少女はベースキャンプに帰る道すがら、老人に対して質問の超速射を浴びせていた。 なぜ途中で居なくなったのか、なぜ居たのならもう少し早く出てきてくれなかったのか、ドスジャギィに使ってた弾は何なのか、自分がどれだけ大変だったのか分かっているのか、進んでいるうちに質問ではなく愚痴に変わって来ていたが、老人はそれらを笑って受け流して行く。
「ところで、あのドスジャギィって狩らなくていいんですか? 依頼には無かったですけど、被害出ちゃうんじゃ?」
「あのドスジャギィが人に害を成すとは限らないだろう? 人という存在の実力は思い知らせたし、群れも半壊した。 まともに活動するのは、先送りだろうな。 まぁ、どうしてもと言うのならまた君一人で挑んで……」
「今は絶対いやです」
……今は……か。
その言葉を心中で繰り返し、少し過小評価していたかと反省する。 どうやらこの少女は、自分が思っていたよりも素晴らしい原石だったのかもしれない。
ベースキャンプに辿り着き、待機していたギルドのアイルーにターゲットの位置を伝え、確認に行ったアイルーを見送る。 少女はベットにだらしなく倒れ込み、老人は道具類を荷車に運び込んで行く。 何時もなら小言の一つでも飛ばして手伝わせるが、今ぐらいは良いかと黙々と一人で片づけを済まして行く。
「……師匠」
「? なんだ。 もう寝たものと思っていたが」
横になっていた少女がポツリと声を上げる。 普段の活発な空気が感じられない彼女の声に、作業の手を止めて振り返る。 上体を起こした彼女は、ポツリポツリと言葉を発して行く。
「私達、殺しちゃったんですよね。 命を、奪ったんですよね。 別に殺したの初めてじゃないのに。 ただ、一人で殺したってだけなのに。 初めて一人で勝てたのに……なんか……あんまりうれしくない」
暗くなってきている夕暮れを見上げながら、胸の気持ちを言葉に変えて行く。 視線を使っていた太刀に向け、ゆっくりと刀身をなでる。 砥石で磨き、しっかりと拭き取ったため、はたから見れば使っていないようにも見える綺麗な太刀。 だがその実、今日だけで十を越える命を、この刀身で斬り裂いている。 斬り殺している。
「……これで良いんですか? こんな、たった一回、自分一人でクエストに出ただけで、こんな迷っちゃうなんて。 私これから、やっていけるんですかね?」
少女は迷っている。 あのアオアシラだって、少しユクモの山道に脚を踏み入れただけだったかもしれない。 少し待てば、遠く離れて、あのクエスト自体無くなっていたかもしれない。 殺す必要など、無かったかもしれない。
「モンスターとは自然の脅威であると同時に、自然の恵みでもある。 我々の今の生活は、それこそモンスター達によって成り立っている。 彼らがいなければ、今の文化など、絶対に築けなかっただろう。 今はそのまま、迷い続けなさい。 いずれ、絶対にハンターとしてやって行く覚悟が出来る時が来るかもしれん。 来なければ、まぁ、キリの良い所でやめて、ゆっくり農場でもやれば良い。 君はまだ若いのだからな」
まさしく年寄り、といった言葉を吐き、作業を進めて行く。 彼女は、最初ポカンとしていて言葉の意味を考えていたが、性に合わないと早々に匙を投げてしまった。 ベットから這い出て、心なしかすっきりした顔で作業と手伝って行った。
その後すぐ、ギルドのアイルーが確認を終え、待機していた竜車に乗りこんで出発した。 温泉に入って新作ドリンク飲んで、村長に髪の手入れのコツを聞いてお腹いっぱい食べて寝ると叫ぶ少女と、今夜の晩酌は邪魔するなと釘を刺す老人は、竜車に揺られながらくだらない笑い話に花を咲かせてユクモ村へと帰って行った。
お付き合いいただき、ありがとうございました。