あれからどれほど時間が経ったろうか。
俺達は今、連絡を待っている状態だ。
未だ、このギスギスした雰囲気は解消されず、凄く居心地が悪い。
その雰囲気を醸し出してるのは学園長とタカミチさんなのだが、エヴァちゃん(長いので縮める事にした)は全く気にしてない様に見える。
肝が据わった子だ。
そんな事を考えてると電話が鳴った。
やっと連絡が来たか。
俺の推測が正しければ、ある事が分かるかもしれない。
さっき部屋に飾ってあったカレンダーを何気無く見たら2002年になってた。
俺が居た年は2013年11年ものずれがある。
唯のタイムスリップなら対処法はある。
だけど、これがタイムスリップじゃ無かったら?そうなると対処法が無い。
まあ、それが分かるのは学園長の…
「何じゃと!?」
…吃驚した。
急に大声出さないで欲しい。
学園長は何度か言葉を交わすと、電話を切り、厳しい顔で俺に向き直った。
「君の住所を調べた結果が分かった。結論を言うとの…無いのじゃ。君が住んで居たであろう、宝希町という場所は何処にもの」
「…茶々丸」
「はい、私のデータにも宝希町という場所はありません」
…やっぱりか
というか、茶々丸ちゃんデータって…やっぱロボットなのね…
「そ、それでは学園長。彼のその免許証は偽造のものだと?」
タカミチさんがそう言った。
そう思うのも当然だ。
存在しない住所が書かれた免許証など偽造以外に考えられない。
「可能性があるの。それでどうなのじゃ?龍磨君」
顔は穏やかだが目が笑ってない。
飄々としてても、きっちりしてる所はしてるみたいだな。
まあ、そうでなきゃ組織のトップなんて出来やしないだろうが。
「…学園長、免許証の俺の誕生日の所に何て書いてある?」
「ほ?1995年…ほ!?」
「な!?それじゃ君は今8歳という事になるじゃないか!?」
「その通り、いくら何でも実年齢8歳なんて事を偽造するものに記すと思うか?そこで考えられるのは?」
「…お前が未来から来たか、若しくは限りなく可能性が低いが、この時間にまったく関係無い場所から来たかだな?」
ずっと黙ってたエヴァちゃんが答えた。
頭はよく回るみたいだ。普通そんな事なんて考えが及ばない。
「ここには宝希町がない…そして俺は麻帆良を知らないから未来から来たわけじゃない。だから残る可能性で俺は異世界から来た…って訳さ」
異世界に飛ばされた…
その可能性は最初から考えていた。
俺とあの人以外の魔法使いなんて俺は知らない。
あの人曰く、アーキタイプの魔法使いが別の所で戦っているらしいが、それ以外の魔法使いの事は聞いた事がない。
「別世界の人間か…成る程、そう考えれば辻褄は合うのう…」
「随分あっさり信じるなあ…こんな突拍子もない話普通信じないと思うけど」
「一応、魔法世界という物が存在してるからね。そういう話には抵抗は無いのさ」
「へえ…そんなものまであるのか…ただ俺の場合はそういう世界とは別の平行世界とかの類だと思うけどね」
俺の現状が分かった所で一息つく。
当面の問題はこれからどうするか…だな。
生憎、世界移動の魔法なんて俺にはない。
「さて、これからお主は如何するのじゃ?」
学園長が真剣な眼差しで聞いて来た。
組織の長としては不安要素を放置する訳にもいかないだろう。
「…帰る方法を探すかな」
「見つかるまでの衣食住はどうするのじゃ?それに見つからない場合もあるじゃろうて」
「…」
学園長の言う通りだ。
この世界の年を考えれば、俺の持ってる金は使えない。
使えない金など持っていても意味は無い。実質一文無しだ。
働こうにも俺には戸籍が無いからこれも無理。
そして何よりそんな簡単に帰る方法が見つかる訳無い。
そもそも、この世界に来た原因さえ分からないのだ。
原因が分からなければ、何処から手を打っていいのか分からない。
「そこで提案何じゃが…この麻帆良に留まる気は無いかの?」
「え?」
「学園長!?」
驚いた。
てっきりすぐに追い出されると思っていたから尚更。
「勿論、ただでとは言わん。今夜の様にここを攻めてくる外敵から守る事、これが条件じゃ。
当然、働きに応じて報酬は出す上に住む所と戸籍も用意しよう。それにここには図書館島という帰る方法を調べるにはうってつけの場所もある。…どうじゃ?」
願っても無い提案だ。
あれぐらいの敵なら俺の魔法があれば如何とでもなるから、その部分は問題無い。
学園長が善意で言ってくれているのは嬉しかった。
しかし、迷惑を掛けていいのだろうかと悩む。
簡単に言ってるが、何処からともなく現れた人間の戸籍を作るのは大変だろう。
それに、ここは組織だ。
見るからに善人の部類に入る学園長なら兎も角、見るからに怪しい俺が他の人達に信用されるはずも無い。
だが、俺一人では如何にも出来ないのは事実だ。
答えは決まった。
「…学園長、これから宜しくお願いします」
頭を下げ、世話になる事を選択した。
ああ、いつ振りだろうか俺がこんなに人と関わったのは。
ファントムと戦っている時も人との関わりが無いわけでは無い。
ゲートを守る必要があるから、ゲートとは少なからず関わった。
だが、一度守ってしまえばゲートと関わる事は無かった。
ファントムはどういう訳か一定の場所しか活動しなかったので、その場所からゲートを逃がしてしまえば、もう襲われる事は無い。
だから、俺は離れていったゲートやゲートで無くなった者に二度と会うことは無かった。勿論、自分から姿を眩ましていたのだが。
俺は最後の希望になると言いつつも、人と付き合い、別れがくる事が怖かったのだから。
「さて、お主の住む所何じゃが…」
「ジジイ」
エヴァちゃんが学園長の言葉を遮った。
「こいつは私が預かる」
「ほ!?」
「え?」
まさか、そんな事を言われるとは思わなかった。
というか…何故に?
「何故じゃ?」
学園長が俺の気持ちを代弁した。
いや、本当に何で?
「こいつの魔法に興味が湧いた。間近に置いておけば色々見れるからな。いい暇つぶしになると思わないか?」
俺は暇つぶしかい。
「しかしのう…」
「もう何年もこの地に縛られてるんだ。これぐらいいいだろう」
あ、学園長に威圧掛けてる。
涼しい顔で流してるけど、内心冷や汗掻いてるんじゃなかろうか。
「いや、龍磨君の意見も…」
「住む所に文句は無いだろう?紅輪龍磨?」
「住む所を提供してくれるのに文句は言えないな…」
そうだ、俺はあれこれ言える立場に無い。
「というわけだ。私が預かる。第一、そんなすぐに住居など用意も出来ないだろうが」
「…仕方ないのう。龍磨君それでいいかね?」
「勿論」
もはや、学園長も諦めたらしい。
ただ、どう見ても自分より年下の子の家の転がり込むというのは如何なものだろうが、こういう子は一度言うと聞かないだろうから、潔く諦めるしかない。
「じゃ、これから宜しく頼むよ。エヴァンジェリンちゃん」
「な!?」
ん?部屋の空気が凍った?
俺何か不味い事言っただろうか。
エヴァちゃんなんか震えてるし。
「あー、龍磨君。エヴァはね、こう見えても何百年と生きた真祖の吸血鬼なんだ」
へぇー吸血鬼…って嘘ぉ!?
「数百年!?どう見ても10才前後の子じゃないか!」
「それはマスターが10才の時に儀式で吸血鬼にされたかです。それからマスターは一切成長していません」
そんな魔法があるのか…
儀式というとサバトを思い出すな…
いい思い出なんかないけど。
それで、何でエヴァちゃんは震えて?…あー、年下扱いされて怒りで震えてたのか。
「…お前は知らなかったからな…ちゃん付けで呼んだ事は今回は許そう。だが…次は無いと思え」
やばい、凄い威圧を感じる。
「じゃあ、なんて呼べば?」
「エヴァで構わん。いいか?二度と私をちゃん付けで呼ぶなよ?」
念を押すほど嫌か。
「じゃ、改めてこれから宜しく頼むよ。エヴァ」
「ああ。それとそこにいる茶々丸も一緒に住んでいる。私の従者だからな」
従者…?
また分からん単語だ。
まあ、段々と分かっていけばいいか。
「じゃ、茶々丸…でいいかな?宜しく頼む」
同じ鑪は踏まないように、ちゃん付けはしない。
「はい、龍磨さん」
「ククク…これから愉快な事になりそうだ」
エヴァが楽しげに笑い、学園長とタカミチさんが何やら話し込んでる中で俺は誰にも聞こえない程小さな声でポツリと呟いた。
「吸血鬼…か…」
この時、俺の顔が悲しげに歪んでいたことに一体誰が気付いただろうか。