』が同時に床を蹴る。

 

「来るんじゃなかったな……」

 

 弱音を吐きながらも、剣を抜き放ち、どう戦うべきかと頭を回転させている。

 低く重苦しい咆哮を上げて、『コボルドロード』と『コボルド』が地を蹴る。

 本来ならば、ここで離脱するべきだ。ボス部屋を目撃したパーティーはボスと対峙することを恐れ、部屋までには入らなかったという。そのパーティーが出来なかったことを単独で成し遂げ、ボスの情報は手に入ったのだ。これは大きな戦果となるだろう。

 しかし、心の底から湧き上がる猛烈な戦意が撤退を許さなかった。戦意の源は分からず、原因も分からない。 

 唯一つ言えることは、自分は今、この退くべき戦況で一戦を交えようとしているのだ。

 剣を構え、迫る三体の『コボルド』の内、一体に照準を絞る。多勢を相手にすると、どうしても、不利な面が目立つ。簡単に倒せる敵を確実に始末してから、強敵と対峙するのがセオリーだと思っている。

 従来ならこれを各プレイヤー、若しくはパーティーに分担するのだが、生憎ネイトは単身。全てを担う羽目になる。

 棒にごつごつとした岩を付けたような斧を『コボルド』が振り抜いた。その一閃を危なげなく避け、一撃で怯ませ、四撃目で仕留める。

 

「くっ」

 

 際どいところで、『コボルドロード』の斧を躱す。その巨体の背後に潜んでいた『コボルド』の急襲を返り討ち、すぐさま攻撃に転じた。

 片手剣のソードスキル、『レイジスパイク』で突進し、二体目の『コボルド』を撃破しながら、『コボルドロード』から十分な距離を取った。

 

「結構、厳しいな」

 

 積み上げた経験から命の危険を感じ、敵の情報を収集するのは断念する。

 敵の動きを把握しながら、退路を幾つか思い浮かべる。強引に突破。自分のHPを確認し、行けると確信する。

 ネイトが剣を握り直し、一瞬、退路の道筋へと視線を逸らした時だった。視界の端に驚愕の光景が映る。

 円盾を持つ手で垂直に跳び上がった『コボルド』の足裏を押し出し、一気に加速させる。全身を装甲で包んだ『コボルド』が恐ろしい速度で眼前に迫った。

 

「っ……!?」

 

 金属と金属が激しく衝突、火花を模したエフェクトが飛散する。

 強烈な衝撃で足が床から離れ、密着したまま背中を床に打ち付ける。目前に迫る『コボルド』は単なるデータでありながら、兜の内から殺気を孕んだ視線を向けてくる。

 力任せに『コボルド』を押し退け、自分のHPバーを一瞥する。まだ緑色だが、1割くらいは減った。

 一瞬の油断を悔いる余裕もなく、突貫してくる『コボルドロード』を迎え撃とうと剣を構える。しかし、右方から飛びかかってくる『コボルド』に気づけずにいた。

 

「しまった……ッ!」

 

 何とか剣で受け流し、『コボルドロード』へと向き直る。かなり距離を詰められた。対処を考える暇もなく、強引に背後に回り込む。

 行ける。退路が見え、走り出した。刹那、背後から凄まじい殺気を感じ、慌てて振り返った。

 地面ギリギリを振り抜かれた斧。考えるより早く、剣を盾に。

 全身を衝撃が駆け抜ける。吹き飛んだ体は何度も床を転がって、ようやく止まった。

 体を起こし、顔を上げる。追撃してくる様子はない。むしろ、剥き出しの戦意を薄れさせていた。

 敵達が落ち着いていく原因が分かるのにそう時間はいらなかった。ボスの部屋から出てしまっていたらしい。

 呆気ない脱出だったが、結果が良ければそれでいい。周りに敵の気配は無いので、一先ず、安心できそうだ。

 

「……はぁ、もう二度とやらないぞ」

 

 溜息をつき、そう強く決意を固めた。

 

 『はじまりの街』に帰った後、新しく追加された攻撃方法、『コボルド』を投擲する動作を掲示板に打ち込み、明日の第一層攻略会議に向けて、体を休めるのだった。

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