逃げ水の鎮守府-艦隊りこれくしょん-   作:坂下郁@リハビリ中

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zero-45様『大本営第二特務課の日常』コラボ第六回。

大坂査察の裏に潜む影が表に現れ、さらに混迷を加える第三の男も。和解したかに思えた大坂と査察部隊の艦娘は、倒れた南洲を巡りついにぶつかる。


(※)御注意

○この章はzero-45様の作品世界とコラボレートしたお話ですので、コラボ作はちょっと苦手、こういった形での内容に興味が無い、趣味趣向が合わない方がおられましたらブラウザバック推奨です。

○拙作と先様の両方をお読みいただけますと、より楽しんでいただけます。

zero-45様 連載
【大本営第二特務課の日常】
https://novel.syosetu.org/80139/

○内容としては互いの世界観を崩さず、更に作品世界の物語を絡ませつつも、今まで続いている連載の中に自然な形として組み込む話を目指しております。


35. 黒幕

 そもそも大坂鎮守府の査察には意味がない。現地に纏わる奇矯な噂は色々聞くが、鎮守府名を見れば『アイツの所か…』で終わる話だった。だがその噂を利用しない手はない、そう思ったのだが―――三上源三(みかみ げんぞう)大将は、大本営技術本部地下の最奥部に向かいながらそう考えていた。

 

 大本営艦隊司令本部統括であり、武官の頂点に立つ彼の影響下にない軍人は広い意味ではおらず、誰にとっても無視できない影響力を発揮する。そんな彼が、宇佐美少将を誘導し南洲を大阪の査察に送り込ませたのは、彼自身の意趣返しと目的が合致したからだ。

 

 辻柾や遠藤を含む自分の手勢を殺害・捕縛しつづける槇原南洲。間接的とは言え自分の元部下であり、生体実験の材料として生かしてやった恩も忘れ刃向ってくる忌々しい男。

 

 もう一人の忌々しい男が吉野三郎大佐。たかが重巡(摩耶)一人を庇うため、自分が下した異動命令に真っ向から異議を申し立てた大坂鎮守府の長。更迭したかったが、後ろ盾となる大隅大将の横槍もあり、これ以上の出世を許さないことと、その男が主導していた大規模作戦を中止に追い込むことでその場の溜飲を下げたが、許したわけではない。

 

 自分に逆らう者同士争うがいい、残った方は改めて自分が手を下す―――暗い愉悦に三上の顔が歪む。

 

 

 

 技術本部の地下深くにあるこの場所はいつ来ても異様だと、三上は寒気を覚える。暗い洞窟と足元に広がる水場、通路として設けられた飛び石の両脇に並ぶ石灯籠、その奥にある拝殿。その中に目的の人物はいる。

 

 「大本営艦隊本部統括、大将三上源三、大坂の状況についてご報告いたしたき儀がございます」

 拝殿の前に広がる白州に平伏しながら返事を待つが答はなく、三上は仕方なく説明を始める。

 

 拝殿の中で顎鬚を撫でながら無言で三上の話を聞くこの男は、艦娘の開発における二大分野-生体工学分野と霊子工学分野-のうち、後者を司る中臣 由門(なかとみ よしかど)浄階(じょうかい)。古神道に道教の陰陽五行思想や、密教などの秘儀を習合し魂の在り方を極めた神職の最高位、そしてエンジニアとして魂の神秘に技術として利用可能な再現性を持たせ艦娘の戦力化に道を拓いた、この国のオカルトロジーの頂点に立つ存在である。

 

 中臣浄階により体系化された技術で定着させられる、かつての戦を戦った軍船や軍人の魂。付喪神や魂返りと解釈もできるが、いずれにせよそれが艦娘や艤装の核となる。

 

 平伏し相手の言葉を待ちながらも、三上は緊張と恐怖の両方から止まらぬ汗をぬぐう。ややあって平伏する目の前に、拝殿の奥から紙でできた小さな人形(ひとがた)が銅の鏡を運んできた。

 

 「じょ、浄階様、これは一体…?」

 「送り込んだ式神の『目』を通した大坂の情景よ」

 

 一体どうやって、との三上の問いに、中臣はつまらなさそうに答える。

 「洋上の城たる大坂でも、燃料弾薬食料、平時の物資は大本営から船で搬入される。そこに儂が小さな式神(紙切れ)を混ぜても誰が気づくかの。今回の船には何故か銃を携えた胡乱な男も積んでおったようじゃが、ともあれ」

 

 中臣浄階が送り込んだ式神、それが夕張や間宮の周りをふよふよ飛んでいた黒い妖精さんである。だが三上は中臣の言葉の中に違和感を覚えた。銃を携えた胡乱な男? 無論自分の手の者ではない。

 

 「大坂の吉野(城主)は存外敵が多いものよ。ふむ、状況が混沌としてきたの。三上、戯れに貴様に手を貸してやろう。以前技本に電脳経由で潜りこんできた鼠がおってな。鼠の割には鋭い歯があったが、すでに儂の手の内にある。これを使役するのも一興。南洲(傀儡)を弑いて、彼奴の艦娘(絡繰)を絶望で塗り潰すとするか」

 

 中臣の言う『鼠』とは、南洲の情報を得るためハッキングを仕掛けた大阪鎮守府情報室長の漣である。艦娘随一と言われる諜報戦・電脳戦のエキスパートを籠絡したというのか-思わず三上が顔を上げ問い返す。

 

 「じょ、浄階様が電脳戦(サイバーウォー)を―――?」

 「プログラムやコードなど、魂の神秘を電脳世界で模倣するために文字数字で組んだ簡素な呪式よ。儂を防いだと悦に入ってようが、彼奴は文字列での我が暗示に晒され続けた。三上よ、魂の在り様を、貴様らのテクノロジーに合わせ使役し得るよう調えてやったのは誰か、よもや忘れたか」

 

 自らの手を伸ばした中臣浄階、現地で対立し始めた大坂鎮守府と査察部隊の艦娘、そして大坂への潜入を目論む第三の男…事態は自分の思惑を超え制御不能、それだけは分かり、今度こそ三上は白州に額を擦り付けるほどに平伏するしかできなかった。

 

 

 技本の深奥で虚空を見やる中臣の目に一体何が映っているのか、それは本人にしか分からず、再び舞台は大坂鎮守府へと戻る―――。

 

 

 

 Oh淀他数名の理性的な艦娘が、大坂鎮守府勢と査察部隊の間に体を張って割り込み、物理的に衝突を止めている。そんな緊迫した光景の中、吉野はとあるものに気付き、自分の頭に胸を乗せているグラーフ・ツェッペリンに問いかける。

 

 「ところでグラーフ君、マミーヤさんの周りをふよふよ飛んでいる白い人形(ひとがた)の紙は?」

 「何を言ってるのかよく分からんが、マミーヤの周りには黒いツナギの妖精が飛んでいるだけだぞ」

 「んんん?」

 「???」

 

 お互い何を言っているのか、という表情でお互いを見やる。中臣浄階の送り込んだ式神、それは魂の相を妖精さんに似せた人形である。魂の相を観る艦娘の目には、良く似た相を持つ黒ツナギの妖精さんに見え、可視光線の波長を見る人間の目には、ただの紙切れが浮遊しているように見える。南洲の目に黒い妖精さんが見えた理由は、彼の右目が扶桑のものであることに起因する。

 

 吉野は立ち上がり、全員の注目が集まる中を間宮(マミーヤ)の前まで進むと、まるで横顔を触る様に手を伸ばす。一斉に色めき立つ大坂の艦娘だが、吉野は意に介さず浮遊する紙切れを握りクシャッとする。手にした人形の紙には呪文のようなものが書かれていた。グラーフを目線で呼ぶと、その耳元で吉野は囁く。

 

 「あー、ちょっと頼みがあるんだケド。こんなのが鎮守府内をふよふよ飛んでるっていう事は、持ち込んだ輩がいるんじゃないかなぁ、と。少なくとも査察官では無さそうだし、ちょっと色々探ってくれるかな。必要ならいつ呼んでくれても構わないから」

 

 さらに視線を集める者が店に現れると、入れ替わるようにグラーフが立ち去る。

 

 

 「あー、みなさんここだったんですねー」

 南洲と、彼に肩を貸しながら夕張が間宮に現れた。騒然とする店内。すぐさま二人は引き離され、南洲はビスマルク達に、夕張は大坂勢に、それぞれ守られるような形でにらみ合いが続く。

 

 「止せよ」

 南洲が短く言うと、人ごみをかき分け吉野の元へと進む。吉野もまた南洲に向かい合う。そして二人同時に手に握っているものを見せる。破れた人形とクシャクシャの人形。

 

 「どうやら自分と査察官をどうしても戦わせたい人がいるようですねぇ」

 「そうみたいだな、手の込んだ事を…」

 

 やっと微妙な緊張感が解け、南洲と吉野は肩の力を抜くように姿勢を崩す。その一方で夕張から一連の顛末、自分が操られていたことも含めやや誇張気味に説明が入り、艦娘達同士も蟠りが解け始めたようだ。

 

 「あの変なトランス○ォーマーのせいでケガしちまった」

 「…あれ、自分の愛車だったんですヨ…」

 

 南洲が苦笑いを浮かべながら、悪かったよ、といい、席に着く。そこに黒い妖精を頭に載せた漣が飲み物を持ってきた。お盆には南洲が初めて見る清涼飲料水の缶がたくさん載せられている。ド◯ペ(ご存知王道)サ◯ケ(味覚の冒険飲料)ギャ◯クシー(色付ベニヤ板味飲料)冷や◯あめ(関西からの刺客)、そしてグラスに入った水。

 

 「…………」

 南洲の本能が危険を告げ、伸ばした手が宙をさまよう。ふと、ビキニメイド姿の高速戦艦が、お盆に乗っているのと同じ飲料を飲んでいるのが南洲の目に留まった。

 

 じるじるじるじる…ぷはぁー。

 

 幸せそうな表情を浮かべ、榛名は両手で缶を持っている。ならそれを、と南洲は手を伸ばす。

 

 じるじるじるじる…ぶほぉーっ!!

 

 衝撃の表情を浮かべ、南洲は口にした冷やし○めを噴き出す。

 

 濃厚な甘ったるさと刺さる生姜の味に咽ながら、南洲はお盆に乗っていたグラスの水に手を伸ばすとごくごくと飲み一息つく。

 

 

 そして南洲は震える手でグラスをテーブルに置くと、そのまま突っ伏し嘔吐を始め、ずるずると崩れ落ちた。

 

 

 

 「査察官の体内から高濃度の毒物が検出されています。おそらく水の入ってたグラスに混入されていたと思われますが、とにかく今は絶対安静、動かすと命の危険が―――」

 「どきなさい妙高っ!! 毒を盛った相手なんかにアトミラールを任せられる訳ないでしょうっ!!」

 

 医療施設の入り口の前では艤装を展開したビスマルクと龍驤、秋月が中に入ろうとして、妙高を始めとする大坂勢ともみ合いになっている。大坂鎮守府の地下三階にある電のラボ、その医療施設に南洲は緊急搬送され電が対応に当っている。測定の結果毒物が特定され、催嘔と胃洗浄の他、キレート剤が投与され現在加療中。

 

 

 一方、漣と間宮(マミーヤ)と伊良湖は執務室で、吉野と時雨、長門により事情聴取を受けている。

 

 漣は既に正気を取り戻し、悔しさに耐えながら全てを話す。カウンターハックの防戦中にデジタルドラッグによる暗示を受けていたこと、黒い妖精を見た途端に身体が中臣浄階にハックされ南洲のグラスに毒物を塗布したこと。そこまで話すと、突如執務室のドアが破壊された。

 

 

 「こんにちは。お願いですから邪魔をしないでほしいのです、はい」

 

 ぺこりと頭を下げ丁寧なあいさつと共に春雨が侵入してきた。目的ははっきりしている、南洲を毒殺しようとした犯人への報復、それ以外にない。

 

 「春雨っ、これは罠なんだ。僕たちを―――」

 咄嗟に長門と吉野が漣たちを庇い、時雨は春雨の前に進む何とか宥めようとする。その回答として、時雨に向けてモーニングスターが放たれる。避けきれないと判断した時雨はそれを受け止めつつ自ら後方に跳び衝撃を逃がす。だが棘鉄球を追う様に距離を詰めた春雨の蹴りにダメを押され窓に叩き付けられると、窓枠ごと二階の執務室から落下してゆく。チェーンを離さない時雨に引きずられ、春雨も窓から飛び降りてゆく。

 

 「あとでまた来ます、はい。逃げても隠れても、絶対見つけますので」

 

 

 突如二階の執務室からガラスが割れる音とともに窓枠と時雨が落ちてきた。それだけでも周囲の艦娘の耳目を集めるには十分だったが、時雨を追う様に春雨が飛び降りてきた時点で、皆事態を飲みこんだ。査察官が毒殺されそうになりキレたとしても何の不思議もない。

 

 「落ち着いてよ春雨、僕の話を聞いてっ」

 「あなたの提督が同じ目に遭ってもそう言えるか、試しましょうか?」

 

 春雨を落ち着かせようとしていた時雨だが、『試しましょうか』、すなわち吉野に危害を加えると言う春雨の言葉で顔色が変わり、愛刀の関孫六を抜くと春雨に突進を始める。春雨もカウンター気味にモーニングスターを投擲する。

 

がしっ。

 

 二人の間に割り込むと、右手で春雨のモーニングスターを受け止め、左手で時雨の手を押さえる一人の艦娘。

 

 

 日ノ本の国の銘を冠する大戦艦にして、”鉄壁”の二つ名を持つ大和の姿がそこにあった。




『無能転生 ~提督に、『無能』がなったようです~』
https://novel.syosetu.org/83197/

の作者様にして画伯のたんぺい様より再び支援絵をいただきました。
ありがたいことです。

最終シーン、再現してくれちゃってます。

【挿絵表示】


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