食べた食器をキッチンに持っていって、隣に立ち三葉の洗い物を手伝う。
ベットの方を窺うと、四葉ちゃんはリュックに入った自分の荷物を確認しているようだ。
三葉が、昨夜俺が腕に着けていた組紐をはずして、ポッケに入れるのが見えた。
水流を強めてスポンジで皿を洗いながら、俺と三葉は小声で話し始めた。
「ね、瀧くん。なんでこんな事になってるだろう?へんやよ。だって……」
「ああ、俺が入れ替わるのは三年前の三葉のはずだしな」
俺は三葉が洗った皿を受け取ってタオルで拭いてから、皿立てに置く。
「わっからないな。前は、糸守の危機を救うために神様がしたんだって解釈してるけど」
今は別に糸守町から離れてるし、もしかして三葉に危機が迫っているのだろうか?
でも、これじゃあ、未来の情報をもって助けるってわけにもいかないだろう。
「それよりさ、四葉ちゃんには色々事情を話してないのか?」
「言えるわけないやない。だってあの後、避難生活とか、引っ越しに転校とかあって、色々ばたばたして大変だったしね。それに日記も何も消えてしまって残った物いうたら……」
三葉は皿洗いを止めて、スポンジを持っている手をじっと見つめ始めた。
まるで、そこにあった何かを思い出すように。
あれ、……なにか引っかかる事が、重要な何かを忘れてしまっているような。何だ?
「それに……瀧くんに再会してもなにも知らんかったわけだから」
三葉はそう言って視線を下げて、再び洗い物に戻る。
俺は引っかかった何かをとりあえず置いておくことにして、話を続ける。
「もしかしててっしーとさやちんにもか?……そっか。別に今なら信じてくれると思うけどな」
「そうかなあ。瀧くんの記憶が戻ったから、色々と証明はできると思うけどねー……」
三葉は何度も頷きながら唸っていると、突如顔を真っ赤にさせた。
といっても俺の顔だから、見ていてとても可愛いと思えるもんじゃないが。
「瀧くんのあほっ!!絶対そんなんいえるわけないやん!デリカシーなし!変態!!」
「えぇっ!!なんでだよ!?」
三葉は顔を赤くしてぶんぶんと、手を振る。
飛んでくる洗剤の泡をよけながら俺は頭を掻いて、でもなと言う。
「確か、おばあちゃんは入れ替わりの事知ってるはずだぞ。ってまだ存命だよなおばあちゃん」
「当然でしょ。ぴんぴんしてるでね。ってそれよりも。おばあちゃん知ってるって?
ええーっ!!!嘘でしょっ!?あぁー、死にたい……」
なんでそんなにばれるのが嫌なんだ。未来の隕石の事を知ってたって事を説明したら別に変人扱いされないと思うけどな。あ、あとこれは伝えときゃなきゃいけないな。
「あのさ、それと三葉。実は、俺は記憶を思い出したってわけじゃなくて……」
そう言い出そうとしたとき、後ろから四葉ちゃんの声が掛かった。
「ほんと、仲いいなぁ。でも、いきなり仲よくなりすぎやない。前に家に来たときなんか、微っ妙ーな関係だったてのに……」
「え?家に行ったの?」
「それも覚えてないの?まさか……記憶喪失になったお姉ちゃんに瀧さんが自分に都合のええこと吹き込んでるんちゃうよね!?」
「はあ、四葉は発想が飛躍しすぎだよ。ちゃんと覚えてるって……あと、瀧くんはそんな奴じゃないから」
自分で自分を弁護していおいて、俺は少しため息をついた。
実際は覚えてないわけだから……後で日記を見返すか。
三葉が首をかしげて俺を不思議そうに見ている。
「あと、お姉ちゃん。私の服どこいったかな?」
「あ?……どこだろ。わからない」
「もう、お姉ちゃんが洗濯してたんやろ……外にまだ干してるかな。あ、瀧さんはこっち見なといてよ!」
「はいはい」
三葉がおざなりに返答して、俺は、指でぴっと向こう向いててと指示された。
仕方がない。三葉の言う通りに四葉ちゃんがいない所で説明しよう。
片付けが終わり、出掛ける準備をしてひと段落ついたところで、四葉がトイレに行った。
俺はようやく気を抜いて思いっきりため息をつくと、床に座り込む。
「ああー……疲れた。これから遊びに行くつもりなんだろ?何か仮病を使って休めないかな。俺たちこのままじゃ、とんでもない事やらかしそうだ。特に三葉。きっとばれちまうぞ」
「ばれるのだけは絶対だめやからね。いーい、わかった?瀧くん」
なんだ、そのお姉さん口調は……。
俺が不服を眉をしかめる事で表現してると、額をぺしっと叩かれた。
それから両手を合わせて、三葉が頭を下げてくる。
「でも遊びに行くのだけはお願い!昨日、四葉とっても楽しみにしてたみたいなの。それに私ら会うのは4か月ぶりやし、約束破ったりしたくないの」
「ああ。わかったよ。……約束は大事だよな。しょうがないなあ。それなら三葉の方が気をつけろよ。だって三年ぶりに俺と入れ替わるんだろ?さっきのはなんだよ。思いっきり不審だったぞ」
「わかってるわ……わかってるよ。ちゃんとするから。……それより瀧くん!」
三葉がぐいと迫ってきたので俺はよける。
どいやら結構、怒り心頭のご様子だ。おお、俺の顔って怒ると結構迫力あるんじゃね。
「なに?」
「瀧くんにもちゃんとしてもらうから。絶対に!まず、その服はなによー!」
「だって、何着ていいかわからなかったんだよ……」
俺は、自分が今着ている短パンと可愛いアヒルのキャラクターがついた大きめのシャツを引っ張る。うん、確かにこれはないな。男でもなんとか夜中のコンビニに行けるレベルだ。
「今は私がそばにいるんやから、変な事したら絶対に許さんからね」
「わかったよ。ただしスカートはやめてくれよな……」
まず三葉は、俺の後ろに回るといきなりタオルで目隠しをした。
それから衣装ケースをあちこち開く音がする。
そして抵抗する間もなくいきなり胸を三葉に、横から触られた。
ふにん、って感じで俺の胸が他人の手の感覚で動かされ、俺は、あっと声を上げてしまった。
色っぽく聞こえた三葉の声に、自分自身で出したにかかわらず驚く。
「ちょっと、変な声上げんでよ!また、ブラつけてないし!って着けてたら怒るけどー!!」
「どっちなんだよ。言っとくけどちゃんと言いつけ通りに見てもないからな……。それに触るなら触るって言えよな。びっくりするだろうが!」
「私の身体なんやから、どうしようと勝手でしょ、もう次腕上げて、シャツ脱ぐから。四葉が出る前に着替えないと」
はよはよ、と急かされて俺は、三葉の力の強さにちょっと顔をしかめる。
そうか、男の力で触ると、女はこう感じるのか。元に戻った時気を付けないとな。
「それなら目隠し取っていいだろ。その方が早く着替えれる、前だってそうしてたんだし」
「取ったら絶ーっ対に許さないからね。あの時は、あの時!緊急事態だったから。超法規的措置!」
三葉のってか俺の手が、自分の胸を覆うようにブラをつけていく。
おお、寄せて上げるって表現とはこうう感じなのか……ふっ、と俺はむなしく息を吐いた。
また、男としてやばい領域に足を突っ込んで行く感じがする。
「そういう三葉こそ、俺の身体で……あ、そういや、その。朝のあれは生理現象だからな」
「わ、わかってるから。もう言わんといてよ。あのね、お互いに言いたくない事は言わんようにしよ。それが追加のルール」
「OK。なんだか前の入れ替わりの時よりどっと疲れるな……」
そうこうしている内の四葉がトイレから出る音がしてきた。
三葉が慌てて、ひらひらした防御力が大丈夫かというくらいのシャツを上から着せられる。
次に立たせた俺にぴっちりしたズボンを着させてくるので、つんのめってこけそうになる。
なんだこれ、結構きつい。と思って俺は尻を両手でがっしとずれを直そうと触ってしまう。
「あ、こら!勝手に人のおしり揉むなぁ!瀧くんのえっち!!」
「いや、だってきつくて……三葉」
「何?」
思わずもしかして太ったなどと口走りそうになって、慌ててつばと一緒に飲み込む。
危ない。危ない。そうだな、ここはいい尻だとか、柔らかかったとかいうべきか?それともえろい体になったな?ってそれじゃただのセクハラ親父じゃないか!っと苦悩する。
「なんだ、その……きれいになったよなって……」
「え……そうなの?そう、そっか。うん……ありがと……やね」
ぽつりぽつりと、三葉は俺がなんとか絞り出した言葉に答える。これはうまくいったか?
見えなくても、なんだか赤い顔をして、うつむいている三葉が妄想できた。俺もなんだか気恥しくなって、うつむいてしまう。
「お姉ちゃん、瀧さん。そっから先はR18なの?一応言っとくけどそういうマニアックな事は結婚してからの方がいいと思うんやね。……あ、知っとる?瀧さんは18にならんと結婚できないからね」
壁に体を半分かくしてこっちを見ている四葉がいた。俺と三葉は離れるも時すでに遅しだ。
俺は慌てて目隠しのタオルをとる。なんだこの状況、俺が変態に見られるじゃねえか三葉!!
「「知ってるし!、てか違うからッ」」
呆れた表情の四葉がちゃんと流しで歯ブラシを始めたので、俺たちはまたため息をつく。
どうやら、四葉ちゃんには入れ替わり気づかれていないからセーフのようだ。
……いやこれ、思いっきりアウトだよな。
今度は三葉が、髪の毛を結い始めたので俺はせめて一本ぐくりにしてくれと頼んだ。
ほどけたらどうせ結べないしな。まあ、本当はもう一度あのわけわからん髪型見たいけど。
むー、と唸って三葉は引き出しを開けてあの組紐を取り出して、あれ、と三葉は呟いた。
ポケットから俺の組紐を取り出して、二つを見比べる。
「驚いた。全く同じ組みひもがふたつもあるんやね。ええと、でもこれってタイムパラドックスになるのかな?」
「よく知ってるな。いや、ならないと思う。これから俺が渡す事になってるはずだから……あれ?おかしいよな……」
「うーん、今度てっしーに聞いてみるね。私たちの事、小説の内容だってごまかして色々教えてもらったんだよね」
「ああ、あいつそういうの詳しかったしな」
なんだかてっしーとさやちんの事を思い出して、早く二人に会いたくなってきた。
それでも後ろで三葉は、まだ髪をこねくり回している。女ってのはやっぱ大変なんだな。
そして、なんだーと前置きして嬉しそうな声で三葉が話し始めた。
「それにしても、瀧くん。思い出したんなら早く言ってよね。てっきり、一昨日一緒に帰るときに、なにか話があるからって、落ち着いて二人で今度話したいって言ってきたんやけどね。……この事だったの?」
「え?いや、その三葉。……昨日気づいたんだけど実は俺が覚えてるのはあのカタワレ時に別れた記憶までで、三葉が生きて俺と今まで知り合ってた記憶はないんだ……」
三葉の髪をまとめる手が止まった。
俺ははっと振り返って三葉いや、俺の困惑した表情を見てしまう。
なんだかそれが、三葉の大切な想い出を壊してしまったかのように思えて俺は言葉に詰まった。
「そっか。覚えてないって……そういう事になるんやよね。……でも、何が言いたかったのかなぁって」
「……必ず思い出すから」
困ったように苦笑して頬を掻いている三葉を見て、俺は保証も何もない返事をしてしまった。
一体、前の俺は何を言おうとしてたんだ?
やっぱ、飛騨弁はむずかしいんじゃあ。
自分の方言じゃったらなんとか書けそうなんじゃがん、これはどう考えても可愛くないんじゃあ。
てなわけで、このままいきます。