逃げ水の鎮守府-艦隊りこれくしょん- 作:坂下郁@リハビリ中
南洲隊が大坂を舞台に『特務』に取り掛かる。吉野大佐を狙う第二の刺客を狩り立てるため、本気の南洲が疾る回。
(※)御注意
○今話の時間軸としてzero-45様『第二特務課』91話と同時進行で動いている裏側のお話です。
○コラボ作はちょっと苦手、こういった形での内容に興味が無い、趣味趣向が合わない方がおられましたらブラウザバック推奨です。
○拙作と先様の両方をお読みいただけますと、より楽しんでいただけます。
zero-45様 連載
【大本営第二特務課の日常】
https://novel.syosetu.org/80139/
○内容としては互いの世界観を崩さず、更に作品世界の物語を絡ませつつも、今まで続いている連載の中に自然な形として組み込む話を目指しております。
それは吉野大佐と彼を狙う狙撃手が緊迫の中対峙している間のこと。南洲もまた戦いを始めようとしていた。吉野大佐と南洲は、お互いがしていること、しようとしていることを知らないが、それぞれ裏表の関係といえる様相の中、事態は進行してゆく―――。
南洲と春雨を中心とし、部隊のメンバーが小さな車座を作る。南洲が六名の艦娘をじっと見渡すと、その視線が孕む色の種類に春雨は素早く、鹿島がやや遅れて気付いた。
「全員聞いてくれ、
情報の入手経路や理由などは割愛し要点だけを伝える南洲だが、春雨が『排除』の表現に反応し青ざめる。それは南洲にとって対象者の殺害を意味する。その様子を見ていた他の艦娘達も表情が引き締まる。MIGOと通称される査察部隊が表の顔とすれば、数こそ少ないが、裏の顔とも言える南洲が手掛ける特務は依然として存在する。
舞鶴での一件を経て、南洲は自分の歩む道を春雨以外にも分かち合うようになった。どのような理由でも、査察では人間のどろどろした部分に触れざるを得ないが、それでもまだ名分は立つ。だが特務は、好悪善悪に関係なく一方的にこちらの要求を力で通すようなもので、その通し方には命のやり取りまで含まれる。言えば間違いなく皆そこまで踏み込んでくるが、そんな事を繰り返せば、純粋であるがゆえに艦娘の魂は黒く歪んでしまう。だからこそ、力は借りるが彼女達の手は汚させない-南洲はその一線だけは守り続けてきた。
「了解したわ、アトミラール。私たちは指定されたポイントへ急行し現場を保持、『対象者』が現れたら連携して貴方のいるポイントへ追い込めばいいのね」
制服の秋月を除き、ディアンドル姿のビスマルク、メイド服姿の羽黒と春雨、ハイウエストスカートの鹿島、そして園児服の龍驤…結局一連の騒動で
「あの人たちは…引きはがすと血の流れるほどに癒合した関係に見えますね」
◇
どさっという重い物体が地面に落ちる音、そしてどうっとさらに重い物体が倒れる音がほぼ同時にする。
それを無表情に見下ろす南洲の右手には木曾刀が握られ、切っ先からは血がぽたぽたと落ち続けている。八方眼とも呼ばれる、特定の所に視点を固定せず全周の状況を観るという、武術を修める者には理想的とも言える状態で、南洲は通路の奥に陣取る相手の動きを制している。
南洲にとって理想的なだけで、相手にとっては絶望的ともいえる状態、まして彼我の力量差を測ることのできる者なら尚更である。そして残念ながら、南洲に威圧されている男はそれが分かる程度には実力があった。
大坂鎮守府に潜入したのは二組三名。単独行動の組と、二人組一つだが、だからといってこの二組、無関係ではないが連携もない状態である。吉野大佐が掴んだ情報の通り、大陸系の息が掛かった組織が潰滅直前に契約し吉野大佐を標的としたフリーランスのスナイパーが前者、そしてその潰滅した組織の裏にいる大陸系が直接手を伸ばしてきたのが後者。前者の仕事が成功した場合は、これを捕縛し拷問の上金の在り処を聞き出し殺害、手柄を自分たちのモノとして喧伝する。失敗した場合は隙を狙って吉野大佐を殺害する。どっちに転んでも酷い話だが、この辺の事情を全く知らずに、中臣浄階の言葉をもとに南洲達が追っているのは後者の二人組だ。
南洲が特務に乗り出した理由、実は大和に尽きる。彼女のお陰で春雨の暴走を止めることができた。どれだけ礼を言っても足りない、その一点で、南洲は大和が信を置く吉野大佐を狙う相手の排除を専断した。査察部隊の長として、または艦娘が直接関わる事案でなければ捜査権や交戦権を有さない部隊として、これは重大な越権行為である。警察であれ軍隊であれ、
だが南洲は思う。
自分の『家族』のために心を砕いてくれた相手に報いるなら、喜んでさらに手を汚そう、と。どうせ相手は
大坂の査察が確定した段階で、鎮守府内の詳細な地形情報は入手してある。この鎮守府で不審者が潜伏可能なポイントは数か所に絞られてくる。南洲はその数か所に自分の部隊を急行させ、発見した相手を自分のいる地点まで追い込む様指示している。
さほど長く待たずに、おそらくは狙撃手と思われるブリーフケースを持つ小柄な男と、その護衛と思われるがっしりした体格の男が自分の待つポイントに逃げるように走り込んできた。こういう咄嗟の邂逅に経験は露呈する。護衛役と思われる男は、南洲に
拳銃等の銃器による攻撃を効果的に成立させる要素は二つ。一つは銃口からの延長線上に標的を確実に捕捉して攻撃する。近接戦闘において引鉄を引かれた時点で、発射された銃弾を回避することはまず困難だ。もう一つはその銃を扱う人間の技量。特に人間の機能を効率的に停止させる訓練を受けた者であればあるほど、その狙いは正確なものとなる。この男の場合もダブルタップ、最初は腹、反動で銃口が多少上がることを計算し2発目を頭、として南洲を狙ってきた。
正確さを逆手に取り狙いを外しながら、引鉄を引く指先一つの動作より早く動いて斬り込む。理屈の上では可能なその動作を、瞬間的ながらも実践できる槇原南洲と言う異質な存在が相手でなければ、この銃撃は成功していたであろう。
引鉄が引かれる刹那、上体を膝よりも低く倒しながら一気に間合いを潰し飛び込む南洲。艦娘の生体組織と薬物で強化された反射神経と運動能力が可能とする『縮地』により相手の懐に数歩で踏み込むまでに、走り懸かりのための重心の移動はすべて終え、最後に右足を踏み込み鞘走りを利した瞬速の逆袈裟で斬り上げる。はたして護衛役の伸ばした右腕は、下腕の中ほどから先が斬り飛ばされる。続いて左足を出したところで振りかぶり、右足を出し真っ向から眼前の男を斬り下ろす。南洲の磨かれた技量と強化された身体は、一瞬で人間を
銃を持った護衛役の男が、瞬き一つするか否かの間に刀で斬り伏せられた事実を、その奥にいた狙撃手は理解できない表情で見ていた。一切の澱みのない、流れるような体捌きと剣捌きは美しささえ感じられた。だが小柄な男は気が付いた。次は自分の番だと。そして恐慌をきたし逃げようとしたが体が動かない。
◇
「悪ぃな、何語か知らんがさっぱり分からん。まぁあれだ、人間、諦めが肝心な時もあるさ」
意志疎通ができないのはお互い様、南洲の発した
「提督さん、大丈夫ですかっ!?」
唐突に背後から声がかかる。一瞬だけ気を取られた南洲の狙いが逸れ、デザートイーグルに似た大型の拳銃から放たれた銃弾は走り去る男の左脹脛に命中し、そこから下を吹っ飛ばした。ごろごろと地面を転がりながらも、必死に逃走を続ける小柄な男に再び照準を合わせた南洲だが、鹿島の視線を気にし、そのまま銃をホルスターに仕舞いこんだ。
「…こういう所は見せたくなかったんだがな」
「うふふ、提督さんが何をしても鹿島は平気です♪ …それに今さらですよ、私も
「……………悪いな」
「春雨さんが着くまでの間くらい、独り占めさせてくださいね」
やむを得なかったとはいえ、辻柾を実際に撃った鹿島は、
対象物の無力化完了、その知らせに集合する南洲の部隊。連れだって遊歩道を歩きながら、今回の査察をどう締めくくるか南洲は頭を痛めていた。結論ははっきりしている。上司の宇佐美少将を含め自分たちと大坂鎮守府の面々は、三上大将と中臣浄階の策に嵌められた。大坂鎮守府の実態は色々アレだが、当初懸念していたような事実はなく、予算や資材の不正流用疑惑はとあるメガネ筋から強烈な圧力がかかり有耶無耶のうちに調査対象外とすることになった。つまり自分たちがこれ以上ここにいる必要はない。
「…帰るとするか。だが流石に黙って出て行く訳にもいかないだろう」
吉野大佐の執務室へと向かい歩みを進める一行は、やがて大阪鎮守府の艦娘達が騒然とラボの方へと走ってゆく光景に出くわした。南洲はその中で見知った顔の艦娘を強引に呼び止める。
「わぁっ!! 誰ですか人の襟首を掴んでっ…って査察官っ!? あ、あの…やっぱりアレですか…?」
ぷるぷる震えながら返事をするのは軽巡の夕張。スプー戦の一件がトラウマになったのか、言いながら吉野にされるのと同じようにシリペンの体勢に入ろうとする。
「いやそれはいいから。それよりも、吉野大佐を探してるんだが」
◇
医務室に現れた大柄の男と、ベッドに横たわる男。南洲は吉野大佐がスナイパーとの一騎打ちに勝利した代償に負傷したことを知らず、吉野もまた鎮守府に潜伏していた二人組を南洲が排除したことを知らない。ただ、何かしたんだなコイツ、というのはお互い何となく勘づいていた。怪訝な表情を浮かべる長門や時雨、興味深そうにジロジロ眺めてくる
「よお、ひどい顔色じゃねーか。そんな時は軽く一杯やれば元気になるぞ。どうだ、
まるで根拠のない健康法をケガ人相手に真顔で勧める南洲だが、もちろん冗談であり、別れの挨拶だけでは味気なく思い軽口を叩いたつもりだった。
「あーいやぁ、お気持ちは嬉しいんですけどね。自分は体質的に酒がちょっと」
吉野もまた南洲の意図を汲みつつ無難な返事をしていた。幼い頃に受けた手術の後遺症で酒を受け付けない体質になっている以上、残念な気持ちもあるが無理な物は無理だ。
だが二人の指揮官は、自分たちの背後で艦娘達の空気が明らかに変わっていたことに気が付いていなかった。長門が腕組みをしながら口にした言葉で、南洲と吉野大佐は思わず顔を見合わせる。
「ふむ、査察官はいける口なのか。呑める男を見るのは随分久しぶりだな」