逃げ水の鎮守府-艦隊りこれくしょん-   作:坂下郁@リハビリ中

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 技本機動部隊と接触した南洲隊。立ちはだかる防空棲姫と必死の反撃に出る空母棲姫との戦闘。数に劣る南洲隊は、序盤の損害が響きはじめる。

 ※戦闘シーンでは艦娘(元艦娘の深海棲艦)同士が戦います。そういうのはちょっと、という方はブラウザバック推奨です。


80. 三の矢 -矜持-

 「コレハ一体…ほわいとあうと…耳モ聞コエナイ…キャアッ!!」

 よろよろと立ちあがったヲ級改flagship(飛龍)だが、バランスを取れず海面に顔から突っ込む。目の前で炸裂した二五〇kg爆弾を改造した馬鹿げた閃光音響弾(スタングレネード)。未だ暗さを濃く残す夜明け前を、一瞬で太陽を直視したよりも眩しい閃光で包んだ。さらに普通の二五〇kg爆弾が次々と爆発する重低音の轟音を上書きするような、耳というか三半規管を直接揺さぶるような超高音の激しいノイズ。この攻撃で視覚に聴覚、そして平衡感覚を奪われた。敵ながらまったく容赦のない攻撃に身の毛がよだつ。この状態で敵の第二波を迎え撃つことは不可能で、自分達四人はただの的になるしかない。

 

 「シッカリシナイサイヨ、一体ドウシタッテッテイウノ…息ハアルケド…」

 遅れて護衛に駆け付けた防空棲姫(照月)フラヲ(葛城)を抱きかかえ、ゆさゆさと揺さぶるが返事が無い。身体をざっと見れば、全体としては小破程度の損傷しかなく、なのになぜここまでぐったりしているのか疑問に思う。

 

 「…スマナイワネ…コノ感触ハ…雲龍姉サン…イヤ、防空棲姫カ…」

 

 こちらの問いに応えず、なぜそんな大声を出すのか、というほどの音量でフラヲ(葛城)が叫ぶ。声量の調整ができてない…耳をやられた? そんな彼女を注意深く観察しながら、防空棲姫(照月)は大鳳と連絡を取り何事かを報告し依頼する。そしてフラヲ改(飛龍)を助け起こしながら、空母棲姫(雲龍)の元へと向かう。堕天(フォールダウン)すると三つ編みがほどけ長いウェーブヘアをそのままにした、一般的に知られる空母棲姫とは違う雰囲気になる雲龍だが、ふらふらしながら何とか海面に立っている。

 

 「アナタハ比較的軽症ナヨウネ。…マダ、ヤレル?」

 「…ソウネ、ヤルワ。私ハタマタマ…運ガ良カッタダケ…」

 三人の空母の様子を見ていた防空棲姫(照月)は、フラヲ(葛城)空母棲姫(雲龍)に渡す。そしてまさに憤怒という表情で振り返り、名乗りを上げる。

 

 「ヨクモ…ヨクモコンナ仕打チヲッ! ココカラ先ハコノ防空棲姫ガ相手ダッ!!」

 

 戦闘の結果として感覚器に損傷を負う事は勿論ある。だが相手の攻撃は最初からそれを目的としたもの―――何とか轟沈させずに拿捕を狙うためスタングレネードを用いた南洲隊の意図は、抵抗の手段を奪い嬲り殺しにするための悪辣な作戦、防空棲姫(照月)の目にはそう映り、その感情を反映するように長大な砲身を背負った生物状の四体の艤装も、大きな口を開き一斉に咆哮する。

 

 

 「…面倒なのが護衛にいます。空母勢のうち一体はすでに回復途上のようですね。ですが二体は動けない様子、最後の一体はまだノビてますね。…どうします、ビスマルクさん?」

 長い黒髪を潮風になびかせながら疾走する筑摩は先頭をゆくビスマルクに問いかける。前衛の技本水雷戦隊との戦闘では、駆逐古姫と駆逐水鬼を鹵獲したものの春雨と羽黒が負傷撤退。高速修復剤を使って入渠を済ませ次第戦列復帰するとはいえ、現時点では秋月を加えた三名で対処しなければならない。

 

 「…いいわ、私があれを何とかしている間に、二人は空母勢を三体…無理でも押さえて欲しいわね。それが済み次第全速で撤退、殿(しんがり)はこのビスマルクが務めるわ…いくわよっ!!」

 

 空には本隊から分派された直掩隊が舞い、南洲隊の第二波攻撃に備える中、夜明けの太陽が全てを明るく照らし出し、さらに戦局は動き始める。

 

 

 

 「ビスマルクさん、筑摩さん、秋月さん、敵機動部隊に接触っ、これより戦闘開始っ! 現在敵の直掩隊が技本機動部隊(第二群)上空に展開中、こちらの第二波を警戒しています。…敵の抵抗を排除するにはやや手薄です、春雨ちゃんか羽黒ちゃんか、せめてどちらがいれば…」

 

 鹿島がきゅっと唇を噛みながら俯く。物量差、特に航空戦力の差から来る面制圧を避けるため、南洲と二人で立案した奇手を混ぜ込んだ速攻。彼我の能力を考慮に入れれば、前衛艦隊突破時点で損傷はあっても撤退はない、そう見積もっていた。だが実際は二名の拿捕と引き換えにこちらも二名一時撤退を強いられ、南洲隊としては大きな痛手となった。吹雪はすでに前進を始め翔鶴に合流しようとしているが、龍驤と翔鶴の航空攻撃ではオーバーキルになり、かつ砲撃戦に参加させる訳にはいかないため、現状で投入できる戦力がないものの引くこともできない。

 

 鹿島が矢継ぎ早に指示を出す傍ら、ほとんど頬がくっつくような距離でインカムマイクに南洲も指示を出す。

 「…済んだ事を言ってもしょうがないさ。ビスマルク、三名でも行けるか? やれるだけやってこい、やばかったら撤退しても構わん。だが命令だ、戦闘継続は中破までしか許さんぞ、いいな?」

 

 オペレーター席に座る鹿島に合せて中腰になっていた南洲は背筋を伸ばし、艦外監視用のモニターに目を向ける。そこには特殊な縛り方で縛り上げた駆逐水鬼を引き連れた羽黒と、棘鉄球(モーニングスター)のチェーンでぐるぐる巻きにした駆逐古姫を引きずる春雨が映っている。

 

 「テールゲート開放、羽黒さんと春雨ちゃんを収容しますっ! 明石さん、二人とも入渠が必要ですのでよろしくお願いしますっ。あとは…()()()をどうされますか、南洲さん?」

 

 

 

 駆逐艦と呼ぶにはあまりにも暴力的な4inch連装両用砲四基による火力を誇る防空棲姫。その相手にビスマルクが選んだのは『超近接戦闘』-艤装の防御力も破格に高い攻防一体の難敵、遠距離から挟叉しそこから命中弾を重ね行動不能に追い込むには時間がかかりすぎる。その間にスタングレネードで無力化した空母勢が復活すれば自分たちは蹂躙される。ならば生体部分にダメージを与え、力ずくで黙らせる-早い話が殴り合い。

 

 スタングレネードの一件で頭に血が上っていた防空棲姫は、自分に向かいビスマルクが突入してくるのを見て、同じように突進してきた。その機を逃さず、Anton(第一砲塔)Bruno(第二砲塔)を動かし発砲体勢に入ったビスマルクだが、撃ったのは海面だった。

 

 立ち上がる巨大な水柱にそのまま突入する羽目になった防空棲姫(照月)は一瞬ビスマルクを見失い、キョロキョロしている所に左脇腹に強烈な膝蹴りを受け吹き飛ばされた。以来、手を伸ばせば触れそうな距離に密着され、超弩級戦艦の力で振るわれる肉弾戦に晒されダメージが蓄積している。距離を取り砲撃戦に移りたくても、あまりにも相手が近すぎて砲撃体勢に入れない。相打ち覚悟、そう決心してぎょっとした。この距離ではお互い外すことはない、そして砲の威力からして相打ちに分が悪いのは自分だ。いくら強固な艤装を持つとはいえ、この至近距離で三八cm連装砲四基八門を斉射され続ければ持ち堪えられない。つまりどっちに転んでも、この距離では自分が不利になる。

 

 「シツコイッ、離レロッ!!」

 呼べば聞こえる距離に見える強い意志を宿した青い瞳。臆することなく視線をぶつけてくるビスマルクに両手首をそれぞれ掴まれ、両腕を頭上まで引き上げられた防空棲姫(照月)は忌々しそうに叫ぶ。

 

 「ならそうしてあげてもいいわよ」

 ぱっと手を離すと同時に右膝が腹筋につくまで脚を斜めに持ち上げ、間髪入れずに防空棲姫(照月)の腹部に強烈な蹴りを叩き込むビスマルク。身体をクの字に曲げながら海面を後退する防空棲姫(照月)に、蹴り終わりで着水した足でさらに踏み込み距離を離されないように追いすがり、強烈な打ち下ろしの右ストレートで顎を撃ち抜き脳を揺らす。これには堪らず防空棲姫(照月)が膝を付く。

 

 

 恨めしそうに見上げる防空棲姫(照月)だが、両脚ががくがくし言う事を聞いてくれない。

 「あんまりこういうのは好みじゃないけど、たまには、ね。悪く思わないでちょうだい」

 その言葉と同時に見舞われたもう一撃のストレートで、防空棲姫(照月)は行動の自由に続き意識を奪われた。

 

 

 

 視覚はぼんやりとだが戻り始め、その眼前に繰り広げられ光景は依然として輪郭が曖昧なまま。右耳はなんとか聞こえる程度まで回復した。それでも分かるのは、天城(自分の妹)が拘束され、自分の姉とも言える飛龍が拘束されようとしている光景。そして自分のそばでノビている葛城。

 

 「…アトデ必ズ…助ケルカラ…ゴメンネ」

 

 空母棲姫(雲龍)は無理矢理全艦載機を発艦させ突入させる。満足に制御できず、空中で衝突したり海面に突っ込んだりする機が後を絶たず、つくづく感覚器は重要なのだと分かったが、今は構わない、一直線にそこにいるだろう相手に突入させ、その間に葛城を抱きかかえ、覚束ない足取りでも逃走を図る。何とか母艦までたどり着いて入渠しなきゃ…。

 

 

 「被弾っ!? まだ……まだ大丈夫!」

 予想していなかった突然の空襲、しかも近距離から無茶苦茶に突っ込んでくる敵機に虚を突かれ、秋月が至近弾を受け体勢を崩す。それでも決然と空を見上げ、唇の端に滲んだ血を拳で拭い一〇cm連装高角砲を撃ちまくり、次々と敵機を爆散させる。十三号対空電探と組み合わされた九四式高射装置で制御される高角砲の狙いは極めて正確で、自分の防空圏に入った敵機は悉く撃ち落とすことに成功した。反面、爆撃も雷撃も関係なく闇雲に突っ込んでくるため相手の挙動の予想がつかず、ほとんど特攻まがいにすれすれまで接近しそのまま海面に激突する機が後を絶たず、普段より大きく回避行動を取ることを余儀なくされ、何とか逃れようと暴れる空母二人を拘束するため悪戦苦闘している筑摩と距離がかなり開いてしまった。

 

 「アキヅキ、回避っ!! 来るわよっ」

 

 唐突に飛び込んでくるビスマルクからの通信。一瞬何の事か分からず首を傾げた秋月だが、すぐに状況を把握した。遠弾とはいえ、巨大な水柱がいくつも立ちあがる。

 

 

 空には傘型に展開する直掩隊、その傘に守られるように前進してくる戦艦二人と重巡一人、その間には母艦と思われる現用艦艇とそれに続く輸送艦、さらにその後ろに正規空母が接近してくるのが遠目に見えた。

 

 水平線に煌めく発砲炎、黒煙の量と立ち上がる水柱の高さから見て戦艦の主砲に違いない。秋月はごくりと唾を飲み込み身構える。事前に聞いていた情報からすれば、技本艦隊に最後に残った正規空母は大鳳だ。搭載機数は多くないが最新鋭機を装備しているはず。でも何が何でも撃墜する―――。

 

 「何してるのアキヅキ、ついに敵の本隊が前進してきたのよっ」

 横合いから滑り込んできたビスマルクは、水の抵抗をブレーキにして秋月の眼前でターンを決め停止する。そのままの勢いで拘束した深海棲艦を秋月に向かって放り投げるが、その目は水平線から近づいてくる敵の本隊を見据えている。諸元情報の補正ができてきたのか、敵の着弾が徐々に近づいてくるが、ビスマルクは表情一つ変えず、むしろニヤリを口の端を歪めるように笑う。

 

 「その二人を連れて全速で撤退しなさいっ! ここは私が引き受けるからっ」

 「そ、そんなのっ。いくらビスマルクさんでも一人ではっ。秋月がお供しますっ!」

 

 初めてビスマルクが秋月の方を振り返り、優しい表情で手を秋月の肩に置き諭し始める。

 「忘れたの? 私たちの作戦目標は技本艦隊の拿捕よ。彼女達を救いたい、南洲はそう言ってたわ、私達はそのために戦っている。分かるわね、アキヅキ」

 

 喉まで言葉が出かかったが、秋月はそれを飲み込み、ただビスマルクの瞳を見つめ返し、大きく一つ頷く。防空棲姫は気絶しているが拿捕する手が足りず放置、筑摩がフラヲ改(飛龍)を、秋月はフラヲ(天城)を引き連れ主機を全開にして母艦に向け疾走を始める。そして振り返って叫んだ声は、期せずして秋月と筑摩で全く同じものだった。

 

 「「すぐ戻ってきますから。それまで絶対に無事でいてくださいっ」」

 

 

 

 潮風に金髪を預け、その姿を鮮明にし始めた敵の本隊に視線を送り続けるビスマルクだが、ふっと表情を緩める。

 

 「無事で、か…。気持ちはありがたいけどちょっと難しいわよ。でも、どんなにボロボロになっても私は必ず生きて、必ず南洲の元に戻る、それが私の誇りであり勝利よ。 さあ、ビスマルクの戦い、見せてあげるわっ」

 

 Anton(第一砲塔)Bruno(第二砲塔)Caesar(第三砲塔)Dora(第四砲塔)の四基の主砲が前方に照準を合わせ砲身が仰角を取る。静かに上げたビスマルクの右手がぴたりと止まった瞬間、導かれる様に周囲を揺るがす轟音と爆炎が砲口から上がる。

 

 

「Feuer!」

 

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