(凄い)
渦を巻き、迸る白と黒の力の奔流を見る織姫は、鮮やかなモノクロのコントラストを描くその姿に息を呑む
(これが黒崎くんの本当の卍解――)
天を黒く染め上げ、世界を白く塗り潰す霊圧の規格を超えた力が凝縮されたような姿となった一護は、黒縁の羽織を翻らせてユーハバッハへを射抜いていた
「卍解か」
その姿を見て、ユーハバッハは口端を吊り上げて笑う
「凄まじいな。見ているだけで、その超然たる力が伝わってくるようだ」
卍解を果たした一護の姿を見るユーハバッハは、その瞳でさえ見通すことのできない力を感じ取って言いながら、その声音は余裕さえ感じさせる
「だが、お前に斬れるのか?」
そして、その言葉に答えるようにユーハバッハと一護の前に二人の人物が立ちはだかる
「母を。井上織姫の兄を。そして――」
残火の太刀によって顕現させた黒崎真咲、井上昊を前にしたユーハバッハは、さらに亡者を起こす炎を以って無数の
「ここにあまねく亡者たちを」
「……ッ」
勝ち誇ったように言うユーハバッハの言葉に、母へ向けた天鎖斬月の切っ先がわずかに震えるのを懸命に押し留め、一護は歯を食いしばって叫ぶ
「斬るさ。斬らなきゃいけないんだ! ここに、俺を送り出してくれたみんなのために」
まるで自身を騙そうとするかのように鼓舞する声を上げ、懸命にそう思い込もうとしているようにみえる一護にユーハバッハが静かな声で応じる
「それは私も同じことだ。これまでに死んだ我が麾下の
ユーハバッハの意思は、これまでその力を分け与え糧としてきた人々の願いによって構築されている
それを願うことは罪だと言う者はいないだろう。それを求めたことが悪だというものはいないだろう。だが、人の願いで作られたユーハバッハは、世界を破壊しようとするあまりにも醜い人の本質そのものを否応なく体現している
黒崎一護は気づいているだろうか? 今目の前にいるユーハバッハは、
「違うよ」
あまりにも悍ましく、利己的な人の願いの権化そのものに向き合う一護とユーハバッハの均衡を破るように、その背後から織姫の優しい響きを帯びた声が二人の耳に届けられる
「黒崎くんはあなたとは違う」
そして、次に絶対の信頼を置いた強い響きを帯びた声でそう告げた織姫は、背後から一護を見守りながら胸の前で手を握りしめて言葉を続ける
「あなたは、色んな人達から色んなものを奪ってきただけ。でも、黒崎くんはみんなに
ユーハバッハの力は、人に与えた代償にした糧。しかし一護は違う。仲間達に背を押され、ここは任せろと見送られ、この場所に辿り着いた
例え同じ高さにいたとしても、屍を積み上げてきただけのユーハバッハと、仲間達に支えられてやって来た一護とではその重みが――価値が違う
「だから、あなたと黒崎くんは全然違う」
それを分かっているからこそ、そして自分もまたその一つであると知ってるからこそ、織姫はそれを誇って言い放つ
「……井上」
背後から聞こえる賢明な織姫の叫びに、一護は強張っていた表情をわずかに緩めて感謝するように瞼を伏せる
「同じことだ! 人が他の命を喰らってその命を長らえさせるように、私にとってのそれがそういうものだったというだけのこと。お前達も同じはずだ」
だが、織姫の言葉もユーハバッハにすれば所詮は詭弁の類にすぎない。全てを滅ぼす炎を纏い、亡者の炎を従えたユーハバッハの嘲笑が一護と織姫に降り注ぐ
「そうかもしれない。でも、それでもやっぱり違う!」
ユーハバッハの言うように、全ての命は他の命を糧にしている。だが、織姫は一護が――自分達が繋いできたものが単にそれだけのものではないことを叫ぶ
「大丈夫だ。井上」
うまく言葉にはできない言葉を遮り、一護の優しい声が背中越しにかけられると、織姫は自分の前にあるその背中に視線を送る
(黒崎くん)
「ありがとな」
視線はユーハバッハから片時も外さなずに発せられた感謝の言葉を聞いた織姫は、今この瞬間一護と向かい合っているような錯覚を覚えていた
「――はい」
その言葉に胸を高鳴らせ、瞳を潤ませた織姫の前で大きく息をついた一護は、天鎖斬月の柄を強く握りしめてユーハバッハを見据える
「行くぜ、ユーハバッハ」
その言葉と共に地を蹴り、先程までとは比較にならない速度で向かってくる一護に、ユーハバッハは亡者たちで自分の周囲を囲む
「斬ってみろ一護! お前とお前達の愛する者を!」
未来が見えずとも、一護が母を斬り、井上織姫の兄を斬り、亡者達を斬る姿、あるいは斬ることができずに刃を止める姿をはっきりと見据え、ユーハバッハが笑う
「っ!?」
だが次の瞬間、周囲を囲む亡者の炎たちが揺らぎ、そして徐々にその形を失っていく
「馬鹿な……」
(炎が消えていく!?)
死者を呼び戻す炎が、その身を包む全てを滅ぼす炎が力を解いてもいないのに消えて行くのを見て、ユーハバッハが困惑の声を上げる
「貴様は――!」
勝手に卍解が解けるというその異常な事態に視線を巡らせたユーハバッハは、形を失って消えて行く炎の中に自分を見据えて佇む一つの影を見止めて目を見開く
「死して尚、私の邪魔をするというのか……ッ」
その瞬間、ユーハバッハはこの事態がその人物の手によるものであることを理解し、次いで怨嗟に満ちた声を上げる
《死しても逃がさぬとでもいうつもりか?》
(
卍解を奪い、その身体を真っ二つにした老体が死して尚自身の足を掴んだ時のことを思い出したユーハバッハは目を剥く
「山本重國!!!」
自らが止めを刺し、この世から抹消したはずの男――護廷十三隊先代総隊長「山本元柳斎重國」の亡者に、ユーハバッハが怒りの声を叩き付け、懐から抜いた鷹の意匠の剣で袈裟がけに両断する
あの時と同じようにその身体を切り裂いたユーハバッハの前で、炎と化した山本元柳斎重國は己の卍解と共に消失し、そして何かを託すようにその視線をゆっくりと動かす
「っ!」
そしてその視線に答えるように、溶けて消えていく亡者の中から黒と白の霊圧を纏った一護が、姿を現す
「――月牙天衝」
静かなその言葉と共に、黒と白の刀身が