逃げ水の鎮守府-艦隊りこれくしょん-   作:坂下郁@リハビリ中

13 / 109
登場人物たちに焦点を当てた幕間章。

作戦終了から二週間、未だ面会謝絶の南洲と苛立ちが募る三人の艦娘。


間章 りこれくしょん-1
13. 秘密


 「はい、確かに報告書は受領しました。最終的に鹿島さんと羽黒さんに仕上げていただいて本当に助かりました。大尉はあの状態、仮に元気だとしても書類仕事はとにかくルーズだし、春雨さんのは絵日記のようだし、ビスマルクさんのは全部ドイツ語でしたし…。とにかく、久しぶりにちゃんとした報告書を読んだ様な気がします。それにしても…はぁ…」

 

 目の前に居並ぶ艦娘達-褒められてニコニコしている鹿島と照れくさそうな羽黒、可愛いく描けたのにと残念そうな春雨、何が悪いのよと頬を膨らませ不機嫌そうなビスマルク-を見ながら、大淀は項垂れながら額に手を当て、比喩ではなく頭痛を堪えていた。

 

 大淀は管理官として諜報・特殊作戦群を陰から支える存在であり、今回も作戦終了から今日に至るまでに生じた事態の収拾に全力を挙げていた。潜入しての暗殺どころか、陸海で派手な砲撃戦をやられると当然隠蔽は難しく、諜報・特殊作戦群の名に懸けて全力で情報操作をしている。そして今、さんざん待たされた()()()()作戦報告書とともに、その当事者たちが揃いも揃って管理棟に現れたのだから頭痛も無理もないことだ。

 

 

 「ビスマルクさん、何か言いたそうですね」

 大淀の間に目線で不可視の火花が散り、ビスマルクはカウンターにバンッと両手を付き、身を乗り出して食って掛かる。

 

 「いつになったらアトミラールに面会できる訳? もう二週間よ? 病室どころか病棟にも近づけないって一体どういうことなの? 電話じゃ埒が明かないから、直接来てあげたの。分かった?」

 

 不満を隠そうとしないビスマルクだが、鹿島も羽黒も表に出さないだけで気持ちは同じだ。この中でただ一人、病室まで入室を許可されている春雨は気まずそうな表情を浮かべている。他の皆もそれは知っているが、南洲と春雨の間の特別な関係も感じており、それに関して不平等だと言うつもりはない。ただ、自分たちはいつ面会できるのか? 大本営の一角にある宿舎に軟禁され続けるストレスも手伝い、全員で大淀の元に押し掛けた。

 

 「基本的に病棟は完全看護ですし、それ以外のことは春雨さん一人いれば十分なはずです。何よりまだ大尉は十分に回復していません。用事がそれだけなら、お引き取り下さい。私も暇ではありませんので」

 

 大淀は眼鏡をクイッと直しながら、冷めた表情でそう言い捨てるとクルリと背を向け、奥の執務スペースへと引っ込んでしまい、ビスマルクがいくら叫んでもそれきり誰も出てこなかった。

 

 

 

 すっきりしない気持ちを抱えながら四人は宿舎への帰り道を進む中、何事か考えていた鹿島が唐突に口を開く。

 

 「提督さん、ほんとうに大丈夫なのかしら…。やっぱり鹿島が傍にいた方が…。そうすれば…うふふ♪」

 何を想像したのか、鹿島は朱がさした両頬に手を添えながらクネクネと身悶える。体の動きに合わせその大きさを主張するように揺れる鹿島の胸を見て、羽黒と春雨が思わず自分のそれに視線を落とす。

 

 「形は悪くないと思うんですが…」

 「白露型は駆逐艦の中では大きい方なんですけど…はい…」

 

 瞳から若干ハイライトが消えた二人を気にすることなく、両手を腰に当て前かがみになりビスマルクは春雨の顔を覗き込む。ああ、この人もバインバインなんですね…瞳からさらにハイライトを消しながら春雨がぼんやり考えていると、唐突に真剣な口調で質問を受けた。

 「ねえ春雨(ハル)、アトミラールの容態は実際どうなの? それほど重態なの? 貴女しか知らないのよ?」

 

 その質問には真っ直ぐに答えず、春雨は質問で返す。

 

 「なぜビスマルクさんと鹿島さんはそんなにまで南洲のことを気にかけるのでしょう? ついこの間会ったばかりですよね?」

 

 顎に細い人差し指を当てながら春雨が問い返す。

 

 「提督さんは、鹿島の王子様ですからっ! うふふ♪血塗れになりながら、鹿島の事を救ってくれたんですよ」

 恍惚とした表情で、胸の前で手を組みながら迷いなく応える鹿島に対し、頬を赤らめながら挙動不審な振る舞いでワタワタしながらビスマルクも釣られて口を開く。

 「そ、それは…結果的に命を助けてもらったわけだし、は、初めての相手だし…って何を言わせるのよっ!!」

 

 軽くため息をつき、そんな二人を呆れたような表情で見ながら春雨は一気に説明をする。

 「…まぁいいです。今の所、南洲の意識はまだ完全には戻ってません。たまに目を覚ましますが、その度に錯乱するので鎮静剤で寝かせる、その繰り返しです。右脹脛の貫通刺創、左肩と右わき腹の銃創、複雑骨折は肋骨三本と左鎖骨、微細骨折は多数、右肩から背中にかけての火傷、右耳鼓膜損傷、一部内臓と頭部にもダメージがあるようです。これだけの重傷を負ってから二週間―――」

 

 春雨を除く三人が二週間前のあの夜の事を思い返す―――。

 

 

 

 ともかく四体の深海棲艦を撃破しPG艇に乗りこんだ春雨とビスマルクが目にしたものは、血に濡れた甲板、動かなくなった辻柾、そして横たわる南洲に必死に呼びかける鹿島と羽黒の姿だった。凄惨とも言える光景に棒立ちになったビスマルクと対照的に、春雨は迷わず南洲の元へ駆け寄る。

 

 「どいてくださいっ!! 南洲、私です、春雨(ハル)ですっ」

 鹿島と羽黒を押しのけ、あらゆる所に傷を負い意識を失っている南洲に、すぐさま脈や呼吸の有無、出血箇所の確認などを手際よく行う春雨。その姿を見ながら、こういう事態は春雨にとって初めてではない、ビスマルクはそう直感した。

 

 「早くハンヴィーに戻って手当しないとっ!」

 大柄な南洲を抱きかかえる春雨は甲板から海面へと飛び降り、そのまま港へと疾走する。残りの三人も同じように海面に降り立ち後を追う。港から鎮守府に向かい、途中から森を抜け神社の境内に停めたハンヴィーまで一気に駆け抜ける四人の艦娘。たどり着いた神社の境内で、春雨は一刻を争いながら対応を始める。

 

 訓練だけでは得られない手際の良さで、春雨がハンヴィーのカーゴルームに積載されている野戦救急セットを組み立てると、ビスマルクが南洲を簡易ベッドに横たえる。

 

 自発呼吸があることは確認できている。点滴を施し、体の各所の傷を洗いながら状態を確認し応急処置を続けると、不意に南洲が目を覚ました。両目とも赤く、唐突に上体を起こすと右手を春雨に伸ばしその細い首を握り、力を込める。だが流石にこれだけの怪我を負っているため、勢いほどに力はなく弱々しいものだった。

 

 「ちょ、ちょっと、アトミラールッ!? それは春雨よ、ツジマサじゃないっ!! 戦いはもう終わったの、分かる?」

 呼びかける声に南洲は反応せず、春雨の首を掴む手に必死に力を込めようとしている。

 

 咄嗟に首と南洲の手の間に自分の手を挟み気道を確保した春雨は、ビスマルクに視線を送り対応を冷静に指示する。

 「ビスマルクさん、そこの棚にある注射器で南洲に静脈注射を…」

 

 「分かったわ…って、そんなのしたことないわよっ!!」

 「なら…いつも通りにします、はい。春雨の制服のポッケに、青いアンプルがあります…」

 この程度で絞め落とされる心配はないが、さりとて振り解くには力が要りそうな首の締め付けに、春雨は不愉快そうな表情になる。その表情を苦悶と理解したビスマルクは慌てて春雨のポケットを探りアンプルを取り出すと、言われる通りに行動する。

 

 「先端を折って」

 ぱきっ。

 

 「中身を口に含んで」

 こくり。

 

 「南洲に口移しで飲ませてください」

 !?

 

 口に液体を含んでいるので声を出せないが、両腕をわたわた動かし動揺を示すビスマルクだが、すぐに気を取り直したようだ。

 (えっ!? ちょ、そんな………。仕方ないわね、アトミラール…ビスマルクの()()()なんだから、光栄に思いなさいよ)

 

 真っ赤な顔をしながら、ビスマルクは春雨と南洲の間に強引に体を割り込ませ、体重をかけて無理矢理南洲をベッドに押さえつけると、そのまま唇を重ねる。舌を使って南洲の唇を強引に割り、口の中の液体を流し込む。しばらく暴れていた南洲だが、やがて大人しくなりそのまま眠りに落ちた。

 

 「ふう…ハッ だ、大丈夫、春雨ぇ? …な、何これ、何で急に目眩が…あれ?」

 「少し飲んじゃいましたか? こういう時に使う経口鎮静剤ですけど…」

 南洲の手から解放され床に座り込み、肩でする荒い息を整えながら春雨がビスマルクに説明する。

 

 

 先に言ってよ、との言葉が終わるか終らぬうちに、ビスマルクも南洲の胸に倒れ込みそのまま眠ってしまった。騒ぎを聞きつけハンヴィーに乗り込んできた鹿島と羽黒がその光景を呆然と眺める。

 

 「はぁ…面倒なのでこのまま拘束しちゃいます、はい。鹿島さん、車の運転できますよね? 春雨の背ではこの車大きすぎて…」

 

 そこまで言うと春雨はくるりと羽黒の方を向く。反射的にビクッとなった羽黒だが、それに続く春雨の何気ない言葉で顔面蒼白になった。

 

 「久しぶりですね、羽黒ちゃん」

 

 久しぶり、という経過した時間の以前に共有していた何かがある事を指す言葉。そんな時間を共に過ごした春雨を、羽黒は一人しか知らない。

 

 ーウェダの春雨ちゃん!? そんな訳が…だって…。

 

 羽黒と協力して南洲とビスマルクをまとめて拘束帯で拘束した春雨は、鹿島に本部へ帰還するため運転を依頼し終えると、さすがに疲れたように床に転がり、そのまま寝てしまった。

 

 

 

 「…なので、皆さんには面会をもう少し待ってほしいのです、はい」

 納得した様子を見せる鹿島と羽黒に対し、ビスマルクは何か言いたげな目で、メイド服姿で微笑む春雨をじっと見つめる。

 

 -お前が扶桑を…

 薬で落ちる直前、アトミラールはそう言った。一体この二人にはどんな秘密が隠されているの…?

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。