逃げ水の鎮守府-艦隊りこれくしょん- 作:坂下郁@リハビリ中
※好みが分かれる感じの内容かも知れません、『合わないなー』と思ったらブラウザバック推奨ということで、予めご了承ください。
(20170308 サブタイトル変更)
「しかし解せない。中臣浄階は
「………」
「連合艦隊相当の深海棲艦と数百体の『モドキ』、それに数は不明だが仁科大佐と同じように艤装を展開できる兵士…これは実験の成功率からみて多寡の知れた数だろう。一会戦ならやっかいな戦力、だが中臣浄階の手にあるのはそれだけだ。ハワイを攻撃するなんざ正気の沙汰とは思えん。一体何をしようというんだ?」
「………」
「鹿島とおおすみの同調訓練も、この僅かな期間で索敵精度250%向上、索敵範囲180%拡大、十分な結果だろう。万全を期すためにアイツも配属し、
「………俺が解せないのは、なぜダンナがここにいて熱弁を振るっているのか、ってことだ」
新母艦
この南洲専用の浴場は、浴室全体だと一〇畳ほどの広さがあり、浴槽と壁の上部、天井、引き戸は総檜張り、壁の下部と床は十和田石で設えられている。中でも浴槽は、宇佐美少将の言うアイツ-大湊から技官兼医官として転属した明石の指揮の元、熟練の家具職人妖精さんが四方無地の檜材を手仕事による
おおすみには、艦橋構造物内の第一甲板レベルに陸上拠点と比べても遜色のない入渠設備を備え、艦娘用だけではなく、人間用の手術室にICU、病床も有し、海軍でも有数の充実した医療能力を誇る。この医療施設と呼ぶには疑問符の付く檜風呂は、部隊の総意として南洲の許可を得ず拡充された経緯がある。元々男性用浴場は大きさも内容もここまでの物になる予定はなかった。だが慣熟訓練中に始まったこの工事はすぐに艦娘達の目を引き、さらに
『浴室は南洲と一緒に(自主規制)できる十分な広さを、浴室は南洲と快適に密着できる程度の大きさにっ!!』
明石は内心ドン引きしながらも、龍驤と新人二名を除いた全員が目の色を変えて迫ってきた勢いに圧倒され、その
◇
「中臣浄階は戦争のやり直しなんて望んでないのかもしれない」
「どういうことだ?」
ざばあっと湯を溢れさせながら南洲が浴槽を出る。目を見張るサイズの何かを隠すことなく出口に向かい歩く南洲が、宇佐美少将の声に足を止める。
「ダンナが言ってた戦力を与えられ、俺ならアメリカをどう相手にするのか考えていた。最終目的次第だが、『何ができるか』で言えば…非対称戦ならかなりの事が出来るぜ。ダンナは政治的にヤツを抑えてくれ。俺はヤツの行動を追って作戦を止める。…それと、前も言ったが俺はソッチじゃないからな」
がらり。
浴室のドアを開くと、ぴっという軽い電子音がして照明が間接照明に切り替わる。浴室も広いが、ドレッシングルームも十分に一〇畳以上の広さがあり、こちらも無論総檜張りである。脱衣所や洗面台が右側に寄せられ、反対側にはゆっくりと回るシーリングファン、壁面にビルトインされた冷蔵庫、吸湿性に優れひんやりした籐製ソファとテーブルがある。
そして無言で大きめのバスタオルを両腕で広げ南洲を迎える
何でお前がここに、と唖然とした南洲は声も出ない。そんな様子を気にすることなく、
「………どっちだ?」
翔鶴なのか空母水鬼なのか、の問いに赤い瞳を妖しく輝かせて答えながら、
「
見下した銀髪の頭に手を添えると、何となく二重に声が聞こえたような気がする。主人格と副人格が同時に覚醒することがある極めて珍しい
「子供じゃないんだ、自分でやるよ」
檜の床に女の子座りでぽつんとしている翔鶴の背後で、がらりと浴室のドアが開く。
「あーなんだ、悪いけど全部聞こえちまってな。…せっかくだから…ってじょうd「
タチの悪い宇佐美少将の冗談を最後まで聞かずに、息の合った全機発艦で応える
◇
艦橋部最上階にある艦長席に座り、南洲は考え込んでいた。
-あの戦力で真珠湾を強襲することはできる。だがそれだけだ。人からイ級に変容するモドキ…あれを何に使う? 一体何を目的としている………?
近づく甘い香りに誘われ椅子を回した南洲。そこにはお盆にマグカップを二つ載せたメイド服姿の春雨が立っていた。
「考え事をしていると頭が疲れちゃいます、はい。そんな時は甘いものがいいですよ」
すぐ横に来た春雨からマグカップを受け取り口を付ける南洲。
「ホットチョコレートか」
「バレンタインは大湊にいましたし、忙しすぎて手作りしてる暇がなかったから、はい」
軽く苦笑いを浮かべながら肩をすくめる南洲を見て同じようにくすりとほほ笑む春雨。
「遅くなっても、本当はみんなからそれぞれチョコを渡したかったけど、キッチンが修羅場になっちゃって…全員が用意したチョコでドリンクを作ってみたんです、はい…」
ハイライトオフした目で視線を逸らしながら乾いた笑いをこぼす春雨。その脳裏には、湯煎したチョコに何か薬物的な物をいれようとした鹿島や、めったに料理をしないため悪戦苦闘の末チョコ塗れになったビスマルク、味見のはずがいつの間にか全部食べてしまいしょんぼりする秋月とそれを慰める羽黒の姿が思い出されていた。
濃厚なチョコの味、だがその中に違う味わいがそれぞれ感じられ、これはこれで面白い味、と南洲は思いながらホットチョコを飲んでいたが、口の中で違和感を覚えて舌を出す。指先で摘みあげたそれは何かの小さな蓋。
「ご、ごめんなさいっ! そんなのが入ってるなんて…。お鍋に残ったやつ、確認しなきゃ…」
慌てて頭のホワイトブリムが落ちそうな勢いで深々と頭を下げる春雨を、気にすることもなくぶつぶつ言いながら立ち上がる南洲。その表情は驚きと困惑が入り混じり、やがてどんどん険しい顔つきになってゆく。
「似ていて異なる物の混ぜ合わせ…異物…残りは全部疑う………」
南洲の豹変に対し、理由が分からず春雨が困ったようにおろおろしているが、南洲は唐突に春雨の両肩を掴む。春雨は一瞬だけ「あっ」とした表情で、すぐに目を閉じて爪先立ちになる。ホットチョコに入っていた小さな蓋は、おそらく鹿島が持っていた小さな香水瓶のような『その気になる』おクスリのはず。ということは、南洲がそういう気になった、と解釈し準備万端で受け入れ態勢に入った春雨だが、結果として肩透かしを喰ってしまう。
「
風のように艦長席を飛び出した南洲を、春雨は小さく手を振りながらぽかーんとした表情で見送る事しかできずにいた。
◇
「…あの二人の技官は、
「…なるほどな、南洲。異物混入…確かにその手ならアメリカの文化的宗教的な弱点を突いた作戦、そう言わざるを得ない。それでもアメリカ自体は倒れないだろうが、相当な混乱に陥ることは間違いない」
先日の大騒動は無論大本営でも座視できず、艦隊本部と軍令部が合同で調査委員会を設置し事態の究明にあたることとなった。証人と証拠の提出を求められ、これを拒否すれば臨検を行うという、これまでの治外法権的扱いを認めない断固たる姿勢に、さすがの技本もシラを切り通す事はできず、連日厳しい追及を受け続けている。
そこから上がってくる膨大な情報は、宇佐美少将の元にも届けられ、その分析も進んでいる。深海棲艦との戦争勃発以来、帰国困難となり日本での滞在を余儀なくされた外国人はそれこそ山のようにいる。中臣浄階はそれらの人々の拉致を指示し、イ級後期型モドキへと作り替え少しづつアメリカに潜伏させている事。今回の騒ぎは作戦開始に合わせた最終輸送分だった事。そしてモドキはいったん変容すると限られた稼働時間を経て死に至る、等。その情報と、血相を変えて飛び込んできた南洲の推測は見事に符号した。
「…そこで終わらないのがこの作戦の嫌らしい所だ。モザイク国家の弱点を嫌と言うほど突こうとしている」
建国以来の
「アメリカは内乱状態になり自壊するかも知れない。そこまで至らずとも、その状態から立ち直るには相当な時間がかかる。その時に最後まで治安が維持されそうなのが、地理的に隔絶し文化的にも大陸と異なるハワイだ。真珠湾の強襲は陽動であると同時に本命でもある、というところか」