老人の一時   作:緑の河童

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5話 共闘

「やれやれだ。 少し、やりすぎたか?」

 

 少女がアオアシラを無事に倒した所までは及第点を与えられる。 足運び、太刀の振るい方、モンスターの行動を学ぶ学習力。

 狩りに関する事は貪欲なので、道具や罠の使い方も覚えれば上手く使いこなせるだろう。 

 それはともかく、まさか抜刀術まで会得しているとは思わなかった。 自分の組んだ練習メニュー以外を黙ってこなしているのは知っていたが、まさかあそこまでとは思わなかった。 

 神速の斬撃。 まさしく人が全霊を込めて放つ一撃必殺を旨とした抜刀術。

 

 そこまでならば非常に好感触な狩りで一日を終える事が出来たのだろうが、そうそう都合良くいく事など殆ど無い。 ジャギィはここ渓流に多く生息しており、狡猾な種族としても一般的に知られている為、ここで行動する場合には常に彼らの事を警戒しておくべきである。 

 しかし少女はそれを怠った。 アオアシラだけに意識を注ぎ、終了したら警戒を弛緩させ、緩み切ってしまった。 

 ジャギィ種が見張り、漁夫の利を狙っていたのは気付いていたので、あえて小女から離れ、好きにさせておいたのだが、嫌な方向に見事予感的中してしまった。 まぁ、考えるより動く。 習うより慣れるという小女には最適な学習方法かもしれんが……。

 

「ここまでの群れとは予想外だな。 粗すぎる指導のお詫びにと言うわけでもないが、君は休んでいなさい」

 

 輪の外からの奇襲によって小女を中心から救い出すことが出来た。 ヘトヘトな状態ながら太刀を仕舞わずに構え続ける精神には天晴れだが、このような状態では戦う事など無理だろう。 元々、この年齢であれほどの抜刀術を繰り出せる肉体練度も、初のソロ狩猟の後さらに戦おうとするこの精神力ももはや天分の才を感じざるを得ない。 こんなところで失うのは惜しいと下がるように伝えるが、小女はそれを態度で拒否の意を示し、太刀を構えなおす。

 

「目標は達成しましたけど、まだギルドに確認してもらってないので正式な成功とは言えないでしょう? 戦います。 最後まで……やらせてください」

 

 真摯な口調とそれを体現している態度で言われては、こちらからわざわざ止める必要もない。 煙草を吐き捨てて弾丸を装填し直し、銃口をしっかりと安定させる。 

 ドスジャギィも乱入者を脅威と見なしたのか、鳴き声を複数使い分けながら指示と思わしき声を上げている。 

 

二人の狩人とジャギィ軍団。 一瞬の間の後、激突した。

 

 正面のジャギィが走りだすのと、重弩の発砲音。 そして小女が疾走するのは全て同時だった。 装填された通常弾LV1がジャギィの顔面を捉えて怯んだ所に斬撃で止めが刺される。 だが一匹仕留めた所で形勢は変わらない。 奥から奥から断続的に波状攻撃が仕掛けられ、大抵の生物ならその波に飲み込まれてしまう。 

 だが、その流れに対抗できる。 しなければいけないのが狩人たるハンターの役目なのだ。

 繰り出される爪が小女の首を狙う。 その爪を切り払いつつ大きく横に移動し、その穴を埋めるように弾丸が正確無比な精度で撃ち込まれて行く。 

 しかし限界と言うのは必ず訪れる。 装填していた弾丸が切れてしまうと、ガンナーに抵抗手段は多くは残されていない。 空薬莢を排出し、ポーチの中に手を突っ込む。 この一瞬で流れが変わってしまった。 援護が受けれない少女は量で攻めて来るジャギィ達に押し込まれて行き、勿論老人の方にも大多数のジャギィが押し寄せる。 ポーチからモノを抜き出すが、装填している暇などない。 代わりに取り出したのは拳大の球状の道具だった。

 人間は自然界で弱い部類の生物だ。

 ならなぜ彼らと戦えるだけの実力があるのか?

 それは考える知恵と実行できる技術があるからに他ならない。

 球状の道具についているピンを引き抜き、緩く放り投げる。 瞬間一帯を目を開ける事すら困難な閃光が走った。 老人と少女は腕で顔を庇い閃光を防いだが、ジャギィ達はそうはいかない。 強烈な閃光に眼球が焼かれ、一時的にその目から光を奪う。

 

「畳み掛ける! 一気に決めるぞ!」

 

 大声で指示を出すと、それに応えるように小女の気が大きく上昇し、刃に纏わせて切れ味が高まって行く。 老人は片膝をついて体勢を低くすると、ポーチから弾丸を取り出して装填する。 

 それは通常弾LV1を数十個も弾帯で繋いだものだった。 弾帯とは、弾丸を横一列に繋ぎ合わせて一方行に送り込めるようにしたものである。 これにより、装填数以上の連続射撃を可能にし、ヘビィボウガンの長所である圧倒的な攻撃力をさらに昇華させることに成功したのである。

 短所と言えば、圧倒的な連続射撃の反動に耐える為、行動がほぼ不可能になる所。 後は、ボウガンの耐久性、排熱効率等の問題で該当した一部の弾しか連射できない所か。 

 しかし、使い所を間違わなければ高火力を叩き出せる。 今のように、視力を奪われ、思う様に動けない相手などには。

 

「運が無いな。 私がいなければ君等の勝ちだったろうに」

 

 一方的な蹂躙のようだった。 視力を失い、混乱している時に高威力な連射。 その間を縫うように刃が駆け抜けていく。 一体、また一体と地に沈み、徐々に押し返して行く。 いち早く視力を取り戻したドスジャギィが声を上げるが、ジャギィ達は指示を実行する前に撃ち抜かれ、切り捨てられて行く。

 至らない部下に腹が立ったのか、手に負えないと判断したのか、ドスジャギィが前に出てきて少女と対峙した。 ジャギィの数倍を誇る巨躯は、見ために違わず比べ物にならない筋力を誇る。 アオアシラを狩猟した少女なら十分太刀打ちできる相手だが、今少女の体は限界に近い。 そんな満身創痍の相手にドスジャギィは負けはしないだろう。 いや、量で押し込めば部下たちでも十分勝てる程度の相手だ。

 一人なら、の話だが。

 今の少女の後ろには老人が居る。 普通なら隠居してもおかしくない齢だが、その技術、考え方、生き様。 その全てを少女に教え、伝えるために老人が居る。 彼が来ただけで彼女の精神は大きく変わった。 肉体的な疲弊を感じさせない速度で太刀を振るい、荒い攻め方を老人がカバーし、時には突破口を作ってフォローしていく。 

 

『ガァァアア!!』

 

 咆哮を上げ、鋭い爪を振りかぶる。 それに対し少女は太刀を振るい、爪に当てて進路を逸らす。 返す太刀で傷を付け、斬り払いで牽制しつつ背後へ下がる。 

 好機と見たのか、大きく踏み出し巨大な口で一噛みしようと首を伸ばす。 そしてその眉間的確に打ち込まれる弾丸。 通常弾LV1程度ではさすがに止める事は出来ないが、いきなり目の前に打ち込まれれば大抵の生物は目を反射的につぶってしまう。 

 相応の対策を施さず、視界を閉ざすのは自殺行為だ。 地を強く踏みしめ、疾風のように肉薄する。 次ドスジャギィが目を開けた時、前にあるのは鋭き刃だ。 顔とはいえ、頑丈な鱗に守られているのでそう簡単に致命傷には至らない。 振りまわされる尻尾は屈んでやり過ごし、弾丸と斬撃が着実にダメージを与えて行く。

 

「(……そろそろ決めるか。 気丈に動いてはいるが、疲れで集中力が散漫になっている。 これ以上はまずい……!)」

 

 心中で呟き、ドスジャギィの注意が少女に向いているのを確認して空薬莢を排出。 新たに取り出した弾丸を装填し、しっかりと狙いを付ける。

 その時、ドスジャギィの爪がついに少女を捉えた。 ギリギリ太刀で逸らしたものの、衝撃で吹き飛んで尻もちをついてしまう。 止めを刺そうとするドスジャギィの首筋に向けて、引き金を引き絞る。

 螺旋状に空気を切り裂きながら飛んで行く一つの弾丸。 数多の通常弾に耐えてきた鱗に打ち出した弾丸が衝突し、貫いて行く。

 

『ガアァァ!?』

 

 突然の激痛についたたらを踏んでしまうドスジャギィ。 もう一吠えし、少女には見向きもせずこちらに直進してくる。 どうやら完全に頭に血が上っているらしく、目がぎらつき、荒い息使いで攻撃を仕掛けて来る。

 

「……! 師匠!」

 

 ドスジャギィの間合いで立ち回りを続ける老人を心配し声を上げ、自らも参戦しようとするが、立ち上がろうとして、脚が動かず、前のめりに倒れてしまう。 疑問に思い、もう一度立ち上がろうとするが、上手く足が動いてくれない。 そうこう上手く動かない脚と格闘しているうちに、状況に変化が起きた。 今まで回避に徹していた老人が、僅かに出来た隙に弾丸を打ち出したのだ。 しかし、弾丸が直撃してもドスジャギィは怯む様子をまるで見せない。 当たる箇所から僅かに青い煙が上がる以外、何も変化は無いように見える。 にも関わらず、老人は重い重弩を構え続け、僅かな隙を突いて装填、発砲を続けて行く。

 更に続いた後、ついに変化が起きた。 ドスジャギィの動きが今までと比べ、圧倒的に温くなっているのだ。 攻撃をかわされた後、追撃するわけでも、防御するわけでもなく、荒い呼吸を繰り返して何度も立ち止まってしまう。 

 その大きな隙を突いて散弾LV1で攻撃し始めると、さすがに耐えられなくなったのか、一声ないて踵を返して走りだした。 生き残って、ドスジャギィの戦いを見守っていた個体も、突き従って走り去って行く。

 僅かな時間のうちに、一帯に居た鳥竜種は死体を除いて走り去って行った。 それでも一時周囲を警戒し、周囲を軽く見回ってみる。 どうやら、本当に撤退したらしく周囲に気配は全くなかった。

 

「さて、まずは怪我の治療かな?」

 

 モンスターの襲撃を退け、少女を助け起こした老人はそう言ってポーチから道具を取り出して行った。

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