逃げ水の鎮守府-艦隊りこれくしょん- 作:坂下郁@リハビリ中
南洲、大坂鎮守府入り。吉野大佐とついに邂逅する。
(※)御注意
○この章はzero-45様の作品世界とコラボレートしたお話ですので、コラボ作はちょっと苦手、こういった形での内容に興味が無い、趣味趣向が合わない方がおられましたらブラウザバック推奨です。
○拙作と先様の両方をお読みいただけますと、より楽しんでいただけます。
zero-45様 連載
【大本営第二特務課の日常】
https://novel.syosetu.org/80139/
○内容としては互いの世界観を崩さず、更に作品世界の物語を絡ませつつも、今まで続いている連載の中に自然な形として組み込む話を目指しております。
「うーん、ついに到着しちゃったねぇ。どうしようかな」
鼻と上唇の間にペンを挟み、やる気無さそうにしているのがこの鎮守府の長・吉野三郎大佐(最近通常の制服に物足りなさを覚え始めた自分が怖い28歳重婚)である。到着した相手は大本営艦隊本部付査察部隊、その出迎えと執務室への案内は艦隊総旗艦である長門に一任していた。
「提督、やっぱり僕らも出迎えに行った方がいいんじゃないかな? 心証、っていうのも大事だろうし」
吉野大佐は少し考えると、ふむ、と頷き立ち上がり、秘書艦の時雨が発した『心証』の言葉で昨夜の執務室での一件を思い出す。報告書を持参した長門と共に打ち合わせをしていた所に現れた、榛名に担がれた三名と引率されてきた一名―――。
◇
「えーっと…、ビスマルクさんに羽黒さんに鹿島さんに龍驤さん、ドウモ初めまして。自分は大坂鎮守府の長を務める吉野三郎大佐です。何と言うかアレです、
「ふん、『こういうこと』っていうのは、私たちにこんなえ、えっちな格好をさせていることかしら? このへんたいへんたいへんたいっ!!」
ビスマルクがぎゃんぎゃんと噛みついてくる。自由に動けない状態で無理に動こうとするのでディアンドル風の衣装で強調された胸がばいんと揺れる。
「吉野大佐は艦娘を着せ替え人形さんのように扱う方なんですね。でもこの服可愛いし、
一瞬吉野を蔑むような目で見た後は、何事もなかったように通称『童貞を殺す服』と呼ばれるハイウエストスカートにまんざらでもなさそうな表情を見せる鹿島。やはり自由に動けない状態で腰をひねり背中側を確認しようとして胸をたぷんと揺らす。
それらを見ながら自分の青いスモックに視線を落とし、『
「あの、みなさん、それは誤解というか…。提督はそういうことを命じる方ではなくてですね。やはり
世にも稀なビキニメイドスタイルの榛名が善意からの言葉で事態を悪化させると、やれやれ、という態で長門が首を横に振りながら、話を途中から引き取る。
「よせ榛名。その辺は部外者に話をしても分からんだろう。我々には我々の絆というものがある。なあ、提督?」
武人然とした雰囲気から発せられた長門の言葉には、相応の説得力があったかもしれない。ピンクのキラキラしたミニスカメイド服でさえなければ。
「あー………」
吉野はこれらの衣装が完全に自分の指示と思われたのが想像以上にショックで、ぁぁぁあかしぃぃぃぃっと叫びたい所だった。が、ソレをした所で何の解決にもならないことが分かってる以上ぐっとこらえ、自席を立ち上がり南洲隊の方へ向かおうとする。
-びくっ
それを見た羽黒が怯えはじめる。大坂の誰が悪い訳ではない。だが、羽黒がかつていた鎮守府の事まで吉野が調べていれば、それは防ぎ得ただろう。あるいは
「い……いやぁぁぁぁっ、こ、来ないでぇぇぇっ!!」
記憶がフラッシュバックした羽黒は、泣きながらこの場にいない南洲に助けを求める。すぐさま鹿島が、ビスマルクが立ちはだかり、事情を知らない他の面々は唖然とするよりできなかった。とにかく羽黒がこんな状態では事情聴取もできず、長門と榛名が南洲隊の四名を退室させ、執務室には吉野だけが残された。
「ナンシューさん…傷ついた艦娘を集めた特務部隊の長、か。闇が深そうだねぇ…」
◇
そして朝が来てすでに昼に近い時間になった。
指定された大坂鎮守府南側のコンテナヤードに接岸したPG829しらたか。補給物資の搬入を済ませたであろう中型タンカーが入れ替わりに出航してゆく。大阪鎮守府の母艦が外洋展開も可能な強襲揚陸艦なのに対し、南洲の部隊は高速一撃離脱のミサイル艇。ここからして部隊の性格が如実に現れている。昨夜から今に至るまで時間は十分ではなかったが、南洲は非常の決心で大阪鎮守府に乗り込む準備を整え、春雨と秋月とともに大坂の地に足を踏み入れた。
「気が付けば守るものが増えていたんだな」
表情は普段通りだが右眼が赤い。感情が高ぶっている証だ。春雨はそう呟く南洲をじっと見つめ続け、思いを馳せる。
鎮守府の長に戻る-南洲はよくそう言っていた。それは地位や権力の話ではなく、艦娘達との絆を指していた。そう願いながらも、潰滅したウェダ基地で失われた命は戻らず、二度と失いたくないから新たな絆を拒み、選択肢がある度に南洲は一人を選ぼうとしていた。
矛盾のうちに心を閉ざしてた南洲が、いつの間にか
◇
しばらくして見えてきた大阪鎮守府の正門。門の両脇から斜めに列を二つ作り、艤装を展開した艦娘達が整列している。その中央、門の正面に立つ、秘書艦らしき艦娘を二名連れた細身の男性。なぜか微妙というか苦い表情を浮かべているがおそらく吉野大佐だろう。やや離れてその前に立つ二名の艦娘。
その中から自分を呼ぶビスマルクが涙声で駆け寄ってくる。泣きじゃくる羽黒の肩を抱きながら進む鹿島、憮然とした表情の龍驤が次々と自分の元にやってきた。だがお前らその服装は何だ、と南洲の眉根には不審さを示すしわが刻まれる。
「アトミラール、ごめんね…」
胸に飛び込んできたディアンドル風のビスマルクは、上目遣いの涙目で南洲を見上げる。
「隊長さん、頼むから似合うとか言わんといてな…」
ハイライトオフした目で呟く園児龍驤。
「南洲さん、似合います、これ? でも…羽黒さんが」
浮かない表情のハイウエストスカート姿の鹿島。
南洲は立ち止まり泣きじゃくっている羽黒を見て何かを察し、労わるように軽く抱きしめる。
「南洲さんっ!!」
秋月が短く叫び、南洲がそれを手で制する。正面に立つ二人の艦娘のうち、榛名がさっと手を前に振り出し、各艦娘の砲塔から装填音が響く。一糸乱れぬ統制の取れた動き。
「大本営艦隊本部付査察部隊を歓迎し、礼砲放てっ!!」
艦隊総旗艦を務める長門の号令一下、空砲が一斉に撃たれ、轟雷に似た砲声が蒼天に響き渡る。
あれだけの砲が一斉にこちらに向け放たれていたら-秋月は強張った表情で南洲のジャケットの裾を掴み、春雨は表情こそ変えないが顔色は蒼白になった。南洲は最悪の事も想定し、PG829しらたかには四発の
だが。
南洲は目の前に居並ぶ全ての艦娘に対し違和感を拭えずにいる。そして吉野もまた激しく後悔していた。なぜ自分は長門に『もてなしてくれ』などと頼んだのか。それが彼の苦い表情の理由だった。
「うむ、分かった。威儀を正して全員で迎えるとしよう」
その言葉通りに、正面に立つ長門はピンクのキラキラしたミニスカメイド服、その横にいる榛名に至っては水着かメイド服か理解に苦しむ格好。その他にも青や黄色のメイド服にバ○ガールなど、コスプレ見本市のような様相を呈している正門前。春雨もメイド服姿だが、これは公式でもある。
無造作に、ごく自然な足取りで近づいてゆく南洲と、長門と榛名の間に生じた隙間。
視界に吉野大佐を捉えた瞬間、南洲は抜刀し跳んだ。
『縮地』とも呼ばれる、瞬時に間合いを詰め、相手の死角に入り込む体捌き。狙撃の技術は別として、吉野の身体能力は標準的な成年男性のそれである。剣の技を磨き体技を鍛え、さらに身体の四分の一を扶桑の生体機能に置き換えられた南洲の動きを捉えることはできなかった。まして今日の南洲は、
-怒気と殺気は別だからね。
吉野の喉元数ミリの所に突き立てられた南洲の剣先。吉野の横に立つ時雨でさえ対応できず、今の状態ではむしろ動く訳にはいかない。一拍遅れて飛び込んできた春雨は
「答えろ。羽黒に何をした?」
吉野から視線をそらさず、南洲が問いかける。
「…何も、と言いたい所だけど、彼女の心の内にある何かに触れちゃったみたいなんでねぇ。知らなかった事を言い訳にするほど傲岸じゃない、衷心より謝罪申し上げる」
首を動かせない吉野だが、まぶたを閉じながら微かに頭を下げる。本来吉野が謝る筋合いなどどこにもない。だがこの男なりに羽黒に心を砕いている、南洲はそう理解し、剣を収めると黙礼、激情に駆られ剣を向けた事を謝罪した。その上で南洲は宣する。
「大本営艦隊本部付査察部隊隊長、槇原南洲特務少佐である。今回、当方は軍権に基づき貴鎮守府の全面査察を行うものとする。責任者の吉野大佐以下所属全艦娘はこれに全面協力せよ。抵抗がある場合はこれを排除、実力を持って所定の目的を完遂するものとする」
「大坂鎮守府司令官、吉野三郎大佐、査察の受け入れ及び協力を承知する」
無言のまま南洲が手を差しだし吉野がそれを握り返す。蟠りは残るものの戦闘は避けられ、ようやく南洲の部隊と大坂の艦娘たちの緊張が解け始める。
「こんにちは。僕は時雨だよ。提督の秘書で、君たちの案内役かな」
「こんにちは。私は春雨です。隊長のパートナーです、はい」
他人行儀な挨拶を真面目な表情で交わす時雨と春雨だが、一瞬の間の後、二人同時にクスッと笑い、手を取り合いながらぴょんぴょん跳ねて出会いを喜び合っている。水色のミニスカメイド服に白のニーハイを穿いた、絶対領域の眩しい時雨が跳ねるたびにスカートがひらひら動き、ちらちらと見えてしまう。黒いミニスカメイド服に合わせた黒のニーハイを穿いた、絶対領域の眩しい春雨のスカートも同様で、こちらもちらちらと見えてしまう。
「「………駆逐艦にああいう格好をさせるのが、趣味とはねぇ」」
南洲と吉野が同時に呟き、お互いを見る。同時にそれに気づき、やはり同時に苦笑いを浮かべる。