「ぐ、オオオオオオッ!」
胸の中心を穿たれ、体内に白と黒の力が混じり合う月牙を注ぎ込まれるユーハバッハは、その刀身を手で掴んで
苦悶と生への執着が入り混じった咆哮を上げる
「まだだ!」
口端から血を零しながら声を荒げたユーハバッハは、身体に纏う黒い力を放出して一護へと叩き付けようとするが、その攻撃は虚しく空を切る
だが、それはユーハバッハの思惑の通り。天鎖斬月の刀身を引き抜き、ユーハバッハと距離を取った一護の視線に顔を上げたユーハバッハは、歯を食いしばって地面にその黒い力を叩きつけた
「まだ、この程度でやられはせぬ!」
瞬間、地面に黒い力で
「あれは――」
その人物に一護は見覚えがあった
(死んでる)
かつて瀞霊廷でユーハバッハの傍らに在り、天鎖斬月を切った男を見て一護は目を瞠る
だが、その男は遠目にも命を落としていることが一目瞭然の状態。そんな人物をここに呼び出した意図を図り兼ねる一護に、ユーハバッハがその答えを叫ぶ
「半身を失った私は、その存在を維持するために新たに半身が必要だった。
ユーハバッハは、かつて半分の己を失った。一護の中にある己を失ったユーハバッハはその存在を完全な形で存続させるために新たな半身を求めた
それが、
「身体を吸収してる……?」
死んだハッシュバルトの身体を黒い力を以って取り込むユーハバッハの姿を、一護と織姫は嫌悪にも似た拒絶の表情と共に見る
「別たれていたこの存在が一つとなり、私はここに完全に復活する」
ハッシュバルトの全てを吸収したユーハバッハは、そう言い放つと同時にその胸にある十字を輝かせる
「『
瞬間、ユーハバッハの背から、金色の意匠を施されているような神々しい十二枚の純白の翼が出現し、黒かった髪と衣もまた、白く染まっていく
その顔立ちはユーハバッハとハッシュバルトの中間。肉体は光で構築され、輝いているように眩い。開かれた両の瞳は、
「
先程までの禍々しささえ感じられる姿とは一変し、神の現姿と呼ぶにふさわしいほどの神々しい姿となったユーハバッハは、その身体を天に浮かせて息を呑む一護を睥睨する
「終わりだ、一護」
まるで、天からの啓示を思わせる響きを以って語りかけたユーハバッハは、自らの勝利を確信してその手を軽くかざす
「この姿になった私の
空が黒く染まり、天空から光で形作られた巨大な剣の群れが出現する中、ユーハバッハが告げる
それと同時、その光の剣の全てが一護の身体に突き刺さっていた
「……ッ!?」
「黒崎くん!?」
突然のことに目を瞠る一護と織姫に、ユーハバッハは神となった自らの力を啓示する
「回避はできん! 防御もできん! 全ての攻撃は無力と化し、我が全ての攻撃が必殺となる!! 分かるか一護!? お前の命も、この世界も、もはやすべてが我が手中! 我が意のまま――今、私が〝神〟となったのだ!」
理想を現実に変え、あらゆる過程を無視して結果のみを実現させる。その手の中に未来と因果の全てを収束して現在を掌握するその力の前であらゆる力が無力と化す。文字通り、全知全能の力だった
「――!?」
しかし次の瞬間、天鎖斬月の一振りによって一護の身体に突き刺さっていた光の剣が砕け散る
「なに?」
そして、その光の残滓の中から現れた一護に傷一つないことを見て取ったユーハバッハは、その目を細めて剣呑な声を発する
「なにをした、一護!? いかに
能力を無効化する
「卍解か!」
「そうだ」
吠えるように発せられたユーハバッハの声に、天鎖斬月の柄を握り直した一護が鋭い視線で応じる
「天鎖斬月は、俺の中にある人間、死神、
「進化、だと?」
黒と白、本来ならば相入れることのないものの力が一つとなり、そして進化し昇華した霊圧を纏う一護を見て、ユーハバッハは目を見開く
(まさか、超えたというのか、魂が持つ限界を)
一護の卍解は「力を纏う」こと。今、その真の力を覚醒させた一護の卍解は、その身に宿る全ての力を一つのものとして混じり合い、そしていずれにも属さないものへと変わり、その限界を超越させる
人間、死神、
(やつもまた、今、私と同じく神に等しいものとなったというのか!?)
「認めん! 神はこの世に私一人。私こそがこの世界唯一絶対の存在でなければならんのだ!!!」
一瞬脳裏によぎったその考えを打ち消したユーハバッハは、その周囲に無数の光の珠を生み出し、それを以って一護を打ち滅ぼそうとする
《一護》
その光を見る一護は、自身の隣に立つユーハバッハ――己の魂に宿った力の声に耳を傾ける
《私を――人の願いに取りつかれた私を、終わらせてくれ》
一護に宿るユーハバッハは、かつて今相対しているユーハバッハから別れた力の欠片。
人の願いを意思とするユーハバッハだが、人は永遠の命を願うと共に、その裏で世界の終焉さえも望むことがある
生が永遠たれと思いながらも、死を受け入れるべきだとも願う。そんな相反する願いが、ユーハバッハを二つに分けた
だからこそ、一護の内に宿ったユーハバッハはそれを知り、伝えてきた。「退けば老いる。臆せば死ぬ」――人の命は、永遠ならざる場所でこそ、本当の輝きを放つのだと
「あぁ」
その言葉に答え、ユーハバッハと虚――自身の霊力の中心である二人に見送られた一護は、地を蹴って天に浮かぶユーハバッハへと向かっていく
「一護!」
光が煌めき、回避できない未来を決定された力が、防御も許さずに一護の身体で次々と炸裂し、極大の爆発の連鎖を引き起こす
「いくぜ」
破壊を確定し、死を確定される力を持った光が天を衝いて炸裂する中、一護はその力の中で静かに声を発する
それと同時に天鎖斬月の柄頭の白い鎖に黒い鎖の輪が生じ、さらに白、黒と続いて一護の胸に届く。胸の中心と繋がったその鎖は、因果の鎖と酷似していた
「オオオッ」
雄叫びにも似た声を上げたユーハバッハの声に答え、その純白の翼が巨大な弓となり、天に掲げられた手には、巨大な矢が顕現していた
滅却十字を羽とする光の弓と化したユーハバッハは、剣とも矛先とも取れる形状をしたその矢を解き放つ
「一護!」
天を穿つかのごとき力を以って放たれたその矢を視界に映し、黒と白の鎖を胸に繋いだ一護が静かな声で言う
「ユーハバッハ! あんたは神になんてなってない」
(あれは――)
その瞳に一護の姿を映すユーハバッハは、その背後に無数の影を幻視して目を見開く
井上織姫、茶渡泰虎、石田雨竜、朽木ルキア、阿散井恋次、護廷十三隊の死神達に
「鎖」とは、完結した輪がいくつも繋がってできているもの。その輪は一つの人格、一人の人間だとするなら、それが無数に繋がった「鎖」は、人と人の繋がりそのもの
「ただの、ちっぽけで臆病な人間だ!」
一護の声に伴い、白と黒の力が噴き出してその身体を呑み込んでいく
(これは、最後の月牙――!)
腰まで届く長い黒髪に白のメッシュが入った姿とかした一護は、斬月の刃と共に一つの月牙となってユーハバッハという
「〝
「――ッ!」
月牙となった一護自身が、光で形作られた神の矢を粉砕しながら迫ってくると、ユーハバッハはその目を細めて自身へと迫る黒白の月を見る
(天を
「まさにお前は――」
〝死神〟なのだな
瞬間、ユーハバッハを斬り裂いた漆黒の三日月を天頂に、世界が純白へと塗り潰された