逃げ水の鎮守府-艦隊りこれくしょん-   作:坂下郁@リハビリ中

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 仁科大佐さえ知らなかった中臣浄階の隠し玉に選ばれたのはー、南洲と春雨は愕然としながらも、囚われた艦娘の奪還が作戦目標に加わる。

(20170504 たんぺい様より支援絵を頂きました!)


91. 根の国の女王-前

 「…ねえナンシュー、あなたが以前指揮していたウェダの艦娘達って…みんなあんななの?」

 後方から侵入してきた敵の排除は完了し、ぱんぱんと手の埃を払うような仕草をしながら近づいてきたビスマルクが問いかける。その表情は、目の前で戦う軽巡棲姫(神通)と春雨に釘付けになり、半ば驚き、半ば呆れた表情をしている。

 「私も近接戦闘は嫌いな方ではないですけど…あの二人、あとは羽黒さんもですが、一線を画した水準ですね」

 

 あんななの―――艤装による砲雷撃、あるいは航空攻撃に頼らない、力と技で相手を制圧する戦い方。

 

 静の神通と動の春雨。

 

 左手の艤装を盾にしつつ最小限度の動作で敵の攻撃を躱し隙を与えない神通。勝負は一瞬、並の艦娘の目では捉えられない縮地にも似た距離を一気に潰す踏込、そして解放される閃光の蹴りが止めを刺す。神通にとってロングランスは酸素魚雷ではなく、絶対の自信を置く右前蹴りだった。

 

 一方の春雨はストップ&ゴーを多用し激しく動き回る。中間距離で威力を発揮する棘鉄球(モーニングスター)を駆使するが、一見彼女の体格では不利になりそうな近接戦闘時が最も怖い。関節技(サブミッション)-相手の力を利用して動きを封じ拘束。状況によっては極めた関節を一瞬で破壊する。

 

 

 

 「ふむ、あの二人は躊躇無しに戦いますからね。自由に動ける開けた場所ではさすがに分が悪いですね。いったん撤退させるとしましょうか。それに、そろそろアレが上甲板に到着する頃ですね」

 

 撤退を始めたマガイ達を追いかけ、春雨と軽巡棲姫(神通)は先を進む。無論二人だけではなく、南洲達三名も前進を続け戦っているが、競う様に、時に援護し合いながら、前衛を務める二人の勢いは止まる事がない。

 

 「これで最後でしょうか?」

 「ソノヨウデスネ…」

 チェーンを両手で短く持った棘鉄球(モーニングスター)で脇腹を殴られたマガイがくの字になりながら神通の方へ弾き飛ばされる。視線さえ送らず、迫る相手に振り上げた左脚を斜めに振り下ろす。さっきと反対側にくの字に曲がりながら甲板に叩き付けられるマガイ。

 

 にぱっと笑いながら軽巡棲姫(神通)の手を取りぴょんぴょんと跳ねる春雨。お互いはっとした表情で手を離し背を向ける。同時に発する言葉の語尾はどちらも弱々しく消え入ってしまう。

 「わ、私はまだ貴方を許したわけでは…ないけど…でも、何か楽しかった、です…」

 「ナ、馴レ馴レシク手ナンカ繋ガナイデクダサイ…私ニハソンナ資格ハ…。ト、トニカク、私ガ先導シテ進路確保シマスッ」

 気持ちの揺れを隠すように神通が先に動く。おおすみの甲板を蹴ると、体を逸らしながら一気に跳躍しくらまの後部甲板に着地する。そのままヘリ格納庫を改造した工廠内へ侵入した所で、轟音と響き周囲は砲煙に包まれ、工廠の半分ほどが吹き飛ぶ。

 

 「神通さんっ!!」

 同じようにおおすみの甲板から飛ぼうとしていた春雨が凍りつく。黒煙の中を抜け静かな足取りでこちらに相対するその姿。

 

 

 艶のある長く豊かな黒髪。あの頃より伸びた前髪は目元を隠している。

 

 「こんなはず、ない」

 

 袷の縁が朱で彩られたノースリーブの巫女服のような上着と肘から先を覆う長い袂の袖。ただ、右側には何もない。

 

 「だってあなたは…」

 

 腹部を覆う黒い帯、細かいプリーツで形どられた朱のミニスカートから伸びる脚。

 

 

 「死んだはずなのに、かしら? それとも私が撃ったのに、とでも言いたいの?」

 

【挿絵表示】

 

(提供: たんぺい画伯)

 

 前髪のせいで目元は見えないが、綺麗な形の唇が禍々しく歪み、呪うような言葉を吐く。

 

 扶桑型戦艦一番艦桑が、背後の試製四一cm三連装砲をゆっくりと動かし、春雨に照準を合わせる。

 

 

 

 「こいつら、いい加減にしやがれっ」

 

 くらま後部甲板で起きた突然の爆発、おおすみの甲板の縁で棒立ちになる春雨。異変を感じた南洲はすぐさま駆け出そうとし、左足に走った激痛に思わず膝を落とす。

 

 「クソがっ」

 甲板に転がる自分が斬ったマガイ。上半身と下半身が中ほどで断ち斬られたそれに、ブーツの上から噛まれた。顔を顰めながら左手の銃でヘッドショット。頭蓋の爆ぜたマガイはようやく動きを止めた。

 

 見れば多くのマガイがまだ動いている。痛覚遮断、それは命を絶つか徹底的に破壊するかしなければ、可能な手段で攻撃を継続することを意味する。神通と春雨は自分の命令を守り、マガイに致命傷は与えなかった。それゆえに動けるマガイが再び攻撃を仕掛けてくるという皮相。その間にも、足を掴まれ動きを止められた南洲は転倒しそうになり、慌てて体勢を立て直そうとする。視線の先では春雨にもマガイが緩慢な動きで近づこうとしているが、春雨は全く反応できず前方を凍りついたように見つめ続けている。

 

 「春雨(ハル)っ、どうしたっ!? 呆けてる場合じゃねーぞっ」

 

 

 春雨が自分を呼ぶ声に気付いた時、すでに南洲に抱きかかえられ甲板の中ほどまで飛んでいた。追い縋るように視界に飛び込んできた一体のマガイ、それが荒々しい刀捌きでバラバラにされた。下から斬り上げた刀が右肩を切り離し、その肩が落ちる前に首を刎ね、その首が宙に舞っている間の斬り下ろしが左腕を肩から切り離す。

 

 「何をボケッとしてんだよ、おま…え…は…」

 

 苛立ちが混じった南洲の声は絶句へと置き換わった。お前、その言葉が向けられた先は自分なのか、それともくらまの後部甲板に立つ人影か、それとも両方か。南洲は無表情のまま横薙ぎに刀を一閃させ、横から襲い掛かってきた別のマガイの頭と胴体をそれぞれ別な方向へと転がす。そんな血腥い状況でも、春雨は視線の先に立つ白い女から視線を外せなかった。

 

 「扶桑…なのか? いや…そんな訳が…」

 それ以上言葉が続かなくなった南洲は、ただ視線だけをくらまの後部甲板に彷徨わせる。

 

 -来る。

 

 春雨は無意識に棘鉄球(モーニングスター)を構え投擲体勢に入る。目に入ったのは、戸惑う南洲と裏腹に、白い顔の下半分を彩る赤い唇で縁取られた暗闇。それを笑顔と呼ぶにはあまりにも凄惨だった。

 

 

 

 「…ちょ、ちょっとチクマ!! 何が起きているの? 砲撃?」

 大きく振りかぶりマガイを甲板から海に放り投げながらビスマルクが問う。

 「そうみたいですけど…爆発はくらまで起きていますね…」

 同じようにマガイを海へと投げ捨てながら筑摩が思案顔で答える。

 

 「ナンシューがいるのよっ」

 

 筑摩が何かを言いかけたが、その言葉が終わらないうちに一直線に南洲の元へ向かったビスマルク。筑摩は軽くため息を付きながら、おおすみの甲板上で残敵掃討に取りかかり始めた。

 

 

 「ナンシューッ、一体何がどうしたっていうのよ!?」

 ビスマルクの呼びかけに我に返ったように視線を向けた南洲。その一瞬に事態が動く。くらまの後部甲板に立つ扶桑が砲塔を動かすと、三本の砲身が連続的に俯角を取る。ビスマルクを狙い斉射された主砲、轟音と同時に立ち上る黒煙が周囲を包み、衝撃波がおおすみを襲う。

 

 「やっぱり片目だと照準が合わないし、片腕では姿勢保持に難あり、ね。完全に外しちゃったわね」

 「やってくれるわね…何よあなた、新手の登場ってこと? いいわ、この超弩級戦艦ビスマルクが相手してあげるわっ」

 

 両手を顔の前で組み腰を落とし、南洲と春雨を庇うように立ちはだかったビスマルクが扶桑に向かい吼える。砲撃の衝撃でアームカバーはボロボロに引き裂かれ、露出した白い肌は流れる血で飾られ、両腕の圏外となった制服の上着の下側やストッキングも大きく破れ黒い下着が露出している。それでも四基の三八cm連装砲を動かし砲撃体勢に入ろうとしたが、不意に肩に置かれた手に邪魔される。何も言わずただ首を横に振る南洲。右が赤で左が黒のオッドアイ、何度も視線を合わせたその瞳は今までに見たこともないような悲しさを湛えている。

 

 「………見た目は扶桑だが…中身は別物だな。お前は一体なんなんだ?」

 

 

 手にした刀、そこに宿るのが扶桑、それを知る南洲は言い切る。一頻り身をよじりながら笑い続けていた扶桑が静かな、暗い愉悦に満ちた口調で答える。

 

 「…刀になっても貴方に寄り添うその()は、和魂(にぎみたま)幸魂(さちみたま)。私から愛と調和を取り上げた女。この壊れた体に残っているのは荒魂(あらみたま)とそれを見つめるだけの奇魂(くしみたま)。ねえ、私の中で声がするの…全て壊した後、私は『根の国の女王』になるんだって……曲霊(まがひ)となった中臣浄階様の声がする……。これは…貴方のせい? 春雨のせい? それとその新しい女のせいかしら? 」

 

 宇佐美少将から聞いていた、三上大将が起こした事件の顛末と彼の供述。即身仏に虚空から響く声…変なクスリでもキメ過ぎたのだろう、そう軽く聞き流していた話が、今目の前にいる。バリバリと音が聞こえるほど歯噛みをしながら、南洲は喰いつきそうな目付きで扶桑を睨みあげる。

 

 「なるほどね…俺には理屈は分からんが、ジジイ、てめえはよりによって扶桑の体に入り込んでいいように操っている、そういう事か」

 「ねぇあなた…お願いがあるの…………右眼と右腕、返して?」

 「生憎ジジイの操り人形にやるほど安いもんじゃねーよ。もし、本当のお前の望みなら、それでお前が元のお前に戻るなら、喜んでくれてやるけどな」

 

 

 「この私でさえ、まさか浄階様がその女を依代にしていたとは知りませんでした。魂うんぬんは私の専門外ですが、なるほど、人間の脳機能を四つに分け、さらにそれを制御するフィードバックシステムがある、そう考えるとDIDを利用した堕天(フォールダウン)の原理は合理的ですね。槇原南洲、なかなか来ないのでわざわざ私から出向いて差し上げましたよ、感謝なさい」

 

 唐突に話にカットインしてきた一人の男に注目が集まる。両手を広げながら感に耐えない表情を浮かべ、爆煙の中から現れた仁科大佐が長口舌を振るう。その背後には腰の基部から延びるアームに繋がる四一cm連装砲がゆらゆらと動いている。

 

 

 「いつも変態(相変わらず)だな、仁科。手前(てめえ)には大湊以来借りがあったな。遠慮なく斬ら…いや、拘束させてもらう。そしてジジイ、いつまでも若い女に未練たらしくしがみ付いてんじゃねーぞ。そいつは…お前なんかが手を触れていい女じゃねえっ! 扶桑、少し待ってろよ、お前の体からその薄汚ねぇジジイを叩き出してやる。話はそれからだ」




『無能転生 ~提督に、『無能』がなったようです~』
https://novel.syosetu.org/83197/
の作者様にして画伯のたんぺい様より、扶桑姉様(闇)の支援絵をいただきました。さらに、南洲とともにある扶桑姉様(魂)も…

【挿絵表示】

姉様かわええ(笑)。
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