逃げ水の鎮守府-艦隊りこれくしょん-   作:坂下郁@リハビリ中

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 本格的に動き出した仁科大佐と巻き込まれる人達、の回。

 ※今回は『不健全鎮守府』犬魚様のご厚意のもとで書かせてもらってます。お話的には「海外旅行はスマホートンと共に 前編・後編」「提督と168と最新ケータイ」と絡んでます。


105. 私を根は善人と思ってましたか?

 「どうでしょうか、そろそろ神経接続に伴う違和感も収まって来たのではないですか?」

 

 地下のラボで寛ぐ仁科大佐は、目の前にある巨大な水槽にいる存在に気軽に話しかける。話しかけられた側は、呪い殺すと言わんばかりに憎悪を滾らせた視線を大佐に返している。

 

 「………コロシテヤル、殺シテヤル、絶対ニダ! 悪魔ダッテコンナヒデェ事ハシネェゾ」

 

 ラボに侵入を試みた四人組のうち、重傷ながらも唯一生をつないだ一人の男。拷問は覚悟していたし、口を割らない自信もあった。どうしても耐えられなければ、星条旗(スターズ&ストライプス)のためにも自ら命を絶つ。その悲壮な覚悟は全て無駄になった。丁寧な治療、しかも自分の知る現代医学を遥かに超える技術であっという間に治癒した体に驚く間もなく頭蓋は切り開かれ、大脳皮質や神経に直接機器を接続された。

 

 『このシステムを試してみましょうか。私の質問に事実を語りなさい。さもなければ、貴方は自分で自分を罰するでしょう』

 

 大佐がこの男に出した指示はいたってシンプルだが、意志の力で制御できないこんな尋問方法に耐えられるはずもない。嘘をつくと自分で自分の体を痛めつけることになる…男はエージェントとしては優秀過ぎた。身体のありとあらゆる箇所を自傷自損し再起不能に陥ってしまった。

 

 「さて、設定を変えて脳から直接情報を取り出しますから。貴方が口を割ろうが割らまいが、元々どうでもよかったのです。ん? なんですか? ああ、『試す』というのは貴方の反応ですよ。それさえ想定の範囲内でしたけど。ならなんでこんなことをした? 機材は定期的に稼働させメンテすべきですからね。それに…あなた程度が知りうる情報など、私が持つ情報を超えるものではないでしょうし、単なる確認作業のようなものです」

 

 情報源の価値も認められず、機材のメンテの材料としてだけ利用された男は眠りに落ちた。次に目を覚ますと、男は水中にいた。不思議と苦しくない。ざばっと水面から顔を出すと、格子状の黒いボンデージ様の衣装に白衣をまとった男が近づいてくる。

 

 「喜びなさい、肉の体の制約を超え、貴方は新たな力を手にした。知りたかったのでしょう、私の…技本の技術を。だから私のラボを訪れた。その答を、貴方は身を以て知ったのです」

 

 大型の水槽にいるのは駆逐ニ級で、かつて大佐が開発したモドキと呼ばれる人造深海棲艦。当時量産化と実戦投入にこぎつけたのはイ級後期型、しかも稼働時間制限付だった。継承発展を遂げた技術は現在駆逐ニ級にまで到達した。他の駆逐クラスと比べてフラットな見た目をしているタイプである。本来であれば頭頂部に緑色に光る目のような器官あるはずだが、代わりに男の首から上がはめ込まれている。男は絶望と怒りで恐慌をきたし、水槽の中で激しく暴れはじめた。

 

 「安心しなさい、神経接続が安定した後にひと仕事終えればあなたは自由です。帰国でも亡命でも好きなようになさい。ああ、先に言っておきますが、あなたには選択肢はありません。…やめなさいっ! そんなに激しく暴れてはいけません。私と戦うと言うなら、それでも構いませんがそれは今ではない。神経接続と同調が安定する間の間、貴方は管理されねばならない、それが技術者としての私の責任ですっ!! …まあ何です、その様子を見れば順調そうですね」

 

 くるりと水槽に背を向け、くいくいっと腰を入れながらモデルウォークで大佐はラボを後にし、大鳳の待つリビングへと向かっていった。

 

 

 

 「先日入手した超精密凹版印刷機をそろそろ稼働させようと思います。技本()の技術を投入すれば、日米の造幣局の真券さえ偽札に堕す逸品を作れますよ」

 

 かつてC-14342(スーパーノート)と呼ばれた、よほど高性能の機械でなければ確認が不可能な100米ドル紙幣の超精密な偽札があった。大佐はそのスーパーノートを再現、いや超越するのだという。大鳳には全くその真意が分からない。それって単なる犯罪じゃ…と首をかしげていると、優しい声で大佐が話を続ける。

 

 「いいでしょう、マクロ経済の時間です。スーパーノートを超える…そうですね、H(ヘンタイ)ノートとでも呼びましょうか、Hノートを私の切り札の一つとする訳です。市場に供給される通貨は各国の中央銀行が…この辺は割愛しますか。要点を言いますと、経済の根幹を成す通貨の価値を私が毀損できる、ということです。この先真珠湾基地を私が押さえれば、さすがにアメリカも黙っていないでしょう。そのために、日本経済を人質に取ります」

 

 現時点で人類が深海棲艦との戦争を続けてこられたのは、ひとえに日本海軍、もっといえば日本の艦娘達の血みどろの努力の賜物だ。艦娘による東南アジア海域警護という実力と日本円というハードカレンシーの信用のもと、日本は各国から資源物資を輸入して軍需物資を確保し経済を回している。そこにHノートが大量に持ち込まれる、あるいは持ち込まれたと噂が立てばどうなるのか。日本円の信用は暴落し往時と同じく経済で首を絞められる。艦娘部隊も物資が無ければ動かせず、太平洋全域は深海棲艦の手に落ちる。

 

 大西洋間貿易と南アメリカとの経済ブロックでアメリカ経済は何とか回るが、太平洋から完全に締め出されることを、経済でも政治でもなくアメリカの国民感情が許さないだろう。そうなると艦娘部隊の多寡に関わらず、太平洋を打通するためにアメリカ海軍は深海棲艦と勝ち目のない戦いを始めなければならない。それを防ぐには、アメリカは仁科大佐との交渉のテーブルに着かざるを得なくなる。

 

 要点を、と言われても大鳳にはピンとこない。うんうん首をひねりながら閃いた言葉を、きらきらと輝く目で口にする。

 「難しくてよく分かりませんけど…大佐はお金を作ることをお仕事にする、そういうことですねっ」

 

 「…大鳳、アナタには色々教える事があって退屈しませんねぇ」

 

 柔らかく微笑みながら大鳳の茶色のショートボブをわしゃわしゃとする大佐と、なぜそうされてるのか分からず不思議そうに大佐を見上げる大鳳。

 

 「さあ、今日は気分がいいので店を開けようと思います。大鳳、あなたも好きにして過ごしなさい。…それにしてもキリバスルートで日本への貨物便が確保できたのは大きいですね。さて、日本に手を伸ばすと言う事は、あの男に協力を頼みましょうか…」

 

 店とは、世を忍ぶ仮の姿として、大佐が開いている携帯電話を中心とした各種電化製品の修理を請け負う小さな店である。物流状態の悪化したハワイでは家電や機械の修理ニーズは高く、張り紙だけが宣伝で気が向いた時だけオープンする大佐の店でも、それなりに繁盛している。身分的には世を忍んでいるが、肉体的に忍ぶ気が無い相変わらずのファッションでホノルルを闊歩しているので注目度は高い。

 

 

 

 遠く離れた日本、キュウシュウに存在している、とある海軍基地…。

 

 「168の電話、また勝手に歩いてるのね」

 特に関心なさそうに言うのは潜水艦娘の伊19。エロい身体をしている。

 「でも歩き方がいつもと違うというか」

 細かな差異に気が付く違いの分かる潜水艦娘の伊8。エロいボディをしている。

 「何か…腰をくいくい入れて歩いてるのね」

 興味津々で168の携帯を捕まえようとする伊58。エロい肢体をしている

 

 「携帯の腰っていったいどこなのよ? 何言ってんだか」

 身も蓋もない言葉を仲間に叩き込む伊168だが、携帯に視線を送ると固まってしまった。

 

 「あ、これって…」

 携帯電話が呼出音の代わりにこの動きをする時は、()()()からの電話を繋ぐとき。言うまでもなく仁科大佐である。心底嫌そうな顔をしながら168は電話に出るとスピーカーモードに切り替え、他の3人にも聞こえるようにする。

 

 「お久しぶりですねお嬢さん達。私のイケボがそろそろ聞きたくなった頃でしょう。それはいいのですが、提督はいますか? 私は彼に用事があるのです」

 「大尉(笑)なら多分ウン○してるでち」

 「とんだ風評被害ですね。まあいいです、ケータイ大好きっ子、このまま提督の所に行きなさい」

 

 

 「げぇぇぇっーーーー! お、お前はーーーーっ!!」

 「久しぶりですね、提督。今日はビジネスのお話です。さっそくですが、有馬とのコネクション、利用させてもらおうと思いましてね。有馬貴子と連絡を取りなさい。そう、姉の方です。ロリコンの貴方ではあるまいし、貴方の嫁(妹の方)に用事はありません。報酬にはHノートを貴方が望むだけ差し上げましょう。あと私のイケボ搭載のスマホも」

 「ロリコンではない提督だ。てゆーかテメェに誰がそんな事吹き込みやがったっ!?」

 「貴方がウ●コから帰ってくるまでの間に貴方の秘書艦と話していましたが?」

 「あいつめ…。それよりもHノートとは? ほう…判別不能なほど精巧な偽札、とな。………サミダンテ君、明石を呼びたまえ、そう、大至急」

 

 

 

 「よいしょ…南洲、ちょっと変わったお魚が取れました、はい…」

 「春雨(ハル)…そのお前が連れてきた奴だがな…魚じゃねーだろ、どう見ても」

 

 所変わってインドネシア東部海域にあるハルマヘラ島旧ウェダ基地跡地―――正確には、基地の跡地を利用し巧みに隠蔽された小さな基地施設がある。大きく開けたウェダ湾に残る港は、かつては相応の規模の施設を有していたようだが、今では完全に破壊され廃墟となり、波止場程度の役割しか果たさなくなっている。そこに帰ってきた艦娘は、白露型五番艦の春雨である。右手には魚の入った飯盒を持ち、左手には深海棲艦を棘鉄球(モーニングスター)のチェーンで雁字搦めにして引き摺っている。漁に出ていた彼女は、出迎えのため波止場に現れた隻腕で大柄な男に報告していた。

 

 「何でまたこんなのを拾ってきたんだよ? これ、駆逐ニ級じゃねーか」

 「お魚獲りを終えておうちに帰ろうとしたんです。そしたらこの二級さんがハルマヘラ島の方へ侵攻してきましたので砲撃を開始したところ、()()()()で叫び出したんです、はい。でも…錯乱してるみたいなので、取りあえず棘鉄球(モーニングスター)で大人しくしてもらって、チェーンで縛り上げて連れ帰った、という訳です」

 「人語を解する、深海棲艦? 姫級鬼級以外でか?」

 

 南洲と春雨が二人して首をかしげている間に、駆逐二級…正確には仁科大佐が作り上げた人造深海棲艦と融合させられた哀れなエージェントが話し始める。

 

 「オ前ガ、ナンシュー・マキハラ、カ。聞イテイタ通リノ風貌ダナ。俺ハ…ハワイカラ命令ヲ受ケテヤッテ来タ―――」

 「手前ぇ…何で俺の名前知ってんだ? それに…ハワイから来たって言ったな、オイ。まさかとは思うが…」

 

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