逃げ水の鎮守府-艦隊りこれくしょん-   作:坂下郁@リハビリ中

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今話から新章が始まります。

前話後書きで少し触れましたが、この章はzero-45様の作品世界とコラボレートしたお話です。内容としては互いの世界観を崩さず、更に作品世界の物語を絡ませつつも、今まで続いている連載の中に自然な形として組み込む話を目指しております。

zero-45様 連載
【大本営第二特務課の日常】
https://novel.syosetu.org/80139/

(※)御注意
コラボ作はちょっと苦手、こういった形での内容に興味が無い、趣味趣向が合わない方がおられましたらブラウザバック推奨です。

(20161104 サブタイ変更)


Mission-3i 灰色の男 (『大本営第二特務課の日常』コラボ)
30. 虚像


 査察はするかしないか、それ以上でもそれ以下でもないはずだ。しかし、大坂鎮守府の話にきまり悪そうな表情を浮かべる宇佐美少将を、南洲は珍しいと感じている。この少将がこんなに歯切れが悪いのは初めて見る。

 

 「まぁこれを見ろ。はっきり言えば大坂は特異な鎮守府だ」

 

 宇佐美少将から渡されたタブレットの画面をスワイプしながら資料に目を通す南洲。グレー…黒でも白でもない。その言葉通りだと、色々な意味で南洲も考え込んでしまった。

 

 大坂鎮守府は国内五か所目の鎮守府である。後方支援艦隊かつ教導艦隊(アグレッサー)とのことだが、各拠点で勇名を馳せた二つ名を持つ歴戦の艦娘が多く揃い、今も続々と戦力が拡充されている。ここまではいい。

 

 だがそこに複数の深海棲艦、それも姫級鬼級が所属しているという。そしてそれは二つの可能性を示唆する。一つは公式に伝えられる話どおり、深海棲艦の投降や鹵獲によって自軍に組み込んだ場合。もう一つは、これまでの査察の結果を考慮に入れると、公式の裏に別な()()があり、組織的なフォールダウンにより艦娘を深海棲艦にしている場合だ。

 

 

 引き続き画面をスワイプする南洲。次の画面には、鎮守府裏掲示板と呼ばれるサイトへのリンクが示された。タップすると―――。

 

【益荒男降臨】大坂鎮守府総合Part147【鎮守府総嫁】

991: 重婚さんいらっしゃい@大坂鎮守府:2016/11/00(※) 16:24:09 HOST: OOOO -XXXXX kure.Navy.ne.jp

 ご休憩施設完成間近ってホント? 益荒男クン、漲ってるね

 

992: 重婚さんいらっしゃい@大坂鎮守府:2016/11/00(※) 16:28:41 HOST: OOOO -XXXXX. sasebo.Navy.ne.jp

 もぅー、司令官も好きなんだから…

 

993: 重婚さんいらっしゃい@大坂鎮守府:2016/11/00(※) 16:39:32 HOST: OOOO -XXXXX. oosaka.Navy.ne.jp

  ナニ作っちゃってくれてんの!? どういう事なのぉぉぉ!!

 

 南洲は無言で画面をスワイプする。大坂鎮守府の長は、益荒男と綽名される吉野三郎大佐。所属全艦娘(予約含む)だけでは飽き足らず非戦闘艦の間宮や伊良湖ともケッコンカッコカリを果たした有名人である。しかもほぼ全員にメイド服を着用させイメージなクラブ的に鎮守府を運営しているとの話もある。これをもし強要しているなら艦娘へのセクシャルハラスメント、実情によってはそれ以上の罪状として立件しなければならない。

 

 

 フォールダウン疑惑とセクハラ疑惑、それに加え不透明な資金や資材の流れ-白なら白の方がいい。だが黒なら、必ず物証を見つけ吉野大佐を捕縛しなければならない。例え相手が軍令部総長を務める大隅(おおすみ)大将と近しい間柄だとしてもだ。

 

 「かなり厄介な相手だな…」

 

 

 南洲は席を立つと、軽くため息をついて将官室を後にする。後に残された宇佐美少将は、さらに考え込んでいる。

 

 『君も軍部と深海棲艦の繋がりを調べていたのではなかったかな? ここは一つ、ご自慢の部隊で査察に乗り出してはどうかね? いや、是非そうすべきだな、うん』

 

 そもそもこの話を持ち込んできた張本人-大本営艦隊司令本部統括として武官の頂点に立つ三上源三(みかみげんぞう)大将。軍令部総長であり強大な諜報機関を持つ大隅大将に一方的な敵愾心を抱き、その失脚を目論んでいると専らの噂だ。そんな男が情報をリークしてくる以上必ず裏があるが、大坂鎮守府に纏わる噂が悪い方に真実なら看過できない-宇佐美少将は火中の栗を拾う覚悟を固めていた。

 

 

 

 「漣クン、提督は『ほとぼりが冷めてから、それとな~く』って言ったと思いマス。これだけ情報を集めちゃうと、相手にも勘づかれる可能性が十分あるよねぇ」

 

 所変わって大坂鎮守府。

 

 この拠点の長・吉野大佐(本妻はドクペと主張したい28歳重婚)は、提出されていた報告書を読むと、執務室の隣にある情報部を訪れ、室長の漣を問いただし始めた。

 

 ほとぼりが冷めるまで、とは言ったが吉野自身何もしていなかった訳ではなく、個人的な(ツテ)を利用し、トラックの一件とそれに関与した部隊について間接的に情報を集めていた。その過程で、槇原南洲少佐率いる査察部隊が大阪鎮守府を内偵中であることが判明した。だが漣が報告してきたのは、明らかに"それとな~く"の範囲を超える情報量だった。

 

 機材のクーリングのため冷房の効いた室内で、昼間だというのに布団から出ない漣。吉野の引きつった笑みを見ると、ふぁ、と軽い生あくびをし、掛布団をひょいと持ち上げオイデオイデと吉野を誘う。

 

 「ご主人様、なんですか?…あ、情報?…真面目~♪ で、例の槇原少佐、ちょっとだけちょっかいだしてみたら、前歴に関してはガッチガッチにセキュリティが固めてありまして。これはもう漣への挑戦と見做し、ちょーっと本気出しちゃったというか? でも全部のデータは抜けなかったでござる…。しかも自己進化型攻勢防御なんてメシマズなプログラムで応戦してきた訳ですよ」

 

 漣の話を聞きながら、吉野は情報室の変化に気が付いた。情報室の設備は開設時の巨大なフルタワーパソコンに加えあと二台ほど大型機を追加したはず。だが今目の前にあるのは、上部が赤・下部が白で塗り分けられたさらに巨大な筐体一台と初雪用の一台だ。吉野の視線に気付いた漣は、少しバツが悪そうな表情で言い訳を始める。

 

 「いやぁ~、送りオオカミって言うの? こっちの進入ルートを追跡されて逆襲くらっちゃいまして。こっちのシステムもダメージ受けたというか?」

 

 「な、ちょ、こっちの情報も抜かれたってこと?」

 流石に平静を保てなくなった吉野は、漣の枕元に滑り込むように正座をし、矢継ぎ早に質問を続ける。

 

 「システム破壊が主目的の結構ヤバ目のやつでしたけど撃退済ナリ。データ類は、腹いせのように、嫁艦共有フォルダを中心に被害を受けています。ご主人様の入浴中や就寝中を中心とした画像と音声、あとは脈拍、オムツ、体温、心拍数、ピー音(自主規制)のデータなどなどなど。やっぱ嫁艦としては知っておきたいじゃん?」

 

 「真顔でなんてこと言うのイチゴパンツぅっ! それ提督のセンシティブすぎる個人情報っ!! てか何やってんンの君ぃぃぃっ!!」

 

 ぜぇぜぇと肩で荒い息をしながら、それでも吉野の頭脳はフル回転していた。諜報戦電脳戦のエキスパート漣に全容を掴ませず、挙句にカウンターハッキングを仕掛けてくるとは―――。

 

 

 「かなり厄介な相手だねぇ…」

 

 

 それで代替機なのか、と吉野は納得した。漣が頷きながら布団の中から『ジャパ○ットアカシ』の文字が表紙に踊るカタログを取り出すと、角を折ったページを見せてくる。目の前にあるものと同じ、上下で赤白に塗り分けられた大型のパソコンが掲載されている。先ほどまでとはまた違った種類の冷や汗が吉野の背中を伝う。

 

 「えっと漣クン、提督にも分かるように教えてほしいんだけど、この紅白でおめでたい感じのパソコン、なぁに?」

 「パソコンじゃありません、ご主人様。これはスーパーコンピューターです。次は完勝しないと気が済まないので。そこのは雰囲気づくりで空の筐体を置いてあるんです。本体は地下にありますカラ☆」

 「………いつの間にそんなもの購入したんデスカ? てかおいくら万円?」

 「んーマルチラックモデルはラック数次第なのでカタログには『ASK』だけでした。明石さんに希望を伝えたら大淀さんと打ち合わせしてすぐに納品してくれたからいいんじゃないですか?」

 

 吉野が目にしているのは、かつて『二番じゃだめなんですか』と言われたスーパーコンピューターの後継機種で、最大23.3PFLOPS(ペタフロップス)の理論演算性能を実現可能なシロモノだ。

 

 吉野は携帯を取り出すと、奪う様にカタログを取り上げ表紙に書かれたフリーダイヤルに電話する。

 

 「あ〜ジャ○ネットアカシ? あ、妖精さん? 提督の吉野だけど、うんうん、あのさ明石居る? え、留守? …そっか、知ってたら教えてほしいんだけど、漣が買ったスパコンって…え? 最小構成の1ラックで5000万円っ!? Oh淀が予算組んでる? あそう、そうなんだ…」

 

 「…注文したラック数とPFLOPS数は?」

 「もちろん1,024ラックで23.3PFLOPSっ!!。え? いいのいいの! 早いぐらいがいいんだって! えへっ」

 

 南洲に対する警戒感を高めた吉野と漣だが、実の所そのカウンターを仕掛けたのは南洲ではなく、背後にある問題を知るのはもう少し後の事になる。いずれにせよ、内から予算問題、外から得体の知れない査察部隊の両面攻撃により、吉野の毛根に深刻なダメージが加算されたのは言うまでもない。

 

 

 

 「大阪のおうどん、鹿島好きですよ」

 

 舞鶴の一件以来、南洲が外出する際には必ず誰か一人が同行することになった。今日は鹿島が南洲に同行し、宇佐美少将の部屋の前で用事が済むのを待っていた。

 

 管理棟を後にし、宿舎へと戻る道を行く南洲と鹿島。両脇に銀杏の樹が並ぶ道を、鹿島が少し先を歩く。折々振り返りながら、明るく話しかけてくる鹿島だが、話が大坂鎮守府の吉野大佐に及ぶと、苦笑いのような表情を見せ始める。

 

 「うーん、いろいろ判断に困りますね、その吉野大佐さんは。でも、鎮守府総嫁かぁ…」

 

 考え事をしながら立ち止まった鹿島は、ふと両手で何かを捕まえたような仕草を見せる。

 

 

 「捕まえました」

 

 両手を顔の前あたりまで上げ、目線で南洲に近づくよう訴える鹿島。身長差のある二人なので、南洲は近づくと腰をかがめ鹿島の手の中を覗きこむようにする。

 

 

 「提督さんを、です」

 

 

 手の中には何もなく、南洲の頬が両側から挟まれると、少しだけ背伸びをした鹿島が口づける。頬を赤らめながら、小首を傾げてニコッと笑う鹿島だが、すぐに視線を落とし呟く。

 

 「鹿島は、扶桑さんに敵わないのは分かっています。でも全員がお嫁さんになったら、同じように愛してもらえるのかな、って…。ごめんなさい、不謹慎でしたね。さぁ、帰りましょう、うふふ♪」

 

 小走りに走り出す鹿島の後ろ姿を見送りながら、南洲は再び大坂鎮守府の事を考えるも妙案は浮かばず、苦い表情のまま歩きはじめる。

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