「六天花盾」――そう告げた力によってその身を純白を基調とした幻想的な衣装に身を包んだ井上織姫の姿は、
「いや、違うな」
それを見て思わず声を漏らした一護を、相対するユーハバッハの声が遮る
先の一瞬、一護がその力を解除したために、
「その力は、その女の能力の真髄――死神でいうところの卍解に近しいものだ」
織姫の能力「盾舜六花」は、一護の霊圧を受けて呼び覚まされた能力。かつて、銀城空吾を筆頭とする
「井上、いつの間にそんな……」
「ごめんね。言い出す機会も使う機会も中々なかったから」
驚きを隠さずに言う一護に、頭を書きながらばつが悪そうに苦笑して言った織姫は、ずっと背中を見ていることしかできなかった人の
(私は、ずっと黒崎くんの力になりたかった。だから、ようやく――」
能力を解放し、研鑽し、霊力の上昇と、対話を重ねようやく至った盾舜六花の真の力。それを纏った織姫は、一護の隣に立って笑いかける
「一緒に戦おう黒崎くん」
ずっと言いたかった言葉を告げ、煉獄の炎を纏うユーハバッハに向き合った織姫の言葉に、一瞬目を丸くした一護だったが、すぐにその表情を引き締めると二本の斬月を構える
「ああ、いくぞ井上」
同時に一護が地を蹴り、目にも止まらぬ速さで駆け出す
「今度は、
その速さを生み出す歩法の正体を一目で看破したユーハバッハは、炎を纏った身体をしならせて槍のように解き放つ
その先にまるで狙いすましたかのように一護が現れ、まるで計ったかのようなタイミングでその身体に炎の槍が突き刺さる
はずだった
だが、残火の太刀の炎を纏ったユーハバッハの攻撃は一護の身体に傷をつけることもできずに沈黙する
「!?」
それを訝しみながらも、斬月での双斬撃を放った一護の刃を受け止めたユーハバッハは、その視線で織姫を捉えて言う
「『七天絶盾』――〝変化〟を拒絶するお前の力だな」
「!」
先の一瞬で未来を見通したユーハバッハは、これまで戦闘では使ってこなかった織姫の切り札「六天花盾」の能力を見通していた
「七天絶盾」は、六天花盾を発動した状態の織姫のみが使える「盾舜六花」の拒絶の力を持つ技。対象を拒絶の力で包み込み、攻撃による
「攻撃で受ける傷を拒絶する――まさに、絶対防御ともいえる力だが……」
だがその力に一切臆することなく、ユーハバッハはその身に纏う炎の力をさらに高める
「この炎を完全に拒絶できるか、確かめてみるか?」
その言葉と共にユーハバッハが護廷十三隊先代総隊長「山本元柳斎重國」から奪った卍解「残火の太刀」の力を解き放つと、その超然の熱が空間を灰燼へと帰すほどの力を生み出す
「――ッ」
そのあまりに強大な力の前に、
「怖いか? 井上」
自身の力で防ぎきれるのかという疑問がよぎり、身体を震わせた織姫がその煉獄に呑み込まれそうになったその時、弱った心を支えるように一護の優しい声に意識を呼び起す
その声に視線を向けた織姫は、一護の顔を見て微笑む
「怖くないよ」
「よし。行くぞ」
織姫のその顔を見た一護は、ユーハバッハに向かい合う
「二人であいつの野望を打ち砕くんだ!」
「はい」
それと同時に地を蹴り、瞬歩とそれに等しい速度で向かって来る一護と織姫を見るユーハバッハは、煉獄の炎を纏わせた力を放出する
「
初撃の炎を回避し、かいくぐってくる一護と織姫を見据え、吠えるように声を上げたユーハバッハは、先のその言葉を思い返して、声に険を乗せる
「違うな」
「月牙十字衝!」
「孤天斬盾!」
放たれた霊圧の奔流をその身に纏う太陽で焼き尽くして無力化したユーハバッハは、攻撃が効いていないことに臆さず力を振るう一護と織姫に向かって吠える
「これは、私の野望ではない。我々の――全ての人間の願いだ!!」
「人が戦うのは何故だ!? それは愛があるからだ! 人が刃を取るのは何故だ!? それはなにかを護るためだ!」
触れただけで蒸発させられてしまうのではないかと思うほどの力を纏う攻撃をかいくぐる一護と織姫の耳朶に、ユーハバッハの言葉が容赦なく打ち付ける
「守るということは失うことを恐れるということ。ならば失うものとはなんだ!?」
回避に全神経を集中させているのか、反応の薄い一護と織姫だが、ユーハバッハは自分の声が確実に届いているという確信さえ抱いて語りかけていた
「それは、〝命〟だ」
「っ!」
その言葉に、一護と織姫の表情がわずかに強張ると、ユーハバッハは我が身を得たりとばかりに口端を吊り上げる
「この世から、死を、あらゆる迫害を差別をなくし、永遠の世界を作り出す――全ての人間が、遠い古から願い続けた夢。それが今、私の手によって実現しようとしているのだ!」
ユーハバッハはなにも持たない存在だった。そしてその力を分け与え、回収することで、光を。音を。力を。――そして〝心〟を得た
人の悲しみの多くは「死」。人の願いの大半は「不変」。今と変わらぬ日々を、大切な人と当たり前に過ごすこと――失った者ほど、それを強く強く願った
だから、ユーハバッハの心は何よりも「平和」を求めた。だがそのためには「死」が邪魔だった。死は悲しみ。死は痛み。死は恐怖。人はそれから逃れることを欲し、死から愛する者を取り戻すことを願った
それが、全ての始まり。世界から死と共に
「
その願いの成就を手の内に収めたユーハバッハが声を上げる
「だが、千年前に私は敗れ、それを実現できなかった。故に私は、今度こそその願いを叶えるため、この身に〝天〟を降ろしたのだ」
「天?」
聞き慣れない言葉に眉を顰める一護に、ユーハバッハが答える
「魂は三つの世界で循環する。だが他にもあるだろう? この世界とは異なる世界が。――一護、お前はそれを目の当たりにしているはずだ」
《そら、地獄の門が開くぞ》
「まさか――っ」
ユーハバッハの声で呼び覚まされた記憶の声に、一護はその目を見開く
「そうだ。堕ちた魂を無に変える〝地獄〟。そして、それと対になるのが魂を生み出す〝天〟――人が神とあがめる者達が住まう世界だ!」
その考えを見透かしたかのように声を上げたユーハバッハは、神妙な響きを帯びた口調で話を続ける
「天」は地獄と同様に、現世、
「天賜兵装番」四楓院家が護る天賜兵装も、太古の昔に死神がこの天の力から生みだしたものだ
「
天を降ろした私の力は、それを取り込んだ者に天の力を分け与える。そもそも、ただの人間に過ぎない
二百年前の
「そして、私の血は我が身に宿る〝天〟を分け与える」
そして、かつて護廷十三隊に敗れたユーハバッハは、今度こそその願いを実現させるために、その身に「天」の力を取り入れることで、
それは、あらゆるものを分け与え、力にすることができるユーハバッハだったからこそ可能だった、
「その力を指して――」
その身に天を宿したユーハバッハは、その血を介して己が身に宿る天――神の力を分け与えることができる。そしてそれによって
「〝
「――!」
自身の目的、自身の力、その秘密を語ったユーハバッハは、己の前に立ちはだかり、人の理想を阻む二人の〝希望〟に〝絶望〟の言葉を向ける
「分かるだろう、一護、井上織姫。我々の戦いの果てには、悠久の平和があるのだ、と」
ユーハバッハは、全ての世界を支配することで人からあまねく恐怖を取り除き、永遠を与えようとしているのだ
「――〝火火十万億死大葬陣〟」
そして、それを証明するかのように炎を束ねたユーハバッハによって一つの存在が、死から呼び起される
「――ッ!」
「愛する者を失う痛みのない世界が」
一護の戦慄した表情を愉しむかのように愉悦に満ちた笑みを深めたユーハバッハの傍らには、一人の女性が静かに佇んでいた
「おふ、くろ……」
ユーハバッハによって呼び起されたその人物――「黒崎真咲」は、一護の記憶にあるままに、穏やかな笑みを湛えていた