逃げ水の鎮守府-艦隊りこれくしょん-   作:坂下郁@リハビリ中

78 / 109
 黎明攻撃に打って出た南洲隊。開幕を担う航空戦のカギを握る龍驤。技本艦隊を沈めずに制圧する策とは。

 ※戦闘シーンでは艦娘同士が戦い、原作未登場の兵装が一部出ます。そういうのはちょっと、という方はブラウザバック推奨です。


78. 一の矢 -強襲-

 「技本艦隊、こちらを捕捉した模様。機動部隊を下げて水雷戦隊が前に出ようとしてますっ。陣形変更が終わるまでが勝負ですっ! 翔鶴さんと筑摩さんはすでに艦載機発艦済み確認、翔鶴さんは現在位置で待機お願いします。龍驤さん、もう少し彗星さん達を散開させてください、鹿島がナビゲートします。打撃部隊は必ず最低でも二対一で相手に当ってください…みなさん、ご武運をっ!」

 

 -結局俺はウェダ時代と何も変わっていないんだろうな、上の都合で艦娘を差し出すなんざ真っ平御免だ。だけどこの戦いは、俺の力だけではどうにもできない。こんなことに巻き込んで本当に済まないと思っている。それでも、俺にはお前が必要なんだ-

 

 出撃直前の慌ただしい時間の中、南洲と交わした短い会話。鹿島にはそれで十分だった。この人の望む事を叶える、そのためなら何でもできる―――。

 

 現用電子兵装でブーストした鹿島の電探だが、この距離までくると探知距離はもうどうでもよくなる。むしろその探知精度により、敵艦隊と敵航空隊の細かな動きまで漏らさず捕捉し、前線からのフィードバックと合わせ射撃補正用データのリアルタイム伝達と航空隊のナビゲートが重要な役割になる。単なる目標探知ではなく、FCS(射撃管制装置)をも兼ねた彼女の脳には、想像を絶する負荷がかかり続ける。事実出航前の接続試験および慣熟訓練では綺麗な顔を歪め吐き戻す事も多かった。その負荷は、慣れることはあっても減る事は無い。まして今は戦闘の真っただ中、刻々と変わる状況と情報に即応するため、鹿島は持てる能力の全てをつぎ込んでいる。

 

 その肩にそっと手を置く南洲だが、鹿島の反応はない。普段なら手を握り返したり微笑み返すなどのリアクションがあるが、オペレーションに必死でそんな余裕はないのだろう。南洲もまた緊張した表情で壁掛け式のレーダースクリーンを無言で見つめている。

 

 

 緒戦の勝負を決める五分間。この僅かな時間の攻防を経て、技本艦隊と南洲隊は乱戦へと突入する。

 

 

 

 未だ明けぬ漆黒の海と空だが、それでも水平線の色が僅かに変わり始める。夜の終わりと朝の始まりが交わるこの時間を南洲は狙い、その静寂は、対空電探からの無粋な警戒音と騒然と行動を始めた技本艦隊の艦娘達の声で破られる。

 

 「防空棲姫はまだっ!? 陣形変更なんて待ってらんないよ、とにかく発艦急いでっ!!」

 中央に日の丸をあしらった飛行甲板を模した鉢巻を巻いた艦娘が、上空をきっと睨みつけ細身の弓を引き絞る。黄橙色の上着に深緑色の丈の短い袴を履いた飛龍改二が航空隊を発艦させる。そして決然とした目で宣する。

 

 「夜間発艦を出来るのは自分たちだけだと? この海…今度こそ、今度コソ徹底的ニ叩カナキャ…!」

 

 すでに対空電探は三〇機以上の敵が上空に展開しているのを捕捉している。危険な夜間発艦を強行しこちらが防空体制を取る直前を叩こうとする南洲隊(敵艦隊)の意気に感心しつつも、甘いのよね、と飛龍はニヤリと笑う。その飛龍に続くように眠たげな金色の眼を空に向けた雲龍が、手にした錫杖で海面に静かに突く。錫杖に付けられた飛行甲板を模した幟旗、その上に鳥居のようなものが出現し、それを潜った式神が次々と艦載機に変わり急上昇してゆく。

 

 「天城、出撃致します!」

 「出撃するわっ! …って絶対見ないでよね!」

 

 二人同時に緑色の振袖を脱ぎ捨てる天城と葛城だが、対照的な行動を見せる。静かに、それでいて自信ありげに胸を張り艦載機の発艦を続ける天城に対し、両腕で胸を隠すようにしてジト目で周囲の空母娘を睨む葛城。すぐに諦めたようにこちらも艦載機を発艦させる。雲龍型は改飛龍型、天城と葛城はその雲龍の戦時量産型ともいえる系譜で、この四名は飛龍を姉とする姉妹の様なものである。が、葛城だけは陽炎型駆逐艦の機関を搭載している関係上、なぜか身体の一部のボリュームが薄く、露出の激しい雲龍型の衣装を着るとその差がさらに強調される。

 

 「海と空…ようやく私も戦エルノネ…私は、最後ノ…一航戦ダカラ」

 「本当の力、見セテアゲル!! 胸ナンテ…飾リナンダカラッ!!」

 

 そんな妹達を眺めていた雲龍は、ゆっくりと空を見上げながら、小さく呟く。

 

 「輸送任務デハナイワ、制空戦ヨ。腕ガ鳴ナルワネ…」

 

 ヨークタウンを道連れにしたものの戦争の転換点となる敗北を喫しミッドウェー沖に沈んだ飛龍、終戦間際で機動部隊として活動できず終わりを迎えた雲龍姉妹-葛城の胸への渇望(心の叫び)はともかく、それぞれの満たされぬ渇望に付け込む様に技本は彼女達をDID(解離性同一性障害)へと追い込み、それは彼女達を堕天(フォールダウン)へと誘った。発艦を済ませた今、ここにいるのはヲ級flagshipが二人、空母ヲ級改flagshipが一人、空母棲姫が一人となった。

 

 四名は一斉に砲撃を始め、対空砲火が空一面に黒煙の花を作り上げる。その狙いは上空に展開中の三五機の部隊、筑摩が発艦させた一四機の瑞雲、そして翔鶴が発艦させた二一機の熟練した零戦六二型にある。南洲隊の先陣を切るこの部隊は、いまだ防御陣形への移行を完全には終えていない四人を目がけ急降下爆撃を加えようと次々と降下を開始した。南洲の言う『最初の五分』の役割を担うのが、まさにこの部隊である。

 

 「逃ガサナイワ。直掩隊、突撃シマス」

 「サア、始メ…マス」

 「全高射砲、一機モ逃サナイデッ」

 

 投弾体勢に入った以上急な進路の変更はできず、急上昇で迫る大量の白いタコヤキ(迎撃機)を抜け、さらに濃密な対空砲火を潜り抜ける頃には、南洲隊の機はみるみる数を減らしていた。それでも少数ながら突入を成功させ、二五〇kg爆弾を叩き付ける。爆炎に辺り一面が覆われ鋭い悲鳴があがるものの、吹き抜ける潮風が黒煙を払いのけた後には、未だ健在の四人の姿がある。投弾を済ませた瑞雲と零戦六二型は再び上昇を始め、技本機動部隊の直掩機を釣り上げる。この時点でヲ級flagship(葛城と天城)が小破と中破、空母ヲ級改flagship(飛龍)が小破、空母棲姫(雲龍)は無傷。

 

 

 『技本機動部隊、全員堕天(フォールダウン)確認! 龍驤さん、今です! 周辺クリア、彼女達の注意も上空に向いています、突入の大チャンスですっ』

 

 間髪入れずに鹿島から龍驤へと指示が飛ぶ。筑摩と翔鶴の航空隊による奇襲で始まった開幕五分は過ぎ去り、入れ替わるように真打が登場する。この鍵を握っているのが龍驤の攻撃隊である。戦闘海域近辺で筑摩と翔鶴が発艦させた攻撃隊による急降下爆撃を意識させ、その間に電探を避けるため海面スレスレをゆく龍驤の攻撃隊が攻撃位置に着くのを鹿島が巧みにナビゲートする―――。

 

 

 「よっしゃぁーっ! 艦載機のみんな、お仕事お仕事っ。さすがにもう見つかっとるやろ、最大速力で突入や!!」

 

 発動機が唸りを上げ爆装で重量過多の機体をそれでも増速させる。龍驤の指示に従い高度を微調整し、技本機動部隊目がけ突入を図る二八機の彗星。爆弾倉扉が胴体内側に畳み込まれると、二五〇kg爆弾が投下され、()()()()()爆弾が次々と水面を水切りの石のように高速で跳ね、放射状に四人の深海棲艦に襲い掛かる。

 

 「どやあっ、反跳攻撃(スキップボミング)、まともに喰ろたらいくら堕天(フォールダウン)しとってもただじゃ済まんで。昇天せんようにしときーやっ!!」

 「アラート! 龍驤さん、防空棲姫と援護の編隊がっ! 五人目…指揮艦の護衛、大鳳さんですね。でも間に合わないです、私達の勝ちですっ!!」

 龍驤がLST4001(おおすみ)の全通甲板上でガッツポーツを決めるのと鹿島が警報を発したのはほぼ同時だったが、賽はすでに投げられている。大鳳が発艦させた烈風改と防空棲姫が四人の援護のため突入し、そのため多くの彗星が撃墜されたが、援護のタイミングとしては一歩遅かった。四人の周辺で次々と起こる爆発と火炎、そして朝が一瞬で訪れたほどの閃光と高音ノイズの爆音が四人を襲う。

 

 ミッドウェー作戦の真逆をいく、上空からの急降下爆撃に注意を引き付け、低空で突入する彗星による反跳攻撃(スキップボミング)―それが過去の記憶を持つ艦娘の性向を逆手に取った南洲の作戦。鹿島の的確なナビゲートと龍驤の航空隊の技量で、全弾命中とはいかなかったが、それでも多くの直撃弾や至近弾を与えることに成功した。唯一空母棲姫(雲龍)は小破に留まり戦闘継続は可能だが、他の三人は、二人が大破、残る一人も飛行甲板を損傷し艦載機の発艦はできそうにない。深海棲艦化により大幅に向上する生体機能や艤装の性能ゆえ、この攻撃でも大破止まりで轟沈に至らないのは盛込み済み。拿捕を目指すので沈まれては困るが、攻撃を受けた全員が顔を覆う様にもがき苦しみながら海面に蹲っている。

 

 

 -龍驤、緒戦で機動部隊を出来るだけ無力化することと、拿捕できる状況を作ることを両立したい。そのためにはお前とお前の航空隊の技量が必要だ。あと()()()の性質は明石に聞いてくれ。二八機中…そうだな、三割くらい積んでくれ-

 

 同じく出撃前、南洲は龍驤が緒戦のカギを握る存在として詳細に打ち合わせを行い、その腕前に全幅の信頼を置いていた。

 「隊長はん、どやっ! まあ、隊長さんにあないに頼まれたら、ウチとしてもしゃーないからなあ。そやけどこの貸し、高くつくで、イヒヒヒ」

 LST4001(おおすみ)の艦橋に向かい満面の笑みでVサインを送る龍驤の姿をモニターで見る南洲は、相手からは見えないと知りつつサムズアップで返事をする。

 

 反跳攻撃に加えたもう一つの策、それは南洲が明石に突貫工事で二五〇kg爆弾を改造させた閃光音響弾(スタングレネード)だった。閃光と超高音域の爆音で技本機動部隊の目と耳を奪い無力化する。強化された身体と感覚器の能力がかえって仇となり、この非殺傷兵器が不意打ち気味に決まり予想以上の効果を発揮したことになる。そして間髪入れず南洲が次の指示を出す。

 

 

 「ビスマルク、羽黒、筑摩、春雨(ハル)、秋月、龍驤の攻撃は成功したっ! 今のうちに機動部隊を制圧して拿捕し急いで帰還、他の連中を釣り上げろっ」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。