逃げ水の鎮守府-艦隊りこれくしょん- 作:坂下郁@リハビリ中
※ご注意※
コラボ先の作者であるzero-45様が執筆再開されることを受け、第三章の凍結を解除、今話より後段として投稿します。この#36は、以前投稿したお話の改訂版となりますので、その点をご理解の上ご覧いただけますようお願いいたします。
zero-45様、お帰りなさいませ。
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○この章はzero-45様の作品世界とコラボレートしたお話ですので、コラボ作はちょっと苦手、こういった形での内容に興味が無い、趣味趣向が合わない方がおられましたらブラウザバック推奨です。
○拙作と先様の両方をお読みいただけますと、より楽しんでいただけます。
zero-45様 連載
【大本営第二特務課の日常】
https://novel.syosetu.org/80139/
○内容としては互いの世界観を崩さず、更に作品世界の物語を絡ませつつも、今まで続いている連載の中に自然な形として組み込む話を目指しております。
時雨も春雨も大和の手を振りほどこうとするがビクともせず、しばらくの間徒労を重ねていたが、やがて二人とも諦めたかのように力を抜き、取りあえず艦娘同士でのぶつかり合いは避けられた。騒ぎを聞きつけ多くの艦娘が集まり、三人の周りを囲むように人垣を作り上げた。
「私たちの力は盾でもあり矛でもあります。ですがそれは、信じる主と共に戦い共に生き残るためのものです。戦う相手を間違ってはいけませんっ!」
静かな、それでいて凛とした、春雨と時雨、大坂の艦娘、南洲隊の全てに向けられた言葉。元大本営第一艦隊旗艦、大坂着任までは元帥の"表の秘書艦"を務めていた大和の威厳に陰りはなく、依然警戒感を隠そうとしない二人の駆逐艦を含め、三人を見守る艦娘達は考え込む様な表情になる。
そもそもこの査察は何かおかしかった。言いがかりとも思えるような理由での査察、対立を煽るような出来事の連続、挙句に査察官の毒殺未遂…程度の濃淡はあれども、多くの者が違和感を覚えていた。大和の発言は正しくそこを指摘したものだった。
「…分かったよ、大和さん。僕もやりすぎちゃうところだった」
時雨は少し気まずそうに納刀し、俯いたままの春雨に目をやると、彼女の右腕に僅かに動き出すのが見える。
◇
地下三階ラボ・医療施設―――。
取りあえず容態は安定したものの、ベッドに横たわる南洲を見つめる電の表情はむしろ怒りさえ浮かべている。緊急搬送され手当のため検査測定を行った結果、電はその肉体に何が施されたのかを図らずも知ることとなった
「…酷過ぎるのです。これが技本のやり方…。少佐はただの人間なのに艦娘の組織を融合させるなんて…でもそのおかげで毒が効きにくく、既に回復が進んでいるから皮肉なのです」
右腕と右眼、いくつかの臓器が艦娘のものに置き換えられ、脳にも一部手を入れた形跡さえ見られる。吉野もまた幼い頃に瀕死の重傷を負い、その救命のため当時研究途上にあった艦娘の開発技術を投入され、人の枠内でその命をつないだ。だが南洲の場合は、それとはまったく異なる。免疫抑制剤と
「よく寝かせてもらった。俺は行くぞ」
言いながら起き上る南洲。依然として顔色は悪く、ふら付きながら立ち上がると、無造作に着替えはじめる。刀と銃を確かめ歩き出した南洲は、阻むように出口をふさぐ電に言葉を掛ける。
「手間かけて悪かったな、大方あの黒妖精の仕業だろ? そこどいてくれ、春雨やビスマルクがキレて暴れかねない。こんなことでどっちの艦娘にも傷ついて欲しくないんだ」
南洲をじっと見つめる電が、ぽつりと口を開く。
「春雨さんが暴れ続けていて、大和さんが止めようとしています。それより、少佐は…何のために戦っていて、どこに行きたいのですか? 自分の体の事、分かっているはずなのです。電は…少佐にも救われて欲しいのです」
一瞬虚を突かれた表情となった南洲は、自嘲気味の笑みを浮かべ答える。
「艦娘のためと言うほど、俺の手は綺麗じゃない。怒り…いや、恐怖かもな……これ以上失うことに、俺は耐えられそうにない。なのにまた抱えちまった。ただの身勝手な理由だ。たとえそうだとしても、それでも守りたい物は今もある」
できれば全員助けたい、そのために医局を立ち上げた電の願いとは対極にある、目に映る全てを壊すための技本の生体実験の成果と言える南洲。だがそれでも、南洲はせめて自分の目に映る相手だけでも守ろうとしている。血に塗れた方法でしか、その願いが叶わないのがあまりにも痛々しい。
南洲の目の奥底までを覗き込む電は、一つため息をつくと道を開けた。
「分かったのです。電も同行するのです。サブちゃんの鎮守府で、査察隊に死人なんて出す訳にいかない、のです」
「勝手はお互い様か。好きにしろよ」
◇
地上へと向かうエレベータの中では、電も南洲も無言だった。壁に寄りかかり腕を組む南洲と、白衣の前で手を重ねる電。地上まで数十秒だが、意外と密閉空間での沈黙は重くのしかかる。ちーんというややクラシカルな音と共に地上階へと到着したエレベータを降り、ラボを出る。閑静な遊歩道を進み、春雨が暴れているという執務棟前の広場まで向かう。できれば急ぎたいところだが、電の歩幅に合わせ南洲にしてはゆっくりとした歩みを続ける。そして唐突に、視界の先にある異質な存在に気付いた。南洲の様子が変わったことで電も視線を同じ方向へと向ける。
何か重量物を収容しているようなケースを携えた黒い鎧武者。
南洲は無言で相手の攻撃に備え、シンプルな体捌きでカウンターを取りやすい体勢を取りつつ鋭い視線を鎧武者に送る。考えてみれば、いや、考えなくとも大坂到着以来妙なロボとの人身事故を含む3セットマッチ、関東生まれの自分にとって未知の飲料水風の刺激物からの毒物混入コンボと、散々な目に合っている。そしてここに来て鎧武者の登場だ。一〇〇万歩譲って大坂に来て以来散々目にしたコスプレの一種だろうと自分を納得させることもできるが、それで納得してはいけないと自分の何かが警鐘を鳴らす。というか、あいつ誰だ? いや、またロボか?
「…………兜割か、木曾刀ならいけるだろう。ドタマかち割って中身確かめるとするか」
「…………はわわわわっ。待ってくださいなのですっ」
電が慌てて鎧武者に合図を送るかのように手をブンブンと振り続ける。
「あれはサブちゃんなのですっ。でもなんで
サブちゃん…吉野大佐のことか? 南洲は怪訝な表情のまま、それでも少しだけ警戒感を緩める。
「何で自分の
実際電もなぜ吉野大佐が対爆スーツを着込んで鎮守府内を闊歩しているのか、その理由は知らない。それでも南洲が考えているような理由でないことだけは確かだ。再び険しくなりかけた南洲を宥めるように、電が慌てて口から出まかせを言い放つ。
「あのっ、それはですね…。サブちゃんの貞操を守るためというか…守るためなのですっ。ブラックジャックをしているだけであれこれ妄想を膨らませて執務室に突撃してバケツ正座でオシオキされる乙女達の中にいる唯一の子羊、それがサブちゃんなのですっ」
あまりと言えばあまりの理由に、南洲は首を傾げながら電と鎧武者を交互に見つめていたが、何となく吉野大佐が気の毒になり警戒感を完全に解くと、やれやれ、といった態で頭をポリポリと掻く。南洲の態度が完全に軟化したことを確信した電は再び
何となくため息を付き、春雨の元へ急ごうとする南洲の右腕を電は掴み押しとどめる。違和感に振り返った南洲に、電は話しかける。
「大坂城には貴様の他にも二組の狗が忍び込んでおる。
表情のない虚ろな目で、同じ声ながら全く異なる言葉遣いと喋り方で語り始める電。その頭には
「それにしても奇特な男よ、そこまで
「聞いたことのあるカビ臭ぇ喋り方だ、あれだろ、テメエは技本にいるジジイだろ? へぇ…三上絡みのヤツだったのか。 まぁいい、テメエが誰だろうが、これ以上ちょっかいを出すなら殺しに行ってやる」
南洲は手の中の
◇
電と南洲が目的の場所へ辿りついた時、騒動はまだ続いていた。春雨が
「いい加減にしろ
南洲の声に気付いた大和が、苦も無くモーニングスターを掴み止め視線を送る。そうしようと思えばいつでもそうできたのだろう。だが大和もまた艦娘であり、南洲を失うかもしれない不安に耐えきれない春雨の心情を痛いほど理解し、その不安を吐き出させるため敢えて攻撃を続けさせていたようだ。春雨もまた、南洲の声を聞き急停止すると、しゃがみ込み、独り言のように呟きはじめる。
「あの時の…瀕死の南洲から流れる血の温かさと冷えてゆく体の怖さを、忘れ…られないんです…。渾作戦の時も、以前の
春雨は嗚咽を漏らしながら、南洲の名を繰り返し呼ぶ。その言葉に、大和はただ優しく頷き春雨を抱きしめる。
「査察官の一件はあってはならないことであり、春雨さんの気持ちは痛いほど分かります。ですが我々の主たる吉野大佐もまた、決してこのような手を使う人ではありません。この大和、相手が誰であれ正すべきは正します。それを信じて矛を収めてもらえませんか?」
南洲は、大和に抱きしめられたままの春雨の前まで行き、大和に深々と頭を下げる。
「双方に怪我人が出なかったのは貴艦のお蔭だ。春雨の心を救ってもらったこと、心から礼を申し上げる」
その真摯な態度に、言葉の代わりに綺麗な笑顔で大和は応え、春雨は立ち上がると涙でぐしゃぐしゃの顔のまま南洲の胸に飛び込む。ビスマルク達も南洲の周りに集まってくる。春雨の髪をくしゃくしゃと撫でながら、南洲は周囲を見渡し、すっと目を細める。
-この礼をしないで大坂を立ち去る訳にはいかなさそうだな。吉野大佐は
改めましてzero-45様、回復おめでとうございますっ!