BLEACH Blade crest   作:井上木下三上

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DEATH&DEAD

 

 

 

 

 

「ハッ、ハッ……」

 昂ぶった呼吸を鎮めるように荒い呼吸を繰り返す一護は懸命にその心を鎮めようとしているのだろうが、音を立てて震える斬月の切っ先がその動揺を何よりも如実に物語っていた

(黒崎くん……)

 その姿を斜め後方から見る井上は、かろうじて見える一護の横顔を見て、胸を締め付けられるような感覚を覚えていた

「どうした? 母の姿を見ただけで動じているのか?」

 母の背後に立つユーハバッハが、そんな一護を嘲笑うように口端を吊り上げる

「なんで……なんで、おふくろが……!」

 それに耐えかねたように零れた一護の声は、怒りと悲痛に染まり、懐かしくも呪わしい再会に震えていた

 

「お前は、あの日あの場所にグランドフィッシャーが現れたのが、偶然だったと思っているのか?」

 

「――ッ!」

 そして、そんな一護の叫びに答えるように続けられたユーハバッハの問いかけは、更に残酷な事実を絶望を刻み付けるものだった

「どういう……意味だよ……?」

 その言葉の意味は頭で分かっているはずなのに、一護はその瞳を許しがたい激情に染め、母を盾にするように佇むユーハバッハを睨み付ける

「そもそも、グランドフィッシャーは最初から私の麾下だ。いや、道具と言った方が正しいか」

「っ!」

「お前の戦う心を研ぐため、お前の強さを磨くため、あの日、あの場所に私が送り込んだのだ」

 ユーハバッハの口から愉悦と共に発せられたその言葉に、一護の中にある最も痛ましい記憶が鮮明に呼び覚まされる

 

「一護。お前は自分の価値をどの程度理解している?」

 

 幼かったあの日、雨が降る中で自らの愚かさとユーハバッハによって殺められた母の記憶に身体を振るわせる一護にユーハバッハの抑制された淡泊な声が厳かに響く

「人は現世で生き、死後に尸魂界(ソウルソサエティ)へ導かれる。そして尸魂界(ソウルソサエティ)から現世へと清められた魂が還っていく――本来その二つの血は一つになることはない。

 だが、お前はその本来あり得るはずのない存在。〝真血〟と呼ばれる現世と死後の世界の申し子」

 その指で一護を指し示したユーハバッハは、その中にある死神の父と人であり滅却師(クインシー)の母のそれが混じり合った純血を見る

 

「それがお前だ」

 

 当たり前のようにそこに存在する一護は、知る由もないだろう。死神と人の血が混じり新たな命を成すということが、どれほどの奇跡なのかを。

 本来単純には、生まれるはずもない真血を可能にしたのは、黒崎真咲の内に宿ったホワイトと名付けられた(ホロウ)の力によるものだ

 

「そんなこと――」

「関係ない、か?」

 声を振り絞ろうした一護は、それを遮るようにかぶせられたユーハバッハの言葉に思わず息を呑む

「っ」

「驚くな。例え未来が見えずとも、今のお前が考えていることなど手に取るように分かる」

 未来を見通す全知全能(オールマイティ)の力は、一護の黒染漂白(ブリーチ)の力によって封じられている。にも関わらずに心中を見通されたことに驚愕する一護の反応を嘲ったユーハバッハは、おもむろに視線をその隣りへと移す

 

「そして、お前もだ。井上織姫」

 

 その言葉共に漆黒の炎が生じ、そこから一人の温厚そうな顔立ちの青年が姿を現す

 

「お兄ちゃん……ッ」

 ユーハバッハによって呼び出された人物を見て声を詰まらせた織姫に、かつて(ホロウ)となって尸魂界(ソウルソサエティ)へ送られたはずの織姫の兄がさみしげな視線を向ける

「なぜ、という顔をしているな!? 今の私は霊王を取り込み、三つの世界そのものとなった。この世界は我が手中に等しい。ならば、この程度のことができないはずがないだろう」

 一護と織姫、死によって別たれたかけがえのない者を前に、ユーハバッハはその力を誇示するようにして笑う

 

「これを見てもお前達は、今の世界を守ることを是とするのか?」

 

 その力を以って死した人間を実際に呼び出してみせたユーハバッハは、先程までとは比べ物にならないほど戦意を揺るがしている一護と織姫に問いかける

「死ぬのは当たり前だと、喪失の痛みと悲しみを享受し、〝これが世界だ〟と諦めるのか!?」

 

 死んだ人間は蘇らない。それはこの世の理だった――だが、霊王を取り込み、三界の覇者となったユーハバッハならばそれを崩すことができる

 それは、遠い古から多くの者が望み、誰もが望んで止まなかった奇跡。この世で最も理不尽で残酷な恐怖が取り除かれる可能性を垣間見せるものだった

 

「私が世界を手にした暁には、お前の母もお前の兄も、死した全ての命をこの世に呼び戻し、生き返らせてやろう――それでもなお、私の前に立ちはだかるのか? この世に生きる者達に死の恐怖を強いるのか?」

 

 手を差し出し、自身の前に屈するように促すユーハバッハの言葉は、心を溶かすような甘美な響きを以って一護と織姫の中に沁み込んでくる

 

 

「違う」

 

 

 だが、その時その言葉を打ち消すように、一護の口からその一言が発せられる

「死や恐怖を失くすのは、それに立ち向かっていることじゃない」

 そう言い放った一護は、理不尽な力を以って呼び出された母の姿を見据え、そしてその背後にいるユーハバッハへと視線を移す

 

 

 

 

 

《ようやく見つけたか》

 

 

 ユーハバッハの顔を見た一護の記憶に甦ってくるのは、それと同じ姿をした自身の力の姿。かつて〝斬月〟と名乗っていた頃の自分の中にあるユーハバッハの力だった

 

 それは、尸魂界(ソウルソサエティ)にルキアを助けに行ったとき、具象化した斬月と卍解の習得の修練をしていた時のことだった

 あまたある剣の中から、戦うための一欠片を見つけ出すという試練。そして、その訓練をやり遂げた一護の手に握られていたのは、身の丈に及ぶ斬月とは比べ物にならないほどに小さな――包丁のような刀だった

 

「これが、戦うための欠片なのか?」

 およそ刀と呼ぶには不釣り合いな小さな刀を手にした一護の言葉に、斬月は鷹揚とした態度で頷く

 

「そうだ。そこには、お前が護りたいものが詰まっている」

 

「!」

 斬月の口から告げられたその言葉に目を瞠った一護は、手にした小さな刀を見る

 

 「一つのものを護れるように」――両親から授けられた自身の名の由来を思い返した一護は、その刀身に映る自身の顔と向き合う

 

「小さくていい。たった一つ、かけがえのない護りたいものがあればそれは戦うための意思となり刃となる」

 そこに詰まった護りたいものへ想いを馳せているであろう一護へ語りかけるユーハバッハは、その目に鋭く優しい光を灯す

 

「死を恐れろ。失うことに怯えろ。そしてそれから逃げるな。退けば老い、臆せば死ぬ。理不尽な死と戦うことを人は生きると呼び、そして生きるためにこそ護るものを手に知るのだ」

 

 その小さな刀に、収まりきらないほど大きくかけがえのないものが込められていることを語る斬月は、まるでこれから一護に訪れる過酷な運命を知っていたかのように、その意志を告げる

 

「覚えておけ。そして忘れるな――」

 

 

 

 

 

 〝お前が護りたいものがなんなのかを〟

 

 

 

 

「それを、俺に教えてくれたのは他でもないあんた自身だ」

 かつて斬月に託された教えを思い返し、強く言い放った一護は織姫を一瞥すると二つの斬月の刀身を十字に重ねてその力を解き放つ

 

 

卍卍(ばん)ッ、(かい)!!!」

 

 

 二つの刃が一つに混じり合い、そして新たな姿となって顕現する

 

 

 その力の奔流の中から現れたのは、白い縁取りがされた漆黒の着物の上に、足元まで届く黒い縁取りがされた立て襟の白い羽織を纏った一護の姿。

 力の風になびく羽織の背には、天が欠けた漆黒の三日月が刻まれ、両手両足は、骨のように白い紋様が入った黒い手甲で覆われている

 

 

「――天鎖斬月《てんさざんげつ》!!!」

 

 

 その手に握られているのは、一振りの大太刀。卍型の(はばき)。漆黒の刃と純白の峰で構成された普通の太刀と比べて一回りほど大きな刀身

 中心が白くなってる黒い卍型の鍔に、持ち手となる中心部が白くなった黒い柄。そして柄頭は白い鎖の輪が一つついている

 白と黒が一体となり、しかし混じり合うことなく一つになったその形は、まさに死神と(ホロウ)滅却師(クインシー)が一体となった今の黒崎一護を体現しているかのようだった

 

 

 

 

 

 

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