逃げ水の鎮守府-艦隊りこれくしょん- 作:坂下郁@リハビリ中
(20170226 サブタイ変更)
71. 抜錨
連合艦隊相当の深海棲艦化された元艦娘部隊が北方海域に秘匿されている。元々
これこそが仁科大佐の残した資料やデータの解析によって判明した情勢であり、宇佐美少将と石村中将の想像を大きく超える事態だった。何より問題なのは首謀者が技術本部の頂点に立つ中臣浄階であり、さらに艦隊本部の三上大将がこの計画に利用されている事である。現状で緊急案件などど騒ぎ立てるのは愚の骨頂、彼らの介入の口実になるだけである。
政治的に隔絶した権力を持つこの二人を真っ当に逮捕するには道のりが果てしなく遠い。それよりは虎の子の秘匿戦力を拿捕または無力化させる方が痛手になる。当面は単冠湾の部隊で哨戒を強化し居場所を特定し封じ込め、その間に増強した戦力で
この状況下で宇佐美少将が大湊の人事に口を挟む事は、敵に対するある種のメッセージになり得策ではない。むしろ北方は石村中将に任せる方がいい。当然大湊の後任司令人事は先送りにせざるを得ず、宇佐美少将は大湊の艦娘に深々と頭を下げることとなった。裏の事情を知らない大湊の艦娘達は南洲の着任を待ちわびており、そして当の本人はと言えば―――。
「軍の人事に俺の希望なんか関係ないだろ」
と意に介さない様子。とは言いながら、何かと大湊の事を気に掛け、いつの間にか矢矧や霞とLI●Eでメッセージを交換していたりする。改めて
◇
「という訳で、これがお前たちの新たな母艦だ」
これまでの母艦だった
南洲達七名と宇佐美少将と大淀が立つのは、LST4001おおすみの全通甲板上、右舷に設置されるアイランド型艦橋を背にした位置である。トラック泊地査察の際に貸与された艦そのもので、その意味では目新しいものではない。
「いっそのことズムウォルト級でもアメさんから仕入れてくれてもえーんちゃう? ウチらそれくらいの働きはしてるやろ? それかアレやで、逆に退役済みの『ゆら』級とかにして、予算の差額でウチらの給料どーんとアップとか、なんかそういうのないんかなあ」
少将のすぐ目の前まで近づいたかと思うと、後ろ手に手を組んで上目づかいに見上げる龍驤。宇佐美少将は苦笑いを浮かべながら上手く往なす。
「まあそういうな龍驤。特別ボーナスだ、アメちゃんやるから我慢しろ」
ぷうっと頬を膨らませながらも嬉しそうにアメを頬張る龍驤と、それを羨ましそうに指を咥えて眺める秋月。
「ダンナ、このクラスの母艦が配備されたってことは俺達の部隊にも外洋展開能力を持たせるってことか? それとも次の作戦限定貸与なのか?」
左腕を春雨に、右腕を
「部隊も大きくなったしな、本当は『ひゅうが』でも引っ張って来たかったんだが、さすがに査察部隊にそこまで必要ないだろうって一蹴されちまった。だがその分
大柄の船体が不意に震動し、二基の16V42M-Aディーゼルエンジンが始動したと思うと、スピーカーを通して鹿島の元気な声が響く。
「なんしゅうさーんっ、このフネの電探すごいですっ! 何ていうかこう、地の果てまで見えちゃう感じですっ! 嬉しいなあ♪」
鹿島の弾んだ声を聞く限り、『新母艦と管制担当の艦娘との接続同調』は順調に推移しているようだ。
そもそも
鹿島の装備する22号対水上電探改と21号対空電探改は、大戦期に開発実装された帝国海軍の電子兵装としては高水準だが、現代のそれに比べるとオモチャのようなものだ。一方でおおすみが装備するOPS-28D 水上レーダーとOPS-14C 対空レーダーは高精度広範囲の索敵が可能だが、艦娘や深海棲艦を捕捉できない。つまり現用レーダーを艤装のブースターとして用いることで探知精度向上と走査距離延伸を目的とした実験兵装である。
これにより、鹿島が戦闘指揮管制、龍驤と秋月が母艦防衛、他メンバーが攻撃、という役割分担がより明確になる。反面、この組立ではアタッカーがビスマルク・翔鶴・羽黒・春雨の四名となり正面戦力の低下が懸念される。
「その辺は心配ないぞ、南洲。鹿島にはお前の片腕として戦闘管制官を務めてもらう事が増えるだろうが、その代わりに二名増員した。待たせたな、ほら」
宇佐美少将の声を待っていたかのように、大淀が二名の艦娘を連れて現れた。一人は潤んだ黒い瞳に黒髪ロング、制服はスリットの深いチャイナドレス風、あるいは上着だけの制服の前後に長い
「利根型二番艦、航空巡洋艦の、筑摩です。姉さんと一緒に…とは行きませんが、頑張りますね」
「特型駆逐艦、吹雪型一番艦、吹雪! いきます! 司令官、見ていてください!」
筑摩改二と吹雪改二。
二人とも攻防のバランスの取れたマルチロール型で、特化型の艦娘には個々の性能で及ばない所もあるが、総合性能の高さは折り紙つきだ。
敬礼の姿勢を取る二人の前には、厳しい表情で同じように敬礼の姿勢を取る南洲。左腕に
「って、そこがポイントじゃなくてーっ!! あの…宇佐美少将、これは…私もああああいうことを?」
吹雪が戸惑ったような表情で振り返り、少将に助け船を求める。筑摩は全く意に介さない様子で、潮風に暴れる長い髪を押さえている。
「まあ何だ、各部隊それぞれ個性があるってことだ。お嬢ちゃんには刺激が強かったか? 筑摩は興味無さそうだな?」
「そうですね、私にとって世界は『利根お姉様とそれ以外』という区分ですから。風紀の乱れに私が巻き込まれなければ大丈夫です」
「…お前ら、今すぐ俺から離れろ。さもないと俺らが査察の対象になりかねん」
「………」
無言のままぷいっと横を向く春雨。
「ハァッ!?」
赤い目を光らせ不満を露わにする
「ちゅっ」
背後から一層きつく抱き付いて南洲の首筋に口づけるビスマルク。
「みなさんダメですよー。いきなり新人さん達に所有権アピールなんかしちゃ。お二人とも困ってるじゃないですかー。あ、初めましてー、練習巡洋艦香取型二番艦の鹿島です。この部隊では戦闘指揮と管制に当ります。そうですね、部隊の要として南洲さんとは身も心も一つ、的な? うふふ♪」
CICを出て甲板に現れた鹿島が、にこにこ微笑みながら無差別攻撃を仕掛ける。既存メンバーからは凍てつく波動を、新人二名から「うわあ…」というドン引きの視線を、それぞれ浴びているがまったく気にする様子はない。
「ははははっ! まあなんだ、『仲良きことは美しき哉』とか昔の人は言ったしな、後はお前たちで上手くやってくれ。抜錨は七日後だ。それまでに鹿島はおおすみとの同調訓練、部隊は新装備受領とその慣熟訓練、南洲は検査と会議、やることは山ほどあるからな、時間を無駄にするなよ。じゃあな、俺と大淀はそろそろ行くよ」
必要な事は全て伝えた、これ以上関わると碌な事にならない-機を見るに敏な宇佐美少将は引きつった笑みを浮かべつつ、大淀を伴いそのまま
「あー…その…なんだ。筑摩に吹雪、艦隊本部付査察部隊への配属を歓迎する。自分は部隊長の槇原南洲特務少佐だ、今後ともよろしく頼む。で、だ、今二人が見ている状況は、できればあまり気にしないでくれると…助かる」
肉食系の積極さを見せる春雨・ビスマルク・鹿島、そして