逃げ水の鎮守府-艦隊りこれくしょん-   作:坂下郁@リハビリ中

34 / 109
zero-45様『大本営第二特務課の日常』コラボ第五回。

不自然な事態の推移で南洲は奇妙な戦闘に巻き込まれ、大坂と査察部隊の艦娘の間には険悪な空気が流れる。陰にあるものが徐々に姿を現し始める。

(20161109 一部内容変更、誤字修正)

(※)御注意

○この章はzero-45様の作品世界とコラボレートしたお話ですので、コラボ作はちょっと苦手、こういった形での内容に興味が無い、趣味趣向が合わない方がおられましたらブラウザバック推奨です。

○拙作と先様の両方をお読みいただけますと、より楽しんでいただけます。

zero-45様 連載
【大本営第二特務課の日常】
https://novel.syosetu.org/80139/

○内容としては互いの世界観を崩さず、更に作品世界の物語を絡ませつつも、今まで続いている連載の中に自然な形として組み込む話を目指しております。


34. 作為

 激突は何とか回避され、南洲たち一行は大坂鎮守府の中を進む。先を行く時雨と春雨は談笑し、南洲と吉野は微妙な緊張感を残しながら歩いてゆく。その周囲は色とりどりの艦娘たちが囲み、前後左右どこを見てもカスタムメイド服という、軍事施設での出来事とは思えない華やかなパレードになっていた。

 

 一方ビスマルクと龍驤、羽黒は着替えのためいったんPG829まで戻ると強く主張していた。胸を強調した衣装(メイド服)を羽黒は恥ずかしがり、小声で見ないで見ないでと呟いている。ビスマルクに至っては強調どころか胸がはみ出でそうであり、こちらも顔を真っ赤にしている。強調する部分がないことを強調されている龍驤が最も着替えたがっていたが、対照的に鹿島はこのお洋服可愛いからそのままでも構いませんよ、と余裕の笑みを浮かべる。

 

 「着替えちゃうんですかぁ? 似合ってるのにもったいないですねー」

 

 自分たちの提督に刀を突き付けられ、しかもそれを止められなかった大坂鎮守府の艦娘たちの心中は穏やかではない。だが中には南洲を始めとする査察部隊の実力を目の当たりにし興味津々の艦娘もいる。そんな微妙な空気を気にすることなく、まさに他人事で声を掛けてきたのが夕張。その周りには黒い妖精さんがふよふよと飛び回っている。

 

 「でもどうしても着替えるなら、皆様の宿舎としてご提供する予定の新築施設へどうぞ。ほらあれです」

 

 大坂鎮守府の内部は、ズラッと並んだ赤煉瓦の建物群、その周りには芝生が敷き詰められ遊歩道や公園も整備され、その脇には東屋が設置されるなど全体的にモダンレトロな雰囲気で統一されたデザインが美しい。ある一角では背中が丸出しの割烹着を着た女性が大量の搬入物資のチェックをし、その手伝いをするようにここでも黒い妖精さんがふよふよと舞っている。見れば『間宮』と青地に白抜きで染め上げられた暖簾がかかっている。

 

 だが何より目を引くのは、それら統一感のあるデザインを台無しにする存在感を放つ、西洋の童話に出てくるお城を模したような、それでいて背徳感あふれる雰囲気を醸し出す建物。それこそが夕張が指し示す施設である。

 

 「…メロン子、あれ何? 提督知りませんけど?」

 「ええ~っ!? 大阪鎮守府スレにご本人降臨してツッコんでたじゃないですかぁ。全嫁艦の願いをカタチにした御休憩施設『夜のスナイパー』、堂々完成ですっ!」

 

 「メロン子ぉぉぉぉっ! 査察部隊の前でラ○ホお披露目!? なにしてくれてんのぉぉぉぉっ!! しかもネーミングぅぅぅっ!」

 「………ラブ○? 鎮守府に?」

 ぷるぷる震える吉野とぷいっと横を向く夕張、それをすうっと細めた目で凝視する南洲。また始まった、と言わんばかりに総スルーの大坂の艦娘達と、○ブホの言葉だけで反応し顔を赤らめる南洲隊の艦娘達。

 

 ざわめきの中、不意に夕張が南洲に近づき話しかける。

 「その刀って、トラックの木曾さんの刀ですよね? 人間が艦娘の艤装を使えるってすごいですねっ! 興味あるなー」

 細めた目のまま夕張に視線を送る南洲。自分の装備品に必要以上の興味を示されて喜ぶ軍人はあまりおらず、南洲もその例外ではない。

 

 「………そうだ。だが何故?」

 何故そんなことを聞く、と問い返す南洲を質問責にする夕張。気づけば前を進む一群との距離が開いていた。少し早足で追いかけようとする南洲を夕張が引き止め、自分に付いてくるよう必死にせがむ。

 

 「大坂の秘密を知りたいんですよね? いいものありますよ」

 

 あからさまに嘘くさいとは思う。だが表敬訪問ではない以上、少しでも手がかりは多い方がいい。罠だとしても乗ってみるか-南洲はそう考え、夕張に付いてゆく。いくつも連なる赤煉瓦造りの建物、その一つの角を曲がり、一瞬夕張が南洲の視界から消える。やや遅れて角を曲がった南洲が目にしたものは、細い通路に立ちはだかる異様な物体だった。

 

 

 車がそのまま逆立ちし、そこから手足が生えてバケツを置いた様な、レトロな雰囲気のバタ臭いロボが、ガッツポーズを取りつつ『ガオー』とバケツ然とした頭に埋め込まれたスピーカーから雄叫びを轟かせる。

 

-ラウンドワン、ファイッ!

 

 唐突に試合開始を告げる合成音声が響くと、吉野の愛車をベースに夕張が魔改造を加えた拠点防衛用ロボのスプーが襲い掛かってきた。

 

 「スプー、パンチだ」

 通路の奥、スプーの向こうには制御用と思われるコントローラーを操作する夕張がいる。

 

 緩慢ともいえる動作で大ぶりのパンチを繰り出すスプー。細長い通路のため左右に動けない南洲はステップバックしそれを躱す。

 

 「スプー、キックだ…あ、コマンド間違った。も一度、スプー、キックだ」

 夕張の声とは裏腹に、突如艤装を展開するスプー。41cm連装砲が唸りを上げ動き出し南洲に照準を合わせようとする。咄嗟に前に出て一気に距離を詰める南洲は、銃を抜き砲身の下を走り潜るが、二度目のキックとタイミングが合ってしまい蹴り飛ばされた。

 

-ユー、ウィン

 

 再び合成音声が響き、スプーの勝利、南洲の敗北を告げる。音数の少ないチープな曲が流れ、スプーが前後に小さなステップを刻む。ベースとなった車両だけで1.5トン、その重量を乗せたキックをカウンター気味に受けた南洲は、口の端から血を流しながらゆらりと立ち上る。

 

-ラウンドツー、ファイッ!

 

 「おい、冗談のつもりなら今すぐ止めろ」

 スプーの奥にいる夕張を威嚇する南洲だが、返事はない。先ほどは違い、スプーが積極的に前に出てくる。三歩進む度にガッツポーツを取りガオーッと叫ぶため、意気込み程の速度はなく緩慢に近づいてくる。南洲は左手に銃を握ったまま、三角蹴りの要領で壁を蹴りながら跳躍する。スプーの頭上を飛び越え、一気に夕張を抑えようとするが、ガッツポーズのため振り上げられた腕に邪魔され、スプーの両肩、車でいえばリアバンパー上に降り立つこととなった。眼下に高速修復剤のバケツを流用したと思われる頭部を眺める南洲は、無言のまま銃を連射し、スプーの頭部や脚部を破壊した。

 

-ユー、ルーズ

 

 

 鎮守府内を案内する途中で査察官が消えていた。単独で潜入調査を開始したのか、と長門は苦い顔をして手分けして発見するよう指示を出す。南洲隊の面々も、舞鶴の一件を思い出し動揺が広がる。取りあえず、捜索に動員する以外の人員はいったん間宮を拠点として集まるという事になり、時ならぬ盛況ぶりを見せていた。

 

 誰かがTVを付けると、南洲が蹴り飛ばされる瞬間が映しだされた。誰もが唖然とすると、画像が切り替わり南洲視点となり、今度はスプーが映し出される。事情は分からないが、査察官とスプーが戦っている。一部の艦娘達はこれってやばくない?、と懸念を示すが、スプーが戦っている事が分かるとむしろ今朝方の蟠りが再燃し、多くの艦娘が一気に盛り上がり始めた。南洲隊は完全にアウェーの空気感の中、今自分達が南洲を探しに動き出せば個別撃破されるかもしれない、その警戒感もあり、動くに動けず止むを得ず画面越しに南洲を見守る。

 

 「いいそスプーッ! 査察官なんてやっつけちゃえ!!」

 「南洲、あぶないっ!!」

 

 スプーの勝利を告げる合成音声に続き始まったラウンド2は南洲が勝利した。スプーの頭部が破壊された事で映像が途絶し、間宮には失望のため息と、わずかな歓声が入り混じり広がる。だが音声だけは中継が続いている。

 

-ファイナルラウンド、ファイッ

 

 

 「いけ、スプー!! サイ○クラッシャーアタックだっ!」

 それは路上で戦う人達をモチーフにした格ゲーに登場する悪の秘密結社シャ○ルー総統の必殺技。

 

 脚部を破壊され片膝を付くような格好になったスプーは、車の状態に戻る。ツインターボのエンジン音が響き渡り、後輪からは激しいスキール音と白煙が上がったかと思うと、南洲に向かい急発進し加速してきた。

 

 ここでついに南洲がキレた。

 

 「ただの暴走車じゃねーかっ!!」

 

 マガジンを交換し、エンジン部を集中して銃撃すると、南洲は前に出てボンネットに自ら乗りあげ、フロントガラスに衝突しルーフを超え、ついにスプーの後方までたどり着いた。南洲の背後では、制御を失ったスプーが赤煉瓦の建物に衝突し廃車となっていた。

 

 よろよろと立ち上がる南洲だが、流石に無傷とはいかず、あちこちから出血し、軽く足を引きずってる。目の前には、頭の後あたりに黒い妖精さんをふよふよ漂わせた夕張が無表情のままで立っている。南洲はそのまま近づくとポニーテールを掴み捻りあげる。その際偶然だが妖精さんも一緒に握り込んでしまうと、地面には破れた人形(ひとがた)の紙がひらりと落ち、妖精さんは姿を消した。

 

 「おい」

 「ひゃ、ひゃい…。あの、いつものオシオキですよね?」

 

 急に我に返ったかのように、プルプルと震え涙目になる夕張は、なぜか地面にしゃがむと自分からシリをぺろんと出しはじめた。

 

 

 

 ロマン装備の開発で夕張が暴走した際に吉野が加えるオシオキ・生尻ぺんぺん。

 

 夕張がハッと気付くと、激オコの査察官とその背後に破壊されたスプーが目に飛び込んできた。きっとスプーが暴走し査察官に危害を加えた、そう瞬時に解釈した夕張は、混乱のあまり事態の収拾として吉野にオシオキされるのと同じように行動した。そしてそれがさらに波紋を生むこととなる。

 

 

 

 「な、ちょっとっ!! 何やってるっぽいっ!?」

 

 間宮のTVに突如復旧した映像。その代りに音声が途絶した。そこに映っているのは破壊されたスプーをバックに、銃を持つ男がシリをぺろんとだしている夕張に近づいてゆく姿だった。これだけを見れば、南洲が立ちはだかるスプーを破壊して、夕張に不埒な所業に及ぼうとしているようにしか見えない。音声が無いのもその誤解を助長し、誰が悪役だかまったく分かったものではない。

 

 完全に空気は悪化した。

 

 南洲隊からすれば、夕張を襲う必要もないし、むしろスプーとかいう怪しいロボに襲われたのは南洲だ。大坂鎮守府側からすれば、夕張を襲うためにスプーを破壊し、何がセクハラの査察などと寝言を言うのか、と猛反発する。

 

 Oh淀や妙高が懸命に全員を宥めようとするが誰も聞く耳を持たず、どんどん険悪な雰囲気になってゆく。

 

 

 「グラーフ君、何かおかしいと思わないかい? 誰かがどうしても自分たちと査察部隊を戦わせたい、そんな臭いがするよねぇ」

 

 騒ぎを冷静に見続けていた吉野は、不自然な事態の推移に第三者の介入の影を感じ始めていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。